まるきらーのコルム日記;2011/ 04の記事一覧

ここでは、まるきらーのコルム日記での 2011年 04月 に掲載した記事を表示しています。
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あとがきw









なんかそんなモノを書きたくなる・・・気分・・・

気持ちがわかったにょw


っていうか。


うびゃ嗚呼あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!


これまで堅い文章ばっかだったから新鮮だwwww


ちっと気になって1話読み返してみたら、文章が軟らかかったw

どこで堅くなったんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


でもいっか、男の子は固くなるのよ♪


・・・取り合えずですね・・・・。

記憶を頼りに書きまくったんで、出来事が多少前後してるかもしれん!

寿命とか間違ってるかもしれん!


しかも全24話ってwwwwwwwwwwwwww何文字打ったんだwwww


一話書くのに大体2,3時間!

つまり・・・2.5時間計算で60時間wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

あほかw


というか、途中で、何で俺はこんなの書いてるんだ・・・てなったんだけど、

あとがき ならぬ まえがき?で言ってたのね。

きっと皆に三国志を知ってもらいたかったんだね。そんで感動してもらいたかったんだね。ワタクシ。

でも、こんだけ省略して書いてたら感動なんて無くね!?


どう?皆、泣けた?感動した?

ていうか、冷麺以外に読み続けてくれた人っているの???


ちなみに私は書きながら何度か泣いてました。。。

リュウビとビケイの死は何度思い浮かべても涙が出てくるの。。。


やっぱり蜀メインの話なので・・・

というか、魏はともかく呉なんて殆ど、人出てこないもんね!笑っちゃうね!


それに記憶だけが頼りだったので何年に何がどうなった!?って出てきてないねwwww

今、気付いたわwwww

でも、年なんて関係ないよ!ね!差別!反対!


この頃、日本は邪馬台国の卑弥呼の時代だったっけかな。

なんか魏の帝王のハンコがなんちゃらとか、歴史で習ったような・・・気のせいかな・・・



ってあとがきってこんなんだっけww


^-^


ともかくw

冷麺がコメくれてたのでなんとかモチベーション持ったようなモノでw

で、冷麺はやれキョウイが好きだ、なんだと言っていたけど、私はあまり好きでは無かったり・・・

だってキョウイが天水にいなけりゃ、チョウウンが落としてその後、長安を巡って戦えてたと思うのよね。

で、勢いもあったしシバイも倒して長安奪って・・・そうすれば元都だし、北平に劉協いるって分かって

都のある許昌(中央)じゃなく、北に向かって軍を進めてきっと劉協を擁護してた・・・はず!

そうすると呉のリクソンもヤバイと思って荊州から北上して都落として、そこからは・・・蜀と呉が争って・・・

でも、どっちみちすぐ死んじゃうからリュウゼンに帝が戻って、呉の天下だね・・・

ビケイが頑張って助けたのに・・・というか、教育のせい・・・?

教育って大事ね・・・・


ちなみにこのリュウゼンの幼名、阿斗ってのは、今ではボンクラ野郎って意味で使われるみたいよ。

育て方が悪いのに、こんな表現で名前が残るとは・・・哀れね・・・

ついでに私はカンコウが好きでした。

どこも国が大きくなって細かい話が消えていく中で登場したカンコウ。これが物語を面白くしてくれたので

蜀の話も盛り上がったんじゃないかなぁと思っています。

あくまで、チョンビソクさんの本の話ねw


また、女性も多く出てきたでしょう。

チョウセン、2橋(大橋・小橋)は有名だけど・・・

カンレン、ビケイ、キョウテイ、ヨウキョウ、シュウレイ、ゴケイ、リケイ。ついでにレイホウ(別名ソンショウコウかなw)

蜀に関する人だけでこれだけ出てきたので華やかさがあったのかな。と。


この本を買ったのが小学校5年?の時で、最初は読んでて意味なんて分かんなかったw

漢字も難しいしね・・・。でも戦いを描いている文が好きで何度も読み返してた。

だから魑魅魍魎とか小学生で書いてたよwww

今思えば、本が・・・まぁ嫌いじゃないのはこの三国志を読んでたからだと思うのです。

3冊重ねると10cmくらいになるからね。良く読んだよホントw


で、これに乗じて日本の戦国時代も読むか!って思ったけど、やってる事は三国志と変わらないし・・・

それに三国志は西暦180からで日本の戦国時代って西暦1500年とかだよねwって思うと日本が馬鹿馬鹿しく思えて、

読まずにおります。というか、本当に人間の争いは武器が変わるだけでその後も、今でも戦争してるもんね。


王道の志を持って生きていきたいものです。

リュウビが治めた蜀は、戸締りが必要無いんだよ??

今、考えられないよねw

どんな政治をしてもらえばそんな国が出来るか・・・。私がそう思えるか・・・。皆がそう思えるか・・・。

何でそんな政治が出来たのか!!


そう考えると、やはり三国志の蜀の話が好きである!

でも、やっぱり、リアルで話す事は無いのである!

合コンでそんな話が出たとしても知らないフリをするのである!

でも最近、合コン自体行って無いのである!

お姉ちゃんと遊びたいのである!

なんか、ある!とかキモイのであるww

あるwww

無いわwww



ここに、自己満足w三国志編を終わりに致します。


冷麺以外、ここまでお付き合い頂いた方(おりましたらwwwwwwww)

有難うございました!

良かったら感想下さいな。

どうか、私が報われますように。


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大雨の後、シバイ親子はビ城まで下がり篭城の構え。

コウメイは五丈原を奪ったが、コウメイ自身が急激な衰えを見せていた。


成都での過度な政務によりコウメイの体力は激減していたのだ。

シバイはそれを間者から聞いており「牛馬の仕事もコウメイが行っている」と皮肉っていた。

ただ、今はシバイ自身も全身にヤケドを負い、策にはまったショックと悪夢のような炎を思い出すと

床に伏せた。


コウメイは明日とも知れぬ表情であったが、夏は乗り越えた。

ただ兵の士気も下がっている。天命が魏にあり、成都の勅使を無視した事で反逆の罪に問われるのでは・・・。

こういった事を考えれば成都に残してきた家族が心配であり、兵達は戦どころではなかった。

コウメイは秋空の下、星を見ていた。

「キョウイよ・・・今、私の命を司る星が輝きを失った」

「・・・」

「・・・」

「秋風は体に障ります・・・」

「いや、もはやどうにもならん」

「・・・私の母は昔、私の寿命を北斗・南斗に祈りました・・・」

「あぁ地元の方に聞いた」

「本当かは分かりませんが、それでも祈りは通じるものと思います」

「・・・確かに・・・私も赤壁の戦いでは南東の風を天に祈った・・・」

その日から、コウメイは祈りの台を作り、北斗七星を象った絵を掲げ、ロウソクに火を灯した。

主灯1つ、その左右に7つずつのロウソクに火を付け、一心に祈り続けた。

この火は祈りが届くまでは消していけないので、キョウイは細心の注意を払っていた。

睡眠・食事も充分に取り、祈り続けていると、コウメイは空を見て語った。

「おお・・・我が命の星が輝きを取り戻したぞ」

そう言うコウメイの顔に血色が戻ってきた。


その後もコウメイは祈りを続けていた。

キョウイもロウソクの火を絶やさぬようにと付きっ切りで周囲の世話をしていた。

そこにゴハンが駆けつけてきた。

「コウメイ殿が元気を取り戻したと聞いて飛んで参った!」

その勢いにコウメイとキョウイはロウソクを見た。全ての炎は揺らめいたが、すぐに炎は上を向いた。

だが、主灯だけは消えていた。

「あっ!」とキョウイは固まり、コウメイも扇子を落とした。

ゴハンは最前線で防衛に当たっていた為、この儀式を知らなかったのである。

「ん、どうかしたのか?」

「・・・」

「いえ、キョウイと子供がするような遊びをしていたのです」

とコウメイは笑顔を取り繕った。


その晩からコウメイは一気に衰え、気息奄々としていた。

「キョウイよ・・・」

「はい」

「私の子、センはまだ9つなので、どうか兄とも父ともなり面倒を見てやってくれ・・・」

「・・・はい」

「また、私の屋敷に、先帝と出会ってから書き留めてきた24冊の本がある。これを受け取って欲しい・・・」

「・・・はい」

コウメイは血を吐いた。

それを袖で拭きながら、遺書を認めた。

「これを・・・おまえも読んでくれ」

この成都よりの勅使を無視した事はコウメイの一存で部下は止む無く従った。

コウメイには屋敷と畑があるだけでその他には何の財産も無く、謀反を起こす気など無かった。

リュウゼンは先帝の志を思い、欲を押さえ、蜀の人々の為に生きて欲しい。

こういった事が書かれており、自身の最後にまで、コウメイを疎んじていたリュウゼンの事を思いやる文章を

書かねばいけないコウメイの事を思うと、涙で文も読めぬ程であった。

「さて・・・キョウイよ。私が死んだら、それは決して外にもらしてはいかん。シバイが来る・・・。

ここで死ぬのは私一人にして、全員、成都へ帰るのだ」

「・・・はい」

「それから、私の墓だが・・・成都には帰りたくない・・・。石だけあれば良い。それを魏に向けて・・・」

そう言うと事切れた。54歳であった。

シバキの元で兵法を学び晴耕雨読の日々からリュウビに惹かれて戦場に出る事20年あまり。

その知略によって戦は数だけでは決まらぬと大陸全土に広めてきたコウメイもついに没した。


キョウイはその場でコウメイに祈ると、側近だけにこれを伝え、棺に移した。

翌日、キョウイはコウメイが休んでいる事を伝えと、全軍の撤退指示を出した。


当然、ゴハンは怒り出した。

「何を言っている!馬鹿殿に背いてここまで来たのだぞ!!!」

「はい、ですが後方の支援、特に兵糧も無い為冬を越せません。その為に丞相は止むを得ず帰還を決断しました」

「ぬうう!」

「帰りはカンコウが先方・ゴハン将軍は本体を、私が後方を見ます」

「・・・分かったわい・・・」

こうして五丈原から撤退した。


だが、シバイにはこれがバレていた。

「とうとう死んだか・・・コウメイめ・・・」

「父上!」

「あぁ、行くぞ!一人たりとも蜀に帰すな!!!」

シバイは5万の軍を持って南下を始めた。


キョウイは最後方で棺を運んでいたが、やがてその後ろからの馬の音に気付いた。シバイの軍である。

もはやこれまでかと剣を抜いたが、そこにゴハンがやってきた。すると目ざとく棺を見つけ、

「やはりこういう事か・・・」

「ゴハン将軍・・・」

「ワシのせいだったのだな。だが、安心しろ。シバイはこっから先には行かせん!!」

「将軍!」

「別れを惜しんでいる暇は無いだろう!行け!!!」


そこにゴハンの側近500騎が駆けつけてきた。だがゴハンは叫んだ。

「お前らも蜀へ帰れ!ワシ一人で充分だ!」

誰一人として返事も無く、シバイ軍を見据えていた。

「・・・・分かった。生きて帰ると思うなよ!!!!!突撃じゃー!」

「おぉ!」


シバイ軍は混乱した。

撤退に必死であろう蜀軍からまさかの反撃であり、正真正銘の決死の覚悟を持った騎馬隊の突撃により軍が乱れた。


その隙に蜀軍は漢中へ辿り着いていった。

ゴハンは必死に矛を振り回し、朝日を浴びて返り血により馬もゴハンも真っ赤に染まったが、やがて矢を1本、2本と受け続け

針鼠のようになったゴハンは馬上で息絶えた。それでも落ちる事も無く、馬も絶命しているが倒れる事は無かった。

それをシバイが踏み倒し、さらに追撃していくと漢中の山上でキョウイが、その隣にはコウメイが椅子に座っていた。

そこでキョウイが右手を上げると、蜀軍の後方部隊が必死で銅鑼鉦鼓を打ち鳴らした。

「だ、誰だ!コウメイが死んだ等と言った奴は!!!!!」

そう言うとシバイは後ろを振り返る事無く去っていき、シバイが我を取り戻したのはビ城の自室の寝台の上だった。


だがそのコウメイは木人形であった。

こうして死せるコウメイが生けるチュウタツ(シバイ)を走らせ、蜀軍はコウメイ・ゴハン以下500騎だけの死を持って

蜀に帰った。


キョウイは漢中でヨウギにコウメイの遺書を渡した。

「む、お主はどうするのだ?」

「はい、丞相の願いで墓を立ててから蜀に戻ります」

「分かった。必ず帰ってこいよ」


そこにはカンコウも来ていたので二人でコウメイの墓石を彫った。

それを北東に向けて、弔いが終わったのは2日後の事だった。


そこには五斗米道の教祖チョウレンも来た。

「コウメイ様の御陣没はお痛ましい限りでございました・・・」

「・・・あぁ、チョウレンさん」

「・・・カンコウさんにお渡しする物がございます」

そう言うと教徒が袋を持ってきた。中には、天水から帰る時に教徒に任せていた青龍円月刀と蛇矛があった。

一日、また一日と教徒が山伝いに運んで来てくれていたのだった。

「おお、これさえあれば百人力だ。チョウホウも喜んでいるであろう。助かりました」


その後もカンコウとキョウイはコウメイの墓の横で、何を話すわけもなく佇んでいた。


すると2千騎程の軍が南からやってきた。先頭にはギエンが立っている。

「やい!貴様ら!皆が蜀に帰ったというのに今だ帰らぬとは、やはり謀反を企んでいたな!?」

「何だと」

「お。ふん、見回りに出てみれば良い物を見つけたわ!これがコウメイの墓だな。こんなもの踏み倒してやる!」

「待て!指一本でも墓に触れてみよ!全員を血祭りに上げてやるぞ!」

そう言ってカンコウはギエンの馬の足を薙いだので、ギエンは地に投げ出された。

「おのれ!」


ギエンとカンコウは打ち合いを始めた。

キョウイはカンコウが負けるとも思っていなかったので、後ろの2千騎をどうするかを考えていた。

キョウイの後ろは断崖絶壁である。

(こうなれば・・・丞相に殉じて二人で散るか・・・)

等と考え付いた時だった。

五斗米道の教徒に運ばれ、漢中に保管してあった青龍円月刀は手入れ不足の為か、固い筈の柄の部分が折れてしまった。

カンコウがその鮮やかに宙に舞う刃先に目を取られると、ギエンの槍がカンコウの胸を貫いた。

さらにもう一突きし、勝ち誇った顔でもう一突きするとカンコウはそれを避けギエンの首を絞めた。

ギエンの呻き声が聞こえ、もみ合いになり、やがて絶壁から二人は落ちていった。

「カンコウ!!」

返事も無く、遥か崖の下には動かぬ死体が2つ。

キョウイがそれを見るや、槍を持って2千騎に向かって歩き出した。

その恐ろしい程の殺気を見て、大将を失った騎馬隊は馬を返して去っていった。

キョウイはそこでコウメイの墓石に持たれ、声も無く泣いた。

天下に轟く名刀。カユウを斬りテンイを裂いた至上の武器は悲しげに2つに別れていた。



蜀ではリュウゼンにコウメイの遺書が届けられた。

さすがのリュウゼンもコウメイの心遣いと想いに打たれ、元々が憎しみに執着する人間でも無かったので、

誰にも何の罰も与えなかった。

コウメイの右腕としていたキョウイも漢中の守りを任せ、鎮北将軍を任命しただけであった。


だが、以後もリュウゼンは変わらず、胡散臭い占い師を呼んだ所、

「蜀の安泰は約束されている。ひたすら、楽しまれよ」

という事を言われ、リュウゼンはコウコウとやりたい放題に遊び尽くした。


魏の帝、ソウエイは西の脅威が去った事で大いに喜んだ。

それからは、まだ33歳だというのに不老不死に執着したが、その後僅か2年、35歳で死んだ。

これを継いだのが長子のソウホウ。若干8歳であり、遺言でシバイの補佐により政治が行われた。

実質的な支配権がシバイに移るが、2年で病死。

その息子であるシバシ・シバショウが、大将軍・丞相となり、魏を治めていった。


また、呉では内乱が起こった。

ソンケンの長子が死んだため、跡継ぎを巡っての女・文官の争いである。

これを忌み嫌い、リクソンはソンケンにこの争いをやめるように進言したが、これがソンケンの勘に触り

遠ざけられた。トウシやリケイをして、リュウビの如き人徳・コウメイの如くの知恵者リクソンは

その遠ざけられたまま、呉に覇権をもたらさぬままに62歳でこの世を去った。

その後の都督を継いだのがショカツカクであり、キョウイもその頃には蜀の大将軍の地位にいた為、よしみを通じ

同時に魏に攻め入ろうとした。だが、ショカツカクの傲慢な態度を気に入らない呉の将により謀反に合い

あっけなくショカツカクは死に、共同戦線も消えうせた。


コウメイの墓を立ててから20年。

キョウイは5万の軍勢を持って北伐を開始したが、長年の平和な生活で兵の気は衰え、

また、桟橋も朽ち果てたことで兵糧も運べず、結局はコウメイが涙を呑んだ地の利の限界を知るだけだった。

それからは平和な日々が続いた。


キョウイとリケイに子は無く、かわりにカンペイとシュウレイの息子であるカンチュウと、

コウメイの子、ショカツセンの二人に目を掛けていた。

また、リュウゼンの第5子、リュウジンが、何故かリュウビやチョウヒを祖父として恥じぬ志を持っており、

リュウシン、ショカツセン、カンチュウが3人で国を考えるようになった。

3人はキョウイとリケイの屋敷によく訪れた。

「大将軍。我らが蜀はこのままでよいのでしょうか?」

「もし魏が攻めてきたら、一日で落ちてしまうと思うのですが」

「大将軍としてのお考えをお聞かせ下さい」

キョウイはこの3人を細い目で見ていたが、朝廷の話になると

「侫臣は除くべきです!」という話だけになる。侫臣、つまりコウコウの事である。(いらないやつ的な意味)

だが、この蜀が頼みとする志ある者が、直接、名前で呼べない・・・・

この事自体が既に限界であり、コウコウを斬ったとしても、帝が代わらなければ何も変わらない。

蜀の敵が、誰でもなくその蜀を治める帝その者であるのだ。


「よいか、皆、我等は我等の勤めをするだけだ」

こう言うのが精一杯であった。

この3人にも家族がいたので、無理な事はさせられなかった・・・。


やがて3人の心配する出来事があった。

シバシが病死しシバショウが魏で全支配権を握るようになると、ショウカイ・トウガイという二人の将に蜀討伐を命じた。

それぞれ10万ずつの兵を持ち、北の守りの要である漢中をついに落とした。

それでもキョウイは逃げ切り、剣閣まで下がり必死の防戦を見せた。

数の上ではショウカイの軍が圧倒的に有利であったが、山峡という地の利を活かしたキョウイの策により持ちこたえ続けた。

一方、トウガイはそのキョウイの奮戦を聞き、別の道から成都に攻め入る事を考えた。

山道を渡り、一気に成都まで押し通る。


だが、これは道と呼べるようなものでは無く、次々とトウガイの軍勢は足を滑らせ、その数は減っていった。

トウガイはこの戦に息子のトウチュウを連れていた。

「父上、これでは無理です!引き返しましょう」

「馬鹿を言うな!ここまでやってきたのだ。もはや死んだ兵の為にも成都を落とすまでは帰らん!!」

決死のトウガイの進軍は無謀そのものであった。

だが、それでも進み続け、やがて断崖絶壁にたどり着いた。

成都も近くに捕らえたが、もの凄い落差の崖であり、進むのは不可能であった。

だがトウガイは叫んだ。

「皆、これを降りれば成都もすぐそこだ!!!生きて会おうぞ!!!」

そう言うとトウガイは布をまとい、崖を転がっていった。

魏の兵もトウガイの温かい情に触れており、逃げ出す者もなく全員が飛び降りた。

途中で頭を打ち、血を噴出しながら死体となって降りてくる者。

五体がバラバラになって降りてくる者。

トウガイは何とか命はあった。息子も地面から起きようとしている。

だが、死んだ者も多く、10万人で山を登り始めたが、その崖に下にいたのは2万人にも満たなかった。

トウガイはそこで生き残った者、全員の肩を抱いて喜んだ。

「死んだ者の為にも、突き進むのだ!」


これを聞いた成都は慌てた。

リュウゼンは占いを信じて、ひたすらに女を囲い楽しみ続けた。コウコウは慌てて右に左にうろつき始めた。

また、それを聞きつけたショカツセンが息子のショカツショウと共に応戦した。

ショカツセン軍は僅か2千。

センの軍も奮闘したが圧倒的な数の違いから、成す術も無く一人、また一人と死んでいく。

やがてセンは息子ショウの死体を発見した。戦中であったが、それを見て棒立ちになり、後ろから胸を刺し貫かれた。

それでもセンは体を引きずりショウへと手を伸ばす。だがその手と手は触れ合う事無く、息絶えた。

やがてセン軍を皆殺しにしたトウガイは、その親子の様を見て、手と手をくっつけてやり祈った。


「ショカツセン親子が敗れました!トウガイ軍がこちらに向けて進んできます!」

「何でだ!ちゃんと遊んでいたのに!嘘付き占い師め!くっそう!」

「陛下、こうなれば降参しましょう。それが蜀の為です!」

「そうだな!良く言ってくれた!妙案だぞ!」

この哀れなやりとりと横で聞いたリュウシンは自宅へ向かった。


自宅では妻と、子が3人がおり、怯えていたが、先帝(リュウビ)の絵を見て

「この非礼は死んでお詫びをします!!!」

と叫ぶと、妻を殺し二人の子を殺し、残る子も

「死にたくありません!!」と震えながらに泣き叫んだが、リュウシンは涙ながらにこれも一突き。

その死体を見て涙を流し笑いながら、自分の首を貫いた。


やがてトウガイが成都の朝廷の前まで進軍すると、リュウゼンは両手を縛り、コウコウに押されて前に出た。

「降参致します」

隣のコウコウは

「この降参は私が勧めたのです。もはや手向かいは致しません」

と、平伏したが、

「蜀の蛆虫であるコウコウとは貴様か」

とトウガイはコウコウの5体を切り離した。


こうして成都は魏に落ちた。

キョウイも剣閣で僅かな手兵と奮闘していたが、それを戦っていたショウカイから聞くと剣を投げ出し降状した。


リュウビがコウメイの説得により建国した蜀は40年あまりで滅んだ。


蜀を取り込んだ魏は巨大な力を持ち、それは呉に向けられる。

この頃、魏の支配者だったシバショウも死に、その子であるシバエンが跡を継いだが、ソウホウから帝位を奪い、

国号を晋とした。


その晋が呉へ兵を出すと、多少の応戦もあったが、朝廷内の跡目争いは耐える事無く続き、あっけなく滅んだ。


こうして三国時代は終わりを向かえた。




この少し前、蜀が滅んだ直後、成都で降参したリュウゼンの一族は洛陽に呼ばれており、シバショウの持て成しを受けていた。

元蜀の官は国が滅んでしまった悲しさで溢れ、酒の席で涙を零す者もいたが、リュウゼンは踊り子を見て酒を飲んでいた。

それを見てシバショウが、リュウゼンに語りかけた。

「リュウゼン殿。蜀がお懐かしゅうござろうの」

「あ、いえいえ。お持て成しが楽しく忘れていました。あはははは」

「・・・だが、蜀にはリュウビ殿の霊廟があるでしょう」

「ん、そういえばそうでしたな。あはははは」

これに、リュウゼン以外の魏・元蜀の全員が凍りついた。


シバショウは隣の側近に話した。

「こんな奴が帝だったとは。これではキョウイは元よりコウメイが居たとしても国を全うする事など出来ないだろう。

こいつは適当に飼い殺しておけ」

そう言うと、案楽公の爵位を与えた。何の実権も無い名前だけの爵位である。


リュウビがカンウとチョウヒと誓いを結び蜀の基盤を作り上げ、コウメイが心血を注ぎ、チョウウンが駆け抜け

カンペイが、コウチュウが、バチョウが、チョウホウが、カンコウが、さらにはビケイまでもが命を掛けて守ってきたものが

案 楽 公 の揶揄を用いた3文字を持って終わったのである。


これを伝え聞いたキョウイは天を仰ぎ、リケイは身も世も無く泣き続けた。



キョウイは蜀で最後まで戦った武将であったが、その力と人徳と知恵に敬意を表し、魏の将として迎えられていた。

キョウイ62歳。リケイ60歳。

リケイと共に漢中の屋敷に住んでいたが、カンチュウを呼んだ。

カンチュウは官には付かず、学者として生きていた。

カンウとカンペイが死んだ頃は赤子であったが、この時47歳。

キョウイからコウメイの書いた24冊の本を渡された。

「兵はキ道なり、というが、コウメイ先生は兵は常道なりと言っている」

「常道・・・ですか」

「カンチュウ殿の学問とは畑違いかもしれんが、その常道を突き詰めていくと、人の心理に辿り着くような気がする」

「兵は常道・・・」

「政は覇道を持って行なうが、それ故のキ道だ。だが、政を王道を持って行なえば常道に達する」

「戦をせず、畑に向かう事が、人のあるべき姿だと・・・」

「コウメイ先生もそう言っていたし、リュウビ先生もそうだったという。それを行なっていたのはこのリケイの祖父だ」

「王道・・・」

「まぁ、時間がある時にでも読んでくれ。明日、私達は出かける。何しろ二人ともこの年だ、何があるか分からん」

「はぁ・・・お気をつけて」

その後はキョウイとリケイ、カンチュウで飲み語らった。

普段は大人しいリケイも声を上げて笑っていた。



翌日、コウメイの墓の隣には遺体が2つ並んだ。


長い長い中国の歴史の中で、三国の時代は僅か30年あまり。

三国と言わずとも黄巾の乱から呉の滅亡まででも100年あまり。

この長い歴史の中では、一時の夢だったかのような。一吹きの風のような時代の話でございました。



終わりwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

キョウイが成都の門を抜けようと馬を進めていると、そこにリケイが馬を連れて立っていた。

「おや、リケイ殿。どうされました」

「はい、丞相様よりここでキョウイ様を待ち、共に行けと言われておりました」

「そうでしたか・・・。これは長旅になりますが・・・」

「伺っております」

「これはどこへ行くのか、またその後どうなるかは・・」

「伺っております」

「死ぬかもしれないのですよ?」

「覚悟は出来ています」

「でしたら、一緒に参りましょうか。これから先は私一人で行くよりも二人の方が怪しまれずに済むでしょう」

門を出てからは無言が続いたが、キョウイが笑いながら話しかけた。

「これは、外から見たらどのように見られますかな」

「・・・」

キョウイは気を楽にしてもらいたくて声を掛けたがリケイは頬を真っ赤に染め、答えられなかった。


やがてキョウイがリケイに近寄った。

「リケイ殿、馬の足を速めてあの木の下までいったら降りて私の方から木に登って下さい。追っ手が来ています」

そう言うとキョウイも馬を飛ばした。

木の麓に付き、リケイはキョウイのしゃがんだ肩に乗り、枝に取り付くとリケイは登っていった。

後ろから10騎の蜀兵が着いてきていた。

「何者だお前達は!私達は何も追われる覚えは無いぞ!!」

だが、10騎の兵は何も言わずに剣を抜いていた。キョウイも馬から剣を抜き、リケイの安全を確かめると切り掛かっていった。

ただの兵であったのでキョウイには叶うはずも無く、一人残らず切り殺した。

だがリケイはその光景を見て、気を失い木から落ちた。



「奴婢はいらんかね~」

街中をリケイは首かせを付けられ、4人の女と歩いていた。全員の首かせが鎖で繋がっている。

「奴婢はいらんかね~」

「婢をくれ!いくらじゃ」

「5匹まとめて絹一束じゃ」

「買ったわい!」

新たな主人に買われ5人は歩いたが、リケイの前の女が倒れこんだ。もうしばらく何も食わずにいたのだ。

「ええい!この足手纏いめ!」

そう言うと主人の剣が前の女の首を刎ねた。


そこでリケイは体を震わせて覚醒した。

「ああ、良かった。気が付きましたね」

「あ・・・私は」

「木の上から落ちました。何とか間に合って私の体で止めましたので大怪我は無いと思いますが、勝手に調べる事は出来ず

ただ、待っておりました」

キョウイは火を起こし、肉をあぶっていた。

「どこか痛みますか?」

「背中と太ももが・・・」

「太ももは自分で見られましょう。背中を出して下さい」

リケイは身を硬くして背中を出した。

「あぁ、だいぶ擦れています・・・が、大事ないでしょう。薬を塗っておきます」


リケイは心臓が飛び出さんばかりであった。その心臓の音が背中に伝わっていないか・・・それだけが気になった。

その後、夜露を避ける為に山穴に移動し、火を背にしてキョウイは表に座った。

リケイはその背中を見て、このまま何があろうとも拒まないだろう自分を妄想して眠りに付いた。


コウメイからの指示は、呉のリクソンと兄のショカツキンを表敬訪問し、極東から北へ上り、北平へ行けとの指示だった。

呉。荊州にいるリクソンは、コウメイからの手紙を読むと二人を自室に招き語り合った。

「コウメイ殿はあなたを後継者として迎えたいようですね」

「はぁ」

「私も早く見つけたいものだ」

「はぁ」

他愛も無い会話だったが、リクソンの人柄が分かり、戦の話となると黙り込む。だがそれはあらゆる事に頭を巡らせている

ような顔つきで、敵にした時は恐ろしい男になろう・・・とキョウイは感じた。リケイも

「まるで先帝とお話しているかのような優しい方でした」と話していた。

その後の旅路は支障の無いようにリクソンが通行手形を出してくれたので、旅は捗った。

ショカツキンにも会ったが、

「私ももう年だ、私よりも私の息子と話すと良い」

と、息子のショカツカク(諸葛恪)を紹介された。

頭の回転が速く、知識も豊富であり、同盟国の未来の将としては頼もしかったが、それに奢る部分も見受けられ、

バショクを思い出さずにはいられなかった。


その後は呉を抜け、魏に入る。

特別、追われるような事は無かったが、カヒ城のあたりで役人に止められた。

「おい、待て待て、どこへいくのだ」

「は・・・」

キョウイが何とかやりぬけようと考えているとリケイが答えた。

「北へ向かっています。幽州にはロショク先生のお屋敷があると聞き、それを拝見したく旅をしています」

キョウイは北と聞いた時、北平の名を出してしまうのではないかと驚いたがそうではなかった。

「ぬう?見てどうするんだ」

「あら、見て思いを馳せこの目に焼き付けるのです。その後も許昌の銅雀台とか、徐州の深い山にも興味があります。

それに都にも行ってみたいのです。何しろ・・・」

とリケイが言葉を並べると役人は煙に巻かれたように

「あぁ!よいよい!行ってこられよ!しかし、お主らのように若い夫婦が旅をするというのも良いものだな!」

「あ・・・はい・・・」

とリケイは顔を真っ赤にした。


その後は関所も無く、馬の足も速かった。

だがキョウイの胸は北平に近づくに連れ、重くなっていった。



成都ではコウメイが朝廷内に篭り、全ての内政を行い、懲罰20棒の軽いものまで全てを取り仕切った。

それこそ寝る間も無く、書類に追われていたが、お陰で影から噂をされる事も無くなり、再び蜀兵の士気も上がっていった。

だが、カンコウやゴハンはその寝ずに働くコウメイを見て心配になっていた。



やがて北平に入ったキョウイは突然に足を止めた。

「リケイ殿・・・少し相談があるのですが・・・」

「はい」

「今回、私達はここまで来てしまいましたが、丞相は当初、これを反対されておりました」

「え・・・」

「ここで劉協様をお連れして、蜀の帝となれば陛下を座から降ろす事になり、簒奪・内乱になると」

「・・・」

「それなのに、どうして急にこれを依頼されたのかが謎なのです・・・」

「ううん・・・」

「これを命じられる前に丞相は、ゴイ殿から影の噂を聞き、憤慨しておりました・・・。そのコウコウや陛下への仕返し

でしょうか・・・」

「いや、丞相様はそのように心の狭い方では無いと思うのですが・・・」

「私もそう思う・・・。だからこそ謎なのです・・・」

答え等見つかる筈もなく、二人して黙々と馬を進めたが、やがて行在所に着いた。


キョウイはどうやって入り込んだものかと思案していたが、リケイは悩んだキョウイを見て一人行在所へ入っていった。

「ん、誰だ?ここに何の用だ?」

「はい、私は蜀の先帝、リュウビの娘でリケイと申します」

キョウイは愕然とした。あろうことか、敵地でこれを名乗ったのである。

だが、考えてみれば劉協を保護している者なので、元は漢朝の重臣であるだろう事は予想出来たし、リケイの思い切りに

感動していた。

「む・・・しばし待たれよ」

そう言うと門兵は中に行ったが、すぐに出てきた。

「劉協様は、喜んでおった、すぐに入るがいい」

そう言って案内された。


屋敷には劉協がいた。ソウヒに簒奪された頃は生きる希望も無く病のような体であったが、

ここで英気を養い、元の気品も取り戻していた。

「そなたはリュウビの娘とな」

「・・・はい」

「確か、以前、皇叔が都にいた時にビケイという者と来ておったが、その娘かの?」

「いえ、違います・・・」

「そうかそうか・・・。だが遠い所を良く来てくれた。その後の皇叔について知っておる事等を聞かせてくれ」


劉協の周りには敵か味方か分からぬ者もいたので他愛の無い話だけをし、その日は帰った。帰り際に劉協が

「今日は楽しかった。また明日でも来てくれ」と言ったので、改めて伺うと、リュウキョウは

畑に出ていた。キョウイがそれを見て畑に向かい、リケイもお茶を用意して待った。

畑は目が届くので警備も無く、これはチャンスだとキョウイは近づいた。

「先帝も畑に向かうのが好きでした」

「そうであろう。私も皇叔を見て畑を始めたのじゃ。これは面白い。私はこうして初めて菜がこんなに旨いかと知った」

「劉協様・・・」

「ん・・・」

「実は私達が来たのは、蜀にお連れする為であります」

「・・・」

「これも先帝の願いでありました。どうか、蜀を照らす太陽となって頂きたいのです」

「・・・」

劉協は聞いていたが答える事はなく、やがて空を仰いで口を開いた。

「皇叔の意思がこうして生きてくれているだけで嬉しい。昔、私が血判状を書いた時の指の傷もまだ癒えぬ。

だが露見し、全ては終わったのだ。それに、あの帝の席というモノは重い。毎日、誰が敵か味方かも分からず、

毎日、命を狙われるのだ・・・。それに負ければ一族は皆殺しにされる・・・。私はもうあのような針の筵には

座りたくない・・・」

「ですが、蜀では劉協様を・・・」

「いや、やめてくれ・・・。もう官には関わりたくないのだ・・・。分かってくれ・・・」

キョウイはその劉協の涙を見て、2度と話す事は出来なかった。

その後はリケイも交え、再び他愛の無い会話をすると、行在所を後にした。


「これで簒奪騒動や、内乱は防げたが・・・・蜀はどうなってしまうのか・・・」

キョウイが真剣な面持ちでそれを口からこぼすとリケイは啜り泣き、二人は帰路に着いた。


二人が成都に付いたのは春になる頃。およそ1年あまりをかけての長い旅であった。

キョウイが朝廷内を歩くと、敵とも味方とも分からぬ輩に

「だいぶ、遠くまで行って来たようだの」等と声を掛けられた。だが、朝廷内は以前のような辛気臭さは無く、

生き生きとした空気も感じ取れた。

キョウイがコウメイに報告すると、

「そうでしたか、お疲れでしょうからゆっくり休んで下さい」

とだけ言われた。


その日はゆっくりと休んで翌日、陽も出ぬ内から朝廷に行ってみると既にコウメイは事務を行っていた。

その詰まれた書類の山にも驚いたが、コウメイの顔を見て驚いた。信じられない程やつれているのだった。

「丞相、そんなに根を詰めてはお体に触ります」

「いえ、大丈夫です。戦ばかりしてきたのでこうして机に向かう事の面白さを感じているのです」

「は・・・・」


コウメイはずっと空咳が止まっていなかった。また時折、その覆う手に血がついているのも見た。

だが、そのコウメイの様子を見てリュウゼンやコウコウの疑心も薄れ、兵の士気も高まっているのを見て安心した。

それでもコウメイを放っておけず、

「丞相、今年の夏は暑くなります・・・。お気をつけ下さい」

と危惧していたが、それは違う方面に当たっていた。

キョウイの母が、外で畑に向かっている時に倒れたのだった。


やがてキョウイの母は目を覚ました。

「おお・・・ハク・・・。私はどうしたのでしょう」

「はい、畑で倒れている所を発見され、それ以来、3日も寝ておりました」

「3日も!・・・それでは畑の草も伸びきってしまっているでしょうね・・・」

「いえ、畑の管理は私と・・・その・・・リケイで行いまして、雑草一つありません」

「リケイ殿が・・・」

「はい。今でも畑におります。また、母上の看病も寝ずに行ってくれていました。私の・・・・肉親でも及ばぬ

心遣いでありました。見せ掛けで出来る事ではありません」

「おお・・・リケイ殿が・・・・」

目を瞑ってしばらく休んでいたが、何かを考えているようだった。やがてキョウイの母は叫んだ。

「リケイ殿をここに呼んでくだされ!私はお詫びをしなければいけません!かつて奴婢であったと、跳ね返してしまい

ましたが、それを詫びなければ!ハクを宜しく頼むと伝えなければ!!!!早く!早く!!」

その尋常で無い様子にキョウイは心配を感じたが、裏に行ってリケイを呼んだ。が、キョウイの母は目を開けなかった。

「母上!」

「お母様!」

二人に手を取られてキョウイの母は永眠した。


喪も明けると二人はコウメイの計らいで式を挙げた。

この頃、カンコウとシュホウに女の子が生まれた。


戦も無く、平和な時であった。

ただ、コウメイの空咳は続いていた。




年が明けても蜀は平穏であった。

だが、急に変な噂が流れ出ていた。

(リュウゼンが帝位を降りるらしい・・・)


どこから出たのか分からないが、蜀全体に広まっていた。


「くそ!なんでこんな噂が流れているんだ!誰が降りるものか!」

「はい、陛下を置いて他の誰にもこの蜀は納められません!!」

リュウゼンとコウコウは必死になっていた。


そんな折、コウメイが再び北伐の兵を挙げた。

コウメイが表を持ってリュウゼンの前に出た。

「しばらく兵を養いその数も増え、士気も上がり、今年は豊作でございます。今こそ亡き先帝の悲願を

達成するため、コウメイ、命を掛けて魏を打ち倒して参ります」

「ん・・・むう。所で俺の帝位返上の噂はコウメイが出したと皆言っておるが・・・」

「はて」

「去年のキョウイの旅もその為だと皆言っておる」

「それでしたら、その時に噂は広まっておりましょう」

「そ、それもそうだな。とにかく俺はお前を信用しているぞ」

「は、陛下が先帝の意思を継がんとする限り、コウメイはその信頼に答えます」

リュウゼンも先帝(父)の名を出されると弱く、また出兵中であれば、帝位返上も無いかと、北伐を許した。


兵数も10万と過去最大級の軍であったが、キョウイは進軍中に浮かぬ顔をしていた。カンコウがそれを見て

「キョウイ、どうしたのだ」

「あ、いや。ただの考え事だ」

「そういえば奥方は元気か」

「あぁ。兄貴分のカンコウの所に顔も出さず済まない。ところでカンコウも子が生まれたというではないか」

「あぁ。女の子だ。戦の役には立たんが可愛いものだ。お前は男の子を作って俺のを貰ってくれ」

「そうだな」

と二人は笑いあった。

だが、キョウイの不安は的中した。漢中の広い高原で兵を止め布陣をしたが・・・・

「おい、キョウイ!この布陣はおかしくないか?」

「あぁ。私もそれを考えていた」

「これでは、ただの平面勝負だ・・・」

「丞相に聞いてみよう」

と、二人でコウメイの元へいくと、

「ははは。さすがは二人だ。もはや私がいなくても蜀は守れるでしょう」

「はぁ」

「ですが、これはただの平面勝負ではありません。今、五斗米道の教徒達が山伝いに後方撹乱に向かっています。

そうしてシバイの軍が背を見せた時に、この10万を3隊に分け一気に追い込み、火計を持って打ち破ります」

「なんと、そうでしたか」


だが、この頃蜀に悲報が届いた。

「劉協死す」

この話を聞いて蜀の民は落ち込み、リュウゼンとコウコウは両手を挙げて喜んだ。

「何が帝位返上だ!!これで蜀の雑草1本まで俺のものだ!」

「おめでとうございます陛下!コウメイも呼び戻しなされ!費用の無駄です!」

「おお、呼ばぬで何とするか!コウメイの官を這いで奴隷にしてやるわ!コウコウ、お前の家来でもいいのう!」

すぐに、使者を出した。


蜀軍は、五斗米道の教徒の撹乱に乗じて一気に攻め上がり、南安・街亭を落とし、天水も落とし、五丈原にまで

攻め上った。安定まで行く事も考えたが、兵数に余裕が無いので、このまま五丈原を落とし、ビ城を落とし

長安まで落とす作戦だった。

魏のシバイも奮戦したが、あらゆる間者が五斗米道教徒に遮られ、シバイ本体しかまともに動けぬ状態だった。

シバイ軍は五丈原の城で篭城した。


「丞相!やったのう!ついにここまで来たのう!」

「はい。あと2つの城を落とせば長安まで一本道です」

ゴハンは嬉しさで涙ぐんでいた。

だがそこに、成都からの使者が来た。

「勅使である!今すぐ兵を成都に戻せ!」

「何だと!!!」

「劉協は死んだぞ!もう兵も馬も全てリュウゼン様のものだ!さっさと戻れ!」

「だまれ!このやろう!!!俺達が何の為にここまで来たと思ってやがる!!蜀の安泰のためだぞ!!それを!!」

ゴハンも食い下がったが、コウメイはそれを制した。コウメイは珍しく大声で

「ゴハン将軍!下がるのです!もう引くしかないのです。詔を謹んでお受けします!」

と、受け取り、使者は悠々と帰っていった。


だが、その後すぐにゴハン・カンコウ・キョウイを陣の裏に呼んだ。

「まったく!コウメイ殿は何と言うことを!」

「ははは。すみません。ですが・・・将は外にあっては君命を受けずとも戦う」

「なんと!」

「これはまさに誰のためでも無い、蜀の為です。もうこうなれば蜀に帰っても無駄だと思います。リュウゼン殿に信を

説いても私の力ではどうにもなりません。であれば、心行くまで戦って、未来の蜀の為に長安を土産に持って帰りましょう」

「よく言ってくれた!!ワシも蜀で育ちとっくに死ぬ覚悟も出来ているのだ!」

「先ほど、表で大声で詔を受けましたので、シバイの間者にも伝わっているでしょう。ここで引いたフリを

しながら、シバイに追わせ、谷に誘い込んで、また火計によってシバイ軍を粉砕します」

「なるほど・・・だが、さっき使者には帰ると言ったのだ。いつまでも兵を引かんと、成都からギエンが攻めてこないか?」

「そうですね・・・」

「あいや、分かった。カンコウ・キョウイ、ちょっと来てくれ」

ゴハンは二人を連れて使者を追った。かと思えばゴハンは使者隊5人を皆殺しにした。

すると馬を降りて山を掘り始めた。

「ほれ、カンコウ、キョウイ手伝ってくれ!」

「はは・・・」

と鍬を持ち彫り始めた。

「まだかカンコウ」

「いや、これは疲れます・・・敵を百人斬ったほうがまだ楽です」

「そうであろうな!どれ、急ぐぞ」

そう言うと使者と馬具を穴に生め、裸馬を四方に散らした。



「コウメイ撤退」

この報告を聞いたシバイは

「コウメイ・・・暗愚な君主に取り付かれるとは、哀れみを覚えるぞ・・・」

「父上、この隙に追い討ちを掛けましょう!やられっぱなしでは気が治まりません!」

と長子シバシが進言した。

「いや、待て。きっとコウメイはそれも考えているであろう・・・。きっと伏兵を用意するはずだ。見ておれ、

帰りがてらの陣で釜戸の数は増えるであろう」

「増える?帰りであれば減るのではないですか?」

「いや、そこがコウメイの強いところだ。追ってきてもただでは済まさんぞとばかりにな」

事実、シバイが子二人と共に軍を率いて追ったが、陣の釜戸は増えていくばかりだった。

「ほれみろ。次の陣はもっと増えているぞ」

そうして五丈原も出るかというあたりの陣では釜戸から煙が出ていた。

「お、とうとうここまでは来ないかと急いで逃げたようじゃの。見てみろ、旗や武具や米が散らかっておるわ」

「父上、頂いてしまいましょう。これで先日やられた兵の家族に報いてやれます」

「そうだな」

すると、魏の物見がやってきた。

「ここより東の隠れた谷に多くの馬車が放置されています。中には多くの兵糧がありました」

「むう!五丈原は魏の領土だというのにコウメイめ、よく知っておるわ・・・。根こそぎ奪ってやれ!」

そう言ってシバイは全軍で蜀の残していった馬車を荒らしていった。

シバイが中を確認すると、綺麗な米が詰まっており満足気な顔をした。

と、隣の荷台を除いてみれば、枯葉が詰まっている。

「ん!」

次の荷台も、次の荷台も慌てて捲ったが枯葉だらけで、やがて火薬の匂いに気付いた。

「しまった!計られたぞ!!!皆!逃げよ!!!!」

そうシバイが号令をかけた直後、谷の唯一の出入り口が落石によって封じられた。

その後谷の上から蜀兵が弓を番え、火矢を放った。

矢は荷台に刺さり瞬時に爆発し燃え移り、馬が驚いて駆け回ればさらに枯葉が散乱し火が燃え移る。

やがて炎が風を呼び、谷が炎の坩堝と化した。

コウメイはそれを見ていた。

「父上!父上ー!」

シバイ親子も懸命に火を剣で払うが、払いきれずシバイの軍勢は次々と焼かれていった。

コウメイはほっとした。

魏の知将、シバイ。五路の軍から始まり、度々北伐で出会い、何度と無くぶつかりあい、その知略は

恐るべきであった。が、それも今、炎に焼かれ死のうとしている・・・。


キョウイもコウメイの隣にやってきた。

「ついにやりましたね・・・」

「あぁ。これで長安までの道も開かれた」


だが、全てを焼くかと思われたが、空に稲妻が走り炎にぶつかったかと思うと、突如大雨が降ってきた。

火という火と消し、底の深い谷も一瞬にして池になるのではないかと思うほど降った。

シバイの軍は殆どが焼け死に、残ったのは守られたシバイ親子と兵が二人だけだった。

それも大雨によって崩れた岩の隙間から懸命によじ登り脱出していった。


コウメイはそれを見て倒れこんだ。

起き上がる事も出来なかった。それをキョウイが抱え木陰に逃げた。

「雨はお体に触ります・・・」

「・・・」

「どうか気をしっかり・・・」

「キョウイ・・・」

「は・・・」

「事は決した」

「・・・」

「事を謀るは人にある」

「・・・」

「だが事を成すは天にある」


コウメイの顔から生気は失われた。

蜀の兵も泣いているのか・・・雨が全てを流していた。

コウメイは一人、考えに耽っていた。

ふと、視線を感じて振り向けばキョウイが立っていた。

「おや、キョウイ殿、どうされましたかな」

「は・・・いえ・・・物思いに耽っているようなのでお声を掛けられずにいました」

「・・・チョウホウとカンコウは無事であろうか・・・またバショクは何故こんな事になったのかを考えていた」

「・・・」

「バショクはともかく、あの2人は無事であってほしい・・・」

「・・・丞相はカンコウの出身をご存知ですか?」

「ん・・・カンペイ将軍の親戚なので河東郡あたりかと」

「カンコウは天水の生まれです。そこで父を亡くし母と親戚のカンペイ殿を頼って蜀へ来る途中に、母は餓死しました」

「そうでしたか・・・情報が大事と言いながらそれは知りませんでした。私もまだまだです・・・」

「いえ、私も天水の生まれでしかも同年。酒を飲みながらの話でしたので大した事もありません。ですが、カンコウ程の才覚を

持ってすれば地元の顔見知りを通じ、またあのあたりにも五斗米道の教徒も多くいます。カンコウの助けになり、きっと

無事に戻ってくるでしょう。チョウホウも一緒である事を祈っております。またカンコウを極秘に探してもらえるよう、

五斗米道教祖のチョウレンさんにも頼んでおきました」

コウメイはこのキョウイを細い目で見た。

若いながらも礼節を弁え、チョウウンと互角の戦いをし知恵もある。さらに情も深い。

漢中以北の5城は失ったが、キョウイを得た事はそれを補ってあまりある事と感じていた。

また、後継者たるは誰にするか、答えも決まった。



カンコウは薙刀と蛇矛を握り締め、馬に任せて駆けていた。

朦朧とする意識の中でチョウホウとの思い出が交錯し、やがて極度の疲労から馬上に臥せた。

どれだけ気を失っていたかも分からないが、気がつくと小さな小屋の中で目を覚ました。

目の前には女の子がいてカンコウと目が合うと逃げていった。

「あら、気がつきましたか」

声の方を見るとカンコウと同年齢くらいの女がやってきた。

「ここはどこなのだ」

「天水の外れの、そのまた外れの一軒屋ですよ。今、粥をとろ火にかけてますから召し上がりなさいな」

「あぁ・・・そう言えば腹が減っている」

カンコウは粥を貪り食った。その様子を女の子は女の裏から覗いていた。

「お子か?」

「はい、3つになります」

「俺はどうしてここにいるのだ?」

「昨晩、遅くに表で馬が鳴いておりまして、あまりに悲しい鳴き声だったので覗いてみるとあなた様が馬上に伏せて

おりました。気を失っているのに刀と矛をしっかりと持って。でしたので放ってはおけずに介抱致しました」

「そうであったか。済まなかった。主人はどうしたのだ?」

「死にました」

「なんと・・・」

「この前の戦に友人と一緒に出て行き、蜀軍に破れ・・・。ですが酒飲みの乱暴者だったので、それが天命なのでしょう」

「・・・それでは俺は主人の仇ではないか!」

「そんな。殺し合いをして、仇だの何だのと、切りがありませんよ」

「・・む・・・」

「ところで、まだお気づきになりませんか?ジョコウさん」

「ん、俺が父方の姓を名乗っていたのは5つまでだぞ。何故知っている」

「昔、隣に住んでいたシュホウですよ」

「おお!そうであったのか!確かに言われて見ればシュホウだ!」

「昔、大火事が合った時、私の両親は死にましたがジョコウさんが助けて下さいました。その時、肩にヤケドをされて・・・

鎧を脱がす際にもしやと肩を見れば同じ跡があったので分かりました」

「あれはすごい火事だった・・・」

「それからジョコウさんの母様に良くしてもらって・・・私はジョコウさんのお嫁さんになると思っていたのに、いなくなって

しまうので、毎日泣いてばかりいました・・・」

「そうだったか・・・。父が死んで親戚の家に行く事になったのだ。今では母方のカン性を名乗っている」

「母様はお元気ですか?」

「いや、親戚を尋ねていく道中に餓死してしまった。俺にばかり米をくれていたのだ・・・」

それを聞くとシュホウは泣き出した。子供は困った顔でシュホウを見ていたが、カンコウが手を出すとその腕に抱かれた。

「・・殿方には見知りをするんですが・・・カンコウさんには初めて抱かれました」

そこに、シュホウの知人が尋ねてきた。

その知人は五斗米道の教徒で、カンコウの捜索に出てきたのだった。

そこで出て行く事にしたが、蜀の残党狩りが激しく、カンコウ一人での逃亡は無理だったので、シュホウにお願いをして

親子を装って蜀へと帰る事にした。また、武器は持っていけない為、教徒に預け山伝いに運んでもらう事になった。

シュホウもあの小さな小屋に子を連れて住むのは嫌だったので、そのままカンコウの屋敷に行き、そのまま二人は婚約した。




漢中ではまたもゴハンがコウメイに駆け寄ってきた。

「おいおい!丞相殿!もう兵を抑え切れんぞ!バショクの事じゃ!」

「分かりました」

「ん・・・お・・・なら良いんじゃ!」

コウメイがあまりにも即答したので煙に巻かれたように帰って行った。

いつまでもこれを続けると蜀の滅亡にも繋がりかねない。だが・・・バショクが軍令違反をした証拠もない・・・


やがてバショクに対する会議が始まった。

バショクの表情は重く、武官達は騒いでいる。

「バショクよ、お主には街亭に着いたら低地に布陣し、シバイの軍が来る前に罠を仕掛け、迎え撃つようにと言ったはずだが、

なぜ高地に布陣した」

「決まっていましょう。街亭に着いた時には既にシバイの軍が到着しており、やむなく高地に布陣しました。嘘だと思うなら

私の周囲の者に聞いてくだされ」

「・・・その周囲の者の殆どが死に、行方不明になっているのを知らぬわけではあるまい!?」

「証拠も無しにそのような事を言わないで頂きたい」

バショクは胸を張ってコウメイの質問に答えていた。以降は静かな空気が流れたが、

「護衛士将軍カンコウ、只今戻りました!」

「おおお」

コウメイは飛び上がらんばかりに喜んだ。

「カンコウ、無事であったか!チョウホウはどうした?」

「はい、こやつの背中に取り付いております」とバショクを指差した。

「やい、バショク!何が先にシバイの軍がいただ!シバイの軍が来たのはお前が高地に布陣して2日も後の事だぞ!!

その言い草・・・天水の山奥に行ってみろ!!今でも多くの者が岩の下敷きになり累々と血の川を流し、カラスに抓まれながらも

お前を恨んでいるぞ!!チョウホウも今頃白骨となっているだろう!お前がどう言い逃れしようと、俺はお前を斬る!!」

「・・・」

バショクは青ざめ、武官達ははやし立てた。

「武門の恥さらしめ!」「恥を知れ!」

コウメイはバショクに言った。

「もはや、言い逃れはするな。馬家5兄弟の名が泣くぞ。お前の家族は私が良きに計らう」

そう言われるとバショクは地面に頭を付け大泣きした。

やがて、引きづられていき、首だけになって帰ってきた。


コウメイは自室で泣いていた。リュウビの最後に、バショクは信じられぬと言われたが、その才が捨てがたい為に重用し、

そしてそれが大敗戦を産んだ。キョウイが来る前は自身の後継者たる者と思って目を掛けていただけに悲しみは深かった。

涙も止まり、振り返るとそこにはキョウイが控えていた。取り直して

「はは、斬って置いて泣く事も無いだろうと・・・思われましょうな」

「は・・・・いえ・・・・」

そう言うとキョウイは明かりを付け、出て行った。


そんな頃、疲れを癒していたシバイの軍が南下を始めたとの知らせが入った。

数は10万。蜀には漢中に2万。圧倒的に戦力差があった。

コウメイはフ城周辺からも兵を絞り取り、なんとか3万を持って迎え撃つが、そこは広大な平地。

策の施しようも無く、日一日と押されていった。

さらに、成都からの噂が流れていた。


成都ではリュウゼンが女の尻を追い掛け回し、南蛮との付き合いも始まった事から、南蛮の踊り子を呼び出しては

踊りを堪能し、そのまま寝室まで連れて行った。これが連日行われ、周囲の文官も呆れ果てたが、コウコウという男が

仕官してきてからはさらに、その行為に拍車を掛けていった。コウコウはリュウゼンよりも5歳年上で、知恵もあり

遊びも心得ているので、リュウゼンの愚かな心をバッチリ掴み、地位を上げていった。

さらにリケイにまで手を出そうと、コウコウが学童にまで出向いたが、ゴケイの一喝により事無きを得た。


その話が、蜀の領域を奪われる・・・それどころか蜀が滅ぶのではないかという魏のシバイの進軍を抑えている

最前線にまで広がっている。

士気も下がり続け、コウメイも観念した。だが、異変に気付き、キョウイが慌てた。

「シバイの軍の押す力が弱くなっている気がします!」

「あぁ・・・我が方の力が強くなったわけでもないだろうに・・・」


その時、コウメイの頭にはリクソンが浮かんだ。

事実、リクソンは蜀の危機を知ると、すぐに軍をまとめ、荊州から北上、魏へ向かって進軍した。

今の江南の力で魏と対するには力不足なので、蜀の滅亡を防がんが為の進軍であった。

さらに、ソンケンも極東から船と陸路の同時進行で突き進み、カヒの辺りまでを一気に攻め抜いた。

これにより無防備であった東側に兵を送らねばならぬ為、攻めにくい西側の兵は東へと裂かれていったのだった。


やがて漢中では五分の争いとなり、シバイ軍も長旅の疲労により長期戦の不利を悟り、兵を引いていった。

これを見て、コウメイは漢中をバタイ・ヨウギに預け、成都へ引き返していった。


蜀のこの北伐は、有能な将を何名も失い、8万人以上の兵を失う戦となった。


蜀への凱旋。

コウメイの隣にはカンコウとキョウイが並んで帰った。

それを出迎えに行った門にゴケイとリケイもいたが、ゴケイが

「おや、チョウホウ殿の姿が見えません。漢中に残ってらっしゃるのでしょうか?」

とリケイを振り向くと、リケイはカンコウでは無い、もう一人の知らない男に目を奪われていた。

しかもその男はそのリケイに気が付くと微笑みを返したが、リケイはそれを返すのも忘れずっと目で追っていた。

ゴケイはそれに気付き、驚いた。


その後、カンコウがゴケイの屋敷に訪れた。

「これはチョウホウの形見です」と矛を手にしており、ゴケイは愕然とした。

「チョウホウ殿が・・・」

「はい、ですので、私がチョウホウとリケイを争った事は忘れて下さい。私はリケイの兄となります」

「そうですか・・・。リケイも良い兄上がいて幸せでしょう。ですが、改めてリケイの事を考えねば・・・」

「それでしたら、良い相手がおります。私より、丞相殿を挟んで反対にいた男です。名はキョウイ。

私と同じ天水の生まれでしかも同年であります。母1人子1人ですが、非常に強い親子の絆で結ばれている男です。

しかも丞相殿にも目を掛けられています」

「・・・見ました。リケイも夢中になって見ておりました・・・」


ゴケイはその後、飛ぶようにして兄のゴイに仲立ちを頼んだ。


だが、ゴイはしかめっ面で帰ってきた。

「あれはいかん。だめだ!諦めろ!」

「どうしたのですか!」

「リケイは奴婢の生まれだと言うではないか」

「はい。ですが先帝の親友の孫娘ですよ!それにチョウウン将軍だって奴隷から・・・」

「それも言ってやった。だが、いかんという・・・」

「そんな・・・リケイが何をしたというのですか!!」

以前、リュウゼンがリケイに目を付け、コウコウが手足となってゴケイ相手に脅したが、ゴケイはそれを一喝したので

どうせ手に入らぬならと、コウコウがリケイを奴婢であったと言いふらし、あらぬ讒言も掛けたので

キョウイの母の耳にもそれが入ってしまったのだった。

「奴婢だって奴隷だって、汗水たらして奉公をしているのに、報われたっていいじゃありませんか!」

「それはゴケイの理屈だ。また先帝もそうであり、蜀の人もそう思える。だが、あの母は蜀の人間ではない・・・・

先祖と亡き夫に顔向け出来ぬの一点張りじゃ!」

「あぁ・・・・」


それでもリケイは細々とキョウイを思い続けるのであった。



その頃、江南は国を興した。

魏の帝も蜀の帝も暗愚で盆暗であり、唯一覇気を持っているソンケンがただの君主ではおかしいと、文官:チョウショウが

ソンケンを説得したのだった。

こうして江南は国号を呉と改めた。

これを受けて蜀から大量の金銀を送り、同盟をさらに深いものとした。

そうして蜀・呉の連合軍が魏へ攻め上る、との噂が全土に広がっていった。

魏の帝ソウエイは嘆いた。

「なんで奴らは朕の領土を侵そうとするのか・・・。朕からは一度も攻めた事は無いのに・・・」

それを受けてシバイは

「蜀と呉はたがいに滅ぼされては困る為に、薄い利を持って組んでいるだけです。どちらかが滅びそうになれば

必ず我々よりも先に食いつき、魏と拮抗した力を得ようとするでしょう。今は待つ事です」

「むう・・・こうなればお主を鎮西将軍に任命する!」

これを受けたシバイはただちに10万を率いて長安へ向かった。再びコウメイが北上したのだ。

桟橋を渡り、漢中から一気に南安を目指した。

シバイが南安に付くと、蜀兵の姿はどこにも無く、南安は空城の計へと変わっており、シバイ軍は手痛い痛手を負った。

その頃、蜀軍は成都へと帰っていた。これは桟橋を試すためだけの進軍であった。


また、翌年も北伐を開始するが、シバイを伏兵により一泡吹かせると、早々に成都に引き上げた。


だが、この3年連続の北伐に、蜀の朝廷内では不穏な空気が流れていた。

コウコウはリュウゼンに言った。

「陛下、これだけ丞相が軍を出していると、出費が嵩み後宮を取り潰さねばなりません・・・」

「なんだとう!それはいかん!俺の楽しみだぞ!」

「はい、ですが金が・・・」

「知るか!民から金を搾り出せ!」

「そんな事をしては民衆から攻撃されますよ!」

「じゃあどうするのだ!!」

「もう戦をやめさせなされ。これを丞相に言えるのは陛下だけですぞ」

「ううん。でも丞相が頑張ってるのは父上の悲願を・・・」

「そんなものは関係ありません。というのも、今や先帝さんを思っているのはコウメイ他、極僅かです。

陛下の頭を押さえつけるのも先帝さんの遺言でしょう。だったら遺言をまとめたリゲンを斬りなされ!」

「なに!・・・だが、そうしないと女を抱けなくなるのか・・・よし!コウコウ!お前に任せた!丞相を出し抜いてやれ!」

「ははぁ!」


その後もコウメイは再び北伐を進めた。

コウメイが成都にいても、敵視する目が多く、息苦しさとリュウビの時代では考えられない後宮・側室等を見るたびに

心が痛む。その為に外へ出ているようなものだった。

出陣の前夜、カンコウはキョウイの元を訪れた。キョウイは木を削っていた。

「やあ、キョウイ」

「おお、カンコウ」

「お前は工作もするのか」

「はは、器用過ぎて金持ちになれぬ類だ」

「ところで、今回の北伐だが・・・不思議に思わぬか?」

「あぁ、まるで勝てぬ戦をしかけるような・・・」

「ううん、どうしたものかな」

「ゴハン将軍にでも相談してみましょう」

ゴハンは2人を見ると

「お、蜀の未来を背負う若者2人が暗い顔をしてどうした」

「いえ、この今回の遠征は、将も兵も・・・」

それを聞くとゴハンは強引に自分の部屋へ2人を引いていった。

「こういう事は酒でも飲みながら語ろうではないか」

「はぁ、頂きます」

「そういえばカンコウは天水から戦利品を貰って来たそうだの。皆が良く気が付く良い女だと言っておった」

「あ、あぁ。幼馴染でして気が置けないだけの間です」

「役所には届けておけよ。後が可愛そうじゃ」

「はい」

「キョウイも、母の孝養と、愛とに挟まれて大変だのう」

「・・は」

「聞けばリケイは5年も、いやあれから3年なので、8年間もこのキョウイを待っているのです」

「いじらしいのう」

「私は・・・兄として許せません。コウコウを斬ります!」

「やめやめい!お前の命とあんな奴の命は引き換えに出来ん。何より、馬鹿殿が変わらねば、すぐに第2、第3のコウコウが

出てくるだけだ・・・」

「・・・」

「せめて、劉協様が居てくれれば、あんな馬鹿殿に帝をやらせずに済むのだがのう・・・どこにいるのか・・・」

「・・・」

「私、劉協様の居場所を知っております・・・」

「なんだとう!!」

「私は、天水に仕官する前、諸国を旅していました。北平の方へいった時、行在所を発見し、お姿も見ています」

「それは・・・今すぐお連れしよう!!」

「いやまて、カンコウ、こんな大事な話だ・・・丞相に相談しよう」

3人はコウメイの元へ向かった。事情を話すと、コウメイは黙って聞いていたが、

「そうですか、ですが、それは困りましたね」

「丞相!何が困るというのか!」

「もし、劉協様が蜀に来て頂けるとして、帝が代わったとします。ですが、帝が亡くなったら・・・・」

「・・・」

「それこそ、本当に帝位を継ぐ事になり、今よりも横暴になるでしょう。帝はソウヒに追われた際、

娘も取られ子も殺されています」

「だが、この腐った蜀を立ち直らせる好機ですぞ!!」

「はい・・・。それも先帝の悲願でした。ですが、今しばらく時が欲しいのです。あの帝が簡単に帝位を降りる筈も無く、

無理矢理落としたのでは簒奪になります。また、そんな状態の帝位を渡すのも無礼でありましょう・・・」

「確かに・・・」

「ですので、もう少し、時が欲しいのです。帝も何とか説いて見せます。それよりもそろそろ戦の準備を・・・」

「そうだな。分かったわい!カンコウ・キョウイ!暴れるぞ!」



今回の北伐は6万の兵を持ち、最初の北伐に告ぐ大規模な進軍であった。

早々に聞きつけたシバイも10万で迎え撃つが、五斗米道の教徒による撹乱攻撃とキョウイとカンコウの奇襲により

大きく前進し、南安・街亭を落とし、天水も落城目前であった。だが、シバイは天水で篭城を決め、長安からさらに10万の

援軍を得ると、蜀は手が出せなくなった。圧倒的に兵数で劣った為である。ただ、これは好機であり、長安から援軍もしばらくは

来ないであろうし、安定を落とし、扇形の陣で天水を囲めば前後左右からの攻撃で一気に打ち破れる。

だが、兵が足りずに行動出来ずにいたが、コウメイは成都に兵3万の援軍を要請した。

呉が攻めてくる事も無いし、南蛮の脅威も消えたので、現実的な援軍を要請したが、成都からの返事は意外なものであった。

「陛下よりのお返事である」

使者はリゲンだった。

「陛下は病に倒れたため、詔を出せぬ。早々に魏と停戦し、成都に戻られるように」

これにゴハンは怒った。

「なんだとう!!!もうすぐ天水も落ちて、悲願だった長安も望めるのだぞ!!!」

その声にリゲンは馬から落ちそうになったが、

「謹んで受けるように」とリゲンは返した。

「ふざけるな!!!」とゴハンは怒鳴ったが、コウメイはそれを制した。もはや成都を変えなければどうにもならんと

判断したのだった。

「お受けします」

ただ、帰りはリゲンを囲むようにして帰り、コウメイは

「これはお受けしますが、もし、詔に虚言があれば、此度は戦中の為、罰は重いものとなります」

と言い放った。

久々の快進撃で、兵の士気も高く、シバイもあと一息で打ち倒せたのだ。これによる蜀軍の落ち込み様はこの上無かった。


コウメイは成都に着くと、リゲンを連れて裏口から朝廷内へ入り、リュウゼンの部屋の前に立った。


中ではリュウゼンが大笑いをしながら女を追いかけている。コウメイは

「これは、大変な病のようですな!」とリゲンを睨みつけたが、

「こ、これはめでたい!勅使に行ってる間に本復なされたのじゃ~!」

と言うとリゲンは逃げていった。追う気にもなれなかった。


翌日の会議で、コウメイは今回の詔に付いてリュウゼンに迫った。が、

「俺は知らんぞ!このコウコウがやれと言ったのだ!」と言えばコウコウも

「私如きが何でそんな大それた事をしましょう。きっとリゲンが勝手にやったのです!」と言い、リゲンは

「そんな!あんまりです!陛下とコウコウ様が・・・」


同じ穴のムジナが互いに罵りあっている。その光景を見てキョウイは寒気を感じた。

カンコウもゴハンも呆れて出て行った。

コウメイも怒りに震えていたが、そこにギエンがやってきた。

「陛下を謀る不届き者め!」

と一刀の元にリゲンの首を刎ねた。

ありえない事である。朝廷内、しかも帝の前に剣を持って自由に歩いている。もはや取り返しの付かない事態になっていた。


それでもコウメイは必死に訴えた。

「陛下!これは亡き先帝の!お父上の!リュウビ殿の悲願だった北伐なのです!それを何で3万ばかりの援軍を

出して頂けないのですか!」

だがリュウゼンは、

「ううん、血を見たので気分が悪い」と返事をしなかった。

「陛下!!殿の今わの際のお言葉を知らぬと言いますのか!!!!」

「ううん、簡便してくれ。吐き気もしてきたぞ」

「陛下!!」

リュウゼンはコウコウに担がれて奥へ消えていった。

「陛下!!!!」


コウメイの叫びだけが虚しく響いた。

コウメイは涙を流していた。

キョウイも何と声を掛けていいかも分からず、そこを去っていった。

コウメイは立つ事さえ出来なかった。


日も暮れて来た頃、トウシが呆然としているコウメイの元にやってきてコウメイの手を取った。

「此度の北伐、さぞ無念でしたでしょう・・・」

コウメイは涙を拭いて笑顔を作った。

「トウシ殿・・・。よくこんな朝廷に絶えていて下さる・・・」

「先帝を思えば、丞相殿の苦労を思えばこそです。丞相が良いと言ってくれれば、今すぐにでも野に下りとうございます」

「それは困る!そなたがいなかったら朝廷の火が全く消えてしまう・・・」

「分かっております。さて、その火に囲まれて今日は一日、お付き合い下さい」

そう言われて手を引かれて歩いていくと、そこはゴイの屋敷だった。


ゴイはリュウゼンに物申してしまった為に、朝廷から離れた所に飛ばされた。

トウシが落とされないのは呉のリクソンとのよしみを通じている功績からであった。


ゴイの屋敷にはゴケイもいた。リケイも連れていた。カンコウもゴハンもキョウイもいた。

皆、リュウビの温かさと大志を知る者達であり、この一晩の会はコウメイを心から温めた。


その会も酣となり、コウメイが出ようとするとトウシに止められた。

今度は小さな蔵へと呼ばれ、そこにはゴイがいた。

「さて、丞相殿・・・実は今回は表向きはただの宴会じゃが丞相殿に伝えたい事があり、このような体を装った次第じゃ」

「うすうす、感じてはおりました・・・」

「そうか。・・・丞相殿・・・お留守が過ぎましたな・・・・」

「はい・・・逃げてはいかぬと知っていながらも自然と足が朝廷を離れてしまいました」

「今は、北伐はいかん・・・。足元を固めなされ」

「・・・」

「実は朝廷内ではしきりに噂が立っておる。何故丞相殿が執拗に北伐を続けるのか・・・と」

「・・・」

「この話は裏でゴケイもリケイも聞いておる。それは・・・」

そう言うとトウシは顔を下に向け、震え、涙を流している・・・

「トウシ殿・・・」

「私の口からはとても言えませぬ・・・」

それを見てゴイが口を開いた。

「では、ワシから言おう・・・。コウメイが北伐を続けるのには理由がある。先帝の遺言と称して漢中より

北を攻め取る。漢中・天水・安定さらには剣閣・フ城を結ぶ領土を確保すれば充分な兵を養える!こうして

国を掲げ丞相は帝となって、覇を唱える。兵力は蜀を上回り、勢いで圧倒する!!!その矛先は成都に向く!

丞相の行動は北伐に在らず!蜀の乗っ取りである!!」


これを聞いた時、コウメイの椅子が音を立てた。

怒って蹴り立てたかと思ったが、天を仰いで涙を零していた。


「丞相殿、いまや朝廷内ではこの話で持ちきりじゃ・・・。これでは兵の士気も糞も無い。また、先帝の遺言を認めた

リゲンも殺された。あの盆暗・・・リュウゼンの思うがままじゃ。落ち着きなされ。足元を固めなされ・・・」


この後、コウメイは一言も話す事は無く自宅へと帰った。

裏でキョウイ、カンコウ、ゴハンも聞いていたが、コウメイの様子を見て声を失っていた。


その後、キョウイがコウメイに呼ばれた。

「キョウイ、只今参りました」

「あぁ、来てくれたか・・・」

「はい・・・」

「済まぬが、北平へ行ってくれんか・・・」

キョウイはその意味をすぐ理解した。これは、劉協を迎えに行け。との意味である。

キョウイはコウメイの心変わりに疑問も抱いたが、蜀の命運を掛けたこの依頼を断れる筈も無く、その理由も無い。

「は、行ってまいります」


翌朝、日も出ぬ頃、キョウイは自宅を出た。
コウメイがリュウゼンに出した出師之表には並々ならぬ気迫が篭っていた。

漢中より北に攻め入り、長安を落とす。

この為の将の名、兵、戦術が記されており、何よりも先帝(リュウビ)の思いを遂げんが為の出兵である。

それがコウメイの直筆により掛かれており、誰も反対する者はいなかった。


と、思うじゃん?ww


だが、一人だけいた。

その者は、コウメイの部屋に押し入り、コウメイを怒鳴りつけた。

「これはどういう事なのだ!ここに書かれている将は!ゴハン、バタイ、ヨウギ、リョウカ、ギエン!

これは良い!歴戦の強者だ!ヒイ、トウシ、ゴイ、リゲン!政務が主だが、先帝を知る人物だ!

チョウホウ、カンコウ!これも良い!バショク、ショウエン!まぁよい!!

誰が悪いと言っているのではない!ここには32人の将が書かれているが、33人目はどうしたのだ!」

「はい、その33人目は33人目に在らず、この第壱の筆頭人でございます」

「だったら何でワシの名前が無いのだ!!」


「・・・チョウウン将軍。もはや天下に誇る五虎将は将軍を残すだけとなりました。ですが、将軍がいてくれれば

こそ、この出師の兵達の士気が奮い立ちます。チョウウン将軍は100人力、いや千・・・万にも匹敵する強さを

誇りますが、その存在だけで蜀軍全て・・・20万人の兵の力となるのです」

「つまりこういう事か・・・・。ワシにはあぐらを画いて座っていろと!?・・・・・・・

あれが五虎将のくたばり損ないじゃと!!!!!!!!!!埃を被っていろと!?」

「いえ・・・そうではありません」

「なら何だというのだ!・・・・コウメイ殿。私は先帝を・・・いや、あえてゲントク先生と呼ぼう。

ワシが奴隷市場でコウソンサン殿に買われたのが5,6の時。以来甘えて育ってきたが、15、6で人生の師匠に会った。

ゲントク先生に文・学を習い、カンウ先生に、チョウヒ先生に武を習い、古城の旗揚げに立会い、先陣に立ち、

修羅場を何度も潜って来た。この先生らがいなければ今頃のたれ死んでいただろう。まして、この出師はゲントク先生の悲願で

あろう!漢王朝を復興させんが為のゲントク先生の悲願であろう!!それに立ち合わさぬとはどういう事なのだと聞いている!

それでも丞相の権力を持って、これを通すのであれば、こんな大将軍の位など溝に捨ててくれる!官を辞してでも、

単騎、ゲントク先生の旗を指して槍を持って先駆ける!」


大人しいチョウウンがここまで吠えたのは初めてであり、コウメイは平伏した。

「・・・・私の考えが浅はかでありました・・・・」

「・・・いや、分かってくれれば良いのだ」


それからチョウウンは息を整えると言葉を続けた。

「・・・それから武辺のワシが言うのも何だが、近頃朝廷では胡散臭いのがウロチョロしておるの・・・・」

「は・・・・」


コウメイは半年も成都を離れていたこともあり、朝廷の変わりように驚いていた。

リュウビが作ろうともしなかった側室用の部屋がいくつも作られており、分けのわからぬ人物が行き来していた。

まして、リュウゼンの顔つき・・・。とてもリュウビの子とは思えぬ程に弛んでいたのだ。

だが、口に出す事も出来るわけも無く、ただただ距離を置くことしか出来なかった。

また、長安を落とし、この北伐を成功させる事で目を覚ますだろうと自身に言い聞かせていた。


チョウホウとカンコウは南蛮から帰ってくると、互いに距離を置いていた。

モウカクと祝融の夫婦の姿を見て、男と女というものを始めて見た。互いに、父が女と抱き合うような所は見た事もなく、

自分もいずれ・・・そう考えると、恥ずかしくなり、また恋の宿敵でもある兄弟のような相手を意識していた。


二人はリケイに恋をしていた。

カンコウは荊州で出会い、一緒に成都まで帰ってきた。チョウホウもゴケイに手を引かれて歩いているリケイを見て

一目惚れをしていた。互いに報告しあい、驚いたが、これには勝負をする事も無く、また抜け駆けもする事も出来ず

それを互いに知ってからは、これを口に出す事も少なかった。


だが、二人とも26歳となっており、世間的にも大人の仲間に入りつつある。

二人は互いに意識する事なく、歩いていた。


「なぁ・・・そろそろ決着を付けないか」

カンコウはその意味を理解した。丁度、ゴケイの学堂の目の前を通り過ぎた時だったのである。

「それはいいが・・・どうするんだ?」

「そうだな・・・俺はこんな事でお前と殴りあうなんて出来ぬ・・・」

「俺も同じだ・・・」

「・・・おばさん(ゴケイ)に聞いてみるか・・・」

「そ・・・・あぁ」

二人はゴケイにこれを話した。だがゴケイは

「この蜀の未来を背負う若殿二人がリケイを好むとは、母代わりとしてこの上ない幸せです。ですが・・・

リケイには女の躾という者をきつくしております。殿方の意を押しのけて自分の意見を言う事など無いでしょう。

それがお二人のような仲良しであれば尚更です・・・」

これには二人とも黙るしかなかった。ゴケイは続けた。

「ですが、恥を忍んでのお二人のこの行動も捨て置けません。後でリケイには聞いておきますが、お二人ともこれから

北伐へ向かわれるのでしょう・・・。その間に良い考えが浮かぶかもしれません。それまではこの話は忘れ、力一杯

蜀の為に尽くして下さいまし」

「はっ!未練がましい事は言わず、戦って参ります!」

二人の目は真剣であり、また衆を抜くこの二人の若者に好意を抱いていた。リケイが2人いればすぐにでも嫁がせたい思いであった。


やがてゴケイはリケイに尋ねた。

「リケイ、そなたはいくつになられるか」

「はい、24になります」

「おお、もうそんなに・・・。その良い年になれば意中の殿方がいてもおかしくはないと思うのですが、おられますか?」

「いえ、ようやくゴケイ様の教えを悟り、書物の面白さを理解出来たのでございます。リケイは書物に嫁いでおります」

「書物に・・・」

ゴケイは自分の教えを守り続けるリケイを本当に娘のように思っていた。それだけに幸せに生きて欲しいと願っていたが、

今回の若武者2人にはこれで弁解は出来るだろうと考えた。だが、幸せを思えば、意中の人に嫁がせてやりたい・・・。

しかし、自分の教えでは、親代わりのゴケイの言った相手としか結婚はしないであろうし、深く悩む事となった。


リケイにも思いはあった。カンコウとは生死と共にした長い付き合いで、顔を見ただけで胸が高鳴る事もあった。

チョウホウも、成都に来たばかりで不安だらけだったのに、無邪気に偏見も無く親しくしてくれたお陰で不安も消し飛び

今の生活がある。どちらにも思いを寄せていたが、それは兄のように慕う心であった。

だが、一度だけ、胸が張り裂けんばかりに高揚した事がある。それは過去、コウメイの作戦で桟橋を作る為の人集めを

成都で行った頃、居並ぶ男達の中で一人だけ身長が大きく、また整った顔を見てリケイは心を奪われた。

さらに男は、見ているリケイに気付き、微笑みを返したので、リケイはそれを見て、慌てて逃げた。

それがリケイの初恋であったが、以来、会う事も無かったので、ただただ想いが募るばかりであった。


ゴケイが何度となく、意中の人を聞いてくるので、リケイはこれを話すとゴケイは涙を流した。

意中の人がいてくれた事は嬉しかったし、何よりも一目惚れをして5年が経とうというのに、今でもその人を

思い続けているという乙女心に心を撃たれたのであった。


だが、その意中の人は単なる金稼ぎに来た若者であった。諸国を巡り見聞を広め、やがて親の元に帰った。

巡った先で知り合った将に仕官も勧められたが、母は生まれ育った地がここだから・・・と地元で仕官させた。


蜀軍は総勢10万。対して漢中以北の魏の守りはカコウボウと呼ばれる将が付いていた。

ソウソウの娘と結婚しただけの男で、この初陣は40歳であった。

かつてない蜀軍の大進軍にソウエイは怯えた。

この頃には魏の2代目ソウヒは死んでいた。文才はあったがそれ以外は何もなくただの飾りであり、その長子がソウエイだが

これもまた飾りであった。


進軍を続け、チョウウン・ギエン・ヨウギ・ゴハン・リョウカの5将に1万ずつに分け、それぞれに安定・南安・街亭・祈山・天水

と目標を与え進軍した。それとは別にカンコウ・チョウホウには5千を付けて遊撃隊として備え、コウメイが本体4万として

進み続けた。

これら全てを抑えれば、長安を覗く事も容易くなる。

コウメイ軍は落ちた南安に入り、状況を見守った。

対する魏軍もそれぞれに兵を分けて出てきたが、バショクの伏兵やチョウホウとカンコウの挟撃に合い、次々に打ち倒す。

ゴハン・リョウカ・ヨウギの軍は南安と祈山を落とし、天水へ向かった。

一方ギエンは安定を目指したが、天水の遥か遠方であり、新たに指示を待とうと祈山で待機をしていた。

そこでギエンとバショクと何やらもめていた。

「ここは一気に突き進み安定まで落とすのだ!」

「いえ、そんな事をしては天水が魏に落ちた時に退路を断たれる。先に街亭を攻め、退路と補給を同時に確保するのが上策だ!」

ギエンはこの時47歳でチョウウンの大将軍の次の地位にいた。対するバショクはまだ40。しかもコウメイの腰巾着のようで

何かと好きになれなかった。

そこにコウメイ率いる本陣が到着し、これを聞くとバショクの意見を取り入れた。

ギエンはその時、悔しさにあふれ目は血走っていた。

それに反感の相を見たとバショクに伝え、警戒させた。


しばらく時も経ち、チョウウンがとっくに天水を取れている筈の頃なのにいつまでも連絡がなく、不思議に思ってコウメイが

チョウウンの陣まで走った。その頃にはギエンが街亭を力ずくで踏み倒したと吉報も入っていた。

この天水さえ取れれば、あとは安定を抑えるだけで、目標は達成される。


コウメイを見たチョウウンは笑顔で言った。

「いやぁ。丞相。後世畏るべしじゃ・・・・」

「大将軍ともあろう人がどうなさったのですか」

「この天水、敵が陣を構えているので行けば誰もいない。町に入りながらも空城の計かと用心して進めば何も無い。

かと思えば、火矢が飛んできて屋根が崩れ落ちる。慌てて出て行けば誰も追ってこない。安心して陣を張ると銅鑼鉦鼓が

聞こえてくる。それに出て行けばやはり誰もいない・・・・。おかげで敵兵1人も討ち取っていません・・・

申し訳ない・・・まるで、コウメイ殿と戦っている様だ・・・」

「・・・・先ほど、後世畏るべしと言いましたが、敵将に会ったのですか?」

「あぁ。一度だけ一騎打ちに応じてくれたが、この技が尋常では無い・・・。蜀の五虎将は置くとして、あれ以上に

強い者は見た事も聞いた事も無い・・・・」

「名前は分かりますか?」

「あぁ。しかと名乗ったぞ。天水生まれのキョウイ=ハクヤクだと言っていた」

「キョウイ・・・」


そこにチョウホウ・カンコウが飛んできた。

「俺達はキョウイと会った事があります」

「はて」

「かつてシバイの五路の軍の対策を話しに漢中に行った時に会いました。その時はコウメイ先生の桟橋作りに参加していた

そうです」

「なんと、そんな武者が桟橋を・・・・」

「また、母への孝行を尽くすと言って、地元に帰ると行っていました」

「それでこの天水の将となったのか・・・」


だがコウメイは母への孝行という言葉を聞き、笑った。

コウメイは漢中一体に広まっている五斗米道の教徒にキョウイについて聞いた。

「あれは、大変な孝行息子です。かつて兄弟は6人いたのですが、皆死んで、残るのがキョウイだけです。ですが

キョウイも12才の時に高熱を出して死に掛けていました。その時に北斗南斗という生と死を司る者が、そこの山・・・

ガビ山の頂上にいるという噂があり、これにお願いをすれば助かるかもしれんという噂を母が聞きました。

ガビ山は見ての通り、人の手で登れるような山ではありません。それでも母殿は上り詰め、頂上で碁を打っている

北斗南斗に息子の命を助けてくれと懇願したようです。その頃の母殿は手の爪も皮膚もただれきり、碁を打ち終わった

北斗が懐から書を出すと、姜維(キョウイ)十二と画かれており、その母を哀れに思った南斗がそこに六を書き加え

それ以降、キョウイの熱は下がったようです。これは事実かは定かでは無いですが、普段からの母殿を見ていれば子に対する

愛情も伝わり、納得の出来る話であります。また、それだけの母だからこそキョウイは孝行をするのだと、ここらでは

有名な話です」

「なんと・・・寿命が62歳に!」

「はい」

「その母殿の家をご存知かな?」

「はい、こちらです」


こうして翌日、天水に噂が流れた。

(コウメイはキョウイの母をさらい、南安に閉じ込めている)

その日の夕方にはキョウイは南安の門に立っていた。剣だけは腰に刺していた。

それを見たトウシはキョウイを向かえ、コウメイの所に案内した。

キョウイは付近から矢が狙っていないかと周囲を警戒するが、それを見て母の命に・・・と考えると

剣を取る事も出来ず、胸を張って付いていった。

だが、キョウイが見た母は全く想像も出来ぬ姿だった。


屋敷の庭で男と畑勝負をしていた。

「おお、ハク、きたかね」

「母上・・・これは」

「私はこれまで畑仕事は誰にも負けないと思っていたが、この人には叶いませんでした。コウメイさんと言うのです」

キョウイはそれを聞いてコウメイに会釈をした。キョウイはコウメイに

「私の母は、土を起こし実らせる事が全ての民の生きる道だと言い、畑仕事を好んでいます」

「私もそのような人を二人知っています。一人は荊州で百姓の大将軍として崇められたリキュウ殿。もう一人は蜀の先帝

リュウビ殿です」

「リキュウ殿にお会いしたいと思い荊州にも行きましたが、既に亡くなっておられました」

「孫娘が蜀におります」

「・・・・・お会いして話を聞いてみたいものです」

そこにキョウイの母が口を挟んだ。

「ハクよ、聞けば魏の帝は、元漢朝の劉協さんを蹴落として帝位に付いたというではありませんか」

「は・・・」

「私は官なんて知らないので、生まれたところで仕官させるのがハクの為だと思ってましたが、もはや、ハクや。

好きな所で奉公すると良い。私は、コウメイさんから蜀の話を聞いた。噂はここまで広がっている。一度行ってみたいのじゃ」

「・・・・は」

それを聞くとキョウイは剣を投げ出し、コウメイに平伏した。降状の姿勢であるのでコウメイは急ぎキョウイの手を取った。

その手には熱い情熱が注ぎ込まれており、瞬時に・・・互いに命を掛けられる仲間であると思えた。

そのまま3人で語らい、夜になるとコウメイはキョウイに尋ねた。

「ところでキョウイ殿。天水の仕掛けを教えて頂きたい。あれは人命に関わるので・・・」

「確かに」とキョウイは笑った。

「あれはかつてコウメイ殿が新野で行った空城の計を真似たに過ぎません。ですが、チョウウン殿は決して深入りする事は

無く、誰一人、討つ事は出来ませんでした。私の負けでございます。後で私が全て解除しておきます」

「そんな事をすればお主は魏を裏切る事になりましょう・・・」

「いえ、母も先ほどああ言ってくれました。あのように喜んだ母の顔を見るのは初めてです。また、私も蜀が好きでした。

特に漢中ではホウヨウ殿や五斗米道のチョウレン殿、それに亡きカンウ・チョウヒ将軍の子達とも知己の間柄です。

カンコウ殿とも同年の26でございます」

「そうですか。ですが、お主の名に泥が付きませんか?」

「いえ、名など気にしません。母が喜べばそれで良いのです」

「分かりました。私は子が遅く先日6つになったばかりなので、キョウイ殿を子とも思いましょう」

「コウメイ殿はおいくつになられますか」

「馬齢を重ね47になりました」

「父が生きていれば47です」

そう言うと二人は再度熱い手をかわした。


こうして天水の仕掛けを解き、いよいよ持って安定へ攻め入ろうという頃、魏ではシバイを中心とした20万の軍勢が

長安を出たとの知らせが入った。

五路の進軍をしかけてきた、コウメイを悩ませた宿敵である。

あれはバチョウが生きており、またリクソンのカンウへの想いがあったからこその対策で、それが無ければ

蜀は一飲みにされていたであろう、コウメイを震えさせた進軍であった。その男と直接対決となる。


コウメイはそれを受け、天水にいては防ぎきれぬと判断し、後退。

それを見たシバイは10万ずつに分けて、進行してきた。

蜀は5万ずつ、チョウウンとバタイに分けて交戦したが、チョウホウ・カンコウの遊撃隊の撹乱攻撃も、

シバイの子であるシバシ・シバショウに抑えられ、平面の勝負となってしまった。

こうなれば数が物をいい、蜀軍は2万の兵を失って一気に漢中まで後退した。

だが、驚いた事に、ギエンが安定を落としたという報が入ってきた。

このシバイの進軍の前に指示していたもので、ギエンはバショクとの喧嘩の腹いせか、怒りのままに進軍していた。

これを聞いたシバイは慌てて天水へ戻った。

安定・祈山・街亭・南安を置き、天水を囲む形となった。

だが、魏の長安から安定制圧軍のチョウコウ部隊が発進したので、これを聞いたコウメイはギエンに撤退を命じた。

あのまま安定にいれば挟み撃ちにあってしまうのだ。


そのまま膠着状態が続いたが、やがてシバイは10万の兵を南下させた。

しかもすぐに2方向に分裂させた。その先には街亭と祈山がある。

ここで蜀陣内では意見が別れた。

バショクは

「この2方向に分けた軍は必ず街亭に合流する。ただの陽動作戦である!なぜならな街亭は長安と天水・漢中を結ぶ中心であり

ここを失うと北方の戦力を削ぐ事になるのだ!街亭に5万はなければいかん!」

というのに対し、キョウイは

「祈山へ向かっている軍の総大将はチョウコウ将軍です。あれだけの歴戦の将が虚兵だとは思えません。また、シバイは二路どころか

先年は五路の軍を画策しています。これはどちらもそのまま進軍してくるでしょう」

コウメイは、バショクとキョウイにこれを預けていた。どちらも知略に長けており、いずれコウメイの後を継ぐのは・・・

それを計っていたのだった。

そこに、衛兵が飛んできた。

「チョウウン将軍が危篤にございます!!」

「なんだと!」

コウメイはバショクとキョウイを連れてチョウウンの寝室に急いだ。そこには既にチョウホウとカンコウがいた。

外に医者もいたが、医者は首を振っていた。

「チョウウンどの!」

「おお、コウメイ殿・・・」

「どうなさいましたか」

「いや、少し疲れただけです」

「実はシバイが軍を南下させてきています。将軍に出てもらわねば収まりが着きそうにありません」

「むう、また来たかシバイめ・・・今度こそ叩き切ってやる」

「その為にも、今はお体を休めて頂かないと」

「っふ」

チョウウンは笑った。

「実はな、コウメイ殿、ワシはもういかん。医者が笑顔を見せるようでは、もはやあの世に足を突っ込んでいる」

「何を弱気な事を・・・」

「・・・コウメイ殿、ワシが先帝とコウメイ殿の屋敷を訪ねたのは何年前かな・・・」

「もう20年以上も前の事です」

「そうか・・・もうそんなになるか・・・」

「・・・」

「お、槍の使い手も来ているな」とキョウイを見て笑った。横にいるチョウホウ・カンコウを流し見て続けた。

「ワシは15,6の鼻垂れ小僧の頃、北平のコウソンサン殿の元で小間使いをしておった。そこに3人の兄弟がやってきて

ワシに目を掛けてくれていた。それがワシの先生であった。ゲントク先生はワシに人論の道を・・・お前らの親父・・・

カンウ先生はワシに肝っ玉の据え方を、チョウヒ先生は肝っ玉の置き所を無言の内に教えてくれた。それより槍一本で

戦場を駆け、敵中を先駆けた。良い友にも出会えた。頼みとする後世もいる。幸せな人生であった。さらばじゃ」


そう言うと大きく息を吐いて目を閉じた。

誰もが、休みに入ったものと見たが、座したまま目を開ける事は無かった。

57歳。奴隷として生まれ、槍一本で戦場を駆け、ついには蜀の大将軍まで登り詰めた。ビケイに恋をし儚く散り、それ故に

娶る事もせず、養子も求めず、ただひたすらに忠義を尽くし走り抜けた武将らしい最後であった。


コウメイの悲しみは深かった。だがシバイはそれでも兵を南へと進め続けている。

コウメイは再びバショク・キョウイに対策を振ったが、コウメイもキョウイと同意見であった。

そこで、バショクに2万を持って街亭に布陣、両翼にはチョウホウ・カンコウに5千を付けて、祈山のギエン2万と連携。

残りの3万で漢中の防衛に当たろうとした。

コウメイがそれをバショクに伝えると、

「お断りします」とバショクが断った。

「街亭には10万が攻め込んでくるのです!2万では抗しようもありません!」

「バショクよ、もう軍議で決まった事なのだ。必ず先に街亭に着く。低地に陣を置きすぐに罠をしかけ、シバイの5万を迎え撃て!」

「お断りします」

「・・・バショクよ!これを断るとあらば軍令違反にてお主を誅さねばならん」

「・・・は、お受けします」

バショクの返事に全く力が無かった。が、それでもバショクの知略とチョウホウ・カンコウの働きを持ってすれば

何とかなる、と考えていた。


やがて、両軍はぶつかりあった。


しばらくして、コウメイのいる南安にカンコウが単騎、報告に来た。

それを聞いたコウメイは聞き返した。

「カンコウ殿、夢でも見ているのですか?私はバショクに低地に陣を敷けと・・・」

「はい、私もかつて叔父上(リュウビ)と共に高地に布陣し、リクソンに干された経験があり、これを非難しましたが、

10万に対抗するには捨て身の体当たりしかない、高地から一気に駆け抜けシバイを討つ。それは竹を裂くが如く!と、

取り合ってもらえず、それでも講義すると、軍令違反として斬ると言われました」

「・・・・・」

「シバイもそれを見て、遠くに陣を置き、我らの水路を断ちました。バショク殿は相手が遠いのでどこに竹を裂いて良いか分からず

動揺している内に火攻めを受け、散々に打ちのめされ、血路を開いて報告にあがりました」

そう言うカンコウの鎧は返り血で真っ赤であった。

「それで・・・・皆はどうなったのか」

「バショク殿は近衛兵に連れられ脱出しましたが、チョウホウはそれを守る為に陣を捨て出て行きました。

また祈山の様子も心配であり、指示を仰ごうと参上致しました」


コウメイは天を仰いでいた。

「ギエン殿はまだ祈山で奮闘中であろう・・・チョウホウも祈山に向かっている筈だ・・・。カンコウ殿、

もう一度死地に行ってくれるかな・・・」

「はい、どこへなりと」

「では、祈山へ向け出てくれ。そこでギエン・チョウホウ両将軍と合流し、祈山を捨て・・・ここまで下がると良い。

ただ、もしここ(南安)も落ちていたら・・・漢中まで・・・下がるのだ」


バショクは自分がコウメイの後継者たる!と意気込んでいた。だがそこにキョウイが現れ、自分よりも器が上だと

何度も思った。キョウイもその空気を感じ取ってか、コウメイの隣にいてカンコウの話を聞いたが何も言わなかった。


カンコウは単騎で祈山に着いたが、既に大軍に囲まれていた。

だが怯む事は無く、敵兵を薙ぎ倒し、ギエンの元へ駆け抜けた。

「全く!何だというのだ!街亭へ行ってる筈の敵までが祈山へ来るとは!このままやられて魏に降れというのか!」

ギエンは怒っていたが、カンコウはギエンに言った。

「コウメイ殿より、チョウホウの軍と合流し、ギエン殿共々下がれとの事です」

「何だと!ここまで来てか!それにこの囲みは安々とは破れんぞ!」

「はい・・・ですが、チョウホウの5千とギエン将軍の2万があれば、一点集中で進めば破れるかと」

「チョウホウの5千!?そんなもんはとっくにシバイの軍とぶつかって全滅しとるわ!」

「え!」

「バショクを助けると言って出て行きおった!俺の所も1万もおらん!ええい!ままよ!」

「チョウホウは!?」

「知るか!そんなこと!」


その後ギエンは囲みを破り南へ下がっていった。

カンコウはギエン兵の胸倉をつかまんばかりにチョウホウの行方を聞いたが、西の方へ追われていったとしか分からなかった。


そのままカンコウ自身も囲いを破って西へ向かって単騎、チョウホウを探しに行った。


ギエン軍は漢中に付き、コウメイ本体と合流したが、会話も無くギエンは成都へ帰っていった。

バショクも傷だらけで漢中まで帰ってきた。ゴハンもヨウギもリョウカも無事であったが、チョウホウとカンコウはいなかった。


シバイの軍も南安まで攻め入ったが、コウメイの空城の計を受け、天水まで下がっていった。


やがてゴハンを始め、突き上げがあった。

「此度の敗戦はバショクの奴が軍令違反にて敗戦を煽ったというでは無いか!このままで済ます気か!?」

「いえ・・・軍令違反であれば罰するに価しますが、それの確かな証拠がありませぬ故、会議は開けぬ所存です」

「そのバショクにしたって、あれから部屋にこもりっきりじゃ!兵も噂しとるぞ!バショクのせいだ!

だが何故、丞相はバショクを斬らぬ!と!」

「・・・・はい」

「このままでは士気もだだ下がりで、シバイがまた来たら漢中も落ちるぞ!早々にこの問題に決着を付けてくれ!」

「・・・分かりました」


確かに、軍令違反であれば処罰する。だが、先にシバイの軍が来てやむなく高地に布陣していたとしたら、それは

ただの敗戦であり、罰する事はない。ただ、これを知っているバショク・チョウホウ・カンコウの軍は壊滅。バショクに

聞いても意味は無く、2人の若武者も行方知れず。処罰の会議も開けない。それよりも2人の身が心配だった。


その頃、カンコウはただ一騎、山中を捜索していた。

祈山から突破してひたすらに西に向かって走り続けたが、それらしい軍の姿は見えなかった。

3日も飲まず食わずで探していたが、朦朧とする意識の中、チョウホウの無事を祈って気力で駆け回っていた。

「お前がこんな所で死ぬ筈が無い。お前は図太い奴なんだ。死ぬもんか!」

そう口にして自身を奮い立たせ、弱気な考えを払拭する。


そうして進んでいると、カラスの群れを発見した。

「頼む、こんな所にはいないでくれよ!」

群れの中にいたのは蜀の兵だった。

「チョウホウ、お前はこんな所にいてくれるなよ!」

そう願って死体を確認していくが、チョウホウの姿は無かった。

と、水の音が聞こえ、馬にやらねばと水の音の方へ歩いていったが、それは水では無く、血の川だった。

山中の谷で、大きな岩が不自然に転がっており、投岩による攻撃と伺え、その血の川は果てしなく続いていた。

その死臭の元へたどり着くと、大量の蜀兵の死体が転がっていた。

「チョウホウ!いるなよ!ここにいるなよ!」

必死で願いながら死体を見ていくと

「あっ!!」

とカンコウは力無く膝から倒れた。巨大な岩に頭から胸にかけて押し潰されている死体が一つ。

その白い鎧はチョウホウのお気に入りである。

その手の巨大な蛇矛は亡きチョウヒの形見である。

その腰に着けた銀の鈴はチョウホウの宝であった。

・・・リケイに貰ったんだと、カンコウに自慢していた・・・


カンコウは急ぎ立ち上がり岩を押しのけようとするが、ビクともせず、諦めた。


その手から蛇矛と銀の鈴を取ると、手を合わせ馬に跨った。

「蜀に帰ったらリケイを俺と競うのではなかったのか!!!!!」

その叫び声にカラス達は鳴くのを止め、森の静寂が一瞬出来上がった。



鈴の音が響き渡った。

シバイが蜀に向けて五路の軍を進めたが、その内容は、

1、侠族に金銀を山のように送り、漢中に攻め入らせる

2、蜀を裏切ってきたモウタツを中心に1万の兵を持って漢中を側面から突く

3、同盟の続いている江南から10万の兵を持って白帝城・永安より攻め入らせる

4、南蛮に金銀を山のように送り、成都の南から攻め入らせる

5、魏の大将軍、ソウシンを中心に20万の兵を持って漢中より攻める

というものであった。

もちろん、内容は伏せていたが、コウメイにはすぐに情報は入ってきていた。

また、これを聞いたリュウゼン(リュウビの長子)は慌て、コウメイを呼んだが、会議にすら

参加せず自宅の池を眺めていた。

いくら呼んでも出てこないので、リュウゼンが自ら側近と共にコウメイの家に押し入った。

「おい!丞相!何をしているのだ!」

「・・・水を眺めておりました」

「そんな事でシバイの作戦を防げるのか!!」

「・・・・・分かりません」

「分からんで済むと思っているのか!!!蜀がどうなってもワシは知らんぞ!!」

と、リュウゼンは足音を立てて出て行った。

それに側近も付いていたが、一人だけ残り、コウメイに会釈をしていた。

荊州以来の文官、トウシである。

「おお、トウシ殿!灯台元暗しとはこの事だ!」

「はは・・・大げさですな・・・」

「そなたには、辛い仕事を突きつけてしまっているな・・・」

「いえ、これも先帝(リュウビ)を思えばこそです」

「そう言ってくれるとありがたい」

「今回の・・・・・・」

「あぁ。もう既に五路の対策は打ってある。だが、読めぬ所もあり迷っていた」

「そうでしたか」

「どちらにしろ、陛下があの様子では何も聞き入れてくれぬであろう」

「そうでしょう・・・」

「私の五路の対策はお主に聞かせる。後で陛下が落ち着いている時にでも伝えてくれ」

「はい」

「まず、1つ目。侠族に漢中を攻め入らせる・・・これは完全にシバイの読み違いだ。侠族の血を引くバチョウ殿の

いる漢中に攻め入ってくる事は無い。

2つ目。モウタツの急襲だが、これは兵も少ない為、チョウホウとカンコウに2万を預け撃退させる。また漢中のバチョウ殿と

連携を取ってもらう。

3つ目は置く・・・。

4つ目の南蛮族には大将軍(チョウウン)に6万の兵を付け、守らせる。

5つ目、ここは漢中で激戦となるであろう。バチョウ殿には8万を預けてある。

さて、3つ目だが・・・」

「江南ですね・・・」

「トウシ、お主は江南をどう見る?・・・ちなみに私にとっては・・・

カンウ親子を殺され、荊州を奪われ、先帝をも死に追い遣った不倶戴天の仇敵じゃ!!」

「・・・恐れながら、先帝亡き後であります。この場合は恨みを忘れ、江南とよしみを結び、魏に対するのが

長寿の策かと存じます・・・」

「ははは。私と同じ事を言う。その通りだ。だが、この江南、いや、今や大都督のリクソンが荊州をも治めている。

まさに、この3路の最重要人物だ」

「はい」

「お主はリクソンを知っているか?」

「いえ・・・ただ、知力に長け、丞相殿のような人物だと聞いております」

「あぁ。しかもシュウレイ殿と阿忠殿を成都に帰してくれる徳のある人物だ。戦の無い世であれば私は金襴の交わりを持って

付き合いたい。だが、そんな事は言ってられぬ。実は、トウシ殿。頼みたい事があるのだ」

「はい」

「お主にはリクソン殿の所へ行ってもらいたい。命に関わるかもしれぬ・・・。それにシュウレイ殿も連れて行ってくれ。

阿忠殿を見せてお礼がしたいと私の所に来て言っていたのだ」

「は・・・」

「お主には、リクソンに今、私の言った五路の対策を全て隠さずに言ってもらいたい」

「は・・・・分かりました。早速行って来ます」


トウシは31歳。独身であったが、シュウレイと阿忠との旅は気ままな親子連れのようであった。

リクソンはこの対談に喜んで応じ、阿忠を見て抱き上げるとカンウへの思いやりか、涙を流していた。


そうしてトウシは対談を終え、報告に来た。

「リクソン殿は情と徳に溢れ、人を引き付ける魅力がございました。まるで先帝と話しているかのようでした。

ですが、戦の話となると、目つきが変わり、これは丞相殿を思い起こさせました。私の話す言葉に耳を傾け頷いていましたが

それでも兵を出す!と言っておりました・・・」

「ははは。そうであったか。ご苦労であった。実はな、リクソンは兵を出した」

「え!」

「白帝城を軽々と越え、蜀領域内に深く進入している。だが攻めてくる気配は無い」

「はぁ・・・何故でしょう・・・」

「おや、お主が言ったのだぞ。私を思わせると。リクソンは待っているのだ。蜀という病人が倒れるのを」

「なんと!!」

「他の四路からの進行を受け、倒れる寸前に、リクソンは成都へ疾走し、留めを刺しに来るであろう」

「・・・」

「だが、他の四路を防ぎきれば、魏との同盟はどこへやら江南へ帰り、改めて蜀に同盟を申し入れてくるであろう。

何故ならば、江南だけで魏を防ぎきれる力が無いからだ。その為にも私たちは生かされている。・・だからこそ!

お主に、全てを隠さずにリクソンに話をさせたのだ。簡単には蜀は倒れぬぞ・・・とな」

「そうでしたか・・・」

「だから、この四路は全てを防ぎきらねばならないのです」


その頃、漢中にいるバチョウの元にチョウホウとカンコウが連携の打ち合わせをしにやってきた。

バチョウは漢中の五斗米道のチョウレンとラヴラヴな関係であった。

そんなラヴラヴな所にカンコウが行き、バチョウは「誰だ!」と言い放った。

それをチョウレンが説明した。

「この子は、かつてここでホウヨウ様と一緒にいたカンコウ様ですよ」

「なに!!!!!!!ここでチョロチョロしとった小僧がお主だと言うのか!!!」

「はい、カンウが第2子、カンコウでございます。こちらはチョウホウ。チョウヒ将軍の長子でございます」

「なんと!・・・ワシも年を取るわけだ・・・」

そう言うとバチョウはチョウホウの両肩に手を当てた。

「チョウホウよ。ワシはこれまで40年以上、戦場で敵に負けた事は一度も無かった。

だが、一人だけ引き分けた相手がいる。それがチョウヒ将軍。お前の親父だ。あれほど強い奴はこの世にはいない。

親父に負けぬ立派な将になれよ!」

「は、はい!」

そうして連携の事をバチョウに話した所でカンコウは口を噤んだ。誰もいないだろうと思っていた宿舎に一人の男がいた。

だが、そのカンコウの後ろから笑い声が聞こえた。

「はっはっは。大丈夫だカンコウ。あいつは天水生まれの若人でキョウイという。いずれお前らの仲間となるだろう。

それに年も近かろう。仲良くしておけ」

そう言うとカンコウとチョウホウ、キョウイは互いに挨拶をした。キョウイは言葉を続けた。

「だが、ホウヨウ殿、この前にも言ったが、私はやっと武者修行を追え、蜀の桟橋作りの仕事を終えた所なのだ。

これで母上に土産を買って帰れると思ったが、土産を買いすぎて帰りの路銀が切れてしまった。そこでホウヨウ殿に

言われた通り、タダで飯が食えると思い出してここに来たのだ。これには助かりました」

「まぁよい。蜀では皆がお前を待っているぞ」

「はぁ・・・それはありがたいのですが、私は母上の望むように生きます。その為に諸国を廻ったのです。

では、私はこれで」

そう言うとキョウイは宿舎を出た。が、直ぐに戻ってきた。

「飯の礼を思いついた!さっきカンコウ殿はモウタツと対峙すると言っていたな?」

「あ、ああ」

「やつを追い込むときは、逃げ道を作っておくと良い。怯えた鼠は逃げ場を失うと牙を剥いてくるぞ」

「む、お前はモウタツを知っているのか?」

「あぁ。魏・蜀・江南の諸将の事はある程度学んできたのだ。ではこれにて失礼する」

「あ、あぁ。分かった」

「それではな」

そう言うとキョウイは走っていった。

ホウヨウはそれに頷いていたが、カンコウとチョウホウに言った。

「確かに、キョウイの言う事は最もだ。現にやつはカンウの孤立無援を作り出した張本人だ。

だが、構う事は無い、散々脅してやれ!牙を剥く前にオレが説いて逆に蜀に寝返りさせてやる!」


こうして即位早々のリュウゼン、生まれ変わったばかりの蜀を絶対絶命の危機にさらすシバイの五路の軍が動いた。

一路。

侠族のバチョウへの信仰は厚く、シバイの使者を切り捨てると、逆にバチョウに3万の援軍を寄越した。

二路。

カンコウとチョウホウに追い詰められたモウタツはやはりホウヨウの説得に応じ、そのまま漢中に蜀将として参加した。

三路。

リクソンの軍は白帝城付近から動かず。

四路。

チョウウンの奮戦により、小競り合いに終わっていた。

五路。

20万のソウシン率いる大軍が漢中に向かったが、バチョウの8万、侠族3万、カンコウ・チョウホウ・モウタツの3万

で14万の軍になり、五斗米道の教徒の手助けもあり、散々に打ち破られ、大敗は済まいと早々に引き上げて行った。


それを見るや、リクソンは荊州へ帰り、ショカツキンを使者として蜀に同盟を申し込んできた。

こうしてシバイの描いた五路の軍は、画餅と化した。


だが、チョウウンの抑えていた南蛮軍は、シャマカが死に、モウカクという者が族長となると、領土の切り取りに

大いに盛り上がり、頻繁に成都に踏み込んできた。やがてチョウウンが都へ帰るとそれは勢いを増し、大いなる脅威へと

代わっていった。


さらに、モウカクは、川の向こう(蜀)には黄金が眠っている、と言いふらし、南蛮のさらに奥から仲間を呼び出し

蜀の西南では争いが絶えなかった。


魏ではシバイがこの失敗から大人しくなり、江南も蜀との関係を良くしようと外交に必死であった。

ソウヒは文が好きであったが、領土の拡大には興味も無かったので、コウメイはこれを機に、南蛮制圧へと乗り出した。

リュウゼンはコウメイがいなくなる事に不安もあったが、女を覚え始め、そんな不安も色褪せていた。


こうして蜀から南蛮制圧の軍、チョウウン・チョウホウ・カンコウ・バショクを始め、多くの将兵が出陣した。

コウメイは当初、平常通りの進軍をさせ、南蛮軍を攻略していたが、仲間意識が強く、日が経てば経つほどに

南蛮軍は増えていった。そこにバショクが進言した。

「族に恐怖は無く、平伏す事を知りません。波に波で対抗したのでは切りは無いため、心を攻めるのが得策かと」

コウメイはこれを聞き、満足げに微笑んだ。リュウビにはバショクは信用出来ぬと言われたのを覚えているが、

やはりこの才は捨てがたいと思った。


コウメイは陣中で散々に悩んだが、目標を、族の頭首、モウカクの確保とした。

また、出来る限り、族は殺さずに捕らえる事を命じた。


南蛮軍に知力は無く、殆どがコウメイの策の通りに捕まっていき、簡単にモウカクを確保した。

だが、捕らえたモウカクはずっと漢人(この場合は蜀の人)を睨むのみであった。

また、モウカクを開放しろと南蛮族はさらに数を増やし、蜀に襲い掛かるのであった。

これにより急ぎモウカクを開放し、事無きを得たが、開放されたモウカクは再び蜀軍に襲い掛かってくる。


だが、再び捕らえなおすと・・・やはり変わらずに漢人を睨むだけであったが、その瞳にコウメイは変化を感じた。

今度はすぐにモウカクを開放し、さらに蜀軍は南へと軍を進めた。


この間、互いに一切言葉が通じず、困っていたが、リョガイという者が蜀軍に参加してきた。

リョガイは南蛮について学んでいた為、言葉を理解し、通訳として蜀軍に貢献した。


再び南下していた蜀軍は南蛮特有の毒に触り、毒の水を飲み、大惨事を引き起こしたが、リョガイが

処置を心得ていた為に被害は抑えられた。

その間にもモウカクは何度も蜀軍を襲い、それでも捕らえられ、さらに開放され続け、それが7回目に至った時、

モウカクはヘソを曲げたように檻から出なくなった。

ようやく観念したかと思ったが、そこには新たな南蛮軍が現れた。


戦闘に立つのは、髪が腰まである勇者であり、それは女であり、さらにリョガイによるとモウカクの妻だという。

「モウカクの妻は祝融と呼ばれ、火の神として崇められており、南蛮でも一、二を争う武芸を持っています。

モウカクがいつまでも帰らぬので、心配になりやってきたのでしょう」

これを聞いてコウメイは、祝融をも捕らえ、南蛮を取り仕切る者を説得させる事で、南蛮制圧は成る、と確信していた。


そこでチョウウンとチョウホウ・カンコウによる、捕獲作戦を練り、実行に移した。

祝融の陣を遠目に見る所に陣を敷き、中央に立て札を出した。これには

「明日、モウカクを処刑する」と書かせた。

翌日、祝融は単騎で立て札の前に立った。何かを叫んでいるが分からなかった。

チョウウンがカンコウに言った。

「どれ、矢を討って脅かしてやれ。間違えても当てるなよ。その驚いた所にワシが一騎打ちを挑む・・・が

ワザと負けて逃げてくる。そこへお主らが2人掛かりで回りこみながら攻め立て、お主等が捕らえて来い」

「いや・・・・ですが、女と取っ組み合うのは性に合いません・・・」

「何を言う。お主らは若いのだ。これから多くの女を抱くのだ。慣れておけ」

そう言うチョウウンを見て、二人は顔を見合わせていた。

二人はこのチョウウンを、女嫌いの頑固ジジイとしか思ってなかったのである。

昔、ビケイに思いを馳せ、その為に他の女には見向きもしなかったチョウウンの恋心等知る由もなかった。


やがてカンコウは祝融に向け、矢を構えた。そこにチョウホウが得意の茶々を入れる。

「おい、取っ組み合うと胸に触れるかも知れんぞ!」

「うるさい!気が散る!黙っておれ!!」

「どんな形かのう・・・」

「ええい!黙れい!」

「ちぇ」

「あっ!」

カンコウはつい手を離してしまった。

祝融より人一人分は離して狙ったが、自信が無かった。


そのコウチュウ直伝の矢は高速で飛び祝融の耳を掠め、長い髪をなびかせた。

だが、祝融は瞬き一つせずにカンコウを睨んでいた。

その顔立ちは綺麗に整い、力のある目は恐ろしさから美しさを呼び、これが色白であったら漢人の中でも最高に

美人となるであろう、と思わせた。

特にチョウウンはその姿にビケイを描き、戸惑ったが、すぐさま槍を握り締め向かっていった。

それを見た祝融は雄たけびをあげると、立て札を棍棒で粉砕し左手は背中に添えてチョウウンに向かっていった。

チョウウンはその左手に気付き注意を払っていた。

棍棒は鉄製であるらしく空を斬る音がすさまじかった。やがて一度棍棒を受けてみるかと、わざと槍で受けたが槍は砕け

チョウウンも馬上で大きく仰け反った。と、チョウウンが素早く身を立てると短剣が飛んできた。

左手は背中に刺していた短剣を抜くためのものだった。その素早い手の捌き。

チョウウンは改めてビケイを思い返した・・・・。がそんな甘い情景はすぐに消え、再び短剣が飛んでくるのを剣で弾くと

わざとらしく、チョウウンは逃げ出した。

それを「待て!卑怯者!」とでも言うように叫びながら祝融が追ってくるがチョウウンは林に逃げ込み、カンコウから

自分の槍を受け取った。

「あやつの左手に気をつけよ。短剣が雷の如く飛んでくるぞ」と言うとチョウウンは小競り合いの音の方に去っていった。


やがてチョウホウとカンコウが左右に別れ祝融の周りをぐるぐると廻り始めたが、祝融は動じずに目だけで二人を追った。

やがて祝融は二人を棍棒で追いかけた。その一撃は素早く、音を聞き、触れただけで再起不能になるであろう事は明白だった。

「おい!カンコウ!!あの頑固ジジイはこんなのと戦ったのか!!」

「うるさい!集中しろ!死ぬぞ!」

「短剣にも気をつけろよ!」

「お前もな!!!」

これが二人の精一杯のやり取りであった。薙刀・矛で棍棒の軌道を逸らすだけで必死であり、その一撃の重さから、

つい、下を向きそうになる。が、目を離せば短剣が飛んでくる・・・。

二人は死ぬかもしれん・・・しかも女に・・・・等と考えながらも必死で受け続けた。


やがて南蛮軍から弓を持った者が来て背後からチョウホウに向けて矢を放った。

だが、運良く矛に当たり、それは良かったのだが、逸れた矢は祝融のわき腹に刺さった。

それを受けた祝融は呻き声を上げると馬上に伏せた。


それを見て誰もが血の気が引いた。祝融を殺した・・・等と知れれば南蛮と全軍をあげての戦争になる。

矢を放った者は泣き出したが、怒ったチョウホウはそいつの首を刎ねた。カンコウは震えるのみであったが

チョウホウは祝融を背に乗せカンコウに合図して陣に帰った。

南蛮の陣はただそれを見て唖然としたままだった。リョガイはすぐに南蛮軍に治療をすると説得に走った。

それを陣の南蛮軍は見ていたので納得したが、見ていないモウカクは運ばれてきた祝融を見て暴れ出した。

だが、リョガイが戻ってきて祝融のわき腹から抜いた矢を見せ、話すと納得し落ち着いた。が、ずっと祝融を

眺めていた。

だが、蜀陣内は慌てふためいた。医者が言うには毒が塗ってあり、漢には無い毒だという。

それをリョガイがモウカクに伝えると、モウカクは薬草を取ってくる為、ここを出せという。これを受けてコウメイは

モウカクを開放した。夜になりモウカクが両手一杯に草を積んできてリョガイと医者が間に入り、懸命の治療に入った。


胸をさらけ出しての治療の為、治療に関しない者は立ち入りを禁止されていた。

そこにチョウホウがまたカンコウに話しかける。

「おい!見てしまったぞ!」

「何を・・・」

「あの女の胸だ。良い形をしておった!」

「これが原因で大戦になるかもしれんのに、呑気な奴だな」

「なに、慌てたってどうにもならん。天命は天命だ。それにオレの矛に当たって少しは毒も取れたろうしな」

「お前の呑気さがうらやましいぞ・・・」


だが、チョウホウの呑気な予想も当たり、祝融は熱はあれど落ち着きを取り戻した。

やがて、自分で起き上がれるようにもなり、モウカクと抱き合って喜んでいた。

その後、二人はコウメイの前に平伏した。

こうしてリョガイを通じて、南蛮を王国とし、元旦には王が蜀に来ること。南蛮の危機には蜀が助けに入る事を

約束し、南蛮軍に酒や肉などのご馳走を用意し、コウメイ達は帰路に着いた。


南蛮制圧に出かけてから半年も掛かったが、これで後顧の憂いも無くなり、コウメイはひと息を付いた。


だが、すぐに悲報が届いた。

漢中の防衛に必要だったバチョウが病死したのである。

これには義理の弟にあたるバタイを代わりに当たらせたが、将としての器は小さく、侠族の恩恵も薄くなった。


(急がねばなるまい・・・)

コウメイはこれを機に、出師之表(すいしのひょう)をリュウゼンに提出した。

これにはリュウビの意思を継ぎ、コウメイの命の限りそれを遂行するという旨が書かれており、コウメイ自身の覚悟

の表れでもあった。


かつて天下に誇った五虎将もチョウウンだけを残す所となり、そのチョウウンも大将軍にして50歳。

チョウホウ・カンコウは未来ある士であり、今だ若く大軍の指揮は取れない。

兵も将も全く余裕は無いが、コウメイはリュウビの意思を継げずにいられぬ・・・もしくは・・・・



もしくは・・・


リュウビ軍は江南と面する拠点、白帝城を本陣とした。

そこに南蛮の王:シャマカが5万の族を連れて合流し、総勢10万の蜀軍は侵攻を開始した。

蜀本軍の前を南蛮軍が走り抜けるのだが、その破壊力は圧倒的で次々と江南の陣を潰して行った。

チョウホウとカンコウはそれを見て驚いていた。

「しかし、カンコウ、すごい連中だな」

「あぁ。皆、裸足で髪を捌いて棍棒を振り回している・・・」

「それにあれ、なんなんだあの化物は」

「分からん・・・」

「しかし、このまま戦が終わってしまったりしないだろうな・・・」

「分からん・・・」


南蛮族は領土の切り取りを楽しんでいた。また象を何百とあやつり、全てを踏み倒していった。

「おい、本当に俺達の出番は来るのか・・・」

「分からん・・・」

「叔父上に聞いてみよう」

「ああ」


そう言って二人はリュウビの両隣へ廻った。

「叔父上、俺達の出番はまだでしょうか?」

「戦がこのまま終わってしまうのではないでしょうか?」

「はっはっは。血筋だのう。お主らの父もそう言っては太い腕をびしびし叩いていたものだ。こうしていると

私まで30年前に戻ったような気がする」

「はぁ・・・しかし誤魔化さんでください・・・」

「ああ、すまない。・・・明日あたりには出番が来るかもしれんぞ」

「ええ!」

「そろそろ襄陽が見えてくる。だが、さすがに襄陽に近づくに連れて兵が増えて来ている。南蛮の力ではこの辺が限度であろう」


事実、これ以上は下がれぬと見た江南は、ソンケンの甥であるソンカンを大将とした部隊を繰り出した。

先方のゴハンがこれを見て、

「陛下、南蛮の族が足を止めました。どうやらソンケンの甥が大群を持って迎え撃っているようです」

「そうか。ではシャマカ殿には少し休んでいてもらおう。なにしろ1ヶ月も走り通しているからのう」

「分かり申した。ところで先方はワシでいいんですかの?」

「なに?」

「いや、陛下の隣の若2人の鼻息が荒いもので。はっはっは!」

ゴハンは益州を奪った際にリュウビ軍に加入した豪の者でチョウヒと気が合い、以来チョウヒの右手として活躍してきた。

やがて、チョウヒそっくりの大声野郎に変身していたのだった。

「叔父上!でしたら先方はこのチョウホウに!」

「いや、カンコウに任せて下さい!叔父上!」

「困ったのう・・・」

「先方を争う若武者が2人も・・・これは蜀も安泰じゃ。はっはっは!」

「むう。私はこういった時は年長者を立てるようにこれまで生きてきた。カンコウは納得してくれるかな?」

「はい。叔父上の言葉であるなら従います」

「よく言ってくれた。カンウも繊細な人物であった・・・チョウホウよ。お主の父はかつてカンウと二人で

5千の軍を追い返した事もある。しかも初陣でだ。その姿を再び私に見せてくれ!」


翌日、蜀軍と江南軍はにらみ合い、南蛮軍は蜀本陣の周囲に下がった。

蜀からはチョウホウが前に出た。獲物はチョウヒの蛇矛を持っていた。対して江南からも煌いた鎧に身を包んだ

男が出てきた。

やがて、二人は激突したが、完全にチョウホウが押していた。と、そこに江南軍からさらに2人の武者が割って入っていった。

「あ!」とカンコウはそれを見て行こうとしたがリュウビが止めた。

「良く見ろ。3人相手でもチョウホウの方が上だ。だが危なくなったらすぐに行ってやれ」

「はい!」

チョウホウは3人相手に良く戦った。というよりも押していた。だが、そこに江南からもう一人の将が出てきて弓を放った。

その矢はチョウホウの馬の頭を貫き、チョウホウは地に投げ出された。そこにソンカンが薙刀を振り上げると一閃閃き、

ソンカンの両腕が宙に舞った。カンコウが飛んで来ていたのだった。もう一人がチョウホウを槍で刺そうとしたがチョウホウは

それを避け、槍を引っ張り様に矛で首を刎ね、その馬に飛び乗った。

二人の若武者が残った一人を睨むと、慌てて逃げ帰った。そこへゴハンが号令を掛けて蜀軍が追いかけて行った。

江南軍も矢で迎え撃とうとしたが江南の将が敵中に居る為に矢も使えず、ただただ蜀軍に飲み込まれていった。

初戦は完全に蜀軍が勝った。だが、チョウホウとカンコウの姿が見えず全軍で慌てて死体を捜したがいなかった。

やがて2人の将が丘の上から姿を現したが、何やら馬足が遅い。見れば互いに敵の将を生け捕って来ていた。

リュウビがそれを見て出迎えた。ゴハンも

「いや、手柄じゃ!若!」

「ほら、チョウホウ、お前の馬を射た奴だぞ」

「じゃあ、逃げ出した奴をお前にやろう」

と互いに敵将を交換した。敵将は何も言わずに瞑していたが、チョウホウもカンコウも処刑は出来ずにいた。

ゴハンが笑って

「ははは!確かに、抵抗せぬ者を斬るのは後味が悪いわ!だが、カンウ殿もこうして最後を迎えたのじゃ!」

というと、一刀の元に二人の将の首を刎ねた。

「だが、若二人よ、突っ込み過ぎだぞ!わっはっは!」


その晩は初戦勝利を祝して宴会が行われた。

カンコウもチョウホウも酒はあまり飲めなかったので程ほどに二人で川に出ていた。初夏の夜の川は格別に気持ち良かった。

「カンコウ・・・オレはまだドキドキしている」

「オレもだ・・・」

「まだ手が震えている・・・」

「・・・オレもだ・・・」

「今日は助かったぞカンコウ、礼を言う」

「何を。逆の立場ならお前も来てくれていただろう」

「・・・・分からん・・・」

とチョウホウがカンコウの真似をしたので二人は笑った。


翌日も蜀軍の快進撃は続いたが、標的であるハンショウ・シュゼン等は出てこなかった。

連日の戦でチョウホウもカンコウも大活躍をしており、毎晩のように祝宴が行われていた。

「いや、我々が老いて行く中でもそなたらの活躍は目を見張るものがある。

ウンチョウもヨクトクも空で杯を重ねているだろう!」

そんな言葉を聞き、咳払いをした将が一人・・・。


翌朝、早々にコウチュウが単騎で陣を出て行った。

衛兵がリュウビにそれを報告した。

「コウチュウ殿がただ一騎、東へ駆けて行きました!逃亡かもしれません!」

「・・・いや違うな。それよりもチョウホウとカンコウと呼んでくれ」

飛んできた二人にリュウビは言った。

「昨晩、諸将老いたりと私が言ってしまった。そのせいでコウチュウ殿が朝から行ってしまったのだ。だが、

ただでは帰らぬだろう。程ほどに武功を上げてもらったら二人で止めて帰って来てくれ」

そう言われた二人は500騎ばかりを連れて後を追った。

「しかし叔父上のあの優しさ・・・いいのう」

「あぁ。俺達も年を取ればああなれるのかな?」

「分からん・・・」

「しかしコウチュウの爺さんには驚くな。74歳にして5キロの肉を食い3人張りの弓を弾く」

「化物だな」

「お、いたぞ」


コウチュウは江南の陣の前で叫んでいた。

「ワシは蜀の将コウチュウだ!老いたりとは言え、ワシの首はさぞ価値があるだろう!腕に自身のある奴は出て来い!」


「しかし、なんて大声だ。ほんとに爺さんかあの人」

「はは、む、出てきたぞ」


陣から出てきたのは矛を持った武者であった。が、3合と合わさぬ内にコウチュウが胴を貫いた。

「どうした!江南の将はヘナチョコばかりか!」


「しかし、早いな爺さんの薙刀は・・・オレは勝てんぞ・・・」

「む、また出てきたぞ、今度の奴は強そうだ」


またも陣から出てきた将は大薙刀を持っていた。

が、やはりコウチュウが完全に圧倒し、その将は逃げていった。

コウチュウが追おうとする所を二人が止めに入った。

「いや、すごかったです!コウチュウ殿!」

「ここまでやれば充分でしょう。さぁ、叔父上がお待ちです。一緒に帰りましょう」

「何を言うか!このヒヨッコ共が!あの薙刀が見えんのか!あれこそカンウ将軍の持っていた青龍円月刀じゃぞ!

あれと100合もぶつかりあったワシの目に狂いは無いわい!」

とそれを聞いたカンコウは目の色が変わった。

「分かりました!コウが奪い返してきます!」

そう言うと単騎で逃げた将を追っていった。

チョウホウは戸惑ったが、500騎に後方を任せ退こうとしたが、江南から突撃され、ぶつかり合った。


カンコウは必死になって追いかけた。人よりも目は効くのでその将の背中だけを見続けていた。

森の中に入り、見失ったら最後である。だが、やがて見失ってしまった。

それからも森を彷徨い駆け続けたがとうとう見つけられず、迷子になってしまった。

やがて夜になり自分は食わずとも馬には水をやらねばならず、動揺していたが、やがて一軒の家を見つけた。

カンコウが尋ねると、中からは実直そうな男が一人出てきた。

「誰かな?」

「は、蜀のカンコウと申します」

「カン・・・」

というとその男の裏にカンウがいた。

「父上!!!」

「む、お主はカンウ様のご子息か」

よく見るとそれはカンウの絵であった。

「実は私、カンウ様の納めていた襄陽に住んでいた者で、カンウ様が死んだと聞き、自暴自棄になりこんな所に

一人住んでおりました・・・」

「そうでしたか・・・」

そうしてカンコウは馬に水をもらい、男から酒と料理を馳走してもらった。そうしてカンウの思い出話等を語り合った。

すると、戸を叩く音がした。

「こりゃあ!ワシは江南のハンショウである!迷ってしまい難渋しているのだ!水と食料を寄越せ!」

その名を聞いてカンコウはハッとした。追っていた将の名であるのだ。

カンコウは戸を突き破り突進したが、ハンショウは髪一重で避けた。

「やや!貴様は!」

「カンウが2子、カンコウだ!父の仇だ!」

それを聞くとハンショウは逃げ出した。今度見失ったら最後、出てこないであろうとカンコウは必死に追いかけたが

ハンショウは突然、宙を切り出した。

「おのれ!カンウ!迷ったか!!!」

カンコウはそれを見たが、構わずに斬りかかった。

「血迷うなハンショウ!カンコウはここだ!」

と、ハンショウの首を斬り、その手から青龍円月刀をもぎ取った。して肩膝を付いて

「父上、どこにいるか分かりませんが、刀はコウが預かりました!」

と祈った。


チョウホウは慌てた。

蜀兵は500騎しかいないのに敵陣からは次々と兵が出てくるのだ。

右に左に矛を振り回しコウチュウと共に戦ったが、大量の矢が降ってきて、散り散りになった。

だが、そこに騒ぎを駆けつけたリュウビ本体が到着し、江南の兵を薙ぎ倒した。

そこでリュウビは地に倒れているコウチュウを見つけた。

「コウチュウ殿!!」

肩と胸を貫かれて、顔は真っ青になっていた。

「コウチュウ殿、私が将老いたり等と言ってしまったばかりに・・・」

「いや、いいのじゃ。ワシは元より、長沙で死ぬ所をカンウ殿と婿殿に救われ、さらにひ孫を抱き・・・

あぁ。今の陛下の手が幼き日の父の手の様じゃ・・・」

リュウビはコウチュウの背中を撫で続けたが、やがて優しい顔になったコウチュウは息をしなくなった。

そこに、チョウホウが来た。涙を拭いたリュウビは

「いや、ご苦労であった」

「カンコウがいないのです」

「なんと!・・・お主達は今の若さで死なせたくない・・・なんとか見つけ出してくれ!」

「はっ!」


だが、いつまで経ってもカンコウは見つけられなかった。

蜀軍はそこに留まっていたが、再び江南の軍が進んできた。

かなりの大群であったが、チョウウンも前線に出てきてチョウホウ・ゴハンの奮戦により

難なく追い返した。チョウホウは最後まで追いかけたが、不思議な事に敵が帰ってくる。

見ればカンコウが逆走しながら薙刀を振り回していた。

「カンコウ!」

「おお、見ろ!親父の刀だ!」

「やったな!」

「あぁ!」

と二人で蜀陣へ戻っていった。


これまでの蜀の攻撃で襄陽ももはや目前、南郡も、南蛮軍によって半分以上が壊滅していた。

被害も兵10万以上がやられており、江南では会議が繰り返されていた。

「全く、リュウビめ!どこまで突っ込んでくる気か!」

「此度の戦はカンウの弔いでございましょう・・・」

「むう」

「私が使者に立ちます」


そう言って蜀陣に来たのはコウメイの兄、ショカツキンだった。

「陛下、お久しぶりでございます」

「いや、陛下は止めて下さい。ゲントク、中身は変わっておりません」

「そうですか・・。では皇叔殿、何故、我らが領土を侵すのですか?」

「何故とは・・・決まっておりましょう。カンウ親子と、チョウヒの弔いでございます」

「どうすれば兵を引いて頂けますのか・・・」

「決まっていましょう。カンウ親子とチョウヒの死に関わった者の死を持って此度の戦は終わります」

「・・・・分かりました」

そう言うと早々に江南へ帰っていった。

翌日、ショカツキンがシュゼン・チョウタツ・ハンキョウを縄で縛り、蜀陣へやってきた。

その3人をチョウホウとカンコウに斬らせ、それを見たショカツキンは改めてリュウビに話しかけた。

「さて、これで兵を引いて頂けますかな?」

「ははは。何を戯けた事を!」

「はて・・・。ハンショウ・リョモウ将軍は既に亡く、たった今、シュゼン・チョウタツ・ハンキョウも

斬られました。これ以外に何を望むというのでしょうか?」

「なに、カンウを斬れと命じたソンケンの首がまだでしょう」

これを聞いたショカツキンは明らかに血の気が引いており、飛んで帰って行った。


これを聞いたソンケンは激怒した。

分けの分からん族に領土を奪われ、言われるがままに、ただただ将を斬られ、それでも足らずに首を出せという。

「もう生かしてはおけん!」

そう言うとリクソンを呼び出した。

「リクソンよ。お前はカンウを捕らえた筆頭の仕事人であろう。なぜリュウビに追われぬのか?」

「はぁ・・・私はすぐに副将を外された能無しで、名も無いので相手にされていないのでしょう」

「むう・・・では名をやろう。大都督に任命する!」

「は・・・・」

抜群の取り立ててあった。

今でいう、自ら進んでニートをやっていた者が総理大臣になっちゃった的な人事であった。

「さて、リクソン。いや、大都督よ。リュウビを追い返してほしいのだが・・・」

「はぁ・・・」

「はぁではないわい!もはや魏とも同盟とは名ばかり、兵も10万以上はやられ、江南存亡の危機なのだぞ!」

「はぁ・・・」

「まったく!とにかくお前だけが頼りなのだ!」

「分かりました・・・」

「リュウビを討ち取れるな!?」

「・・・惜しい人物ではありますが・・・」


リクソンは直ぐに兵を纏め上げ、将を集め会議を開いた。

「此度、私が都督になったので皆さんに作戦を伝えます」

「・・・」

「私が恐れるのは、コウメイ殿が蜀陣に入ってくる事です」

「・・・」

「さて、どうするとコウメイ殿が来るか・・・」

「・・・」

「リュウビ殿を苦戦に陥れるとやってきてしまうでしょう」

「・・・」

「なので、一瞬でリュウビ軍を壊滅させます」

それまで黙っていた諸将は怒った。

「そんな事が出来るなら最初からやっとるわい!!」

だが、リクソンの右手のシュウタイが抑えた。

「いや、カンウの軍を破ったのもリクソン殿の策によってなのです。皆、黙って聞いて下され!」

シュウタイは実績もあり、実直な男だったので、この言う事は聞いた。リクソンは続けた。

「はい。では作戦ですが・・・我々は・・・」

「・・・」

「我々は・・・」

「・・・・!!早く言って下され!!!」

「はい、すみません。我々は、何もしません」

「は!?」

「蜀の兵はこの長旅で疲れています。また、半数の5万は南蛮族の合力であり、これは領土の切り取りを

楽しんでいるだけです。これにはショカツキン殿に使者に立っていただき、南郡の一部を差し上げて、帰って

もらいましょう。そして、何もしないというのは、暑さを待ちます。長旅と暑さにやられ、兵の士気が下がった所を

見たら、いっきに大群で囲み、火を放ちます。また、その頃までには蛮族も消えているでしょう。ですから、

今回の敵は蜀軍では無く、待つ事に怒りを感じる事です。ですので皆さん、落ち着いて・・・ゆっくり・・・

待ちましょう」


こうして江南軍は蜀陣の遠方に陣を敷いた。

蜀軍もコウチュウの死と長旅の疲れから、戦を仕掛ける事は無かった。


チョウホウとカンコウは水練をしていた。

というよりも暑さに敵わず川に漬かっていた。

「しかし、あれだな。ヒマな戦になってしまったな」

「あぁ、皆、疲れているな。俺も疲れてきている」

「しかし、叔父上がソンケンの首を寄越せだなんて、良く言ったのう」

「はは。だが冗談であろう。皆もそう言っているし、そろそろ帰るか?なんて話も出ている」

「あぁ・・・。だがそれは士気が無いという事じゃないか?」

「そうだな・・・だが、江南も攻めてくる様子もないしな・・・」


やがて蜀陣内では、戦も終わりかという雰囲気が出てきた。

リュウビも何度か攻めてはみたが、硬く守られ、逆に手痛い反撃を受けて帰ってくる。

さらに熱さも最高潮に達し、蜀陣内では病に倒れる者も出てきた。

ゴハンがリュウビに言った。

「陛下、もはやソンケンの首以外は全て果たした。もう充分ではなかろうか?」

「あぁ・・・だが、まだソンケンと聞くだけで闘志が奮い立つのだ」

「むう。向こうもいつまでも出てこないし、兵も疲れてきておるようですぞ」

「そうだな。私もそれは感じている・・・。ゴハン」

「は」

「皆を連れ、帰ってくれ」

「陛下は?」

「私は思うところがあり、まだ帰れぬ」

「それでは誰も帰らぬでしょう」

「それでは私が困るのだ・・・万が一という事もある・・・」

「むう・・・」


もやもやとした雰囲気が立ちこめ、暑さも極まり、やがて忠誠心の高い蜀兵も逃げ出す者が出た。

ゴハンは再びやってきた。

「陛下、もうこれでは戦になりません!」

「あぁ・・・」

「皆、蜀に帰ろうと口々に言っていますぞ!」

「だから言ったではないか、皆をまとめ帰って良いと」

「むう!!!」


やがて逃げ出す兵は万を越え、士気など皆無となっていた。

さすがにリュウビも戦を終える決意をし、諸将に伝えた。

「皆、済まなかった。もう私も考えを決めたのだ。明日、明るくなったら全てをまとめて引き上げよう!」


その夜、チョウホウとカンコウが再び川で遊んでいると、川を見つめるリュウビを見つけた。

その背中は非常に小さく見えたので、声を掛けられずにいると、やがて遠くで火の手があがった。

「叔父上!!!我が陣が燃えています!」

それを聞いてリュウビが川を出て丘に出ると轟々と炎が風を呼び蜀陣を焼いていた。

陣の警備を任せていた蛮族はどこにも姿は無く、それに唖然としていたが、やがて我に返ったリュウビは

剣を抜き

「放ってはおけぬ!」

と泣きそうな声で炎に向かおうとするのを二人が必死で止めた。


やがて落ち着いたリュウビを二人が先導し引き上げていると、後方から大群が押し寄せてきた。

「叔父上!早く逃げて下さい!」

チョウホウとカンコウが必死で抑えていると、その大群を横から騎馬隊が貫いていった。

「チョウウン将軍!!」

「早く行け!陛下を必ず守れ!落ち行くは・・・・白帝城でよかろう!!!」

そう言われて二人はリュウビの手を引き逃げて行った。


蛮族は消え、逃げた兵を除けば蜀陣内には1万の兵もおらず、これを江南が5万の兵での火計を実行した。

白帝城まで戻ってきたのは諸将と2千ばかりの兵だけであった。

快進撃を続けてはきたが、最終的には元の境界線まで追い詰められてしまったのであった。

その沈みきった蜀軍を見て、江南は完全に兵を引いていった。


この日からリュウビは床に伏せてしまう。

飯も食えず、明日とも知れぬ状態だったが、成都からコウメイが飛んできた。

それを見たリュウビは体を起こしたが、コウメイの握ったその手は、全く力が入っていなかった。

コウメイはこれを察知し、リュウビの2・3子であるエイとリと連れて来ていた。

だが、リュウビは目が見えていなかった。

「さ、若君達、父上が及びですぞ」

と気を使って言うとリュウビは

「エイとリが来ているのか!」とあらぬ方向を見ながら、手を広げた。

そこに二人は乗っかった。

「おお、こんなにも大きくなったのか。エイはいくつになった」

「7つになりました」

「するとリは6つか。どうだ二人とも、学問はしているか?」

「はい、母上(ゴケイ)に教えてもらい、毎日が勉強です」

とエイが答えた。そのしっかりした答えにリュウビは満面の笑みを見せた。

だがリは答えなかった。

「む・・・答えないリは勉強が嫌いかな?」

「・・・リケイ先々が厳しいのです!」

過去、カンコウと共に成都に入ったリケイはゴケイが面倒を見ていた。その利発さを見抜き、学童の手伝いをさせていた。

「ははは。そうか。でもそれはお主が私の子だからこそだ。普段は優しいであろう?」

「はい!大好きです!」

と、そこにバショクが入ってきた。

「陛下!急病だと聞き、バショク、只今ご拝顔に参りました!」

「ん、バショク・・・おお、そうかい」

とあまりの素っ気無い返事にコウメイは慌て、

「ささ、陛下はお疲れだ。皆、戻るがいい」と人を払った。


コウメイが来てからはリュウビの顔色も良くなったが、空咳が続いていた。

人のいなくなったのを感じてリュウビが口を開いた。

「私は、人を謗るのは好きではない。また、コウメイ殿の御眼鏡に叶った人物なので言いにくいのだが・・・」

「はい、何なりと聞きましょう」

「どうも、わしはあのバショクを好きになれぬ。才は並々ならぬものがあるが、言葉が実を過ぎるのだ・・・」

「・・・はい、覚えておきましょう」

「また、悩みがる・・・」

「はい」

「跡継ぎの事だ・・・」

「・・・」

「私はこれまでトウケン殿、リュウヒョウ殿を始め、家督の問題に口を挟んできた。長子を廃し、次子を立てると災いが起こると」

「はい」

「そんな私が、どうして禅を廃し、永を立てよ、等と言えようか・・・」

「・・・」

「いや、禅が悪いのではない。学はある。むしろ利にも聡い。だが人間が虚ろだ。あれでは蜀に未来は無い!」

「・・・」

「だから、永を跡次とし、コウメイ殿に支えてもらうのが最善だと考えていた・・・いかがなものでしょうか」

「陛下が、無念にも倒れたのであれば、このコウメイも生きている価値はありません。ですが、ご安心下さい。

勝手に命を投げ出すような事はしません。跡継ぎが誰であろうと、このコウメイは命の限り、お守りし導いて見せます。

今は、どうかご自愛下さいませ・・・」

するとリュウビはふーと息を吐いて寝息を立てて眠りに付いた。

だが、その呼吸は深刻なまでに遅く、コウメイはずっと手を握り涙をこらえていた。


丸一日寝ていたリュウビが目を覚ますと、寝ずにいたコウメイはずっと手を握ったままでいた。

「コウメイ殿・・・チョウヒとカンウに会って来ました」

コウメイには返す言葉が無かった。

「早くこっちに来て飲もうと言ってくれている・・・。皆を呼んでくれ」

すぐに全員を集めた。

そこでリゲンに遺言状を依頼しリュウビは語った。

「エイよ、リよ、これからはコウメイ殿を父とし、必死に学ぶのだ。チョウウン、世話になりっぱなしであったな。先にハクゲンに

会ってくる。チョウホウ・カンコウよ、励めよ。父達に負けるな。コウメイ殿、私は幸せであった。

ウンチョウとヨクトクを得て、良き仲間に囲まれ、コウメイ殿にも会えた。恵まれすぎた人生であった。

どれ、ウンチョウとヨクトクが杯を掲げておるわ・・・今行くぞ」

そう言うと事切れた。

「陛下!」

「父上!」

侍女達の泣く声が響いた・・・。


母のゴザ作りを手伝いながら、生を立て波乱の人生を突き進んできたリュウビは、ついに成都に戻る事なく息絶えた。

63歳であった。


やがて一行は成都に帰還し喪に伏した。

喪が明け、コウメイが長子リュウゼンを帝位に付かせ、チョウウンを大将軍とし新たに蜀を作り直した。


だが、蜀のリュウビの死という報を、魏は黙って見ておらず、シバイが総勢40万を越す五路からの進行を繰り出した。

これは南蛮、侠族、さらには江南の軍も含めての大軍団でリュウゼンは即位早々に絶体絶命の危機に瀕した。


リュウゼンは慌てふためき、コウメイを呼んだが、コウメイは会議にすら参加せず、

ただ自宅の庭にある湖を眺めているだけだった・・・。

カンウ親子の死によって、やがてリュウビは床に伏せた。

江南ではハンショウが、捕らえた褒美としてカンウの青龍円月の薙刀が与えられた。

シュゼンにも赤ト馬が与えられたが、カンウの死以降、秣を食わずに後を追うように死んでしまった。

また、ソウソウ軍でも大きな事件が起こった。

カンウの首だけを埋葬するのも失礼かと、ソウソウは許昌付近の御神木の木を削り、体を作ったのだが

その木の香り、色が素晴らしく、建設予定のソウソウの行宮所の棟木にすると決めた。

ところが、大工が血相を変えて飛んで帰って来た。

「大王様、御神木に斧が通りません!」

「そんなバカな事があるか!」

と、ソウソウがその木の元に行くと一人の老人が御神木の前に立っていた。

「この木は100年以上もこの地にあり、精霊が宿ると言われています。先日のカンウ様の体に使うと

言ってこの木を削った者もいましたが、それ以降、精霊は怒り鉄の如くなっています。前回削った者は

亡くなりました。どうか、これを伐ろう等として大王の身に恐れがあってはいけません。お考え直しを」

「何を戯けた事をぬかすか!」

そう言うと老人を突き飛ばし、ソウソウは剣を抜き様に斬り付けた。さすがにソウソウの持つ名剣なので傷は付いた。

だが金属音が響き、木の切れ目からは人の血が噴出している。

「なんだ!面妖な!!」

そう言ってもう一度斬り付けると深くまで刺さったが、大量の血が噴出し側近や老人達まで真っ赤に染めた。

さすがにこれには耐えられずソウソウは剣を置いたまま逃げてきた。

その晩からソウソウ持病の頭痛が酷くなり、薬をも飲めない程であった。

そこに名医:カダを呼ぶと、

「これは脳に腫れ物があり、直す為には骨を削り刀で腫れ物を取り除く必要があります」

「何だと!ワシの頭を切り裂くというのか!」

「はい、これ以外に治療法はございません。放って置けば、今のまま、でございます」

「死ぬかもしれんな・・・」

「五分五分でございます」

「考える・・・時間をくれ」


ソウソウを文字通り頭を抱えた。

いずれ来るだろう強敵は、江南でもリュウビでも無く、持病の頭痛だった。

そんな時、リュウビがソウソウを論じた事もある、持ち前の猜疑心が頭を駆け巡る。

「あのカダという医者はカンウの腕を治した事があるという。もしカダがリュウビに取り入っていれば・・・」

さらに夜、ソウソウは寝室で暴れていた。

御神木の前にいた老人が壁を通り抜けソウソウの部屋に入ってきたのである。しかも手にはソウソウの捨ててきた剣を

持っている。

ソウソウは大声で助けを呼ぶか、誰一人として来ない。逃げ回っていたが、やがて肩から袈裟切りに斬られてしまい、

それに放った自分の叫び声で目が覚めた。して夢かと、ほっとすると同時に、目の前にソウソウの剣が置いてあり、

ソウソウの寝巻きだけが袈裟切りに切れていた。

すると、今度は今までにソウソウが殺してきた者達がソウソウを取り囲んでいた。

「首を返してくれ」

「体を寄越せ」

ソウソウは剣を手に取り、邪念だ!と切りつけるが空を切るばかりで、斬れるのは寝室の柱だけであった。

それにより天井が落ち掛かり、掛け付けた側近に支えられてソウソウは幻覚から醒めた。

以降、ソウソウは急激に衰えを見せ、子供達25人を呼び、跡継ぎは長男のソウヒとすると事切れた。

一校尉から身を上げ、奇計によって身を上げ、背く物には容赦なく、民には仏の如く当たり、

生死の淵を何度となく歩いて来たソウソウはここに沈んだ。66歳であった。


長男のソウヒを跡継ぎにする事は誰にも異存は無く、それにより体制は大きく変わった。

ソウヒの守役であったカキンが丞相の位に付いた。そのカキンが、ソウヒに帝の位に付けという。

さすがのソウソウも帝になる事は考えなかった。元が漢朝の臣であった為、そんな事は考えすらしなかった。

だがソウヒは違う。子供の頃からソウソウに諂う帝を見ており、漢朝にはなんの愛着も信念も無かった。

これを受け入れ、帝の愛娘二人を無理矢理にソウヒの妻とし、帝を地面に平伏させ、帝の背を踏んで座に着いた。

そして国号を魏と定めた。

ただ、これを老将カクが見るに耐えず、カキンとソウヒを叱咤したが、効果も無かった。

挙句の果てに、帝を外に放り投げた。それを見たカクはとうとう声を荒げた。

「なんという浅慮だ!帝がそのままリュウビを頼って行ったらどうする!リュウビが檄を飛ばし、我等はただの

簒奪族になるぞ!江南にも、この魏にも漢朝の忠臣も大勢いるのだ!それらが一同に手を組めば魏など一握りだぞ!」

「それは・・・じゃあどうすれば良いのだ?」

「もうここまでやってしまっては仕方が無い。せめてリュウビもソンケンも簡単には伺えぬ遥か北東の地、北平にでも

やり、余生を全うさせてやるのだ」

ソウヒはこれを受け入れ、元・帝(リュウキョウ【劉協】)を北平に住まわせた。


だが、これはリュウビには正確に伝わらなかった。

「ソウヒ・サンシイス」(ソウヒが帝を殺し、帝位に付く)

「何たる事か!」

カンウの死後、寝込んでいたリュウビは力強く起き上がった。

コウメイは、それを見て安心し、病人のようなリュウビの国を立て直すために、また漢朝の劉族を絶やさぬ為に

リュウビに帝位に付く事を提案したのだった。

リュウビは断固拒否したが諸将の強い勧めと、コウメイが力強く押したので、リュウビはこれを認め、国号を蜀とした。

これにより、蜀では大変なお祭り騒ぎとなった。


だが、その式典の最中もリュウビにはカンウの死を忘れる事も出来ず、チョウヒも同じだった。

その式典を遠くから見ている若者が二人。

チョウホウ(チョウヒの長男)とカンコウ(カンウの次男)であった。

二人とも20歳となり、元服も済ませ、将として認められた。

昔から二人とも大きかったが、それは留まる事を知らず、立派な将軍となっていた。

二人で武芸・勉強・兵法さらには恋路まで争い、互いに最大の宿敵であり友であった。

式典を見ながらチョウホウが嘆いた。

「いや、コウメイ先生には驚かされるな。死人のようだった蜀を生き返らせた」

「あぁ。これで元気になってくれれば良いが」

「ただ、あんまり浮かれておれん」

「どうしたのだ」

「さっき親父の所に行ってきたのだが、この式の最中だと言うのに酒を飲み続けている。しかも周りも止めようとしない。

むしろリュウビの叔父上に至っては、それを虚ろな表情で見ている・・・。大体、叔父上はやれ、キュウさんが死んだ。

カンウが死んだ。帝が死んだ、と食うものも食わん。・・・やはり特に、お前の親父が忘れられんのだろう」

「それは、俺が仇を討つと言ってやったのに・・・」

「いや、義兄弟の契りというのは、俺たち親子の繋がりよりも長いのだ。30年だ。30年」

「むう・・・。だが、今やお前の親父も大将軍で、リュウビ叔父上に当たっては帝だぞ?それを・・・

一国の帝と大将軍が私怨で兵を動かすというのか?」

「そんな事があって溜まるか!だが・・・この先の蜀はどうなってしまうのか・・・」

「わからん・・・」

「またおまえは分からんか!」

「分からんもんは分からん・・・が、大丈夫だ!コウメイ先生がそんな事を許す筈がない。お前らしくないぞ」

「そうだといいのだが・・・」


チョウホウはチョウヒに似て大胆に、豪胆に育っており、得物も同じ鉄の矛を使っていた。

そんなチョウホウが不安になる程の、蜀の帝と大将軍の振る舞いであった。


式も終わり、リュウビが部屋にいると、チョウヒが入ってきた。

「やあ、陛下!」

「ぶっ。その陛下はやめてくれ。お前に言われると可笑しくて可笑しくて」

「そうだな!やっぱ兄者は兄者だ、どこまで上ったって兄者だ」

「どうしたのだ?」

「兄者、江南をこのままにしておくのか?俺は難しい事は分からんが、江南を攻撃するなと水が言っていた。

あいつは水か?水どころか氷だ!情なんて持ってないんだきっと!」

「いや、コウメイ殿の情は深い。ただ、それに押し流されぬだけだ」

そう言うとリュウビは立ち上がって話を続けた。

「また、帝が殺され、その帝位を守るべくこうして私は国を挙げたのだ。この意味が分かるな?私の立場は

いよいよ持って重くなったのだ、軽々と兵を出す事など出来ぬのだ・・・」

「それじゃあよう・・・」

「だがヨクトクよ!私はあえてコウメイ殿の意思に背こうと思う」

「なんだと!!本当か!」

「あぁ。お主とウンチョウと3人で必死に駆けてきたこの30数年は私の中ではもはや色褪せぬ。決意は決まったのだ」

「兄者ー!」

「そこで、兵なのだが、当然コウメイ殿にはお願い出来ん。で、私の手兵2万とお主の手兵1万。これは我侭も許されよう。

だが、3万だけでは江南には到底及ばぬ。10万は欲しい。そこで私は南にある南蛮のシャマカ殿とよしみと通じて5万の

合力を約束してもらった。勝ち取った江南の領土はそのまま譲るという条件付きでな」

「おお、裸足で戦場を駆ける勇猛な族と聞く。頼もしい限りだ」

「あとの2万は義兵を当てるが、これも既に集まっている」

「おおお!」

「ヨクトクよ、近いうちに様子を見て出陣する。カンウ親子の弔い合戦なのでカンコウを初陣させ、コウチュウ殿にも来て貰う」

「俺もチョウホウを出させるぞ。いや腕が鳴るぜ」

「ただ、心配なのはお前の酒だ・・・。最近は飲んでばかりだとキョウテイ殿も嘆いていたぞ」

「何、そうと分かれば自棄酒も無いわい!いつでも出陣出来る様に用意しておくぞ!それじゃな!兄者!」

そう言うとチョウヒは出て行った。リュウビの決意は固かった。

此度の戦は完全にリュウビの我侭である。だが、やるからには勝たねばとリュウビが地図を広げ戦術を巡らせていた。


その翌日。

チョウヒは部下のハンキョウ・チョウタツに白装束の用意を命じた。3日間の内に1万着という命令だった。

だが、すぐに2人は帰ってきてチョウヒに言った。

「このフ城は元より、近隣の町村にまで走りましたが、とても3日の内に1万着等揃えられそうにありません!」

「なんだと!!!こうしている内に兄者から出陣の連絡が来るかも知れんのだぞ!!!!」

「ですが、どうやっても・・・」

「黙れ!!」

そう言うとチョウヒは二人を殴り飛ばした。

「いいか!残り3日で1万着は絶対だ!!もし、揃わぬ等と申してみよ!その首を切り落とし出陣の生贄とするぞ!」

「ははー!」

とハンキョウ・チョウタツ両名は平伏したが、その殴られた顔の瞳には死から免れたい、という思いが詰まっていた。


その夜もリュウビは地図を広げて作戦を考えていたが、急遽、コウメイが部屋に入って来た。

リュウビは慌てて隠したが、見ぬフリをしてコウメイは話し出した。

「突然すみません、ですが伝えたい事がございまして」

「どうされたかな」

「はい、実は許昌へ放っていた間者から思わぬ情報が入ってきました」

「ん」

「劉協殿は生きておられます」

「なんと!!」

「場所までは分からぬと言っていましたが、老将カク殿の思い入れにより、殺害を避けたとの情報です。今もまだ、どこかで

暮らしているのでしょう。もしかすると、蜀を、リュウビゲントクを頼ってこちらに向かっているかもしれません。明日にでも

来るかもしれません・・・しばらくは外出を避けて下さい」

「なんと・・・」

「また、ソウヒが帝位に付く際、劉協殿を殴り飛ばし、地面に平伏させ、その背を踏みつけて座したと言います」

「何てことを!!!!」

「討つべきはソウヒです!これを聞いてソンケンも怒っている事でしょう。それだけではありません!全国から漢朝の忠臣が

立ち上がろうとしています!それをまとめられるのは陛下を置いて他にありません!!!」

「そうであったな・・・。許さんぞソウヒめ・・・!」

コウメイはこのリュウビの様子を見て安堵した。


だが、この後、事態は大逆転を迎えた。


「叔父上!叔父上!」

そう言って急に入って来たのはチョウホウであった。二人が唖然とする中で息を整えると

「父上が殺されました!」

「何だと!!!!!」

それを聞くやリュウビは力無く、机に寄り掛かった。

「昨日、出陣の為に白装束を部下のハンキョウ・チョウタツに用意させようとしましたが、これを二人が怠り、

それを叱咤し、殴り飛ばし、3日で用意出来なければ首を刎ねると言い付けたようです。これに焦りを感じた

両名は、衛兵には用があると伝え父上の寝室へ入り、寝ている首を斬り、首だけを持ち去ったようにございます」

「ど、どこへ行ったのだ・・・・」

「衛兵が言うには東の門より、川に入り船で向かったそうです。先には江南しかありません」

それを聞くとリュウビは力強く床を殴りつけた。


コウメイはチョウホウに母(キョウテイ)には首が無かった事は黙り、壮絶な謀反に合ったと伝えるように指示した。

リュウビは滂沱と涙を流し続けた。

コウメイはずっとその様子を見ていた。


やがて涙も枯れると、そこにいたコウメイに驚いたが、静かな声で言った。

「コウメイ殿・・・もうお止めくださるな・・・」

「・・・」

「カンウを死に追いやったハンショウ・シュゼン・ソンケン。さらに今のチョウヒの死の元凶ハンキョウ・チョウタツ。

もはやこ奴らのいる世界で等生きてはおれぬ!」

「・・・」

「もう止めないでくれ・・・」

と言われたがコウメイは静かに答えた。

「この蜀の丞相としては、多大な軍費を認める訳にはいきません」

「・・・」

「軍師としては江南に剣を向ける事には反対致します」

「・・・」

「ですが、このコウメイ。3兄弟の皆と触合い心癒され、4番目の兄弟のつもりでおりました」

「では!コウメイ殿!」

「ですが陛下!!!陛下がチョウウン殿と二人で私の屋敷に来た時の王道の志はどうされるのです!!!」

リュウビには答えられなかった。

今、義と情と道の間に挟まれている。

それでもリュウビは口を開いた。

「ですが、コウメイ殿。我が師ロショク先生は、情なくしていかに道が立つかと言ってくれた」

「・・・」

「それに、死にに行くわけでは無い。劉協殿の事も気になる。このまま私が終わって良いとは思っていません。

心行くまで暴れ、必ず、この成都に帰ってきます。必ずです!」

その言葉には今までに無い力が込められており、コウメイは溜息を付いた。

「では・・・出陣の10万ですが・・」

「し、知っておったのか」

「陛下と大将軍の手兵3万、これは良いでしょう。シャマカ殿の5万、これはあくまで別働隊です。残りの義兵ですが

これは私が預かり、代わりに陛下への忠誠心の厚い精鋭2万を付けましょう。また、チョウウン殿に糧秣担当をさせます。

これが今の蜀で出せる精一杯です」

「コウメイ殿!!!」

「陛下も還暦を迎えました。決してご無理をなさいません様に・・・」


やはり、コウメイも情の人間であった。

蜀内ではこの出陣をいぶかしんだが、賛成する者も多く、士気は高かった。


先方はチョウヒの副将であるゴハンが代わり、リュウビの左右にはカンコウ・チョウホウが並び、その後ろには

コウチュウがいた。さらにその奥にはチョウウンが精鋭を持って江南に向け、進みだした。


夏に入る前の晴れた日であった。

江南の軍勢が進軍を開始した。

それを聞いてカンウ軍も戦闘の準備を始めた。

準備が終わる頃、江夏が落城したとの情報が入ってきた。

カンウは

「どうしたことか・・・」と嘆いた。

「今回の軍勢は今までのロシュク殿ではなく、リョモウが総大将となっているそうです。

副将はリクソンという者ですが、これは今回始めて聞いた名前です」

「リョモウは分かる。江南の先代よりいた知勇ある将だ。だが、リクソンとは・・・」

「は・・・」

「まぁ良い、考えても始まらぬ。南郡にも戦闘の準備をさせよ」


江夏が落ちた所で、荊州全体が戦闘準備を整えたが、江南の軍はそれ以上には踏み込んでこなかった。

「ん。これはバリョウの策が効いたかな・・・」

「かもしれません。ですが準備は怠らぬようにしましょう」


これまで江南はシュウユが死んでからはロシュクがその跡を継ぎ、大都督となっていた。

シュウユ、いや江南の悲願である荊州の奪還に励んできたのだが、襄陽に兵を進めると、

すぐにカンウ軍の大船団が現れるので、ロシュクはそれを見て恐れ、あるいは真っ向勝負の不利を見て

逃げ続けてきた。

やがてロシュクが病で倒れると、その跡をリョモウが継いだのだが、やはり大船団には抗しようも無く

逃げていった。

今回のリョモウ軍の進軍も同じであった。

ただ違ったのは副将がリクソンという新しい者が出てきたという事であった。

21歳でソンケンの従姉妹と結婚し、江南に仕えるようになったが、性格は温和で・・・

というか温和過ぎて、頼りない程であった。だが、その頭の中身はシュウユを思わせるような思考をしていたが

そうかと思うと、やはり頼りなかった。その為に重用される事はなく、大人しく時を過ごしていた。

この時、リクソンは36歳で、初めて戦場に出た。


カンウが南郡でも準備をさせていると、公安から火の手があがった。

失火か、放火か、カンウを始め大勢の人で消化に当たったが、民家を500戸焼き、食料も武器も丸焼けになった。

原因は、兵が火の始末を怠った事であり、太守のフシジンはその部下を切り捨てた。

だが、その部下だけを処分する行為に怒りを感じたカンウはフシジンの斬首を命じた。が、カンペイに猛反対された。

「これが敵将の首なら反対はしませんが、この荊州の大事にそんな事をしては全体の士気に関わります」

「むう・・・では棒叩きの刑とする」

「・・・回数は」

「好きにせい」

そう言うとカンウは赤ト馬に跨り襄陽へ帰っていった。

カンペイは兵に「30・・・いや20でよい」と言って刑を見届けたが、カンペイの温情はフシジンには伝わらなかった。

呻き声一つ出さなかったが、大の大人が裸にされ民衆の前で棒で叩かれるのだ。

フシジンの目には恨みが篭っていた。


やがて江南からの軍も引き上げて行ったとの知らせも入り、戦は中休みとなった。

そこに早馬が届いた。シュウレイが男の子を産んだのである。

「おおお!でかした!!玄昭、丁度戦も休み中じゃ、顔を見てこい!」

「何を言いますか。父上の怪我を放っていけるはずもありません。それよりも名を考えていただかぬと」

「名なら決まっている。舅殿と話していて決まっているのだ。舅殿の名を頂いて関忠(カンチュウ)じゃ!」

「カンチュウ・・・良い名でございます」

「薙刀はワシが仕込む。弓はやはり舅殿に教えてもらわんとな!」

「ですが、父上、江南が気になります・・・」

「そうだな」


その休み中、江南ではリョモウとリクソンが話し合っていた。

「なぜ、あのように素早く大船団が出てくるのだ。我らの中に間者でもいるのか!」

「さぁ・・・」

「さぁでは無いわい!お主も軍師であろう」

「と言いましても、初めての戦ですので・・・」

「むう、ソウソウからも毎日のように使者が来るのだ。何故攻めぬのかと!これは荊州の分捕り合戦なのだ!

いつまでもこうしていたらソウソウに取られてしまうわい」

「はぁ・・・」

「はぁでは無いわい!!全く・・・」


だが、この時リクソンは必死で襄陽の作戦を読み取ろうとしていた。

不自然な程に素早い出陣なのだ。

そこでリクソンの部下のシュウタイと共にある作戦を練った。

「シュウタイ、一度、我らは荊州の奥まで単身で入り込むぞ。明日の昼、正午丁度にここから味方に出陣してもらう。

だが、これは虚兵だ。ボロの船に旗を刺して、数だけ有ると思わせるのだ。そこで敵地から見て、この異様なまでの

出陣の早さを見極める」

「わかりました」

そう言うと、軍の用意をさせ、野良着を着て荊州の山中に入っていった。

中でも火事があったと聞いていた公安までは兵も少なかった為、簡単に入り込めた。


やがて正午の鐘が鳴った。

リクソンは目を閉じて呟いた。

「今、我が軍は江夏を出た・・・」

すると、江夏からすぐの川沿いから烽火が上がった。かと思えばその川の対岸から烽火が上がり、それは

襄陽の方へと続いていった。最後には公安の見張り番の小屋まで届き、各地から一斉に兵士が出てきた。

「なるほど、川を挟んで烽火台では無く、人が烽火を上げていたのだ。人であれば我らが調査しても何も出てこぬ。

しかも交互に上げている為、見落としも無い」

やがて出てきた兵は船を出し旗を立て、一挙に川を下っていった。

「なるほど・・・すごい数ですね」

「あぁ・・・これでは我が軍も相当な痛手を負うな・・・」

「はい・・・」

「いやまて!おかしいぞ!!今の船は兵が乗る前に出発した!」

と言ったリクソンは自分で気付いた。

「我らはこれを見破る為に虚兵と船を使って入り込んだが、カンウは初めからこれをやっていたのだ」

「なんと」

「この空の船にロシュク殿もリョモウ殿も怯えていたのか・・・。だが、もう知れた事だ。それに烽火を上げている人数よ。

襄陽までの兵を合わせても5千にも満たぬ・・・・」


リクソンは帰ってこれをリョモウに報告した。

「でかしたぞ!リクソン!それでこそ我が軍師だ!」

「はい、ですが、虚兵とは言え武装しており我が方もタダでは済みません」

「む・・・」

「孫子も戦わずして勝つことが最善としています。それが敵であってもです」

「戯けた事を言うな。敵の兵まで庇ってどうする」

「・・・」

「いや、お主に任せるワイ」

リクソンは公安の火事の現場を見て、帰り際に領民に仔細を聞いていた。その中でもフシジンの心はカンウから離反している

事を知り、江夏から出て、公安まで一気に駆け抜ける事に決めた。

この準備をしている為に、カンウ軍では戦の中休みと勘違いをしていたのだった。


やがて、江南の軍は江夏を出た。空の船を打ち破り、怒涛の如く公安までを一挙に制圧した。

するとリクソンは危険を顧みずフシジンに接触し、説き伏せ完全に離反させた。

そのフシジンに他の南郡3城の太守だけを殺させ、江南軍が一気に押し登り、一夜にして南郡4城は江南に落ちた。

それからリクソンは南郡全ての政治を取り仕切り、全領民を慰撫した。

多大な費用を掛けてでも、元、敵であった領民を思っての政治は南郡の心をかき集めたのだった。

とりわけ、カンウ・カンペイ将軍の縁の者として、子を産んだばかりのシュウレイには優しく当たった。

この金の使い方に江南の、特にリョモウは不愉快感を感じた。

「おい、リクソンよ。どうしてそこまで金を掛けるのだ!兵からも苦情が来ておるぞ」

「はい、ですが、カンウの軍は全て荊州の兵です。どうして故郷に剣を向けられましょうか」

「む・・・?」

「もうしばらく、目を瞑って下さい」

「分かった分かった・・・」

だが、止む気配の無いリクソンの金の使い方に怒りを覚えたリョモウはリクソンを副将から外した。

それでもリクソンは自身の金を使ってでも南郡の4城の善政に勤めた。また戦の無い世にしようと声を掛け捲った。

リョモウは江夏から10万の大軍を持って襄陽に攻め上った。


江南が南郡を落とし、領民を慰撫している。

これは総大将であるリョモウも分からぬ行動であったが、誰よりも理解していたのはカンウであった。

「南郡を取り仕切っているのは誰か?」とカンペイに聞けば

「リクソン・・・だそうです」

「リクソンか・・・。こうなれば仕方が無いが成都の援軍を借りる他無くなった。イセキ行ってくれ」

急ぎ、イセキはモウタツの所へ行き、すぐにイセキは帰ってきた。

「モウタツ殿は杯一杯の水で山火事が消せるのかと難色を見せていましたが、カンウ殿が皇叔の兄弟である事を

説き、何とか承諾してもらいました。10日以内に荊州に入れるそうです」

だが、20日経っても援軍は来なかった。

モウタツは死を恐れ兵を出さずにいて、リュウビ軍にいる事も出来ず、襄陽を素通りして手兵1万を連れて

ソウソウ軍に降っていたのだった。

これを知り、カンウ軍は襄陽で孤立無援となった。

襄陽の外では、南郡から来たものが口々に戦を止めろと叫んでいる。

これはリクソンが戦の無駄を説き、それを真に受けた領民が自発的に行っている行為だった。

これを受けて襄陽の兵は日に日に城を抜け出していった。

「止めるな・・・元が荊州の兵だ・・・」

「ですが・・・」

「もはや荊州の領民の心を掴んだリクソンには勝てぬ・・・」

「はい・・・」

「死んでもここを守りたい所だが、ワシには兄者と結んだ約束があるのだ。死ぬわけにはいかん。成都に落ちる。

今日の深夜、西の門より成都に行くとしよう」

「分かりました。諸将にもその旨、伝えて参ります」

「宜しく頼んだぞ。だが、玄昭、お前は成都には行かせん。リクソンとやらとよしみを結び、シュウレイとカンチュウを

守ってやるのだ」

「何をたわけた事を。妻子にかまけて生きていける筈がありません」

「残れ」

「残りません」

「残れ!」

「残りません」

「養子だから言う事が聞けぬと言うのか?」

「・・・・」

「残れ」

「・・・・・はい」


その晩、カンウはひっそりと西門から出た。

後ろを付いてくるのは100騎ばかりであった。

カンウが振り返ればすぐカンペイがいた。

「・・・やはり来たか・・・」

「・・・」


敗軍の将は何も語らず。ただ黙々と馬を進めていたが、その道には坂茂木が仕掛けられていた。

(馬の足を止める柵・罠的なもの!w)

カンペイが近寄り調べると、

「父上、これは昨日今日仕掛けられたものではありません」

「むう。もはや別な道を行っても同じであろう。迂回してでもこの道を行くぞ」

と、回り込むようにして進軍を続けたが、やがて高原に出た。あちこちに坂茂木が仕掛けられており

さらに伸びきっている草は馬上でも視界が遮られる程であった。伏兵を仕掛けるにも絶好の場だった。

「玄昭・・・万事休したな・・・」

「・・・」

「皆の者!我らは死地に陥った。遠からず伏兵が来るであろう!各自成都に落ち延びて、再び皇叔に

忠心を尽くしてくれ!」

とカンウが号令すると同時に四方から縄が飛んできた。

カンウは片手で薙刀を振り回し、カンペイも必死で縄を切りまくった。

が足元で馬が熊手により倒された。それでもカンウも必死に抗っていたがそこに敵将が出てきた。

「ははは、来たなカンウめ!我が大将リョモウの副将であるこのハンショウが捕らえてくれるわ!」

「何、副将はリクソンでは無かったのか!」

「問答無用だ!」

そう言ってハンショウは切り掛かったが、片手のカンウにも勝てず逃げていった。

だが、直後に大量の縄を投げられ、足を取られ腕を取られ、そこに力自慢のシュゼンがカンウに

乗っかった。片腕しか使えぬカンウはやがて胴巻きにされてしまった。

カンペイもすぐに馬から落とされ、それでも剣で縄を切り払っていた。

「父上ー!父上ー!!」カンペイは必死で縄を避け、伸びた草を切り、叫び、走り続けた。

縄を投げている者を探し、鬼のように切りまくったが、やがて縛られたカンウを見ると、その場で剣を離し降参した。


カンウとカンペイは縛られ、江夏まで送られた。

牢の中でカンウは本を読んでいた。

「兵は軌道なり・・・・思うに・・・む・・・玄昭、この字は何だ?年のせいか目が霞んでおるのだ」

「ん・・・誠でございます」

「思うに誠の道を・・・」

と言った所で牢に入って来た者が続けた。

「思うに誠の道を探し、やがて常道と悟るであろう」

(ごめんw文はさっぱり覚えてないですww)

カンウが尋ねた。

「誰かな」

「リクソンと申します。字はハクゲンです」

「おお、お主がリクソンか。此度の戦ではお主には完敗であった」

「勝敗は戦の常です」

そう言うと、剣も持っていないリクソンは二人の前に座った。

「先日、長沙のシュウレイ殿の所へ行って来ました」

「む」

「カンペイ殿のお子は、元気に育っているようで、私が手を開くと歩いて来て私の腕に抱かれました」

「おおお!」

とカンウとカンペイは笑って顔を見合わせた。

「そこで、恐らく聞き入れてはもらえませんでしょうが・・・。あの子とシュウレイ殿の為にも、お二人には生きて頂きたく

どうか、江南のソンケン様の元で働いてはくれませんかな?」

カンウは笑って答えた。

「それだが、シュウレイも武家の娘だ。死を恐れるような女ではない。ワシも・・・お主が君主であったら、気持ちが揺れぬ

事もない」

「・・・」

「だが、揺れた所で答えは代わらん。竹は焼けても節を曲げぬものだ」

「・・・分かりました。シュウレイ殿とそのお子も私の方で良き様に・・・」

「くどいぞ。余計な事はしなくていい」

「分かりました。・・・明日にはお二人を連れて江南へ向かいます」

「あぁ」

「最後に、カンウ殿、私はせめて20年早く生まれて勝負しとうございました」

「っふふ」

「それでは・・・」


翌日、カンウとカンペイを乗せた檻車が江夏を出た。

そのカンウを惜しむ荊州の領民はお香を炊いて見送った。物凄い行列であった。

天下に名を馳せるカンウとは思えぬ程、あまりにも無残な姿であった。

その行列の中にリクソンに連れられた、シュウレイの姿もあった。

シュウレイは子を高く掲げた。自分の子を、孫を見れぬ、また自分の父、祖父を知れぬ子に願いを馳せた。

護送車も見えなくなり、シュウレイはリクソンにお辞儀をした。

「リクソン様、本当に私達を成都に送るのですか?」

リクソンは子を受け取り答えた。

「はい。おお、また一際重くなったな」

「この子が大きくなれば、やがてこの事を知り、江南に剣を向けるかも知れないのですよ」

「構いません。一族を根絶やしにする。これは確かに覇の上では大事な事ですが、その思いは決して絶やし切れるモノでは

ありません。栄える者は必ず滅びます」

「・・・」

「シュウレイ殿、遠からず、辛い話が舞い込むでしょうが、決して取り乱さぬように。そなたはカンペイ殿の妻でなく、

この子の母である事を忘れないように。掛ける命はこの子の上に掛けて下され」

「はい。何から何まで有難うございました」

「あ、そういえば、カンウ殿から聞きましたが、その子の名はカンチュウと。そう言っていました」

「カンチュウ・・・」

「それでは、お元気で」

そう言うと船に乗せ、成都まで送らせた。


カンウ親子はソンケンの前に出された。

縛られたままである。

ソンケンが口を開いた。

「カンウよ。お主の名は天下に轟き、また孫も生まれたばかりだと聞く。さらに、昔はソウソウの元で栄耀栄華の生活を

しておったそうな・・・。金銀や女の贈り物なら私にも出来る。どうだ、親子で私に仕え忠誠を誓わないか?」

だがカンペイは目を瞑り姿勢を正したまま動かず、カンウはワザとらしく寝息を立てていた。

横にいたリョモウが叫んだ。

「こりゃあ!カンウ!殿がこうして情けを掛けているのに狸寝入りとは何事か!」と言えば

「ワシは眠くて溜まらんのだ。首を刎ねるならさっさと刎ねてくれ」と返した。そこにソンケンが再び言った。

「カンウよ。私はお主の名を惜しんでこうして礼を尽くしているのだ。もう一度言おう。親子で私に仕える気はないか?」

「・・・」

やがてカンウは目を見開き、ソンケンを向き直した。

「礼を尽くす?これがか?なら後学の為に聞かせてやろう。ソウソウ殿はワシを高い位置から見る事は無く、縄で縛る事も

無かった。地に這いワシの手を取り、心を尽くしてくれたのでワシも胸襟を開いたのだ。それが分からぬとは江南も

終わっているな。この角顔の紫野郎め!ソウソウ殿の爪の垢でも煎じて飲むが良い!!」

それを聞いたソンケンはリョモウの前に剣を投げ

「斬れ」

とだけ言った。リョモウは

「殿の前で無礼な発言、もう許せぬ、見せしめに息子から殺してやろう!」

とカンペイの後ろに立った。カンペイはずっと姿勢を正し目を瞑っている。


リョモウが剣を振り下ろすとカンペイの首は切れたが、首の皮一枚落ちずにいた。カンウは笑った。

「剣もなまくらなら、腕もなまくらじゃの!それ、斬りやすくしてやるわい!」

そう言うと、カンウは首だけを前に出した。そこにリョモウが力一杯振り下ろしたので首は勢い良く胴を離れた。

胴を離れた首は転がり、やがて地に立って「にぃ」と笑った。


気味の悪い処刑となってしまったため、ソンケン軍は気を新たに宴会を開いた。

ソンケンが首を刎ねたリョモウに酌をしていると、リョモウは突然震えだした。やがてソンケンに向かって

「角顔の紫野郎め!!」

と吐き捨てた。ソンケンをはじめ諸将が呆気に取られていると、リョモウは顔の穴という穴から血を噴出し

その場で息絶えた。

それを見た文官:チョウショウが前に出てソンケンに話した。

「恐れながら、カンウのこの首には怨念がついております」

「どうしたらよいのだ?」

「これをソウソウに送りつけなされ。そうする事で同盟を守った証になり、怨念も移り、リュウビの矛先も移るでしょう」

「わ、分かった。チョウショウに任せる」

こうしてソンケン軍では緘口令を敷き口封じをした上でカンウの首を塩詰めにし、ソウソウに送り届けた。


シュウレイもこうなるだろうとは思っていたが、わざわざ国を混乱させるような事はしたくなかったので、

誰にも話さずに暮らしていた。


ソウソウのいる許昌に到着した首は、季節が冬だった事もあり、生きているかのようだった。

ソウソウはカンウを見て、笑いながら話しかけた。

「久しぶりだなカンウよ。お主の自慢の髭も白いのが目立つようになったのう。互いに年だ。久しぶりに帰ってきたというのに

首だけとは、どうした事か?ほれ、何か言ってくれ」

そう言い終えると、カンウの口が少し動いたように見えた。

それを見たシバイはソウソウに進言した。

「殿、この首にはカンウの怨念が詰まっています。急ぎ除霊と処分を!またこれによりリュウビ軍がこちらに・・・」

「構わん。それにリュウビは放っておいても江南に剣を向けるだろう。それよりも、ワシはカンウを手厚く葬ってやりたい」

その後、すぐに御神木と呼ばれる木を削り、カンウの体を象り首を添えて、高名な神主を呼びカンウを祭った。



リュウビがこれを知ったのはソウソウからの手紙であった。

江南から来た事情、カンウを盟友として手厚く葬った事が記されていた。

これによるリュウビとチョウヒの落ち込み様は途方も無かった。


コウメイも悲しみは深かった。が、それよりも血気に逸って江南へ兵を出してしまうのではないか。

軍師として、それが一番の悩みであった。

リュウビは飯を食う事も無く、チョウヒは酒ばかりを飲む日々が続いた。


江南も軍を進める気配も無く、ソウソウ軍にも目立った動きは無かった。

リュウビ軍は、ただただ悲しみに満ち溢れていった・・・。
コウメイは新たなソウソウ軍の将、シバイを懸命に探っていた。

どれほどの人物か。それによって策を代える必要が出てくる。

ただ、シバイ自体は戦場に出る事は無かった。

ソウソウ軍は長安を出た30万の軍をソウジンの10万、チョウコウの10万、カコウトンの10万に分け

安定・街亭・五丈原の3方から漢中へ攻め入った。

対して漢中の守りにチョウヒ・バチョウ・バタイ・コウチュウ・ゲンガン・ギエンを始め多くの

将が集い、兵は10万にやっと届いた。

圧倒的に不利であったが、コウメイは荊州で仕官してきたバショクを呼んだ。

バショクは武芸と政治に関心は無いが、戦術に長けており、それを見抜いたコウメイは、

後継者にしようと決めていたのだった。

ソウソウ軍はリュウビ軍の3倍を揃えており、3つに分けても兵力は互角。

リュウビ軍が全部隊で動けば、挟み撃ちに合い、敗戦は必死だった。

また守りを固めも、やがては平面勝負になるだけであり、それも敗戦に繋がる。


バチョウ・バタイは天水の出身であり、地方の族・侠族とも繋がりがある為、3万の兵で安定に向け

出陣させた。そこで長安から着いたばかりのチョウコウ軍とぶつかった。

チョウコウは一騎打ちには応じず、堅く門を閉じて様子を伺っていた。バチョウも兵数が劣るので

城攻めは避けていたが、バタイを使者に出し侠族の援軍をもらった。

山の上、道も無い所から突如、火矢を浴び安定の城内は大混乱に陥った。

その後も山には怪しげな族が次々と集まってきており、それを不利と悟ったチョウコウは遂に門を開けて

突撃した。

だが、バチョウの軍と侠族の挟み撃ちに合う形となり、すぐに門の中に入ってしまった。

シバイはそれを聞き、天水・西涼の土地の一部を割譲する事で侠族に手を引かせたが、バチョウへの思いは

強く、侠族軍の内3万人程がバチョウ軍に入っていった。

チョウコウは完全な籠城戦の体制をとり、城壁に再び多くの兵を配置した。長安からの補給線もあるため

余裕もあった。バタイがその補給線を断とうと勝手に進軍したが、シバイの伏兵により壊滅。

バタイ一人が陣に帰って来た。

街亭ではチョウヒとギエンが2万の兵で、ソウジン率いる10万の軍勢と互角に戦っていた。

コウメイに何度か敗れているソウジンは簡単には兵を進めなかったが、チョウヒやギエンが陣の前で

挑発していき、それに耐えかねた兵が次々と勝手に出て行き、死体となって帰って来る。

天下のチョウヒが相手といえど、5倍の兵力を持ちながら全く進もうとしないソウジンに嫌気を

さして、兵は散っていってしまった。その散った兵もすぐさまチョウヒ・ギエンに斬られ、あるいは

リュウビ軍に降っていった。

それを見たシバイは偽の投降をさせようとするが、バショクはそれをいち早く見抜き、それを防いだ。

もはや、街亭の大勢は決したかと思うとギエンは1万の兵を連れてバチョウのいる安定に進んだ。

五丈原ではコウチュウ・ゲンガンのジジイコンビが4万の兵でカコウトンに対峙していたが、圧されまくり

漢中付近まで後退した。だが、漢中の五斗米道を積極的に補佐していたリュウビ軍。それを好んだ教徒は

山から岩や大木を転がし、カコウトン軍の足止めをした。岩や木が四方八方から飛んでくるので、教徒の数も

分からず、山に兵を向ければジジイ達が突撃してくる。やがてカコウトン自身が落石を受け大怪我をした為、軍は

退いていった。

それを見るや、ジジイ二人は安定での苦戦を聞き、馬を飛ばした。


にらみ合っていたバチョウ軍5万。そこにギエンが1万を持って加わり、さらに長弓のジジイコンビが到着し

かつて漢中を落とした時のように戦局はリュウビ軍に大いに傾き、やがてチョウコウは安定を捨て、逃げていった。

ソウジンも僅かな手兵と長安に帰り、カコウトンも傷だらけで長安に運ばれてきた。

30万もいた軍はほぼ壊滅し、安定・街亭・五丈原のいずれもリュウビ軍の手に渡り、長安まで攻め込まれる

のでは無いか。そういった不穏な空気を感じ取ったソウソウは、自ら20万の兵を持って長安まで渡った。


だが、リュウビ軍では漢中までを納めるのに手一杯であり、安定等の三箇所は手放して、再び漢中まで兵を退いた。

コウメイは漢中でそれぞれの将を労い、特に侠族と五斗米道の教徒に対し手厚いお礼を施し、再びバチョウ達に

漢中を託し、成都へ帰っていった。散々にやられた将兵を見たソウソウは肩を落とし、敗軍の将を罰しても何にもならぬ為、

許昌へと帰って行った。


リュウビがコウメイ達の遠征を労い、大規模な宴会を開いた。

この時、リュウビも50歳を越えていた。だが、リュウビ軍の勢いは留まる事を知らず

このまま天下を取るのではないかと、誰もが考えていた。


宴会も終わり、リュウビとチョウヒ、コウメイが外を眺めていた。

「おお、見ろ兄者!桃が咲いているぞ!」

「見事なものだな。ヨクトクの屋敷の桃とどっちが綺麗かな」

「ううん・・・しかし、あの時、ウンチョウの兄貴と3人で兄弟になって、あれからもう30年か。兄者も年を取ったな」

「それを言うな。しかしまだ2剣を振るい畑を耕す事なら誰にも負けん。あ、キュウさんには負けるがな」

「殿、これからが正念場ですよ」

「あぁ、分かっている。二人とも、今後とも宜しく頼むぞ」

等と語らっている時だった。


文官のヒイが急いで駆け付けて来た。

「皇叔どの!コウメイどの!ソウソウが江南と同盟を組んだとの情報が入りました!」

「なんだと!」

コウメイは持っていた扇子を落とした。

まさかのソウソウの変わり身であった。まさかソンケンと手を組むなど考えようも無かったのである。

それを聞いた3人は瞬時に荊州にいるカンウを案じた。

ソウソウ軍とソンケン軍の間に挟まれているので、確実に、荊州に同時に攻め入ってくる。

だが、再びシバイが兵を集め、西を伺っているとも聞いているので荊州にばかり兵を集めるわけにも

いかない・・・。


これまでソウソウ:ソンケン:リュウビが5:3:2で別れ、リュウビとソンケンの同盟・親善な付き合いにより

5:5を持って対していたが、リュウビ軍は2を持って8に対するようになってしまったのである。


まさに絶対絶命であった。



その報告があってから1ヶ月後。

荊州では16才になったカンコウが襄陽に向かって歩いていた。

ソウソウ軍がウキンを総大将として荊州の領内に足を踏み入れたのだった。

長沙で、子を身ごもっているシュウレイの役に立つようにとカンウからきつく命じられていたが、ソウソウと

ソンケンの同盟により戦となる、と役人から聞いて戦争を見たいが為に勝手に抜け出してきたのである。

「しかし、ワシもああやって母上から生まれて来たのか・・・。ん。待て。どこから出てくるのだ?

口か?・・・まさか・・・・尻から!?うわー!」

等と一人でトリップしていると、それにも勝る甲高い声が聞こえた。

カンコウはそれに気がつき、声の方へ駆けていくと、二人の人間が倒れている。

「はて、どうしたんじゃろう」

と近づいていくと、一人の者が杖でカンコウの足を払った。が、それを飛びのいて避けると、その者は

カンコウに対し襲ってきたが、カンコウはその杖をもぎ取った。

「何をするのだ!」

「かえせ!私の杖だ!」

その者は女でしかもカンコウよりも年下のようだった。必死に杖を返せと飛び掛ってきたが、女と分かっては

殴る事も出来ず必死で話しかけた。

「おい!落ち着け雷女め!俺が何をしたというのだ!」

それを聞いて女はすぐに落ち着いた。

「全く、何だと言うのだ」

とカンコウは女に杖を返した。もう一人の方を見ると頭から大量の血を流して死んでいた。

「お前がやったのか?」

「うん。この杖を寄越せをしつこく言われて剣を抜かれたので怖くて振り回したのじゃ」

見れば、杖の頭は鉄で覆われていた。

「そうか。そんな悪い事をする奴はきっとソウソウ軍の奴だ。こいつの仲間に見つかったら大変だぞ。逃げよう」

そう言って女の手を引いて走り続けた。


しばらく走った後、木陰に入り二人は倒れこんだ。

「ここら辺まで逃げれば大丈夫だろう。しかしまた、お前はあんな所で何をしていたのだ?」

「荊州のジジの所に行く途中だった」

「そっか。では長沙あたりから来たのか?」

「え。ジョナンの町から来たの」

「えー!ジョナンから荊州なら、とっくに行き過ぎているぞ」

「えー!」

「道が分からんのか」

「うん」

「なら仕方が無い。俺も荊州に行く途中だったのだ。連れて行ってやる」

「本当か」

「あぁ。俺はカンコウというんだ。お前は?」

「リケイ」

「ジジって誰だ?」

「リキュウという人だって死んだ母が言ってた。母の父じゃ」

「リキュウか・・・知らんな。他に特徴は無いのか」

「百姓の大将軍だと言っておった」

「百姓に大将軍なんてあるもんか。他には?」

「知らん・・・」

「・・・まあいい。とりあえず荊州までは連れてってやる」

そう言うと二人は北へ向かって歩き始めた。

やがて小高い丘で二人は足を止めた。

「お、ここで戦が始まるみたいだぞ。お!あれは俺の兄貴じゃ!」

「えー。あんな偉そうな人が兄様なのか」

「うん。親父はもっと偉いぞ!総大将だ!」

「ひえー」

「始まるぞ!しかし、相手は誰だ?字が読めん・・・」


カンウの陣では、カンウがカンペイに聞いた。

「先方はホウトクだと?」

「はい」

「あの棺はなんじゃ?」

「どうやら父上に対する覚悟の表れで、父上に敗れればあの棺に自分の死体を入れるのだそうです」

「これみよがしに嫌味な奴だの。どれ、望み通り首の無い死体を棺に入れてやるかの」

「いえ、父上が行くまでもありません。私がいって散らして参ります」

「そうか、奴は長刀か、柄の返しに気をつけよ」

「私も同じ得物を使っていますので。それ!」

そう言うとカンペイはホウトクの前に進み出た。

実力は拮抗していたが、50合あまりぶつかった所でカンペイは退いていった。


「どうだ!おもしろいだろう!?」

カンコウはリケイを満面の笑みで振り返った。

「つまらん」

「ちぇ。女というのはどこかオカシイのだ。でも今度は面白くなるぞ!きっと親父が出てくる」


カンコウの読み通り今度はカンウが出てきた。

それを見たホウトクは興奮し、右に左に長刀を振り回し駆け出した。

しかし、カンウの敵では無く、敵わぬと見ると大言もどこへやら逃げ出していった。

それを見たカンペイが号令を掛け、ソウソウ軍を追い立てていった。

カンウの軍勢はどこまでも追い続け、やがてウキンの守るハン城まで追い立てた。

カンウ軍は、それを遠目で見れる位置に陣を敷いた。

「此度は、稀に見る大勝でしたね、父上」

「あぁ。だが、ゆっくりとはしてられん。江南からも兵が出てこようからな」

「このハン城を落としたら、すぐに戻りませんと。成都に援軍を求めては如何ですか?」

「いや、兄者も心配して何度も早馬を寄越すが、成都も必死だろうからの。断っておいたわ」

「はぁ」

「そう浮かぬ顔をするな。ワシにはお主もいれば、フシジン・ビホウ・モウタツ・バリョウと

将は揃っている。それに江南に向けた罠もそう簡単には破られまいからの」

「はい」

だが、カンペイはどこか拭い切れない不安があった。が、それが何かは分からなかった。

「さて、カンペイ。ハン城はどうやって攻めたものかのう」

と、そこにイセキが進言した。元リュウヒョウの臣下でその後はリュウキと共に江夏にいた将である。

「ハン城周辺は大変豊かな土地です。その為に開墾を中心に栄えてきました。ですが、過去

大雨の振った時に、水の堰が切れ、城もろとも水に沈みました。今では堰は頑丈に作られましたので

その心配は無いですが、最近のこの天気・・・。この堰をなんとか切れば、再びここら一体は水に沈みましょう。」

「水攻めか。面白い!それで行こう。兵も無駄に出来んしな」

「父上、それは良いのですが、一言・・・」

「ん」

「父上はリキュウ殿をご存知でしょうか」

「ん・・・あぁ、兄者がキュウさんキュウさんと慕っていた百姓の事か」

「はい。今ではこの辺一体で開墾を取り仕切る人物となっており、百姓の大将軍と慕われています。

そのリキュウ殿の毎日の汗の賜物が水に沈むのが忍びなく、一言申し上げました」

「むう・・・。リキュウ殿はいくつになるか」

「我が主よりももっと上。60に手が届くのでないでしょうか」

「であれば、成都の兄者に送ってやって隠居されても良い頃であろう。作戦は変えられん」

「はい。では、私が責任を持って、この地の方々に作戦を伝えて参ります」


カンコウはリケイを連れて城下町を歩いていた。

「一体何なんだ!何で人がいないのだ!」

リケイも、その人のいない町の様子を見て怖がっていた。

「何なのだ・・・犬一匹もいないなんて・・・こんな事があるか」

「カンコウさん、あっちに人がいる」

「ん。おお、聞いてみよう」

その男は一人、畑を耕していた。

「なぁ。この辺にリキュウさんという人はいないか?」

「ん。ワシもリキュウだが・・・」

「じゃ、おじさんが百姓の大将軍か?」

「む。いや、まぁそう呼ばれた事もあるが・・・ゲントクという人が勝手につけたのじゃ」

そういうリキュウの目がこっちを見ていない事に気がついた。

「おじさんは目が見えんのか?」

「いや・・・見えとるよ。お主は大人では無かろう、だが子供でもなかろう」

「じゃ、この子は見えるか?リケイと言うんだ」

「ん。どこの娘さんかな」

「おじじ!」

そう言うとリケイは涙を流してリキュウに飛びついた。

「リケイ・・・はて」

「私のおっかはリセンという」

「なんだと」

リセンはリキュウの第3子だった。だが、当時は年貢が払えず、子を売り妻を売り、最後には自身を売るしかなかった。

そのリキュウを買い取ったのがキョショウであった。

「リセンは・・・リセンはどうした」

「死んだ」

「・・・おばばはどうした」

「死んだ」

「今までどうしていたのだ」

「おっかと一緒にジョナンの親方様の屋敷で働いておった。毎日毎日ムチでぶたれてたんじゃ」

「・・・可愛そうに」

そう言うリキュウもリセンも大粒の涙を流していた。

カンコウは昔、漢中で大泣きをした事があった。母が餓死した時である。

だがそれ以来、決して泣く事はなく、幸せに暢気に生きてきた。カンウの血筋を持ち非常に豪胆だったのだ。

だが、その暢気者をして言葉を失う程に二人の様子は可哀想に思えた。

やがて落ち着いたリキュウが家に勧めた。目が見えていなかろうに、その足取りは速かった。

「しかし、おじさん、どうしてこの町には人がいないのだ?」

「あぁ。実はカンペイ将軍が来て、水攻めを行なう為に、避難してくれと言っていたのだ」

「水攻め!」

「あぁ。だから人はいない」

「おじさんは逃げぬのか?」

「はっはっは。ワシは土に対して生きてきた。それが出来ぬとあらば生きていても仕方あるまい。土と一緒に沈むかな」

それを聞いて厨にいたリケイが飛んで来た。

「いやじゃ!おじじが死ぬなら私も死ぬ!」

「・・・冗談だとも。ワシは百姓しかしてこなかったが、ゲンさんやコウメイさんと一緒にいたから、戦の事も多少は

知っている。水攻めというのは雨が降らねば起こらぬのじゃ」

「しかし最近は天気が悪く、もう降って来るぞ」

「・・・そうかそうか・・・。さて良い匂いがしてきたな。リケイの食事が楽しみじゃ」

カンコウはそのリキュウの心底を見抜いていたが、あえて言う事はしなかった。

夜になり、食事も終わり、リキュウの身の回りの世話を二人がしていると、雨が降ってきてやがて大雨となった。

「じいさん!これでは堰が切られるぞ!早く逃げんと大変だぞ!」

「・・・カンコウさん!このリケイを連れて逃げてくれ!ワシはここで死ぬと決めたのだ!」

「いやじゃいやじゃ!」

リケイはリキュウにしがみつき、離そうとしない。

雨は次第に強さを増してきた。

「おい!いい加減にしろ!おじさん!リケイまで一緒に殺す気か!」

それにリキュウは答えなかったが、やがて口を開いた。

「ワシが間違っていたな。ほれ、この縄でそれぞれ自分を縛るんじゃ!きつくな!カンコウさん!先導してくれ!」

「分かった!」

3人が腰に縄を巻き戸を空けると、低地ではもう膝くらいまでの水が流れていた。

カンコウはリケイの手を引っ張り、決して転ばぬようにと力強くあるいていたが、リケイが叫んだ。

「オジジがいない!!」

「なんだと!・・・そうか。おじさんは闇に慣れているから一人で帰ったのか・・・」

と言ってる内にリケイが転びながら戻りだした。カンコウも慌ててリケイの前に立ち道を戻るとリキュウは

家の外で立っていた。

「おじじ!」

その言葉を聞いたリキュウは涙を流した。

リケイはリキュウに再びしがみついた。リキュウは

「カンコウさん!もう戻ってくるな!リケイを頼むぞ」と言う。

だが、カンコウにはリケイのしがみ付く腕を取り払う事が出来なかった。

いや、カンコウの力ならば簡単にリケイを引き離す事は出来たが、ようやく会えた家族を前にどうして離す事が出来ようか。

カンコウは覚悟を決めた。リキュウとリケイをまとめて持ち上げて逃げようとしたのだった。


程なくして大量の水がリキュウの家を飲み込んで行った。



「第一船隊準備完了!」「第2船隊・・・」

カンウの陣では水攻めの仕上げに取り掛かっていた。

「どれ、ハン城で縮み上がっているウキンの首を持ってこようかの」

ハン城の9割方を水が飲み込み、残るソウソウ軍の兵は数える程だけで殆どが飲み込まれていった。

カンウとカンペイが船に乗り込み、ハン城へと出ると、カンペイが水面から波が立つのを見た。

「父上、何者かがこちらへ向かってきます」

「む、用心せよ」

「・・・父上!コウ(カンコウ)のようでございます!」

「なんじゃああ?」

さすがのカンウも驚いた。長沙にいて義娘の面倒を見ている筈の息子が敵陣にいるのである。

「しかも女子連れのようでございます・・・」

「二の句が告げぬわ・・・」

兵士に引き上げられたが、リケイはぐったりと倒れたままだったが、心得のある兵が

「気を失っているだけのようです。活を入れれば目を覚ますかと」

「いや、そのままにしておけ。目を覚ましたら地獄を見ねばならん。ところでコウ!

貴様は何でここにいるのかを説明しろ。但し、出陣前だ。手短にな」

と言うとカンコウは敬礼をして言った。

「戦が見たくて家出しました!!おじさんは沈んだけど、孫を助けました! はっ!」

「・・・何が何だかさっぱりじゃが、まあよい。これでその子を守ってやれ」

そう言うとカンウは鉄の肘当を外してリケイに被せ、号令を掛けた。

「準備はいいか!これから啄木鳥の戦法で行く!各隊、ワシが飛び移ったら半数ずつ着いて来い!」

そう言って10隻の船が進んだ。


頭だけ出ているハン城でも矢を射て来たが数は少なく、逆にカンウ隊は大量の矢の雨を降らし、下は激流で隠れる所も

少なく、次々と死ぬか流れていった。

「今じゃああ!」

カンウを始め、次々と城に飛び移りカンウは一気にウキンの元へ行き、首を刎ねた。

が、そこに弓を構えた者が撃つと、矢はカンウの肘に刺さった。が、次の瞬間にはカンペイがその首を刎ねていた。

矢を討ったのはホウトクであった。

「父上、大事ありませんか?」

「何、口だけ野郎の矢など効かぬわ。それよりも勝鬨をあげさせよ」

そうしてハン城の降った敵兵を逃がすと、対岸の襄陽側に船で戻った。


「もう起こしてやってもいいだろう」

とカンウに言われ、兵士がリケイに活を入れるとリケイは飛び起きた。と、同時に無骨な将兵を見て

カンコウに縋り付いた。

「リキュウ殿の、孫娘とな?」

「はい・・・私が説いた時は、喜んで土地を空けると言っていましたが、やはり心では城でしたな・・・。ところでコウ。

この子を成都の皇叔の所に連れてってあげなさい。リキュウ殿の孫と言えば喜んで面倒を見るだろう」

「ところで、コウ、シュウレイにはちゃんと言ってきたのか?」

「いえ、置手紙はしてきました」

「今後、シュウレイに迷惑をかけるんじゃないぞ」

「はい!」

「ちなみに、腹はどうなっておった?」

「はぁ。こうなっておりました」

と、カンコウは腹を突き出して手で表現した。

「おおお。これでワシも名実共にジジじゃの!」

とカンウが笑った所でカンコウがカンウの肘に気付いた。

「父上、肘が紫色に腫れております!」

「む・・・」

「毒かもしれません」

そう言って陣中の医者に見せると、

「これは・・・鳥兜の猛毒です」と言い放った。

「棺野郎のやりそうな事だな」

「これを治療するには、私では出来ません・・・。今、新野に名医:カダが来ております。医療も広まったとはいえ

これを治療出切るのは彼しかおりません。放っておけば骨までただれ全身に広がり、命を奪います」

これを聞いたカンコウは急ぎ新野へ向かった。

自分とリケイを守るため、肘当を外した為に、この結果になったのだと自責の念を持っていた。

陣の医者にもらった地図を見ながら家に行くと、幸いに在宅であり、カンウの大事と聞いて、すぐに着てくれた。


カンウは痛みに耐え、軍の士気を下げないようにバリョウと碁を打っていた。

バリョウもバショクと同じく、知性に溢れる者であり、痛みを紛らわすには格好の相手だった。

カダはカンウの肘を見て言った。

「まだ時間も経っていないと見えて、毒も回っていません。治療すれば命は助かります。ですが、

この治療は、・・・体を柱に縄で縛り、肉を切り、骨を削る必要がございます」

と、それを聞いたカンウは、

「なるほど。大変な治療じゃ。だが、ワシも武門の端くれ。縄目は簡便して頂きたい」

「・・・名のある方は皆そう言います。ですが、途中で七転八倒。治療になりません。こればかりは

人間の耐えられる痛みを大きく越えています」

「でしたら、鬼となって耐えましょう。それに、今は碁の途中なのです」

「はぁ・・・」

こう言ってカンウは碁を打ちながら、左腕をカダに投げ出していた。

ヒジ周囲の肉を切り開き、骨を削った。

だが、カンウは顔色一つ変えなかった。むしろその周囲の者が顔を覆うばかりであった。

バリョウもその光景が嫌でも目に入ってしまい、手が止まり、その度にカンウに早く打てと急かされた。

やがて治療も終わり、カダは脱帽した。

「ここまで耐えるとは御見それしました。さすがは天下のカンウ殿です。医者の間でも語り草になるでしょう」

「はっはっは」

「ですが、カンウ殿、これから100日は腕を動かさぬようにお願いします。医者の言葉は天の言葉です」

「はぁ、分かり申した。忝のうござった」

そう言うと、カダは帰り際にカンコウに言った。

「父上には薙刀を持たせぬようにな。しばらくは指揮だけにするように。伝えてくだされ」

「はぁ。でも父上は言う事を聴かないと思うので兄に言っておきます」

「それではな」

そう言ってカダは一人、帰って行った。


そうしてカンウ軍は襄陽に引き上げ、カンコウとリケイは成都に向かって歩いて行った。

だが、リケイは途中で足を止めた。

「ん、どうしたんだ?」

「やっぱり私は荊州にいる」

「なんでだ?」

「おじじが出てくるのを待つ」

「・・・分かった。正直に話そう。あの時、オレはおまえと爺さんを連れて逃げようと思った。だけど、爺さんを抱えようとしたら

体と柱が縄でくっついているのが分かったのだ。だからオレはお前だけを抱えたのだ。そこにあの波だ。もう助からん」

それを聞くとリケイは泣き出した。

「また泣くのか・・・。女というのはほんとに分からん。だけど安心しろ成都には面白い奴が沢山いるし、オレの兄弟のような

チョウホウもいるんだ。それに爺さんと仲の良かったという叔父上もいる。だから安心しろ」

「うん・・・」



その頃江南では、ロシュクの跡を継いだリョモウが総大将となり、頼りない副将を連れて襄陽を目指し、進軍していた。

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