そろそろ本気で終わりが見えてきたので少しでも繋がりを大切にしようと願う性騎士のブログです!
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リュウビ軍は江南と面する拠点、白帝城を本陣とした。

そこに南蛮の王:シャマカが5万の族を連れて合流し、総勢10万の蜀軍は侵攻を開始した。

蜀本軍の前を南蛮軍が走り抜けるのだが、その破壊力は圧倒的で次々と江南の陣を潰して行った。

チョウホウとカンコウはそれを見て驚いていた。

「しかし、カンコウ、すごい連中だな」

「あぁ。皆、裸足で髪を捌いて棍棒を振り回している・・・」

「それにあれ、なんなんだあの化物は」

「分からん・・・」

「しかし、このまま戦が終わってしまったりしないだろうな・・・」

「分からん・・・」


南蛮族は領土の切り取りを楽しんでいた。また象を何百とあやつり、全てを踏み倒していった。

「おい、本当に俺達の出番は来るのか・・・」

「分からん・・・」

「叔父上に聞いてみよう」

「ああ」


そう言って二人はリュウビの両隣へ廻った。

「叔父上、俺達の出番はまだでしょうか?」

「戦がこのまま終わってしまうのではないでしょうか?」

「はっはっは。血筋だのう。お主らの父もそう言っては太い腕をびしびし叩いていたものだ。こうしていると

私まで30年前に戻ったような気がする」

「はぁ・・・しかし誤魔化さんでください・・・」

「ああ、すまない。・・・明日あたりには出番が来るかもしれんぞ」

「ええ!」

「そろそろ襄陽が見えてくる。だが、さすがに襄陽に近づくに連れて兵が増えて来ている。南蛮の力ではこの辺が限度であろう」


事実、これ以上は下がれぬと見た江南は、ソンケンの甥であるソンカンを大将とした部隊を繰り出した。

先方のゴハンがこれを見て、

「陛下、南蛮の族が足を止めました。どうやらソンケンの甥が大群を持って迎え撃っているようです」

「そうか。ではシャマカ殿には少し休んでいてもらおう。なにしろ1ヶ月も走り通しているからのう」

「分かり申した。ところで先方はワシでいいんですかの?」

「なに?」

「いや、陛下の隣の若2人の鼻息が荒いもので。はっはっは!」

ゴハンは益州を奪った際にリュウビ軍に加入した豪の者でチョウヒと気が合い、以来チョウヒの右手として活躍してきた。

やがて、チョウヒそっくりの大声野郎に変身していたのだった。

「叔父上!でしたら先方はこのチョウホウに!」

「いや、カンコウに任せて下さい!叔父上!」

「困ったのう・・・」

「先方を争う若武者が2人も・・・これは蜀も安泰じゃ。はっはっは!」

「むう。私はこういった時は年長者を立てるようにこれまで生きてきた。カンコウは納得してくれるかな?」

「はい。叔父上の言葉であるなら従います」

「よく言ってくれた。カンウも繊細な人物であった・・・チョウホウよ。お主の父はかつてカンウと二人で

5千の軍を追い返した事もある。しかも初陣でだ。その姿を再び私に見せてくれ!」


翌日、蜀軍と江南軍はにらみ合い、南蛮軍は蜀本陣の周囲に下がった。

蜀からはチョウホウが前に出た。獲物はチョウヒの蛇矛を持っていた。対して江南からも煌いた鎧に身を包んだ

男が出てきた。

やがて、二人は激突したが、完全にチョウホウが押していた。と、そこに江南軍からさらに2人の武者が割って入っていった。

「あ!」とカンコウはそれを見て行こうとしたがリュウビが止めた。

「良く見ろ。3人相手でもチョウホウの方が上だ。だが危なくなったらすぐに行ってやれ」

「はい!」

チョウホウは3人相手に良く戦った。というよりも押していた。だが、そこに江南からもう一人の将が出てきて弓を放った。

その矢はチョウホウの馬の頭を貫き、チョウホウは地に投げ出された。そこにソンカンが薙刀を振り上げると一閃閃き、

ソンカンの両腕が宙に舞った。カンコウが飛んで来ていたのだった。もう一人がチョウホウを槍で刺そうとしたがチョウホウは

それを避け、槍を引っ張り様に矛で首を刎ね、その馬に飛び乗った。

二人の若武者が残った一人を睨むと、慌てて逃げ帰った。そこへゴハンが号令を掛けて蜀軍が追いかけて行った。

江南軍も矢で迎え撃とうとしたが江南の将が敵中に居る為に矢も使えず、ただただ蜀軍に飲み込まれていった。

初戦は完全に蜀軍が勝った。だが、チョウホウとカンコウの姿が見えず全軍で慌てて死体を捜したがいなかった。

やがて2人の将が丘の上から姿を現したが、何やら馬足が遅い。見れば互いに敵の将を生け捕って来ていた。

リュウビがそれを見て出迎えた。ゴハンも

「いや、手柄じゃ!若!」

「ほら、チョウホウ、お前の馬を射た奴だぞ」

「じゃあ、逃げ出した奴をお前にやろう」

と互いに敵将を交換した。敵将は何も言わずに瞑していたが、チョウホウもカンコウも処刑は出来ずにいた。

ゴハンが笑って

「ははは!確かに、抵抗せぬ者を斬るのは後味が悪いわ!だが、カンウ殿もこうして最後を迎えたのじゃ!」

というと、一刀の元に二人の将の首を刎ねた。

「だが、若二人よ、突っ込み過ぎだぞ!わっはっは!」


その晩は初戦勝利を祝して宴会が行われた。

カンコウもチョウホウも酒はあまり飲めなかったので程ほどに二人で川に出ていた。初夏の夜の川は格別に気持ち良かった。

「カンコウ・・・オレはまだドキドキしている」

「オレもだ・・・」

「まだ手が震えている・・・」

「・・・オレもだ・・・」

「今日は助かったぞカンコウ、礼を言う」

「何を。逆の立場ならお前も来てくれていただろう」

「・・・・分からん・・・」

とチョウホウがカンコウの真似をしたので二人は笑った。


翌日も蜀軍の快進撃は続いたが、標的であるハンショウ・シュゼン等は出てこなかった。

連日の戦でチョウホウもカンコウも大活躍をしており、毎晩のように祝宴が行われていた。

「いや、我々が老いて行く中でもそなたらの活躍は目を見張るものがある。

ウンチョウもヨクトクも空で杯を重ねているだろう!」

そんな言葉を聞き、咳払いをした将が一人・・・。


翌朝、早々にコウチュウが単騎で陣を出て行った。

衛兵がリュウビにそれを報告した。

「コウチュウ殿がただ一騎、東へ駆けて行きました!逃亡かもしれません!」

「・・・いや違うな。それよりもチョウホウとカンコウと呼んでくれ」

飛んできた二人にリュウビは言った。

「昨晩、諸将老いたりと私が言ってしまった。そのせいでコウチュウ殿が朝から行ってしまったのだ。だが、

ただでは帰らぬだろう。程ほどに武功を上げてもらったら二人で止めて帰って来てくれ」

そう言われた二人は500騎ばかりを連れて後を追った。

「しかし叔父上のあの優しさ・・・いいのう」

「あぁ。俺達も年を取ればああなれるのかな?」

「分からん・・・」

「しかしコウチュウの爺さんには驚くな。74歳にして5キロの肉を食い3人張りの弓を弾く」

「化物だな」

「お、いたぞ」


コウチュウは江南の陣の前で叫んでいた。

「ワシは蜀の将コウチュウだ!老いたりとは言え、ワシの首はさぞ価値があるだろう!腕に自身のある奴は出て来い!」


「しかし、なんて大声だ。ほんとに爺さんかあの人」

「はは、む、出てきたぞ」


陣から出てきたのは矛を持った武者であった。が、3合と合わさぬ内にコウチュウが胴を貫いた。

「どうした!江南の将はヘナチョコばかりか!」


「しかし、早いな爺さんの薙刀は・・・オレは勝てんぞ・・・」

「む、また出てきたぞ、今度の奴は強そうだ」


またも陣から出てきた将は大薙刀を持っていた。

が、やはりコウチュウが完全に圧倒し、その将は逃げていった。

コウチュウが追おうとする所を二人が止めに入った。

「いや、すごかったです!コウチュウ殿!」

「ここまでやれば充分でしょう。さぁ、叔父上がお待ちです。一緒に帰りましょう」

「何を言うか!このヒヨッコ共が!あの薙刀が見えんのか!あれこそカンウ将軍の持っていた青龍円月刀じゃぞ!

あれと100合もぶつかりあったワシの目に狂いは無いわい!」

とそれを聞いたカンコウは目の色が変わった。

「分かりました!コウが奪い返してきます!」

そう言うと単騎で逃げた将を追っていった。

チョウホウは戸惑ったが、500騎に後方を任せ退こうとしたが、江南から突撃され、ぶつかり合った。


カンコウは必死になって追いかけた。人よりも目は効くのでその将の背中だけを見続けていた。

森の中に入り、見失ったら最後である。だが、やがて見失ってしまった。

それからも森を彷徨い駆け続けたがとうとう見つけられず、迷子になってしまった。

やがて夜になり自分は食わずとも馬には水をやらねばならず、動揺していたが、やがて一軒の家を見つけた。

カンコウが尋ねると、中からは実直そうな男が一人出てきた。

「誰かな?」

「は、蜀のカンコウと申します」

「カン・・・」

というとその男の裏にカンウがいた。

「父上!!!」

「む、お主はカンウ様のご子息か」

よく見るとそれはカンウの絵であった。

「実は私、カンウ様の納めていた襄陽に住んでいた者で、カンウ様が死んだと聞き、自暴自棄になりこんな所に

一人住んでおりました・・・」

「そうでしたか・・・」

そうしてカンコウは馬に水をもらい、男から酒と料理を馳走してもらった。そうしてカンウの思い出話等を語り合った。

すると、戸を叩く音がした。

「こりゃあ!ワシは江南のハンショウである!迷ってしまい難渋しているのだ!水と食料を寄越せ!」

その名を聞いてカンコウはハッとした。追っていた将の名であるのだ。

カンコウは戸を突き破り突進したが、ハンショウは髪一重で避けた。

「やや!貴様は!」

「カンウが2子、カンコウだ!父の仇だ!」

それを聞くとハンショウは逃げ出した。今度見失ったら最後、出てこないであろうとカンコウは必死に追いかけたが

ハンショウは突然、宙を切り出した。

「おのれ!カンウ!迷ったか!!!」

カンコウはそれを見たが、構わずに斬りかかった。

「血迷うなハンショウ!カンコウはここだ!」

と、ハンショウの首を斬り、その手から青龍円月刀をもぎ取った。して肩膝を付いて

「父上、どこにいるか分かりませんが、刀はコウが預かりました!」

と祈った。


チョウホウは慌てた。

蜀兵は500騎しかいないのに敵陣からは次々と兵が出てくるのだ。

右に左に矛を振り回しコウチュウと共に戦ったが、大量の矢が降ってきて、散り散りになった。

だが、そこに騒ぎを駆けつけたリュウビ本体が到着し、江南の兵を薙ぎ倒した。

そこでリュウビは地に倒れているコウチュウを見つけた。

「コウチュウ殿!!」

肩と胸を貫かれて、顔は真っ青になっていた。

「コウチュウ殿、私が将老いたり等と言ってしまったばかりに・・・」

「いや、いいのじゃ。ワシは元より、長沙で死ぬ所をカンウ殿と婿殿に救われ、さらにひ孫を抱き・・・

あぁ。今の陛下の手が幼き日の父の手の様じゃ・・・」

リュウビはコウチュウの背中を撫で続けたが、やがて優しい顔になったコウチュウは息をしなくなった。

そこに、チョウホウが来た。涙を拭いたリュウビは

「いや、ご苦労であった」

「カンコウがいないのです」

「なんと!・・・お主達は今の若さで死なせたくない・・・なんとか見つけ出してくれ!」

「はっ!」


だが、いつまで経ってもカンコウは見つけられなかった。

蜀軍はそこに留まっていたが、再び江南の軍が進んできた。

かなりの大群であったが、チョウウンも前線に出てきてチョウホウ・ゴハンの奮戦により

難なく追い返した。チョウホウは最後まで追いかけたが、不思議な事に敵が帰ってくる。

見ればカンコウが逆走しながら薙刀を振り回していた。

「カンコウ!」

「おお、見ろ!親父の刀だ!」

「やったな!」

「あぁ!」

と二人で蜀陣へ戻っていった。


これまでの蜀の攻撃で襄陽ももはや目前、南郡も、南蛮軍によって半分以上が壊滅していた。

被害も兵10万以上がやられており、江南では会議が繰り返されていた。

「全く、リュウビめ!どこまで突っ込んでくる気か!」

「此度の戦はカンウの弔いでございましょう・・・」

「むう」

「私が使者に立ちます」


そう言って蜀陣に来たのはコウメイの兄、ショカツキンだった。

「陛下、お久しぶりでございます」

「いや、陛下は止めて下さい。ゲントク、中身は変わっておりません」

「そうですか・・。では皇叔殿、何故、我らが領土を侵すのですか?」

「何故とは・・・決まっておりましょう。カンウ親子と、チョウヒの弔いでございます」

「どうすれば兵を引いて頂けますのか・・・」

「決まっていましょう。カンウ親子とチョウヒの死に関わった者の死を持って此度の戦は終わります」

「・・・・分かりました」

そう言うと早々に江南へ帰っていった。

翌日、ショカツキンがシュゼン・チョウタツ・ハンキョウを縄で縛り、蜀陣へやってきた。

その3人をチョウホウとカンコウに斬らせ、それを見たショカツキンは改めてリュウビに話しかけた。

「さて、これで兵を引いて頂けますかな?」

「ははは。何を戯けた事を!」

「はて・・・。ハンショウ・リョモウ将軍は既に亡く、たった今、シュゼン・チョウタツ・ハンキョウも

斬られました。これ以外に何を望むというのでしょうか?」

「なに、カンウを斬れと命じたソンケンの首がまだでしょう」

これを聞いたショカツキンは明らかに血の気が引いており、飛んで帰って行った。


これを聞いたソンケンは激怒した。

分けの分からん族に領土を奪われ、言われるがままに、ただただ将を斬られ、それでも足らずに首を出せという。

「もう生かしてはおけん!」

そう言うとリクソンを呼び出した。

「リクソンよ。お前はカンウを捕らえた筆頭の仕事人であろう。なぜリュウビに追われぬのか?」

「はぁ・・・私はすぐに副将を外された能無しで、名も無いので相手にされていないのでしょう」

「むう・・・では名をやろう。大都督に任命する!」

「は・・・・」

抜群の取り立ててあった。

今でいう、自ら進んでニートをやっていた者が総理大臣になっちゃった的な人事であった。

「さて、リクソン。いや、大都督よ。リュウビを追い返してほしいのだが・・・」

「はぁ・・・」

「はぁではないわい!もはや魏とも同盟とは名ばかり、兵も10万以上はやられ、江南存亡の危機なのだぞ!」

「はぁ・・・」

「まったく!とにかくお前だけが頼りなのだ!」

「分かりました・・・」

「リュウビを討ち取れるな!?」

「・・・惜しい人物ではありますが・・・」


リクソンは直ぐに兵を纏め上げ、将を集め会議を開いた。

「此度、私が都督になったので皆さんに作戦を伝えます」

「・・・」

「私が恐れるのは、コウメイ殿が蜀陣に入ってくる事です」

「・・・」

「さて、どうするとコウメイ殿が来るか・・・」

「・・・」

「リュウビ殿を苦戦に陥れるとやってきてしまうでしょう」

「・・・」

「なので、一瞬でリュウビ軍を壊滅させます」

それまで黙っていた諸将は怒った。

「そんな事が出来るなら最初からやっとるわい!!」

だが、リクソンの右手のシュウタイが抑えた。

「いや、カンウの軍を破ったのもリクソン殿の策によってなのです。皆、黙って聞いて下され!」

シュウタイは実績もあり、実直な男だったので、この言う事は聞いた。リクソンは続けた。

「はい。では作戦ですが・・・我々は・・・」

「・・・」

「我々は・・・」

「・・・・!!早く言って下され!!!」

「はい、すみません。我々は、何もしません」

「は!?」

「蜀の兵はこの長旅で疲れています。また、半数の5万は南蛮族の合力であり、これは領土の切り取りを

楽しんでいるだけです。これにはショカツキン殿に使者に立っていただき、南郡の一部を差し上げて、帰って

もらいましょう。そして、何もしないというのは、暑さを待ちます。長旅と暑さにやられ、兵の士気が下がった所を

見たら、いっきに大群で囲み、火を放ちます。また、その頃までには蛮族も消えているでしょう。ですから、

今回の敵は蜀軍では無く、待つ事に怒りを感じる事です。ですので皆さん、落ち着いて・・・ゆっくり・・・

待ちましょう」


こうして江南軍は蜀陣の遠方に陣を敷いた。

蜀軍もコウチュウの死と長旅の疲れから、戦を仕掛ける事は無かった。


チョウホウとカンコウは水練をしていた。

というよりも暑さに敵わず川に漬かっていた。

「しかし、あれだな。ヒマな戦になってしまったな」

「あぁ、皆、疲れているな。俺も疲れてきている」

「しかし、叔父上がソンケンの首を寄越せだなんて、良く言ったのう」

「はは。だが冗談であろう。皆もそう言っているし、そろそろ帰るか?なんて話も出ている」

「あぁ・・・。だがそれは士気が無いという事じゃないか?」

「そうだな・・・だが、江南も攻めてくる様子もないしな・・・」


やがて蜀陣内では、戦も終わりかという雰囲気が出てきた。

リュウビも何度か攻めてはみたが、硬く守られ、逆に手痛い反撃を受けて帰ってくる。

さらに熱さも最高潮に達し、蜀陣内では病に倒れる者も出てきた。

ゴハンがリュウビに言った。

「陛下、もはやソンケンの首以外は全て果たした。もう充分ではなかろうか?」

「あぁ・・・だが、まだソンケンと聞くだけで闘志が奮い立つのだ」

「むう。向こうもいつまでも出てこないし、兵も疲れてきておるようですぞ」

「そうだな。私もそれは感じている・・・。ゴハン」

「は」

「皆を連れ、帰ってくれ」

「陛下は?」

「私は思うところがあり、まだ帰れぬ」

「それでは誰も帰らぬでしょう」

「それでは私が困るのだ・・・万が一という事もある・・・」

「むう・・・」


もやもやとした雰囲気が立ちこめ、暑さも極まり、やがて忠誠心の高い蜀兵も逃げ出す者が出た。

ゴハンは再びやってきた。

「陛下、もうこれでは戦になりません!」

「あぁ・・・」

「皆、蜀に帰ろうと口々に言っていますぞ!」

「だから言ったではないか、皆をまとめ帰って良いと」

「むう!!!」


やがて逃げ出す兵は万を越え、士気など皆無となっていた。

さすがにリュウビも戦を終える決意をし、諸将に伝えた。

「皆、済まなかった。もう私も考えを決めたのだ。明日、明るくなったら全てをまとめて引き上げよう!」


その夜、チョウホウとカンコウが再び川で遊んでいると、川を見つめるリュウビを見つけた。

その背中は非常に小さく見えたので、声を掛けられずにいると、やがて遠くで火の手があがった。

「叔父上!!!我が陣が燃えています!」

それを聞いてリュウビが川を出て丘に出ると轟々と炎が風を呼び蜀陣を焼いていた。

陣の警備を任せていた蛮族はどこにも姿は無く、それに唖然としていたが、やがて我に返ったリュウビは

剣を抜き

「放ってはおけぬ!」

と泣きそうな声で炎に向かおうとするのを二人が必死で止めた。


やがて落ち着いたリュウビを二人が先導し引き上げていると、後方から大群が押し寄せてきた。

「叔父上!早く逃げて下さい!」

チョウホウとカンコウが必死で抑えていると、その大群を横から騎馬隊が貫いていった。

「チョウウン将軍!!」

「早く行け!陛下を必ず守れ!落ち行くは・・・・白帝城でよかろう!!!」

そう言われて二人はリュウビの手を引き逃げて行った。


蛮族は消え、逃げた兵を除けば蜀陣内には1万の兵もおらず、これを江南が5万の兵での火計を実行した。

白帝城まで戻ってきたのは諸将と2千ばかりの兵だけであった。

快進撃を続けてはきたが、最終的には元の境界線まで追い詰められてしまったのであった。

その沈みきった蜀軍を見て、江南は完全に兵を引いていった。


この日からリュウビは床に伏せてしまう。

飯も食えず、明日とも知れぬ状態だったが、成都からコウメイが飛んできた。

それを見たリュウビは体を起こしたが、コウメイの握ったその手は、全く力が入っていなかった。

コウメイはこれを察知し、リュウビの2・3子であるエイとリと連れて来ていた。

だが、リュウビは目が見えていなかった。

「さ、若君達、父上が及びですぞ」

と気を使って言うとリュウビは

「エイとリが来ているのか!」とあらぬ方向を見ながら、手を広げた。

そこに二人は乗っかった。

「おお、こんなにも大きくなったのか。エイはいくつになった」

「7つになりました」

「するとリは6つか。どうだ二人とも、学問はしているか?」

「はい、母上(ゴケイ)に教えてもらい、毎日が勉強です」

とエイが答えた。そのしっかりした答えにリュウビは満面の笑みを見せた。

だがリは答えなかった。

「む・・・答えないリは勉強が嫌いかな?」

「・・・リケイ先々が厳しいのです!」

過去、カンコウと共に成都に入ったリケイはゴケイが面倒を見ていた。その利発さを見抜き、学童の手伝いをさせていた。

「ははは。そうか。でもそれはお主が私の子だからこそだ。普段は優しいであろう?」

「はい!大好きです!」

と、そこにバショクが入ってきた。

「陛下!急病だと聞き、バショク、只今ご拝顔に参りました!」

「ん、バショク・・・おお、そうかい」

とあまりの素っ気無い返事にコウメイは慌て、

「ささ、陛下はお疲れだ。皆、戻るがいい」と人を払った。


コウメイが来てからはリュウビの顔色も良くなったが、空咳が続いていた。

人のいなくなったのを感じてリュウビが口を開いた。

「私は、人を謗るのは好きではない。また、コウメイ殿の御眼鏡に叶った人物なので言いにくいのだが・・・」

「はい、何なりと聞きましょう」

「どうも、わしはあのバショクを好きになれぬ。才は並々ならぬものがあるが、言葉が実を過ぎるのだ・・・」

「・・・はい、覚えておきましょう」

「また、悩みがる・・・」

「はい」

「跡継ぎの事だ・・・」

「・・・」

「私はこれまでトウケン殿、リュウヒョウ殿を始め、家督の問題に口を挟んできた。長子を廃し、次子を立てると災いが起こると」

「はい」

「そんな私が、どうして禅を廃し、永を立てよ、等と言えようか・・・」

「・・・」

「いや、禅が悪いのではない。学はある。むしろ利にも聡い。だが人間が虚ろだ。あれでは蜀に未来は無い!」

「・・・」

「だから、永を跡次とし、コウメイ殿に支えてもらうのが最善だと考えていた・・・いかがなものでしょうか」

「陛下が、無念にも倒れたのであれば、このコウメイも生きている価値はありません。ですが、ご安心下さい。

勝手に命を投げ出すような事はしません。跡継ぎが誰であろうと、このコウメイは命の限り、お守りし導いて見せます。

今は、どうかご自愛下さいませ・・・」

するとリュウビはふーと息を吐いて寝息を立てて眠りに付いた。

だが、その呼吸は深刻なまでに遅く、コウメイはずっと手を握り涙をこらえていた。


丸一日寝ていたリュウビが目を覚ますと、寝ずにいたコウメイはずっと手を握ったままでいた。

「コウメイ殿・・・チョウヒとカンウに会って来ました」

コウメイには返す言葉が無かった。

「早くこっちに来て飲もうと言ってくれている・・・。皆を呼んでくれ」

すぐに全員を集めた。

そこでリゲンに遺言状を依頼しリュウビは語った。

「エイよ、リよ、これからはコウメイ殿を父とし、必死に学ぶのだ。チョウウン、世話になりっぱなしであったな。先にハクゲンに

会ってくる。チョウホウ・カンコウよ、励めよ。父達に負けるな。コウメイ殿、私は幸せであった。

ウンチョウとヨクトクを得て、良き仲間に囲まれ、コウメイ殿にも会えた。恵まれすぎた人生であった。

どれ、ウンチョウとヨクトクが杯を掲げておるわ・・・今行くぞ」

そう言うと事切れた。

「陛下!」

「父上!」

侍女達の泣く声が響いた・・・。


母のゴザ作りを手伝いながら、生を立て波乱の人生を突き進んできたリュウビは、ついに成都に戻る事なく息絶えた。

63歳であった。


やがて一行は成都に帰還し喪に伏した。

喪が明け、コウメイが長子リュウゼンを帝位に付かせ、チョウウンを大将軍とし新たに蜀を作り直した。


だが、蜀のリュウビの死という報を、魏は黙って見ておらず、シバイが総勢40万を越す五路からの進行を繰り出した。

これは南蛮、侠族、さらには江南の軍も含めての大軍団でリュウゼンは即位早々に絶体絶命の危機に瀕した。


リュウゼンは慌てふためき、コウメイを呼んだが、コウメイは会議にすら参加せず、

ただ自宅の庭にある湖を眺めているだけだった・・・。
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