そろそろ本気で終わりが見えてきたので少しでも繋がりを大切にしようと願う性騎士のブログです!
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コウメイは一人、考えに耽っていた。

ふと、視線を感じて振り向けばキョウイが立っていた。

「おや、キョウイ殿、どうされましたかな」

「は・・・いえ・・・物思いに耽っているようなのでお声を掛けられずにいました」

「・・・チョウホウとカンコウは無事であろうか・・・またバショクは何故こんな事になったのかを考えていた」

「・・・」

「バショクはともかく、あの2人は無事であってほしい・・・」

「・・・丞相はカンコウの出身をご存知ですか?」

「ん・・・カンペイ将軍の親戚なので河東郡あたりかと」

「カンコウは天水の生まれです。そこで父を亡くし母と親戚のカンペイ殿を頼って蜀へ来る途中に、母は餓死しました」

「そうでしたか・・・情報が大事と言いながらそれは知りませんでした。私もまだまだです・・・」

「いえ、私も天水の生まれでしかも同年。酒を飲みながらの話でしたので大した事もありません。ですが、カンコウ程の才覚を

持ってすれば地元の顔見知りを通じ、またあのあたりにも五斗米道の教徒も多くいます。カンコウの助けになり、きっと

無事に戻ってくるでしょう。チョウホウも一緒である事を祈っております。またカンコウを極秘に探してもらえるよう、

五斗米道教祖のチョウレンさんにも頼んでおきました」

コウメイはこのキョウイを細い目で見た。

若いながらも礼節を弁え、チョウウンと互角の戦いをし知恵もある。さらに情も深い。

漢中以北の5城は失ったが、キョウイを得た事はそれを補ってあまりある事と感じていた。

また、後継者たるは誰にするか、答えも決まった。



カンコウは薙刀と蛇矛を握り締め、馬に任せて駆けていた。

朦朧とする意識の中でチョウホウとの思い出が交錯し、やがて極度の疲労から馬上に臥せた。

どれだけ気を失っていたかも分からないが、気がつくと小さな小屋の中で目を覚ました。

目の前には女の子がいてカンコウと目が合うと逃げていった。

「あら、気がつきましたか」

声の方を見るとカンコウと同年齢くらいの女がやってきた。

「ここはどこなのだ」

「天水の外れの、そのまた外れの一軒屋ですよ。今、粥をとろ火にかけてますから召し上がりなさいな」

「あぁ・・・そう言えば腹が減っている」

カンコウは粥を貪り食った。その様子を女の子は女の裏から覗いていた。

「お子か?」

「はい、3つになります」

「俺はどうしてここにいるのだ?」

「昨晩、遅くに表で馬が鳴いておりまして、あまりに悲しい鳴き声だったので覗いてみるとあなた様が馬上に伏せて

おりました。気を失っているのに刀と矛をしっかりと持って。でしたので放ってはおけずに介抱致しました」

「そうであったか。済まなかった。主人はどうしたのだ?」

「死にました」

「なんと・・・」

「この前の戦に友人と一緒に出て行き、蜀軍に破れ・・・。ですが酒飲みの乱暴者だったので、それが天命なのでしょう」

「・・・それでは俺は主人の仇ではないか!」

「そんな。殺し合いをして、仇だの何だのと、切りがありませんよ」

「・・む・・・」

「ところで、まだお気づきになりませんか?ジョコウさん」

「ん、俺が父方の姓を名乗っていたのは5つまでだぞ。何故知っている」

「昔、隣に住んでいたシュホウですよ」

「おお!そうであったのか!確かに言われて見ればシュホウだ!」

「昔、大火事が合った時、私の両親は死にましたがジョコウさんが助けて下さいました。その時、肩にヤケドをされて・・・

鎧を脱がす際にもしやと肩を見れば同じ跡があったので分かりました」

「あれはすごい火事だった・・・」

「それからジョコウさんの母様に良くしてもらって・・・私はジョコウさんのお嫁さんになると思っていたのに、いなくなって

しまうので、毎日泣いてばかりいました・・・」

「そうだったか・・・。父が死んで親戚の家に行く事になったのだ。今では母方のカン性を名乗っている」

「母様はお元気ですか?」

「いや、親戚を尋ねていく道中に餓死してしまった。俺にばかり米をくれていたのだ・・・」

それを聞くとシュホウは泣き出した。子供は困った顔でシュホウを見ていたが、カンコウが手を出すとその腕に抱かれた。

「・・殿方には見知りをするんですが・・・カンコウさんには初めて抱かれました」

そこに、シュホウの知人が尋ねてきた。

その知人は五斗米道の教徒で、カンコウの捜索に出てきたのだった。

そこで出て行く事にしたが、蜀の残党狩りが激しく、カンコウ一人での逃亡は無理だったので、シュホウにお願いをして

親子を装って蜀へと帰る事にした。また、武器は持っていけない為、教徒に預け山伝いに運んでもらう事になった。

シュホウもあの小さな小屋に子を連れて住むのは嫌だったので、そのままカンコウの屋敷に行き、そのまま二人は婚約した。




漢中ではまたもゴハンがコウメイに駆け寄ってきた。

「おいおい!丞相殿!もう兵を抑え切れんぞ!バショクの事じゃ!」

「分かりました」

「ん・・・お・・・なら良いんじゃ!」

コウメイがあまりにも即答したので煙に巻かれたように帰って行った。

いつまでもこれを続けると蜀の滅亡にも繋がりかねない。だが・・・バショクが軍令違反をした証拠もない・・・


やがてバショクに対する会議が始まった。

バショクの表情は重く、武官達は騒いでいる。

「バショクよ、お主には街亭に着いたら低地に布陣し、シバイの軍が来る前に罠を仕掛け、迎え撃つようにと言ったはずだが、

なぜ高地に布陣した」

「決まっていましょう。街亭に着いた時には既にシバイの軍が到着しており、やむなく高地に布陣しました。嘘だと思うなら

私の周囲の者に聞いてくだされ」

「・・・その周囲の者の殆どが死に、行方不明になっているのを知らぬわけではあるまい!?」

「証拠も無しにそのような事を言わないで頂きたい」

バショクは胸を張ってコウメイの質問に答えていた。以降は静かな空気が流れたが、

「護衛士将軍カンコウ、只今戻りました!」

「おおお」

コウメイは飛び上がらんばかりに喜んだ。

「カンコウ、無事であったか!チョウホウはどうした?」

「はい、こやつの背中に取り付いております」とバショクを指差した。

「やい、バショク!何が先にシバイの軍がいただ!シバイの軍が来たのはお前が高地に布陣して2日も後の事だぞ!!

その言い草・・・天水の山奥に行ってみろ!!今でも多くの者が岩の下敷きになり累々と血の川を流し、カラスに抓まれながらも

お前を恨んでいるぞ!!チョウホウも今頃白骨となっているだろう!お前がどう言い逃れしようと、俺はお前を斬る!!」

「・・・」

バショクは青ざめ、武官達ははやし立てた。

「武門の恥さらしめ!」「恥を知れ!」

コウメイはバショクに言った。

「もはや、言い逃れはするな。馬家5兄弟の名が泣くぞ。お前の家族は私が良きに計らう」

そう言われるとバショクは地面に頭を付け大泣きした。

やがて、引きづられていき、首だけになって帰ってきた。


コウメイは自室で泣いていた。リュウビの最後に、バショクは信じられぬと言われたが、その才が捨てがたい為に重用し、

そしてそれが大敗戦を産んだ。キョウイが来る前は自身の後継者たる者と思って目を掛けていただけに悲しみは深かった。

涙も止まり、振り返るとそこにはキョウイが控えていた。取り直して

「はは、斬って置いて泣く事も無いだろうと・・・思われましょうな」

「は・・・・いえ・・・・」

そう言うとキョウイは明かりを付け、出て行った。


そんな頃、疲れを癒していたシバイの軍が南下を始めたとの知らせが入った。

数は10万。蜀には漢中に2万。圧倒的に戦力差があった。

コウメイはフ城周辺からも兵を絞り取り、なんとか3万を持って迎え撃つが、そこは広大な平地。

策の施しようも無く、日一日と押されていった。

さらに、成都からの噂が流れていた。


成都ではリュウゼンが女の尻を追い掛け回し、南蛮との付き合いも始まった事から、南蛮の踊り子を呼び出しては

踊りを堪能し、そのまま寝室まで連れて行った。これが連日行われ、周囲の文官も呆れ果てたが、コウコウという男が

仕官してきてからはさらに、その行為に拍車を掛けていった。コウコウはリュウゼンよりも5歳年上で、知恵もあり

遊びも心得ているので、リュウゼンの愚かな心をバッチリ掴み、地位を上げていった。

さらにリケイにまで手を出そうと、コウコウが学童にまで出向いたが、ゴケイの一喝により事無きを得た。


その話が、蜀の領域を奪われる・・・それどころか蜀が滅ぶのではないかという魏のシバイの進軍を抑えている

最前線にまで広がっている。

士気も下がり続け、コウメイも観念した。だが、異変に気付き、キョウイが慌てた。

「シバイの軍の押す力が弱くなっている気がします!」

「あぁ・・・我が方の力が強くなったわけでもないだろうに・・・」


その時、コウメイの頭にはリクソンが浮かんだ。

事実、リクソンは蜀の危機を知ると、すぐに軍をまとめ、荊州から北上、魏へ向かって進軍した。

今の江南の力で魏と対するには力不足なので、蜀の滅亡を防がんが為の進軍であった。

さらに、ソンケンも極東から船と陸路の同時進行で突き進み、カヒの辺りまでを一気に攻め抜いた。

これにより無防備であった東側に兵を送らねばならぬ為、攻めにくい西側の兵は東へと裂かれていったのだった。


やがて漢中では五分の争いとなり、シバイ軍も長旅の疲労により長期戦の不利を悟り、兵を引いていった。

これを見て、コウメイは漢中をバタイ・ヨウギに預け、成都へ引き返していった。


蜀のこの北伐は、有能な将を何名も失い、8万人以上の兵を失う戦となった。


蜀への凱旋。

コウメイの隣にはカンコウとキョウイが並んで帰った。

それを出迎えに行った門にゴケイとリケイもいたが、ゴケイが

「おや、チョウホウ殿の姿が見えません。漢中に残ってらっしゃるのでしょうか?」

とリケイを振り向くと、リケイはカンコウでは無い、もう一人の知らない男に目を奪われていた。

しかもその男はそのリケイに気が付くと微笑みを返したが、リケイはそれを返すのも忘れずっと目で追っていた。

ゴケイはそれに気付き、驚いた。


その後、カンコウがゴケイの屋敷に訪れた。

「これはチョウホウの形見です」と矛を手にしており、ゴケイは愕然とした。

「チョウホウ殿が・・・」

「はい、ですので、私がチョウホウとリケイを争った事は忘れて下さい。私はリケイの兄となります」

「そうですか・・・。リケイも良い兄上がいて幸せでしょう。ですが、改めてリケイの事を考えねば・・・」

「それでしたら、良い相手がおります。私より、丞相殿を挟んで反対にいた男です。名はキョウイ。

私と同じ天水の生まれでしかも同年であります。母1人子1人ですが、非常に強い親子の絆で結ばれている男です。

しかも丞相殿にも目を掛けられています」

「・・・見ました。リケイも夢中になって見ておりました・・・」


ゴケイはその後、飛ぶようにして兄のゴイに仲立ちを頼んだ。


だが、ゴイはしかめっ面で帰ってきた。

「あれはいかん。だめだ!諦めろ!」

「どうしたのですか!」

「リケイは奴婢の生まれだと言うではないか」

「はい。ですが先帝の親友の孫娘ですよ!それにチョウウン将軍だって奴隷から・・・」

「それも言ってやった。だが、いかんという・・・」

「そんな・・・リケイが何をしたというのですか!!」

以前、リュウゼンがリケイに目を付け、コウコウが手足となってゴケイ相手に脅したが、ゴケイはそれを一喝したので

どうせ手に入らぬならと、コウコウがリケイを奴婢であったと言いふらし、あらぬ讒言も掛けたので

キョウイの母の耳にもそれが入ってしまったのだった。

「奴婢だって奴隷だって、汗水たらして奉公をしているのに、報われたっていいじゃありませんか!」

「それはゴケイの理屈だ。また先帝もそうであり、蜀の人もそう思える。だが、あの母は蜀の人間ではない・・・・

先祖と亡き夫に顔向け出来ぬの一点張りじゃ!」

「あぁ・・・・」


それでもリケイは細々とキョウイを思い続けるのであった。



その頃、江南は国を興した。

魏の帝も蜀の帝も暗愚で盆暗であり、唯一覇気を持っているソンケンがただの君主ではおかしいと、文官:チョウショウが

ソンケンを説得したのだった。

こうして江南は国号を呉と改めた。

これを受けて蜀から大量の金銀を送り、同盟をさらに深いものとした。

そうして蜀・呉の連合軍が魏へ攻め上る、との噂が全土に広がっていった。

魏の帝ソウエイは嘆いた。

「なんで奴らは朕の領土を侵そうとするのか・・・。朕からは一度も攻めた事は無いのに・・・」

それを受けてシバイは

「蜀と呉はたがいに滅ぼされては困る為に、薄い利を持って組んでいるだけです。どちらかが滅びそうになれば

必ず我々よりも先に食いつき、魏と拮抗した力を得ようとするでしょう。今は待つ事です」

「むう・・・こうなればお主を鎮西将軍に任命する!」

これを受けたシバイはただちに10万を率いて長安へ向かった。再びコウメイが北上したのだ。

桟橋を渡り、漢中から一気に南安を目指した。

シバイが南安に付くと、蜀兵の姿はどこにも無く、南安は空城の計へと変わっており、シバイ軍は手痛い痛手を負った。

その頃、蜀軍は成都へと帰っていた。これは桟橋を試すためだけの進軍であった。


また、翌年も北伐を開始するが、シバイを伏兵により一泡吹かせると、早々に成都に引き上げた。


だが、この3年連続の北伐に、蜀の朝廷内では不穏な空気が流れていた。

コウコウはリュウゼンに言った。

「陛下、これだけ丞相が軍を出していると、出費が嵩み後宮を取り潰さねばなりません・・・」

「なんだとう!それはいかん!俺の楽しみだぞ!」

「はい、ですが金が・・・」

「知るか!民から金を搾り出せ!」

「そんな事をしては民衆から攻撃されますよ!」

「じゃあどうするのだ!!」

「もう戦をやめさせなされ。これを丞相に言えるのは陛下だけですぞ」

「ううん。でも丞相が頑張ってるのは父上の悲願を・・・」

「そんなものは関係ありません。というのも、今や先帝さんを思っているのはコウメイ他、極僅かです。

陛下の頭を押さえつけるのも先帝さんの遺言でしょう。だったら遺言をまとめたリゲンを斬りなされ!」

「なに!・・・だが、そうしないと女を抱けなくなるのか・・・よし!コウコウ!お前に任せた!丞相を出し抜いてやれ!」

「ははぁ!」


その後もコウメイは再び北伐を進めた。

コウメイが成都にいても、敵視する目が多く、息苦しさとリュウビの時代では考えられない後宮・側室等を見るたびに

心が痛む。その為に外へ出ているようなものだった。

出陣の前夜、カンコウはキョウイの元を訪れた。キョウイは木を削っていた。

「やあ、キョウイ」

「おお、カンコウ」

「お前は工作もするのか」

「はは、器用過ぎて金持ちになれぬ類だ」

「ところで、今回の北伐だが・・・不思議に思わぬか?」

「あぁ、まるで勝てぬ戦をしかけるような・・・」

「ううん、どうしたものかな」

「ゴハン将軍にでも相談してみましょう」

ゴハンは2人を見ると

「お、蜀の未来を背負う若者2人が暗い顔をしてどうした」

「いえ、この今回の遠征は、将も兵も・・・」

それを聞くとゴハンは強引に自分の部屋へ2人を引いていった。

「こういう事は酒でも飲みながら語ろうではないか」

「はぁ、頂きます」

「そういえばカンコウは天水から戦利品を貰って来たそうだの。皆が良く気が付く良い女だと言っておった」

「あ、あぁ。幼馴染でして気が置けないだけの間です」

「役所には届けておけよ。後が可愛そうじゃ」

「はい」

「キョウイも、母の孝養と、愛とに挟まれて大変だのう」

「・・は」

「聞けばリケイは5年も、いやあれから3年なので、8年間もこのキョウイを待っているのです」

「いじらしいのう」

「私は・・・兄として許せません。コウコウを斬ります!」

「やめやめい!お前の命とあんな奴の命は引き換えに出来ん。何より、馬鹿殿が変わらねば、すぐに第2、第3のコウコウが

出てくるだけだ・・・」

「・・・」

「せめて、劉協様が居てくれれば、あんな馬鹿殿に帝をやらせずに済むのだがのう・・・どこにいるのか・・・」

「・・・」

「私、劉協様の居場所を知っております・・・」

「なんだとう!!」

「私は、天水に仕官する前、諸国を旅していました。北平の方へいった時、行在所を発見し、お姿も見ています」

「それは・・・今すぐお連れしよう!!」

「いやまて、カンコウ、こんな大事な話だ・・・丞相に相談しよう」

3人はコウメイの元へ向かった。事情を話すと、コウメイは黙って聞いていたが、

「そうですか、ですが、それは困りましたね」

「丞相!何が困るというのか!」

「もし、劉協様が蜀に来て頂けるとして、帝が代わったとします。ですが、帝が亡くなったら・・・・」

「・・・」

「それこそ、本当に帝位を継ぐ事になり、今よりも横暴になるでしょう。帝はソウヒに追われた際、

娘も取られ子も殺されています」

「だが、この腐った蜀を立ち直らせる好機ですぞ!!」

「はい・・・。それも先帝の悲願でした。ですが、今しばらく時が欲しいのです。あの帝が簡単に帝位を降りる筈も無く、

無理矢理落としたのでは簒奪になります。また、そんな状態の帝位を渡すのも無礼でありましょう・・・」

「確かに・・・」

「ですので、もう少し、時が欲しいのです。帝も何とか説いて見せます。それよりもそろそろ戦の準備を・・・」

「そうだな。分かったわい!カンコウ・キョウイ!暴れるぞ!」



今回の北伐は6万の兵を持ち、最初の北伐に告ぐ大規模な進軍であった。

早々に聞きつけたシバイも10万で迎え撃つが、五斗米道の教徒による撹乱攻撃とキョウイとカンコウの奇襲により

大きく前進し、南安・街亭を落とし、天水も落城目前であった。だが、シバイは天水で篭城を決め、長安からさらに10万の

援軍を得ると、蜀は手が出せなくなった。圧倒的に兵数で劣った為である。ただ、これは好機であり、長安から援軍もしばらくは

来ないであろうし、安定を落とし、扇形の陣で天水を囲めば前後左右からの攻撃で一気に打ち破れる。

だが、兵が足りずに行動出来ずにいたが、コウメイは成都に兵3万の援軍を要請した。

呉が攻めてくる事も無いし、南蛮の脅威も消えたので、現実的な援軍を要請したが、成都からの返事は意外なものであった。

「陛下よりのお返事である」

使者はリゲンだった。

「陛下は病に倒れたため、詔を出せぬ。早々に魏と停戦し、成都に戻られるように」

これにゴハンは怒った。

「なんだとう!!!もうすぐ天水も落ちて、悲願だった長安も望めるのだぞ!!!」

その声にリゲンは馬から落ちそうになったが、

「謹んで受けるように」とリゲンは返した。

「ふざけるな!!!」とゴハンは怒鳴ったが、コウメイはそれを制した。もはや成都を変えなければどうにもならんと

判断したのだった。

「お受けします」

ただ、帰りはリゲンを囲むようにして帰り、コウメイは

「これはお受けしますが、もし、詔に虚言があれば、此度は戦中の為、罰は重いものとなります」

と言い放った。

久々の快進撃で、兵の士気も高く、シバイもあと一息で打ち倒せたのだ。これによる蜀軍の落ち込み様はこの上無かった。


コウメイは成都に着くと、リゲンを連れて裏口から朝廷内へ入り、リュウゼンの部屋の前に立った。


中ではリュウゼンが大笑いをしながら女を追いかけている。コウメイは

「これは、大変な病のようですな!」とリゲンを睨みつけたが、

「こ、これはめでたい!勅使に行ってる間に本復なされたのじゃ~!」

と言うとリゲンは逃げていった。追う気にもなれなかった。


翌日の会議で、コウメイは今回の詔に付いてリュウゼンに迫った。が、

「俺は知らんぞ!このコウコウがやれと言ったのだ!」と言えばコウコウも

「私如きが何でそんな大それた事をしましょう。きっとリゲンが勝手にやったのです!」と言い、リゲンは

「そんな!あんまりです!陛下とコウコウ様が・・・」


同じ穴のムジナが互いに罵りあっている。その光景を見てキョウイは寒気を感じた。

カンコウもゴハンも呆れて出て行った。

コウメイも怒りに震えていたが、そこにギエンがやってきた。

「陛下を謀る不届き者め!」

と一刀の元にリゲンの首を刎ねた。

ありえない事である。朝廷内、しかも帝の前に剣を持って自由に歩いている。もはや取り返しの付かない事態になっていた。


それでもコウメイは必死に訴えた。

「陛下!これは亡き先帝の!お父上の!リュウビ殿の悲願だった北伐なのです!それを何で3万ばかりの援軍を

出して頂けないのですか!」

だがリュウゼンは、

「ううん、血を見たので気分が悪い」と返事をしなかった。

「陛下!!殿の今わの際のお言葉を知らぬと言いますのか!!!!」

「ううん、簡便してくれ。吐き気もしてきたぞ」

「陛下!!」

リュウゼンはコウコウに担がれて奥へ消えていった。

「陛下!!!!」


コウメイの叫びだけが虚しく響いた。

コウメイは涙を流していた。

キョウイも何と声を掛けていいかも分からず、そこを去っていった。

コウメイは立つ事さえ出来なかった。


日も暮れて来た頃、トウシが呆然としているコウメイの元にやってきてコウメイの手を取った。

「此度の北伐、さぞ無念でしたでしょう・・・」

コウメイは涙を拭いて笑顔を作った。

「トウシ殿・・・。よくこんな朝廷に絶えていて下さる・・・」

「先帝を思えば、丞相殿の苦労を思えばこそです。丞相が良いと言ってくれれば、今すぐにでも野に下りとうございます」

「それは困る!そなたがいなかったら朝廷の火が全く消えてしまう・・・」

「分かっております。さて、その火に囲まれて今日は一日、お付き合い下さい」

そう言われて手を引かれて歩いていくと、そこはゴイの屋敷だった。


ゴイはリュウゼンに物申してしまった為に、朝廷から離れた所に飛ばされた。

トウシが落とされないのは呉のリクソンとのよしみを通じている功績からであった。


ゴイの屋敷にはゴケイもいた。リケイも連れていた。カンコウもゴハンもキョウイもいた。

皆、リュウビの温かさと大志を知る者達であり、この一晩の会はコウメイを心から温めた。


その会も酣となり、コウメイが出ようとするとトウシに止められた。

今度は小さな蔵へと呼ばれ、そこにはゴイがいた。

「さて、丞相殿・・・実は今回は表向きはただの宴会じゃが丞相殿に伝えたい事があり、このような体を装った次第じゃ」

「うすうす、感じてはおりました・・・」

「そうか。・・・丞相殿・・・お留守が過ぎましたな・・・・」

「はい・・・逃げてはいかぬと知っていながらも自然と足が朝廷を離れてしまいました」

「今は、北伐はいかん・・・。足元を固めなされ」

「・・・」

「実は朝廷内ではしきりに噂が立っておる。何故丞相殿が執拗に北伐を続けるのか・・・と」

「・・・」

「この話は裏でゴケイもリケイも聞いておる。それは・・・」

そう言うとトウシは顔を下に向け、震え、涙を流している・・・

「トウシ殿・・・」

「私の口からはとても言えませぬ・・・」

それを見てゴイが口を開いた。

「では、ワシから言おう・・・。コウメイが北伐を続けるのには理由がある。先帝の遺言と称して漢中より

北を攻め取る。漢中・天水・安定さらには剣閣・フ城を結ぶ領土を確保すれば充分な兵を養える!こうして

国を掲げ丞相は帝となって、覇を唱える。兵力は蜀を上回り、勢いで圧倒する!!!その矛先は成都に向く!

丞相の行動は北伐に在らず!蜀の乗っ取りである!!」


これを聞いた時、コウメイの椅子が音を立てた。

怒って蹴り立てたかと思ったが、天を仰いで涙を零していた。


「丞相殿、いまや朝廷内ではこの話で持ちきりじゃ・・・。これでは兵の士気も糞も無い。また、先帝の遺言を認めた

リゲンも殺された。あの盆暗・・・リュウゼンの思うがままじゃ。落ち着きなされ。足元を固めなされ・・・」


この後、コウメイは一言も話す事は無く自宅へと帰った。

裏でキョウイ、カンコウ、ゴハンも聞いていたが、コウメイの様子を見て声を失っていた。


その後、キョウイがコウメイに呼ばれた。

「キョウイ、只今参りました」

「あぁ、来てくれたか・・・」

「はい・・・」

「済まぬが、北平へ行ってくれんか・・・」

キョウイはその意味をすぐ理解した。これは、劉協を迎えに行け。との意味である。

キョウイはコウメイの心変わりに疑問も抱いたが、蜀の命運を掛けたこの依頼を断れる筈も無く、その理由も無い。

「は、行ってまいります」


翌朝、日も出ぬ頃、キョウイは自宅を出た。
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