そろそろ本気で終わりが見えてきたので少しでも繋がりを大切にしようと願う性騎士のブログです!
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ちょっと気持ち悪く語る。


というか、気持ち悪くは無いかw


なんか風評というか何というか・・・

あくまで私の趣味というか好きなもののお話。



私が最初にパソコンでゲームをする。というのを知った時。

それは、小学校時代に友達の家でマスのシミュレーションゲームを見たときでした。


それが三国志でした。

wwwww


西暦でいうと180年頃から100年にわたっての話です。

実際に三国になるのは210年くらいだったと思いますが・・・

まぁこれらの話を総じて三国志と言うのでしょう。多分w


その三国の魏・呉・蜀の時代で、私は蜀が好きでした。

というか、唯一持ってる本が蜀メインの話だからでしょうがw



チョンビソクさんの書いた上・中・下の3冊なんです。


なんというか、人物が魅力的なんですよね。

漢の時代でオウヒツが生まれてから蜀の滅亡までの本です。


三国志の本って何百種類もあるので、どれが真実かなんて分からないけど、

私にとってはチョンちゃんの書いたこの3冊が全てです。

だから三国志については、このチョンちゃんの書いた話しか認められないのですw


あ、ちなみにオウヒツとは後のチョウセンです。

他の本もチラっと読んだ事はあるのだけれど、これが一番読みやすかった気がします。

というか読む気が無いのだけど・・・。


三国志といえば、今は家庭用ゲームで三国無双なんてありますが、

もう、胸クソ悪いww


そう、三国志といえば、猛将の話が楽しい・・・とかが一番人気がありそうですが

チョンちゃんの本は女性がかなり活躍してます。

オウヒツからビケイからキョウテイからゴケイからリケイから・・・


漢字探すの面倒なので許してねww


別にこれらの女性が好きってわけじゃなくて、

いや女性は好きだけど(*ノωノ)

人間が本当に魅力的に書かれているので、そこにハマった気がします。



と、こういう話を合コンですると嫌われる!

なんてあるけど、事実、知ってる人の方が少ないし何でこれを話すのかが分からないにょw


こう、知ってる人とちょこっと話せればいいかなw程度で・・・

というか、三国志の話って冷麺と知ってる?程度で話したくらいで私の人生で

話したこと無いかもしれないwww


まぁいいさねw


リュウビ(蜀の主人公)が悪政を行う朝廷に対して立ち上がってカンウとチョウヒと兄弟になって

頼もしい仲間を得てやがて大きな勢力となり、最後には蜀は滅亡してしまう・・


物語としてはバッドエンドですがw


そして、滅亡した際にチョンちゃんが、

皆が、それこそ女性すらも血を流して築いた国が「安楽公」の3文字で終わる。

という文を読んだ際に滂沱と涙を流しました。


全然伝わらないなwww

伝えようとすると、どんだけ手間隙掛かるか分からんwwww


それでも何とか伝えたいので、こう・・・合間を縫って話しを私なりに・・・

それなりにw綴るのでヒマな人は読んで下さいな。


wwwwwwwwwwww

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むかーしむかし。

西暦170年・・・くらいw?の頃の中国のお話。


学校の歴史とかで学んだでしょう、

イン・シュウ・シン・カン・ズイ・トウ・・・・

だっけw?


そのカン、漢の時代。(だったと思うw)オトコの時代!って読めなくも無い。どうでもいいなw


そこで、朝廷の宮殿で一人の娘っこが生まれるわけです。

で、ドラマ大奥とかでもあるように跡継ぎ問題やら何やらで朝廷が荒れるわけですね。

しかもその子が生まれるちょっと前にも男も生まれているので、朝廷内はさぁ大変。


荒れに荒れて、子供から脱する娘っこを哀れに思い、心あるじっちゃんがその娘っこを遠くに行かせるわけです。

その朝廷では玉を抜いた男達が政権を握っていて、十人いたので十常侍(ジュウジョウジ)(漢字違うかもw)

と呼ばれていました。

そりゃもう酷いの何のって、悪政という悪政で賄賂が全てのドラマで言うまさに悪党でした。

でも権力には勝てないのはこの世の常で、朝廷に使える者から一般人まで地獄を見ていました。

農家の人も毎日、畑に行っても年貢を納められず、妻を売り、子を売り・・・

それでも払いきれず自分を売って年貢を納めるしかなかったのです。今って幸せネ。


そんな時代でも時は流れまして舞台が変わります。

タクケンという、昔の中国の北西の方でリュウビが鼻を垂らしていた頃。

リュウビの祖父であるリュウ・・・キ?まぁいいさw

祖父はいつもいつもリュウビに言っていました。

「お前は漢王朝の遠縁にあたる血筋を引く者なのだぞ!」

家庭内ならまだしも外に出てもこれを言いふらす。

リュウビの母は呆れていました。その証拠なんて何一つ無いのですから。

祖父にいくら「言うな!」と言っても言う事を聞きません。ボケちゃったのかしら♪

リュウビも子供心に、「自分が漢の末裔だったら・・・」なんて希望を持っていたけど

母の怒る様を見ているので、母側に付いていました。

母の手一つで育ててもらっているのですから。


そんな折、タクケンからほど近い幽州という所に、儒学やら兵法やらで有名なロショクという

先生が来るというのです。

しかも、弟子を募集する!なんて言うもんだから、リュウビの祖父はリュウビを行かせたがります。

「そんな路銀はありません!」なんて母に怒られてしょんぼりと出て行く祖父。


翌朝、祖父は大金を持って家に帰ってきます。

「なんなんですかこれは!!!」母が怒ります。

「土地を売ったんじゃ」

「先祖代々引き継いできたモノを勝手に・・・キイイイイ!!」

と、怒り狂う母を祖父は説得します。

リュウビも何かしら学びたいと早くも反抗期。

仕方無しにリュウビのお出かけを了承し、笑顔で見送る祖父と、精一杯のオシャレをさせた母。

二人の見送りを受けリュウビは幽州へ向けて旅立つのです。


さて、やってきました幽州、ロショクの学問所。

そこには弟子入り希望者がズラリと並んでいます。身なりも綺麗。

リュウビはオシャレといっても継ぎ接ぎだらけの服。

「こりゃぁダメだ・・・」とリュウビはマジで凹みます。


そこにロショクがやってきました。

「こんなに弟子はいらん。3人・・・いや、2人でいい。それぞれ今までにどんな本を

読んできたのか教えてくれ」

そして一人一人が答えていきます。中には難しい本の内容を暗唱する者までいる始末。

そしてリュウビの番。リュウビは何も言えませんでした。

ロショクが問いかけます。

「どうしたのだ?」

「・・・本を読んだ事がありません」

「なぜか?」

「・・・家が貧しいので余裕がありません。私の村にも本などありません」

瞬間、どっと笑いが込み上げました。

リュウビの家は母の筵(ござ的なもの)作りのみで生計を立てていました。

いつもその手伝いばかりをして生きいたのです。

ただ、リュウビはロショクの目をじっと見つめていました。

「ふむ・・・では次の者・・・」



「せっかく祖父が金を作り、母がオシャレさせてくれたのに・・・」

落ち込んでいるリュウビをよそに選定が続いていきます。


ですが、選ばれた2名にリュウビが入っていました。

もう一人は同じく本を読んだ事の無いリュウビと同じ年頃の男でした。

「剣術と馬術ばかりやってきました。本はこれから読みます」

「ふむ・・」


もう一人はコウソンサンといい、ちょっとヤンチャなBOYでした。

っていうか、何で読んできた本とか聞いたんだ?wって話よねw


二人はロショクの身の回りの世話から館の掃除から水汲みまでを行い、

雨の降った日等は、ロショクが本を開き二人は、それを必死で聞いていました。

ですが、コウソンサンもリュウビも書きません。ロショクが尋ねます。

「リュウビは何故、書きとめないのか?」

「紙が高価なので、使えません。頭で覚え忘れないようにしています。

そうすれば、紙を持ち歩く事も無いですし、無くす事もありません」

「そこらへんの儒学者に聞かせてやりたい言葉だな」

「照れ(*ノωノ)」

「コウソンサンは?」

「俺は文武両道だから、半分でいいと思うし、リュウビの口移しで覚えます」

「そうかそうか・・」


そうして学問や兵法を学んでいく日々はリュウビにとって掛け替えの無いモノになっていきます。


ある晴れた日の事、コウソンサンと撒き割りをしていて、しかめっ面でリュウビが見られています。

「お前、もっかいこの薪を割ってみろ」

「?」

言われるままに、薪を斧で縦に割るリュウビ。

「お前、全然だめだな」

「何がダメなのだ?」

「俺のを見ていろ!」

コウソンサンが薪を縦に割ります。

「ほらな」

「・・・・何が違うのだ?」

「お前のはただ力任せに切っているだけだ。断面がささくれている。が、俺は違う。気で割っている。

敵兵の頭を真っ二つに切り裂いているのだ」

見てみると、コウソンサンの薪は綺麗に割れていました。

「私も、そのようになれるだろうか・・・」

「訓練次第だな!が、心配するな。そんな俺も学問じゃお前に敵わん。お前に出来る事をやればいいのだ」


一日一日がリュウビに取って勉強で、楽しいものでしたが、やがてロショクが幽州を離れる事になりました。

分かれる際、コウソンサンから告られます。

「お前とは離れたくない。このまま北平(コウソンサンの住所)に来ないか?」

「いや、今は久しく会っていないママンと祖父がいるから置いては行けないんだ・・・」

「そうか・・・でも、いつか一緒に戦おう。俺が国を取り、お前が納めるんだ」

「あぁ」

そういって未来に希望溢れる二人の若者は幽州を離れるのでした。


それから家に戻ったリュウビは、別れ際にもらったロショクの教本を毎日のように読み返し、

母の手伝いをして生活していきます。



やがてリュウビは15歳になり元服を向かえ、字(あざな)をゲントクと名づけられました。

知ってる限り、正確には 劉(性)備(名)玄徳(字)で劉備玄徳となります。

何となく親しくなるに連れて→の字で呼ぶようになるような・・・感じですw


そしてロショクの元で学んでから5年が経ち、コウソウサンへの約束を果たすため

リュウビは北平へ向います。

便りでは、コウソンサンは城の主となり、結婚もしたという。


その時期は黄砂(砂嵐・・?)が吹き荒れる季節でした。

でもリュウビは普通の人よりも身長もあり体はデカイので、何とかなるだろうと思い

歩みを止めませんでした。


しかし、すぐに後悔に変わります。

視界も奪われ、前方からの強風に見舞われ、何よりも砂が体中にまとわりつきます。

リュウビの体でも一歩ずつ進むのがやっとでした。

「まさか、俺はこんな所で死ぬのかw」

そんな事を思いながらゆっくりと進んでいると、小さな塀に囲まれた寺があり

そこで風を凌ぐ事にしました。


リュウビが寺に入ると、ギョっとしました。先客がいたのです。

リュウビよりも一回り小さな男で、壁にもたれ小さくうずくまっていました。

壁の中にも砂と風が入ってくるので余裕は無く、何を言うわけでもなくリュウビは

その男の隣に座り込みました。

男はリュウビに気が付くも、全く相手にしない様子です。


しばらくしてリュウビが声を掛けました。

「大変な風だな。どこへ向っているのかな?」

「・・・・」

「見た目よりも幼い顔だな。年はいくつか?」

「・・・・」

「どうした?口が聞けないのか?」

「・・・・口を開くと、砂が入る」

「そうか、それは悪かった」

会話はそこで終わり二人はただうずくまって時を待ちました。

が、待てども待てども風は止まず、リュウビは朦朧としてきましたが、隣の子供はまだ耐えている。

これは負けるわけにはいかん。と気力を振り絞り耐えていると、やがて子供がリュウビに寄りかかるように

倒れてきました。しかし寝息を立てている。

その様子を見守りながらリュウビも気を張っていたが、やがてその子供の体温と相まって眠りに付くのでした。



目を覚ますと、そこは天国に変わっていました。

雲一つ無い空。温かくゆっくりと吹く風。そして天使のような歌声。

あぁ、人は死ぬとこんな世界を見るのだったな・・・

などとトリップしていると、はっと我に返ります。


隣には既に子供の姿は無く、青い空が広がっている。

そして綺麗な女の歌声が聞こえてくるのです。


リュウビは起き上がり寺の外へ出ると、一台の馬車が止まっているのです。

その中にいる女性が歌っているようでした。

リュウビはズッコーン!と一目ぼれに近い感情を抱きましたが、それを振り払うように

馬が走り、近寄ってくる音がする。


「姫!素性の分からぬ者と話してはいけません!」

なんて言ったかと思えば、リュウビに向い「何者か!」と怒鳴りつけます。

そこでコウソンサンの元に向う事と名前を言うと、その馬上の男はリュウビが尋ねてくるのを知っている様子でした。

コウソンサンの配下のようです。

ただ、今は馬車を城に送り届ける任務を受けているからと、馬車を引き去って行った。

リュウビは馬車の荷台にいる女性をずっと眺めていた。

女性も同じくリュウビをずっと見ていた。


色んな妄想と戦いながらリュウビは、その場に座り込んでしまった。


やがて、遠くから「おーい」という声が聞こえてくる。

「おーい!備ー!」

裸馬を引き連れたコウソンサンだった。

「おお、よく来てくれたな!」

「あぁ、死ぬかと思ったがw」

「字は玄徳だと?」

「あぁ。お主は?」

「ハクケイだ!」

「ハクケイ!」

「玄徳!」

そういって抱き合い、そのままホテルに・・・・なんてw

「玄徳、馬は乗れるか?」

「あぁ」

「じゃあ付いてきてくれ。城はすぐそこだ」


三国志の舞台でもあんまり照明の当たらない遥か北東の地だが、質の良い馬が多く飼われる事で有名だった。

城も町も活気があり、田舎の村しか知らないリュウビには新鮮だった。

リュウビはそこでコウソンサンから武芸を習った。

剣術、馬術、弓術。

とりわけ弓術は上達が早く、コウソンサンは舌を巻いていた。

「弓はお前のようにまったりとした人間に向いているのかもしれんな!」

「はは、よく言われる」

「ところで玄徳、お前に武芸を教える代わりに一つお願いがあるのだ」

「?」

「俺の家来に学問を教えてやってほしいのだ」

「あぁ、出来る限りの事はやろう」

「家来といっても二人だが、一人はもうあの寺で会っているだろう」

「おお、ハクケイの下にいるものだったのか」

「あれは強い男になる」

「私もそう思う。年下とは思えない肝を持っている」

「そうだろう。名前はチョウウン。字はもう決めてある。竜の子、子竜だ。それともう一人は・・・

実は女だ。これも寺で会っているだろう。名前はヨウセンという。まぁ、適当に教えてやってくれ」

「わかった」


リュウビが教えられるのはロショクから教わった事と、もらった教本だけだが、精一杯伝えた。

伝える事で、新たに自身も学んだ。

とりわけチョウウンは覚えが早く、将来が楽しみな若者だった。

ヨウセンも同じく励んでいた。


この頃だと、男女7歳にしてナンタラwwwという言葉があり、男女は分けるべき。

的な認識があった。お互いに意識せよ!と。

その為、リュウビはヨウセンが部屋にいる間は真冬でも窓を全開に開け放った。


そこで変化が起き始めていた。

特に・・・ヨウセンからの視線が段々と生徒から恋人のような視線に変わってきていた。

リュウビが剣の稽古などをしていて、木陰に気配を感じ振り返るとヨウセンがいた・・・

そんな事が何度となくあった。


雪の降るような寒い日、ヨウセンだけが学びに来ていた為、やはり窓を開けるとヨウセンが言った。

「リュウビ先生は寒くないのですか?」

「私は寒くは無い。ヨウセンは平気か?」

「・・・・・」

もうポケ~っとなってしまっていて、寒いどころか熱そうだった。


かつてロショクの元で学んでいた頃も、何かに集中している時は寒さなど忘れたものだった。


やがて時が経ちリュウビも24歳になった頃、突然に身の内から湧き出る好奇心にも似た

野望が目覚めた。

武芸も一通り覚え、チョウウンにも教えられる事は教えつくした事も重なっていた。


だが、ヨウセンへの思いも募り別れがたかったが・・・


それでも大志を抱いたリュウビはコウソンサンに城を出る事を告げた。

コウソンサンも引き止めたかったが、一国の主として、また親友としてリュウビを止める理由は

見つけられなかった。


「なら今夜は盛大に宴を執り行おう」



そして夜ー。

これまでに無い贅沢な食事や酒に酔ったリュウビは酔い覚ましにと、外へ出た。

綺麗な星空の夜だった。

そこへ、いつもの気配がして、その方向を見ればヨウセンだった。

押さえ切れんばかりにヨウセンはリュウビの手を取り語りだした。

「実は私の名前はヨウセンではありません。オウヒツといいます」

「・・・・・」

リュウビも学問を学んでから漢王朝についても学んでいた為、オウヒツという名前に驚いた。

だが、同時に素性を隠し都から離れて暮らさなければならないオウヒツを哀れに思った。

権力争いから、殺されるのを避けるためにここへ連れてこられたのだ。

「玄徳さま、離れたくありません・・・!」

リュウビは力いっぱいに抱きしめ、必ず迎えに来ると誓い、その場を離れた。

初めて触れた女性の感覚に陶酔する時だが、それ以上に今の漢王朝が許せなくなっていた。


翌朝、コウソンサンとチョウウンに見送られリュウビは北平を後にした。

ヨウセンの姿を探そうと挙動不審になるが、悟られまいと必死に押し隠した。



その足で都の方へ向おうとも思ったが、ちょっとビビリが入ってタクケンの方へ自然と

足が向いていた。

そこでタクケンの村に入った所で人だかりが出来ていた。

何やら高札(立てる回覧板みたいなw)がでているのである。

村の連中はあつまってはいるが、字は読めない。

リュウビがヌっと覗き、内容を読み上げた。

「黄巾党(コウキントウ)を討伐するにあたり、募兵する」


黄巾党というのは、チョウカクというものが立ち上げた集団である。

チョウカクは腐敗した朝廷に抗おうと、善意から、集団を作り朝廷に挑もうとする勇気ある男だったが

朝廷からの反撃に合い、叶わぬと見て、逆に村を襲い生計を立てる盗賊のような集団に変わってしまった。

その集団の特徴として、その名の通り黄色い頭巾を被った集団なので黄巾党と呼ばれるようになった。

黄巾党に入れば一飯にありつける。それだけの理由で黄巾党に入る者が後を絶たなかった。

それだけ酷い時代だったのだ。

ただ、無抵抗の者も殺し金品・食料をありったけ奪い勢力を拡大していった為、朝廷から討伐礼が出されたのだ。


リュウビをそれを読み上げると、考えた。

黄巾党も許せないが、朝廷も許せない・・・。どうしたものか・・・。

リュウビは大きな溜息を付いた。


すると、「ゴルァアアアアアアアアア!」と地響きのような大声が聞こえた。

「貴様、この高札を見て溜息を付くとは何事か!!!!」

声の方を見ると、人々よりも抜きん出て体の大きなリュウビよりもさらに大きい大男だった。

筋肉質な体にヒゲだらけの顔。さらに視線だけで人を殺しそうな大きな目。

だが、リュウビは臆する事もなくあしらった。

「あぁ、すまない。私はこういったものには興味は無いのだ」

それを聞くとそのヒゲ男はさらに声を荒げた。

「なんだと!貴様のような体の大きな男がこの一大事に働かないで何とする!!!」

「だから興味が・・・」

と言おうとするとヒゲ男はさらに大声を出した。

「ああ!お前は皇室の親戚のリュウビじゃないか!?」

「・・・・」

リュウビは絶句した。

祖父があちこちで言いふらしているせいで、とうとう村に入った所でもこのように言われてしまうのだった。

「いや、それは虚言だ。私には関係ない」

「いやいやいやいや!その顔つき!間違いない!これも何かの縁だ!ちょっと飲みながら話そうぜ!」

「だから私には全く関係が無いことだ」

「いや!俺は認めんぞ!いいから、まずは酒だ!男なら酒を飲んで語れ!!」

「だから・・・」

などと言い合いをしていると、また変な男が割って入ってきた。

「なんだ貴行ら、酒を飲むならワシを混ぜてくれんか!」

「なんじゃああお前は!」

「いや、遠くから豪族に追われ逃げている所でな、とうとう金が底を付いたのだ。飯は食わんでもいいが、

酒が無いのは辛い。どうだ、今、ワシに酒をおごれば天下を取った際には大将軍にでもしてやるぞ!」

「なんじゃあああ」

その男はヒゲ男よりもさらに大きかった。アゴには腹まで届くヒゲを備えている。

「私は帰る」

リュウビはそう言い、その場を離れようとするとアゴヒゲに腕を掴まれた。

力一杯振り払おうとするも全く通じなかった。

「そら、酒屋のばあさんが呼んでるぞ!参ろう参ろう」

「な・・・」

ヒゲ男も呆気に取られていたが、アゴヒゲの只者では無い空気を察しついていった。


「ばあさん!濁りでいい!タルでよこせ!」


妙な空気になりながらも、ダブルヒゲコンビは酒をかっ喰らう。

「なんだ、貴行、飲まないのか?」

とアゴヒゲに言われる。


ヒゲ男はともかく、アゴヒゲにはリュウビも興味があった。

服は無理やりに落とした返り血色にそまっており、鋭い目つきのアゴヒゲ。

それが、このようなひょうきんな性格を持っているのだ。


「いや、頂こう・・・」

リュウビもついに杯を手にした。


それぞれが名を名乗り、身の上話などを話し出した。

ヒゲ男はチョウヒという。元々、酒屋だったのだが、早くに家族が他界し酒屋を継いでも

税金を取られるだけなので、家にある酒を全て飲み付くし、武芸だけを行ってきたという。

単純な男のようだが、素直な若者で、どこか愛すべき稚気を持っていた。


アゴヒゲはとある豪族の元で働いていたが、豪族の行いに腹を立て逃げ出してきたという。

返り血は追っ手を切り殺してきたものだという。

名はカンウ、字はウンチョウという。

人の話を真面目に聞き、場の空気をまとめるのが旨い男だった。また、動きの一つ一つに無駄が無かった。

さらに文武に通じており、酒の飲み方、話し方といい、非常に面白い男であった。


リュウビはすっかり二人を気に入ってしまい、話し込んだ。


やがて話題が高札の黄巾党討伐になり、非道な行いに怒りの空気が漂っていた。

そんな折、カンウが叫んだ。

「こうなれば、我ら三人で力を合わせて仕官しないか?チョウヒは力がありそうだし、

リュウビどのは考えが深そうだ。ワシはまぁ・・・酒だけは強い。我我が力を合わせれば

一国くらいワケ無く取れるぞ!」

チョウヒがそれに答える。

「おお。もう力を合わせるだけじゃ気がすまんわい!こうなれば我ら兄弟となって団結しようじゃないか!」


リュウビは酔いながらも真面目に考えていた。

この二人となら、黄巾党を・・・まして腐った朝廷を正し・・・オウヒツを・・・・


「おお!」

気が付くとリュウビは同意していた。


カンウがまた叫ぶ。

「こりゃめでたい!ばあさん!酒だ!追加だ!」

「もう、さっきので最後だよ!どんだけ飲むんだアンタラ!」

「なんだとお!」


そこにチョウヒが

「もう酒が無いなら仕方ないわい!ワシの家に来るといい。少しの酒ならあるぞ!」


こうして酒屋で飲み付くし、チョウヒの家でもさらに飲んだ。



ふとリュウビは目を覚ますと、隣ではチョウヒが大きなイビキをかいて寝ていた。

・・・

目を覚ましたのはこの五月蝿さかもしれない。

でも、気持ちの良い男だ。


リュウビを挟んで反対側にはカンウが剣を抱えたまま寝息も立てずに寝ている。

恐らく、追っ手から逃げている内にこのような寝方を覚えたのだろう。

学もあり、隙の無い動きは恐るべき男と見て間違いないだろう。


「しかし・・・・」


リュウビは思い出していた。酒の上とはいえ、兄弟になると誓ったのだ。

つまり、ただの仲間では無く、それ以上の思いで繋がる事になる。

「本当にこれで良いのか・・・」

「ただ、男子たるもの一度決めた約束は守るべきであろう。必ず黄巾党を討伐し朝廷を正すのだ!」

そう考えが落ち着くと、再び深い眠りに入った。



次に起こされたのはチョウヒのバカデカイ声だった。

「いつまで寝てるんだ兄貴達!」

この時リュウビが24歳、カンウが23歳、チョウヒは17歳だった。

「ほら、着物を用意したぞ!近所の連中も俺達の式を手伝ってくれている。さっさと起きるんだ!

ただ、着物は玄徳の兄貴には大き過ぎるかもしれんし、雲長(ウンチョウ)の兄貴には短か過ぎるかもしれん。

まぁ、我慢してくれ。それから雲長の兄貴のヒゲ!むさ苦しい!これで磨いておけ!」

と、鶏卵を置いていった。

「ガラにもなく気が利くやつだ」

カンウが笑いながら言った。


3人の義兄弟の式は大きな桃の木の下で行われた。

質素な料理と、やはり酒が用意されており、チョウヒの親族と思える人達に囲まれて執り行われた。


「我ら3人、生まれた日は違えども、願わくば同じ日に死ねるように」


式も一段落した頃、チョウヒが改まって言い出した。

「これで兄貴は本当に俺の兄貴になった。そこでお願いがあるんだが、俺は早くに身内が死んだので

字が無いのだ。どうか兄貴に名づけ親になってほしい」

リュウビが答える。

「おお、喜んで名づけよう。だが、何と付けたものか・・・」

と戸惑っていると、カンウが横から

「ワシとチョウヒは兄貴の両翼だ。だから一文字もらうぞ」

そういうと、玄徳の徳と、両翼の翼から、翼徳(ヨクトク)と紙に達筆な字で書き記した。

チョウヒはその紙を受け取ると大粒の涙を流して感激し、先祖の霊廟に飾った。


これは小さな田舎の、小さな村で起こった出来事だが、この3人の功績から、後の世まで伝えられる


桃園の誓い


と呼ばれるようになったのである。






[勝手に三国志①]の続きを読む
アゴヒゲのカンウ・ヒゲ男のチョウヒと義兄弟となったリュウビは思った。

「・・・私もヒゲを生やそう」

こうしてリュウビは口の両脇にヒゲを・・・


かくしてリュウビが、高札を出したリュウエンという長官の元へ行こうとすると

カンウが引き止めた。

「このまま我ら3人で行っても雑兵になるのがオチだ。出世は望めん」

「それもそうだな。だが、我らは一文無しだ・・・。どうしたものか・・・」

「少し考えたい・・・」

そういうとカンウは徐に歩き出した。

「おいおい、どこまで行くんだーウンチョウの兄貴」

「・・・」

どこへ行くわけでもなく街道やら林道を歩き出すカンウ。

やがて小高い丘にたどり着いた。カンウが口を開いた。

「あっちの方角が落陽(ラクヨウ:帝がいる所)だ」

「私は、都へ行ってみたい・・・」

チョウヒはつま先立ちをして覗いている。

「見えねぇなあ」

「はっはっは。つま先立ちをしたとて見えぬわ。遥か遠くだ」

「ちぇ」

「だが、ここから、その遥か遠くまで数え切れぬ者が苦しんでいる」

「・・・」

リュウビは感慨にふけっていた。


そんな時、崖下の街道で馬の足音がする。

目をやると馬具商人が多くの馬を引き連れて歩いていた。

「おお。なんと立派な馬か」

そういったカンウは街道へ降りていった。

「少し見せて頂いていいかな?」

「どうぞどうぞ。この馬もさる豪族に買ってもらう予定でしたが、御館様が黄巾ども追われ

買い手がいなくなってしまい困っていた所です。値段は元値で構いませんよ」

「そうか、だが我らも生憎、一文無しでな・・・」

そう言うと商人はとなりの者と落胆のポーズを取った。

「いやはや駿馬揃いだ。兄者にはその白馬が似合いそうだ」

「俺はこの栗毛がいいなあ」

なんて貧乏兄弟が馬を見ていると、馬の嘶きに紛れ、林の影から出てきた族らしき者たちが

商人達に刃を向けていた。


「我らは黄巾党のものである。この馬は頂いていくぞ。文句を言うと命は無いと思え!」

商人達は震え上がるばかりだった。

それを見るやカンウは馬にまたがり剣を抜き族を切り倒していく。

族が防ぐ剣ごと叩き割っていく。有無を言わせぬ怪力であった。


リュウビとチョウヒも後に続いた。

この時、リュウビは初めて人を切った。

カンウに飲みながら褒められた腕の長さから、相手の剣が胸に届く頃には

リュウビの剣が相手を貫いていた。

族を一掃したと思うとカンウが

「これは天が我らに贈り物をしてくれたぞ」

と、族の連れていた馬を撫でていた。


と文字通り血なまぐさい争いがあったにも関わらず3人は呑気なものだった。

そこへ商人がやってきた。

「天からの贈り物はそれだけではありません」

「?」

「本来、私達は殺され馬も武具も取られていた所をお助け頂いたのです。

私達の荷物も一緒にお受け取り下さい」

チョウヒが

「本当か!やったな兄者!!」

カンウも満面の笑みを浮かべていたがリュウビは首を横に振った。

「いや、それは出来ません。あなた方にも生活があるでしょう。私達は

自分達の命を守っただけに過ぎません。よって頂く訳にはいきません」

商人は絶句していた。同時に、このリュウビという男に惚れこんでしまった。

「ならば、こういうのはどうでしょう。あなた方も馬や馬具が必要なご様子。

これらの品をお貸しします。そして一国一城の主となった際には、倍返しして下さい」

「いや、しかし・・・」

というリュウビをカンウとチョウヒが肘で小突く。

「ほら、お仲間もこうもうされております」

「しかし、我らが討ち死にをした時は全て無に帰してしまいます」

「それを損を申します。我らも商人。先を見る事で利益を生んでいるのです」

「そこまで言うのでしたら・・・」

そういうとリュウビは先ほどの黄巾族の旗に借用書を書き出した。

「なんと律儀なお方か・・・」

商人は感動していた。

馬50頭、武具100式・・・

等など書き終わる頃に商人が口を出した。

「そこにこれも・・・」

と、リュウビから筆を取り 金50 と書き加えた。

「いけません!」

リュウビが商人の方を向くと同時にカンウとチョウヒがリュウビの肩に手をやった。

「それでは、皆様のご武勇を祈っております」

そう言うと商人達は黄色い旗を手に街道を進んでいった。

リュウビは商人の姿が見えなくなるまで土下座をしていた。


やがてカンウが口を開く。

「さて、道具は集まった。あとは兵隊が欲しいな」

チョウヒも

「俺は武器が欲しい。こんな剣では戦いにくいわい」

リュウビはずっと感激し涙に震えていた。

カンウもチョウヒもその様子を見詰め合って笑顔で見ていた。


金50から各自の武器を地元で有名な鍛冶屋に依頼した。

特にチョウヒが依頼したのは1m80cm程もある蛇矛だった。(矛先が蛇のようにうねった矛)

カンウは大薙刀を、リュウビは手の長さを生かすために2本の長剣を依頼した。

およそ打ちあがるまで10日程掛かると言われ、その間に兵隊を集めた。

金を出し、あるいは食料を分け、あるいは勧誘しただけで付いてきてくれる者もいた。


前に合った商人がリュウビ達に救われた事を人に広めてくれていたのである。

そして武器が打ちあがってくるまでカンウは集まった500人に隊列を教えていた。


チョウヒが文句を垂れる。

「何でそんな事をするんだ?兵隊ごっこじゃあるまいし」

「10日あまりで武芸を仕込む等は無理だ。それよりも隊は見栄が重要なのだ」


やがて500人の内、馬に乗れる者を長とし見事な隊列を組める義勇軍になっていた。

10日後、出来上がった武器を抱え、500人の庶民を従えたリュウビ一行は一路

長官、リュウエンのいる幽州へ向うのだった。



リュウビには懐かしい思い出の場所である。コウソンサンと共に文武に明け暮れた

幼き日々。

リュウエンはロショクの元に出来の良い弟子がいる。と聞いていた事もあり

リュウビの事を知っていた。

そして丁重に持て成され、スウセイという者の配下に任命されたのだった。

部隊の登録を終えたリュウビがカンウ達の所へ戻るとカンウが言った。

「兄者、あのスウセイには気をつけた方がいい。兄者がリュウエン公と話している間、

ずっとこちらを睨んでおった」

「あぁ、分かった。迂闊に胸襟を開かぬようにしよう」


その夜、スウセイがリュウビ達の陣に入り込んできた。

「お前ら、出陣だ。黄巾の連中が5000の兵を繰り出してきた。

狙いはタクケンだと思うが、お前らの地元であろう。さっさと行って迎え撃て。

先方はお前ら義勇軍に任せ、後ろからワシが1500人程連れて本体として動くぞ。

敵の大将はテイエンシ・副将はトウモだという。早急に出立せよ」


急ぎ、地図を広げ進路を決めて戦の準備をした。

翌日未明に出立し、リュウビ達500人は明るい内に先回りし、高台に布陣する事が出来た。

義勇軍・本体と合わせて2000人の軍に対し、黄巾党の部隊は5000人。

それでも地の利はリュウビ達にあり、高台に布陣出来た事もあって戦況は五分と見れた。

しかし、いつまで経っても後続の本体が来ないのである。

馬を乗れる者に後方を探しに行かせたが、帰って来て受けた報は

「味方の軍勢は一人として見つけられません」

の一言だった。

カンウが

「やはり、あの男、腹黒だったな」

「おい、それじゃ俺達は取り残されたって事か!」

チョウヒが歯軋りをし怒り出した。

リュウビは自分達はともかく、連れてきた500人の事を案じていた。

それを見てカンウがチョウヒに言った。

「チョウヒ、ワシらであの軍勢を追い払うぞ!」

「2人で5000!?」

「あぁ!そうだ!」

そう言うとカンウは隊に向き直った。

「お前ら、隊列は覚えているな!それから、戦の極意を教える。

肉を切らせて骨を断つ!じゃ!その意気を持って当たれば敵は怯み、こちらは

かすり傷一つ負わんぞ!」

そういうとチョウヒに向って頷き、馬を走らせた。


二人は黄色い軍団の前にやってきた。そしてカンウが大音声で吐き出した。

「やい!副将のトウモ!お前は黄巾の中でも一番の臆病者だと聞く!

ワシの弟のチョウヒが鼻毛の変わりにお前の首を引っこ抜くといっておるぞ!

悔しかったら出てきて戦え!」

チョウヒは爆笑していた。

「兄貴の悪口は天下一品だな!」


黄色い軍団はざわめき出したが、やがて一人の将らしき者が単騎で飛び込んできた。

「どれ、蛇矛の切れ味を試してみるか」

そう言うとチョウヒはその将の前に進み、矛を振り回して向っていった。

チョウヒの攻撃に防戦一方のトウモであったが、防ぎきれず首を刎ねられた。


するとカンウが再び前に出た。

「副将は死んだぞ!大将はどこで震えているのだ!さっさと敵を取りにこんか!」


安い挑発に乗ったテイエンシは単騎でカンウの前に馬を進めた。

テイエンシが槍を持ってカンウに襲い掛かるが、カンウはそれを全て防いだ。

わざと馬から落ちようとしたりギリギリで槍を避ける等、チョウヒをドキドキさせたが

やがて攻勢に転じると、あえなくテイエンシの首を刎ねたのだった。

それを見て

「今だー!敵軍は総崩れだぞー!」

そうカンウが偈すると500人の鍬や鋤を持った義勇軍が5000人の軍を追い立てた。

将を失った軍はもはや戦意も無く逃げ回るだけだったが、カンウは途中で追撃をやめさせた。

「ここらへんにしておこう。向こうが本気でこっちに掛かってきたらとても叶わんぞ!」



それをどこで見ていたのか、スウセイがやってきた。

「何故、追わぬ!皆殺しにするのだ!」

それを受けてカンウは

「500人の農民で5000人を相手に出来ると思っているのか馬鹿め!」

そう言うと、転がっていた敵将2人の首をスウセイに投げつけた。

血まみれになったスウセイは血の気が退いて青白くなり言葉を発する事も出来なくなっていた。



こうして500人の義勇軍で10倍の軍勢を退けたリュウビ一行は幽州に帰還したのだった。


次の出陣まで時間をもらったリュウビはかつて、ロショクの元で学んでいた学問所に立ち寄った。

するとかつてお世話になっていた大家さんが子供を追い掛け回して遊んでいた。

「大家さん!」

声を掛けられた大家は

「はて、私を大家と呼ぶのは大分昔の知り合いのようだが・・・」

「リュウビです。大家さんには阿備と言ったほうが分かるかもしれません」

阿とは、幼名に付ける冠詞である。

「おお、まさしく阿備じゃ。こんなにも立派になったのか」

「はい、大家さんにはずいぶんとお世話になりました。腹が減る年頃だったので

大家さんに煮てもらう豆がどれだけ嬉しかったか分かりません」

「ほっほっほ」

懐かしんで学問所を見ていたリュウビに大家が真剣な顔で話しかけた。

「ところでロショク先生の事は知っているか?」

「いえ・・・」

「実は黄巾討伐の最前線に任命され、こちらに来ているのだ」

「えええ!」

リュウビは驚いた。

ロショクは儒学に精通し兵法も学んではいたが、机上のみの話であり、戦とは全く無縁の

人だったのだ。


政権を牛耳る十常侍と真っ向から対立していたロショクを、まさしく死においやる為の

十常侍の作戦だった。


それを聞いたリュウビは大家に挨拶を終えると、急ぎリュウエンの元へ向った。

そして、かつての恩師である事を伝え赴任を願い出た。

リュウエンは寂しそうな顔をしたが、快く認めてくれたのだった。


リュウビは急ぎ、義勇軍にその旨を伝え共にロショクの指揮する場所へと走った。

義勇軍は初の戦で疲れきってはいたが、日ごろから優しくしてもらっているリュウビに

頭を下げられたとあっては断る理由など無かったのだ。


しかし目的地に着く前に護送部隊を発見し、リュウビは驚いたのである。

護送されているのがロショクだったのである。檻に入れられ手かせを付け飯も食わせてもらって

いないようで衰弱しきっていた。


リュウビが檻にすがりつき、それを取り払おうとする衛兵をカンウが銀粒を渡し無理矢理に休憩させた。

話を聞けば十常侍の陰謀によるものだという。

久しぶりに対面した師弟だというのにそれはあまりにもひどい再開だった。

すぐに護送隊の休憩も終わり、再び動き出す。

リュウビは腰の剣に手を当てていた。

チョウヒも話を聞いていて完全に頭に血が上っていた。

しかし、カンウがなだめた。

「気持ちは分かるが、そうやって助けた所で何も変わらぬ」

「・・・」

「むしろ、今よりももっと悪くなるぞ」

「・・・・・」

「兄者はオウインどのをご存知ないか」

「!」

リュウビははっとした。

ロショクと共に十常侍に対抗しており、帝の恩恵も受けている最重要人物であり、

オウインがいる内は迂闊に手は出せないだろう、というカンウの言葉だった。

リュウビは落ち着きを取り戻したがチョウヒは

「だが、それでもロショク先生がやられたらどうする!!!」

親の存在をあまり知らないチョウヒに取ってはリュウビは掛け替えの無い家族・兄弟となり

リュウビ・カンウに通じる人、ましてや恩師ともなれば黙っている事など出来ないのだ。

「馬鹿者!」

カンウがゆっくりと二人の手を取り静かだが力のある声で言った。

「その時は我ら3人で、宮殿に切り込むのだ。」

「そうだな・・・。今はオウイン殿を信じるとしよう」


リュウビ一行は勢いで行動してきたが、目的を失いその場で野営の準備をしていた。


そこにまた軍勢が訪れた。先頭に立って進軍しているのは覇気に溢れた顔をした将だった。

リュウビと目が合うと、その男は馬を降り挨拶をしてきた。

「リュウビ殿かな」

「はい・・・。」

「やはりそうか。ロショク公の事は残念であったな。だが心配はあるまい。

オウイン殿もいるし、都にはまだまだ反十常侍派が沢山いるのだ。案ずることはない」

何故か、この男は全てを知っていた。

するとその男は笑い出した。

「きつねに摘まれたような顔だな。リュウビ殿、この世は情報が全てだ」

「は、はぁ」

「後ろにいるのがご兄弟かな?」

「はい、カンウとチョウヒです」

「そうか、確かに豪傑のようだ。良い兄弟を持ったな」


「なんだあ、あいつは」

「さぁ」

カンウとチョウヒもぶつぶつと言い出した。


「私はソウ=ソウ=モウトクという。お主と同じ討伐軍だ。また会う事もあろう。さらばだ」

そう言うと、再び進軍していった。


小太りの大男であったが、切れ目の長い目には恐ろしく強い意志が宿っているような感じがした。

だが、悪いものでは無く、また会って話をしてみたい。そう思わせる人物であった。


その夜、義勇軍は泥のように深い眠りに付いた。


翌朝、宛もなく幽州へ引き返していると、黄巾族とそれに追われる官軍を発見した。

「朝廷の部隊だと言うのに、官軍め・・・情けない・・・」

カンウが溜息を吐いていた。

「見過ごすことは出来ぬ」

そう言うとリュウビは剣を抜き黄巾の群れに突進していった。

それを見て義勇軍が全員が続いた。


優勢の族だったが、思わぬ奇襲を受け混乱し、乗じて官軍も反撃に転じ当たりは血の海となった。

やがて族は数えるほどになり撤退し、リュウビは義勇軍の損害を確認していた。

乱戦の中で義勇兵100人程が死んでしまっていたのである。

遺体を集め悲しんでいる所に官軍の将と思える人物が尋ねてきた。

「貴公らのお陰で助かったわい。冠を名乗るが良い、恩賞を出そう」

「はい、私達はタクケンで挙兵した義勇軍でございます」

「なんだとー!」

その男はマスオさんのように驚いた。

「冠も無いなら話をする必要も無いな」

そう言うとその男は引き返していった。

リュウビは呆然としていた。

命を投げ出してまで助けに入り、100人もの死者を出したにも関わらず何の恩賞も

受けられないという。

チョウヒもカンウも激しく憤るリュウビを初めて見て、声を掛けることすら出来なかった。

そこへ、先ほどとは違う実直そうな男が現れた。

「私はこの軍の副将のカクと申します」と、深く頭を下げた。


これに我に返ったリュウビが返事をする。

聞けば、この官軍の大将はトウタクといい、討伐軍が優勢となってきたため、引き上げている途中

だったという。

リュウビが何の恩賞も受けられないと言われた事を告げるとカクは深く悩んだ。

そして都に来てもらえれば必ず恩賞を出そう、と言い、カクの名で手形を渡した。

再び深く頭を下げたカクは去っていった。


リュウビはほっと一息を付いた。

「これで死んでいった者の家族に報いる事が出来る・・・」


都に向う事にしたが、さすがに400人で歩いては目立つのでチョウヒが義勇軍を取りまとめ

タクケンへ引き返し、カンウとリュウビが都:洛陽へ向う事となった。


道中、カンウが身の上話を始めた。

「ワシは以前、こっちのほうで暮らしていたのだ。身よりは無かったが高名な先生に拾われ

息子として育ててもらっていたのだ。その先生にも実の娘がいて、これを権力者が嫁に寄越せと

言ってな。先生は反対し、本人も嫌がっており、ワシはそれを見ていたので、力ずくで権力者が

兵を向けて来た際、ワシが追い返してやった。

ところが、ワシの留守中にも改めて兵が先生の屋敷に攻め入り、先生を始め門下も殺されたのだ。

その娘も、もうそこにはいなかった。呆然としてしまっていたが、事の顛末を聞き、ワシは

単身で権力者の屋敷に押し入り、全てを叩き斬った。そしてその娘と、その祖父を連れて

都を出てきたのだ」

「・・・」

「あのまま宮使えをしていればもしかしたら今頃は大将軍にでもなっていたかもしれん。

はっはっは」

最後の言葉は、まるで本音では無いようだった。

男に生まれ、殆どの男が名を挙げたいと思う中で必死に守るべきものを守ってきたのだ。

リュウビは何を答える訳も無くただ話しを聞いていた。


2人が洛陽へ着く頃、リュウビが気がついた。

「いま、ウンチョウが都へ行けば、以前の追ってにまた見つかるのではないか?」

「その時はその時だ。暴れるだけ暴れて先生の弔い合戦としよう。その時は兄者は逃げてくれ」

「そうはいかん。兄弟の誓いを忘れたか」

カンウは何も言えなかった。

「都には私が一人で行く。よいな」

「・・・分かった。ここより少し先に小さな小屋があるのだ。そこにはワシの知り合いもいてな。

そこで兄者を待つとしよう」

小屋を確認しカンウと別れたリュウビは一人、大きな屋敷を目指して歩いていった。



屋敷に着き、カクの手形を見せ奥に通されると、しばらくして見たことのある男がやってきた。

「恩賞を出せというのは貴様か。冠を名乗れ・・・お前はいつぞやの義勇軍の・・・」

「リュウビでございます」

「お前のようなヤツとは話す価値も無いわ」

そう吐き捨てるとその男は去っていった。


「どうしたことか・・・」

リュウビはその場から動けなかった。

「死んだ100人の家族に・・・」


昼には屋敷に着き早々に奥へと入れたが、恩賞はもらえず、ただただリュウビはじっと座っていた。

そのまま時が過ぎやがて夕日が差し込んできた。

周りの役人達もリュウビを見てはいるが、誰も声を掛けようともしなかった。


ただ、一人の男が声を掛けてきた。

「おや、あなたは」

その声に振り返ると幽州で会ったソウソウという男だった。

「まだいたのか。昼頃そなたを見つけたが、用があったので関せずにいたが、これはどういう仔細か」

リュウビは事の詳細を伝えると、やや沈黙をした後にソウソウが笑い出した。

「この屋敷の主はトウタクといってな、ただの野心家だ。恩賞なぞ出ようはずがない」

「ですが討ち死にをした100人の家族に合わせる顔がありません。私はテコでも動きません」

「顔に似合わず強情なお人だな。だが、そこがお主の良い所かもしれぬ」

ソウソウは話を続けた。

「良いかリュウビどの。こんな時代にトウタクなんぞを頼っていたのでは先は開けぬぞ」

リュウビは驚愕を隠せなかった。

事もあろうに高い身分の人物であろう、この大きな屋敷に住むトウタクの悪口を大声で言っているのだ。

「ソウソウどの、そんな大声では・・」

「なに、ここに連中は小物ばかりだ。わざわざ報告をしてトウタクの怒りを買おう等と言う輩はいない。

小物は小物だ。取るに足らない存在よ」

「はぁ」

「だがリュウビどのは違う。その目の輝きと人柄。私はほとほと気に入ったのだ」

「はぁ」

「私からで良ければ、役人に交渉してみよう。これでも少しは顔が利くのでな」

「なんですと」

「また、リュウエン公の元を離れていてからは、また流浪の身であろう。それではあの暴れん坊のご兄弟は

落ち着いておられまい」

「はい、太い腕をビシビシと叩いています」

「ははは。そうであろう。よし、着いてきてくれ」

そう言うとソウソウは別な館にリュウビを案内した。


都の大将軍、カシンの直属の配下であるコウホスウの元でソウソウは働いていた。

そのコウホスウと同じ立場にいるシュシュンという将軍の元に案内された。

シュシュンはソウソウの推挙という事もあり、死んだ100人へ向けての金銀と

残りの400人の者を都の兵士として使うと言ってくれた。


リュウビはソウソウに何度も感謝をし、カンウやチョウヒに早く知らせ、都へ呼ぶ為に

その場を去った。


リュウビが、カンウがいるであろう小屋に向かい戸を叩いたが、留守のようだった。

だが、カンウの上着が干してあったので、小屋の側で腰を下ろし待つ事にした。


すると小屋の裏から藁を持った女性が出てきた。

その女性は身を隠そうとしたが、今更遅いという動きをし動揺していたが

リュウビが声を掛けた。

「この小屋の方かな」

「・・・はい」

「こちらにカンウは来ているかな」

「・・・・・はい」

「なら良かった。カンウに吉報を届けたくて飛んで参りました。リュウビと申します」

「聞いております」

「カンウはお出かけかな」

「はい、祖父の薬を買いに隣町へ行っています」

「そうか、なら少し待たせてもらうとしよう」

女性は藁を片付け小屋の中に入ったかと思うとすぐに出てきた。

「リュウビ様はカンウ様の兄だと聞いております」

「そうですが」

「私はカンウ様と一緒に住んでおりました」

リュウビはカンウから聞いた話、その娘がこの女性なのだと悟った。

「はい、カンウから聞いております」

すると女性はリュウビにすがるように話しかけた。

「私はずっとカンウ様と結ばれるものと思っていました。カンウ様が私を救い出して

くれてからずっとここで暮らしていたのですが、私に指一本触れようともしません。

それは・・・・それは私が穢れているからでしょうか」


リュウビは驚いた。会ったばかりであるというのにここまで女性が話しをするものか。と。

また、同時にそれだけカンウを思っての事だと納得した。

「いや、それは違う」

リュウビは女性に向き直り一言加えた。

「それはあなたを大事に思うからこそ、カンウなりの愛情表現なのだ。私にはそれが分かる」

「・・・そうなのですか」

「あぁ。だが、我々は照れくさくてこういった話はしなかったのだが、私は今、知った。

これより我々は官軍となり、黄巾討伐の任務に付くが、落ち着いたら頃合を見て

私がカンウの兄として、あなたを必ず向かえにきます。もうしばらくお待ち下さい」

それを聞いた女性は頬を赤らめ、高ぶる感情を抑えきれない様子であった。


そこへカンウが馬を飛ばしやってきた。

「おお、おお・・・兄者・・・」

カンウはバツが悪そうにしていたが、落ち着きを取り戻しリュウビに聞いた。

「で、兄者どうであったか」

リュウビが都での経緯を話すとカンウは喜んだ。

「ワシが官軍か。だが、これでもう追っ手に追われる事もあるまい。

そうなれば、ワシがチョウヒと400人を呼んでこよう。これ、ヨウキョウ、ワシの荷物を持て」

どうやらこの女性はヨウキョウというらしい。

程なくしてヨウキョウがカンウの大薙刀や荷物を重そうに抱え持ってくると、干してあった

上着を着て荷を取り馬にまたがった。

「でわ、兄者、すぐに戻ってくる」

そういうとヨウキョウの事など一度も見る事なく、カンウは馬を走らせた。

日も暮れてきたのでリュウビは都のシュシュンの元へ向う事にした。


「あのヨウキョウどのの嬉しそうな顔。カンウの照れた顔」

そんな事を考えていると、ふとオウヒツの事を思い出していた。

その夜にはシュシュンから歓迎の宴を受け、出席してくれたソウソウとも大いに語り合った。

シュシュンは、

「ワシとコウホスウは項を競い合っているが、お主ら二人の競争も見物だわい」

と大いに喜んでいた。


やがてカンウとチョウヒ、タクケンからの400人と合流し、官軍入りの手続きを済ませると

リュウビは軍会議に呼ばれた。


黄巾党の討伐は終焉に近づいているという。

黄巾の拠点も残り僅かとなり、リュウビ隊は5000の兵を預かり宛城という拠点に攻め入る事となった。


軍を進めて3日程して、ジョナンと呼ばれる地を通っていた夜の事。

戦争があったのだろう、血生臭い風が漂う高原に出た。

黄色い服をまとった死体が累々と横たわり、何よりも驚いたのは全ての死体に首が無かった事だった。

物事には動じないカンウでさえ、唸っていた。

「ここまでやるとは・・・よほどの将が指揮した官軍なのだろうな」

その死体の数は10000を超えていた。


リュウビがその光景に驚いていると、物陰から年配の男が姿を現した。

「よくここまでやるものよのう。ヤツこそ乱世の奸雄じゃ」

「ここでの戦を見ていたのですか」

「あぁ、見たとも。兵法に叶った布陣、一分の隙も無い行軍、一切の容赦無い信念」

「それほどの将が官軍に・・・」

「あぁ、お主と年もそこまで離れてはおるまい」

「その将の名前はご存知ですか」

「知っておるとも。ソウソウモウトク。恐るべき男じゃ」


リュウビは愕然とした。

出合ったばかりのリュウビの為に動き、恩賞を出してもらった他、身の上まで世話をしてくれた

優しい人物がこのような所業をするとは到底思えなかったのである。


男は改めて話かけてきた。

「わしはここいらで百姓をしているが、人物鑑定なんぞもしておる。

キョショウというものじゃ。見たところお主も只者では無さそうだ。

進むべき道に迷ったら尋ねてくるといい」

そう言い残すと暗闇に消えていった。


カンウはキョショウを知ってるようで、かなり名の知れた人物鑑定師だという。


リュウビ隊が宛城に着いたのはそれから3日後の事だった。

族は城内に立て籠もり篭城(ひきこもりな戦法)の構えを見せていた。

一度は無理矢理に城門を空けようと突撃したが、城の上から岩やら矢が降ってきてリュウビ軍は

大きな犠牲を出した。兵力も僅か3000となり攻めようが無くなっていた。

ただ、城から出てきた間者をチョウヒが捕まえてきた。

カンウが城内の様子を吐かせると以外な事に、既に兵糧は尽きており兵の士気は下がり続け

数も5000を切り、投降しようとする者がいると斬って捨てられるという。

この間者も、命からがら逃げてきた投降兵だった。

「今、攻め入れば勝てるぞ兄者!」

とカンウもチョウヒも声を張るが、リュウビは認めなかった。

「無駄な血は流させたくない。城内で反乱が起こり将の身柄を出してくれればよいのだが」

と、リュウビらしいといえばリュウビらしくそのまま、見詰め合うだけの戦が続いた。

「チェ」

と言ってカンウとチョウヒは酒を飲んでは寝、起きては酒を飲んで時間だけが過ぎていった。


するとシュシュンの軍が1万の軍を連れて援軍に駆けつけてきた。

報告を聞いたシュシュンは怒り出した。

「そんな事でどうするか!お主を推挙したソウソウは2万の族を討ち、敵の総大将である

チョウカクの弟を討ち、死体を切り刻んで我が方の勝利はもう目前なのだ!それに比べて・・・

もうよい!わしの隊が城を落とす!!」

シュシュンは突撃を号令し、攻め込んだ。

チョウヒは

「あの横取り野郎が!!!」

といきり立ったが、リュウビはそれを制した。

「これでよいのだ。私達の軍の血が流れずに済んだのだ」

「チェエエ!兄者は甘いぜ!!」

というとまた酒を飲みに戻った。


もはやこれまでと悟った宛城の族は、城門を開けて迎え撃ち両軍が大激突した。

族は皆殺しとなったが、シュシュンの軍も2000の兵を失った。


その後、黄巾の頭領であるチョウカクも病に倒れ、その一族も殺され指揮系統が取れなくなった族は

散々に討たれ、降伏する者も多く、事実上、黄巾党は壊滅となった。


討伐隊が都に呼ばれ、各将が新しい地位や名誉を授かった。

リュウビも官軍に参加してからは功という功は挙げていないが、

一気に大出世したソウソウの一声と、ロショク・オウインの推薦もあって、リュウビにも官が授けられた。


アンキ県という、小さな村だがそこを納める役を賜ったのある。

ソウソウとは権力の上ではこの上なく離されてしまったが、リュウビは初めて行う政治であり

胸が躍っていた。

チョウヒも

「俺が役所の番兵かぁ」

なんて言っていたが、しぶしぶ着いて来た。

カンウにはリュウビの右腕として、また小さな軍ではあるが兵の訓練を任せた。


リュウビの行う政治は公平であり、役人のワイロなどは絶対に許さず、ケンカの仲裁まで

直接関わり、事を納めていった。

村の人々も

「今回の役人さんは稀に見る、徳のある人だ」

などと言い、外からアンキ県に流れてくる者もいた。


兄弟の契りを交わしてから、戦場ばかりを駆けてきたが、それに比べると

長閑な日々であった。


ある晴れた日に、カンウがリュウビに言った。

「そろそろ嫁をもらってはどうか。早くしてもらわんと後が仕える」

リュウビはすぐに答えた。

「それはヨウキョウどのの事を言っているのか」

「あ・・・・いや・・・これは叶わん・・・」

と、カンウは赤くなりうろたえた。

リュウビもオウヒツの事を思い出していた。

「しかし・・・お互い無一文ではなぁ・・・」


そんな折に、役所に村の若者が駆け込んできた。村の財政を任せている頼れる若者であった。

「大変です。リュウビさん。都から巡察が来るみたいですよ!!!」

「そうですか。丁重に御持て成しをしてあげて下さい」

「はい、それはまぁ、やれるだけの事はやりますが・・・」

「何か?」

「去勢をしている方ですから女は要りませんが、その分、山のように金銀を積みませんと」

「この村にそんな余裕は無いでしょう」

「ですから、こういう時は領民から金を搾り取って・・・」

「いや、それはいかん!絶対に許さない!」

「あぁ・・・どうなる事やら・・・・」


やがて来るではあろう、腐敗した朝廷の使いが来るという。

だが、無いものは無いのだから仕方が無いだろう。というリュウビの硬い決意を聞いた若者は

走って逃げ出していた。


翌日、巡察に来た者をリュウビが村の外から迎えたが馬上から見下ろすだけで挨拶も返して

くれなかった。

そして、予想していた事だが、村の長老が巡察官に呼ばれていた。

リュウビがワイロの要求を拒んだ為に、偽の書状を書けという・・・・

つまり、リュウビが悪政を行っている為、役人を変えてほしいと懇願する旨の書状だった。

だが、今回の役人は素晴らしく、長老は一切書くことは無いと断固反対し、その長老は村の広場で裸にされ

ムチで討たれる事となった。


それをチョウヒが聞きつけ、鬼のような形相で巡察官を捕らえ引きずりまわし、太い木に吊るし上げたのだ。

そして枝を折っては巡察官を打ち、折れては次の枝を折って巡察官を懲らしめた。

やがて駆けつけたカンウも、その様子を見ていたが、長老の労しい姿を見て、

カンウまで拍手をする始末だった。


遅れて来たリュウビはその光景に唖然としていたが、やがてチョウヒの手を掴んだ。

「もうよい」

「だってよう・・・」

巡察官は気息奄々としていたが、リュウビに告げた。

「これは反乱だ!朝廷に対する反乱であるぞ!はやくこの縄を解け!

さもなくば逆賊ぞ!!!」

しばらくしてリュウビは前に進み出た。

縄を解くものとチョウヒもカンウも・・・村の人々も様子を見ていたがそうではなかった。

「お主のような者を裁くのが逆賊なら、喜んで逆賊と呼ばれよう」

そう言うと、首にかけていた役人の印を巡察官に掛け、リュウビが怒鳴り散らした。

「もし、これが原因でロショク先生やオウイン殿に危害があるような事になってみよ!

このチョウヒに代わって、私が貴様を斬る!」

それを聞いた巡察官は小便を垂れ流し、口からは泡を吹いていた。

そして村の人々に別れを告げ、カンウ・チョウヒと共に野に下ったのである。

村人は姿が見えなくなっても別れの言葉や声援を送っていた。



朝廷から追っ手の掛かるであろう逃避行である。



桃の木のあるチョウヒの館で義兄弟の契りを交わして戦場を駆け巡り、

官職を得る事1年。

気付けば、現状は元の3人のまま、何も変わらなかった。


だが、3人の、リュウビの胸には新たな決意が生まれていた。


こうして3騎は行く着く宛も無い旅路を力強く走り出すのであった。
リュウビ達は行く宛も無く馬を進めていたが、自然の桃の木を見つけて感慨にふけっていた。

「すまねえ。兄貴達、俺が勢いに任せてやっちまったから・・・」

とチョウヒが落ち込んだ様子で話しだした。

カンウは

「なに、お主がやらねばワシがやっていた」

と言えばリュウビも

「チョウヒが動いてくれたお陰で私は目が覚めたのだ。でなければ私はいつまでも朝廷に怯えて

いただろう。チョウヒは天の声を聞かせてくれたのだ」


だが、今のこの有様。3人は静かに桃の木を眺めていたがカンウが口を開いた。

「少し、別れて追っ手を避けぬか」

リュウビもそれは考えていた。これだけ図体のデカイのが3人も揃っているのだ。

どうしても目立ってしまう事は明らかだった。しかしチョウヒは食い下がった。

「なにい!離れ離れになると言うのか!!!」

「これで今生の別れというわけではないのだ。各々バラけた方が追っ手をかわし易いだろう。

「そんな・・・」

「では期限を決めて、それぞれの道を歩むとしよう。いつが良いか」

「では、一年後。丁度この桃の木が花を咲かせる頃に落ち合おう」

「なら、場所は俺ん家の庭にしよう」

「あぁ、分かった。そうしよう」


そしてチョウヒは南に、カンウは東を向いた。

そこでリュウビはカンウに問いかけた。

「ウンチョウは西に行くのでは無いのか?」

「なぜ西だ」

「その、ヨウキョウどのの所へ行くのではないか」

「余計な気はまわさんでくれ。ごめん」

そう言うと振り返る事も無くカンウは彼方へ消えていった。

チョウヒはチョウヒで10歩進んでは振り返り、20歩進んでは振り返り、悲しそうな顔を

浮かべていた。

リュウビは二人が見えなくなるまで見送ると自身の身をどこに置くかを考えた。


オウヒツ・・・北平へ行こうとも考えたが、今やコウソンサンも太守ではないといえ、

一国の主。恐らくリュウビの首に懸賞金でもかけられ、親友であればこそ迷惑は掛けたくない。

その理由から討伐軍で世話になったリュウエン公の元にも行けず、ましてロショクのいる都になど

行けるハズも無かった。

その時、黄色い花を見つけ、そよいだ風から黄色の散る姿。1万の首の無い、悲惨な光景を思い出した。

同時に、その時にいたジョナンに住むというキョショウを思い出したのだ。

「今こそ、教えをこうべきだろうか」

リュウビは西に足を向けた。


ジョナンの村に着き、農夫にキョショウの屋敷を訪ねると、

「あれが屋敷と呼べるかい」

などと言われつつ、案内されたのはボロボロの小屋だった。

リュウビが門を叩くと、すぐにキョショウが出てきた。

「おお、やっと来たか。まぁ上がれ」

まさに来るのを知っているかのようなタイミングだったのだ。


「さて、リュウビ殿は何をしにここへきたのか」

「はい、訳あって兄弟と離れる事になり、見聞を広めようと先生を尋ねさせて頂きました」

「そうか。実は昨晩、星を見ておったら龍がワシの元へ訪れる・・・と出ていた」

「星が、人の行動を示すのですか!?」

「ある程度は・・な。しかし、来たのはトカゲであった」

「・・・」

「お主、女に心を奪われてはおらんか?」

「なにを・・・」

リュウビは赤くなりうろたえた。

「ほっほ。まぁよい。付いて来い」

そういうと屋敷の裏に畑があり、そこで畑仕事をしている男に

「教えてやれ」

それだけ言うとキョショウは去っていった」

リュウビが何をすればいいかも分からずとまどっていると男が

「お前さんもあの先生に何かを教わりに来たのか」

「はい。道を標して頂こうかと」

「そうかい。じゃとりあえずあの桶に水を汲んできてくれ」

男の指差した先には大きな桶があり、その遥か遠方に川が見えた。

(そうか。民の気持ちを知る為に、私しに百姓の仕事をしろ。と。そういう事か)

リュウビは桶をかつぎ川まで歩いて行った。大量の水を汲み、

男の指示されるままに水を撒いたが、土はあっという間に吸収し、すぐに乾ききってしまう。

それを何百回と繰り返していたが、ずっと鍬を振るっている男は、全く休む気配すら見せないのだ。

(負けるものか)とリュウビは自身に鞭打ち、辺りが真っ暗になると、男は

「では、今日はこの辺ししようかね」

そう言うと農具をまとめて小屋へ向かった。

その晩、リュウビは泥のように眠った。

しかしすぐに男に起こされた。

「お天道様より遅く起きたら申し訳なかろう」

リュウビは全身が軋み動くどころでは無かったが、男の純粋に土に挑む姿勢が身に染みたので気力で起き上がった。

辺りは真っ暗のままであったが男は慣れた様子で農具を担ぎ、歩き出した。

「今日は鋤を振るってみるかね」

そういうと鋤を渡された。土の起こし方を教えてもらい、見た目以上に重労働なのを知った。

男は恐るべき速さで水を撒き、鍬も片手に持ちつつ働いていた。

リュウビは腰の骨が砕けそうになっていた。それでも負けまいと必死に頑張っていた。

その晩、寝床に着くと、男が話しかけてきた。

「お前さんは、すごいのう。侍様で2日と持ったのはお前さんが初めてじゃ」

「はぁ。もう全身の骨が砕けたような感じです」

「そうでしょね。だがこれを毎日、続けるのだ」

「私は戦場で鬼のように活躍する将を見てきましたが、畑においてはあなたが一番の将でしょう」

「何をいうかね。私なんかは楽をしている方だ。ここで先生に雇われて、税金を納める必要も無い」

「・・・」

「私が畑の将軍だなんて。私は畑の幸せ者ですよ」

リュウビは返す言葉も無かった。これだけの労働でも生活をしていけないという。

やがて、疲れていたにも関わらず、男と語り明かした。男の名前はリキュウというらしい。

キュウは休と書くが、全くもって休まぬ男であった。

話の流れでリュウビが、

「ところでキュウさんは奥方はいないのかな?」

「・・・」

返事は無く、寝てしまったか。とリュウビは思ったがそうではなく、

やがてキュウのすすり泣く声が聞こえたと思うと、轟々だる男泣きに変わった。

キュウもまた、この世に苦しんできた農民の一人だったのだ。

(すまない事をした・・・)とリュウビは布を被り眠ったふりをした。


晴れればキュウと共に農耕、雨が降ればキョショウの元で天文や政治について学んでいた。

キュウの素朴で優しい心に触れ、キョショウの考えさせられる話にリュウビは充実した日々を送った。


そんな折、キョショウが出かけると言って出かけ、10日程で戻ってくると、リュウビを呼んだ。

「お前は、アンキ県で巡察官を懲らしめたそうだな・・・」

「!」

リュウビは観念した。キョショウにもリキュウにも、迷惑が掛かるものと分かっていながらも

それを隠し、共に生きてきた事を詫びた。

「ほっほ。その巡察官め、そうとう懲りたと見えて誰にも危害は及んでいない。安心するがいい。

それから誰の首にも金は掛けられていないようだ」

「本当ですか!!?」

リュウビは飛び上がらんばかりだった。

早く、カンウとチョウヒに教えてやりたかったし、推挙してくれたソウソウやロショク、オウインにも

侘びをしたいと考えていたのだ。

「まぁ、そう慌てるな。リュウビよ、民の生活がどのようなものか分かったであろう?」

「はい。身に染みて・・」

「これがいかんのじゃ。朝廷・・・つまり頭が変わっただけでは変わりはしない。誰が天下を取ろうが

変わりはしないのだ。お前にこれを変える事が出来るかな?」

リュウビは何も答えられなかった。

「今はそうであろう。だが、そのままではいかん。いずれ屍をさらすだけだ。お前は過去にロショクの

元で学んでいたな?」

「はい」

「もう一度、都にいるロショクに会い、王道について学ぶが良い」

「王道・・・ですか」

それだけ言うとキョショウはその場で寝てしまった。


翌朝、リュウビは都に向かう事にした。

特にリキュウは泣いて見送ってくれた。


リュウビは飛ばした。いち早く兄弟にこの事を教えてやりたかったのである。

そう思い、カンウが実はいるであろう、都の手前にあるヨウキョウの小屋に着いた。

朝方ではあったが、構わずに戸を叩いた。

出て来たのヨウキョウに対し

「カンウはいるかな?」と聞くと

「え!カンウ様がここに!?」と、全く知らない様子だった。

「あ、いやいや、いないのなら良いのだ。実はカンウと都へ買い物に来たのだが逸れてしまってな。

ここへ来ているかと思ったのだが、私の思い過ごしのようだ。朝からすまなかった」

そう言い逃れて返ろうとするとヨウキョウがその場にうずくまってしまった。

話を聞けば、カンウは、リュウビと3人でここで会って以来、ここには来ていなかったのだ。

なんとかなだめたリュウビは急ぎ、都へ向かった。

「やぶへびだった・・・しかし、さすがはカンウだな」

と、改めてカンウの男っぷりに関心していた。


都には昼頃に着きロショクの屋敷を見つけ、師弟は再開した。

「阿備や、いや、もう阿備は無かろうの。リュウビや、アンキ県では大変だったな」

「本当に推挙していただいた先生へ危害が及ばぬかと、そればかりを案じておりました」

「阿備に心配される程、老いてはおらんわい」

そういうと久しぶりに師弟は笑い合った。

明けても暮れても互いに時間を忘れて語り合っていたが、リュウビが王道について尋ねると

ロショクは盲目していたがややあって話始めた。

「この世の道として、誰もが認める道が王道である。だが、言うは易いが行なうは難い。

今のお前なら理解も出来るかもしれん。

 (ごめんwwwwあんまり覚えてないのwwwwwww)

親は子だけを子とせず、子は親だけを親とせず、老いは養われ、子は学ぶ。

男は勤め、女は稼ぎ、豊かな道を切り開く。さすれば世は治まり、道に落ちている物も拾わぬ。

よって戸締りも必要が無くなる。これを王道という」

 (ほんとゴメンだわww)

リュウビはこれを復唱し続けていた。

そこにロショクが続けた。

「リュウビよ、これは政をするものでないと分からぬものだ。ソウソウを知っているか?」

「はい」

「やつが行なっている政は覇道だ。王道では無い。だが、覇道とて簡単に出来るものではない」

「はい、キョショウ先生も言っていました」

「うむ。ソウソウにはどんな事にも曲がらない信念がある。これを相手にする時は気をつけよ。

だが、同時に忘れるな。覇道は王道に非ず。じゃ」

そこまで言うと互いに堅い話を終え、再び笑い話に戻って言った。そこでロショクが

「ところでリュウビよ、丁度、県丁の席が一つ空いているのだが・・・」

「いえ、結構でございます」

「さもありなん」

そういうとロショクは笑った。

「そこでな、お主の力を借りたいと言っている者がいる」

「私をですか」

「お主のアンキ県での働きは、心ある学者の内では快挙と物語にもなっている」

「お恥ずかしい限りです・・」

「そんなお主を求めて、今、ここにその雇い主が来ている」

そういうと聞き覚えのある声がした。

「ゲントク!!」

「ハクケイ!!」

「はっはっは。実は、コウソンサンがお前をどうしても欲しいとワシに頼みに来てな」

二人は抱き合って喜んでいた。

「ゲントク!どうした、その黒さは!まるで百姓ではないか!」

「その百姓をやっていたのだ」

「武芸は怠ってはおるまいな!」

「いや、鋤ばかりを振るっていた。だが、2剣を振るよりも力がいる。腕は太くなった」


コウソンサンはこの度、北平の太守に任命され、新たに軍を整え政治を広げねばならない為、

リュウビを頼ったのだった。

「ワシの弟子2人が手を取り合って国を治めるとは、何とも言えんモノがあるのう」

そう言って泣き出したロショクを囲み、師弟3人は心行くまで飲み明かした。


翌朝、二人は都を出て北平へ向かった。気ままな二人旅だった。

リュウビの胸にはオウヒツが浮かんでいた。また会える。あれから何年経ったか・・・ジュルリ。

だが、そんな話をコウソンサンに出来るはずも無く、二人はゆっくりと馬を走らせた。


北平の屋敷に着いたが、オウヒツの姿は無かった。

どこを探しても、いつまで経っても見つけられなかった。

そこで見事に成長したチョウウンに聞いてみた。

「あの、その、なんだ。お主と一緒に学んだヨウセンを覚えているか?」

「はい」

「今、どこにおるか知ってるかの。またお主らと3人で文を語りたい」

「知りません。ただ、ここも危なくなったと・・・そういった言葉を聞いたかと思うと

侍女達と共に姿は無くなっておりました」

「・・・そうか」

そんな所へコウソンサンがやってきた。

「ゲントク!お主には世にも恐ろしい鬼の如く兄弟がいると聞いたのだが」

「あぁ。故あって今は離れて生活している。来年の春にタクケンで落ち合う約束を

しているのだ」

「その二人もここへ来てくれるだろうか」

「あぁ。酒さえ飲めれば、私のいるところなら来てくれるだろう」

「そうかそうか。さらに軍を増やしたのでな、経験ある猛者が欲しかったのだ」

「きっと力になるだろう」


この時、都では大きな動きがあった。

大将軍であったカシンが仲間の裏切りに合い、帝をも巻き込んだ大きな争いがあった。

この隙に乗じてエンショウ(幽州の太守)が朝廷へ乗り込み、十常侍を殺したのだった。

こういった騒乱の中で治めるべく帝に呼ばれたのは西で勢力を拡大していたトウタクだった。

今やその軍勢は20万を越え、都を包囲するように布陣した。

トウタクの威圧のお陰で乱は収まり、十常侍の死・能無しの将軍カシンの死を持って

朝廷は落ち着きを取り戻すかのように見えた。


その頃、オウヒツは都、育ての親であるオウインの元に戻っていた。

20を越え、その美貌はまるで天女のようだった。

オウヒツは死んだものとされていた為、名を人前ではチョウセンと語り、

オウインの親戚の娘として、大人しく生きていく決意をするのであった。

チョウセンはこの動乱の世を憎んではいたが、それよりも欲しいものは

リュウビだった。北平で別れて以来、一日とて忘れられなかったのだ。

オウインは恋愛には無頓着なので、オウヒツの気持ちに気がつく事も無かった。




時は流れ、桃の木が芽を付けた頃、リュウビはタクケンに向かっていた。

一年ぶりの再会である。心は躍った。

道中、どの桃を見ても花は咲いていないので早かったかと後悔もしたが、それでも足を緩めなかった。


タクケンに付きチョウヒの屋敷へ行ってみれば、そこには既に2人が来ていた。

「あにきいいいいいいいいいい!」

チョウヒはヒゲだらけの顔に涙に鼻水にぐじゃぐじゃだったが抱き合って再開を喜んだ。

カンウもまた、リュウビに対し頭を下げ直ったと思えば酒を手に取り酒を誘う仕草をしていた。

「さ、さぁ飲んでくれ!俺が用意したんだ!今日は本当にめでたい!ヒーハー!」

カンウも大声で笑い、リュウビもコウソンサンとの友情ともロショクとの関係とも違う

親しみを改めて感じ、飲み明かした。


チョウヒは酒屋の手伝いをし、村の用心棒として1年を過ごした。

カンウはヨウキョウの元へも向かうつもりだったが、諸国を回り旅をしていた為時間が無くなり

直接タクケンへ来た。

リュウビもコウソンサンの元にいる事を告げると、二人とも返事をする前に準備に取り掛かっていた。


北平への道中、カンウから諸国の話を聞いていた。

朝廷の動向、諸国の経済状況など、とりわけ江南のソンケン(孫堅)の軍に注目していた。

絶壁に囲まれ、守りに優れた地で人の和は保たれ、軍は恐ろしい統率を誇っていたという。


やがて、3人は北平に到着し、手厚いもてなしを受けた。

チョウヒとカンウには軍の徴兵から訓練を任され、リュウビは政治でコウソンサンを助けた。

そんな中、チョウウンは兄弟2人に惚れこんでしまい、直接稽古を申し出てきた。

何度も何度もカンウとチョウヒにぶっ飛ばされたが、気を失うまで立ち向かう事をやめなかった。

気が付けばチョウウンも3兄弟のさらに下の弟のように可愛がられていた。



その頃、朝廷ではトウタクが全ての実験を握っていた。

十常侍の政治が可愛く思えるくらいに酷い政治を行なっていたのだ。

これに対し、ソウソウやエンショウも手を出すが、尽くやぶられ、ただ時を待つしか出来なかった。

だが、そんなトウタクに対し、真っ向から意見を唱えるのがロショク・オウイン、そしてテイゲンと

呼ばれる文官だった。

やがてトウタクにテイゲンが反論をした際に、トウタクが

「もう我慢ならん」と剣を手に掛けテイゲンに近寄ったが、その後ろにいる男を見てトウタクは愕いた。

身長2m30cmに筋肉質で切れ目の長い目、さらに方典戟を片手に持ちトウタクを怒りの芽で見下ろす様は

まるで鬼、そのものだった。

その鬼こそリョ=フ=ホウセン。三国志の中で最も強いとされた将である。

リョフは空いた手でトウタクの首を捕まえ天井に打ち付け投げ飛ばした。

トウタクは肥満体であり、体重も150kgはあろうかと思われるものを片手で投げてしまうのである。

トウタクは青ざめてしまい、近くの文官に支えられて出て行った。

それを見ていたソウソウは、テイゲン殿の・・・明るい時代が来るか・・・と予想していた。

が、トウタクの片腕であるリジュの入れ知恵により、リョフはテイゲンを殺しトウタクに付いたのだ。

この時、リョフに授けられたのは、大陸一と言われる俊足の馬:赤ト馬(セキトバ)と大将軍の地位だった。

それだけで育ての親を殺し、トウタクに寝返ってしまった。

ソウソウはそれを見て落胆し、出身地である撲陽へと帰還した。

もはやトウタクに楯突ける者はいないのだった。


さらに酷くなるトウタクの政権に、諸国の太守達はいきりたった。

が、いまや30万をも越えるトウタクの軍勢にどう抗しえようか。

しかも武ではリョフという鬼を始め、リジュ・カク・カユウ等名だたる猛将・智将が控えていた。


もはや単独では勝てないと見たソウソウは、全国に檄文を飛ばした。

これに好色を感じた各地の太守は賛同し、反トウタク連合軍を結成したのだった。


コウソンサンも直ぐに返答を認め、リュウビ達と共に都・洛陽へと進んでいた。

(チョウウンはまだオコチャマなのでお留守番♪)



てか、なげーよwwwww

いつ終わるんだこれwwwwwwwwwwww
ソウソウの檄文により、およそ14カ国の太守が集まりその数は20万にも達していた。

中でも幽州のエンショウは5万の兵を連れ、その弟のエンジュツも3万の兵を連れていた。

リュウビが居候していたコウソンサンも1万の兵を連れていた。


全員が集まった際に話題となったのが、誰を連合軍党首とするか、だが最も多くの兵を連れている

エンショウと決まった。


連合軍の集まった陳留からトウタクのいる洛陽まではシスイカン・コロウカンと呼ばれる防壁が

あり、硬く門を閉ざしていた。


トウタク軍では、烏合の衆として楽観視していた。

リョフが、「俺に5万の兵をくれ。踏み潰してやる」と言ったが

カユウがリョフの肩を叩き「ニワトリの首を狩るのに何で牛刀を出すのです。

私が行きましょう」


その意気込みを買ったトウタクはカユウに5万の兵を預けシスイカンに向わせた。

一方、連合軍では誰が先陣を努めるかで、揉めていた。

ソウソウはこれでは戦う前から勝負は決まってしまったものだ、と感じていた。

まず名乗り出たのがコウソンサンだった。次は江南のソンケンだった。

ここで、ソンケンは2万の兵を連れていた為先陣であれば数の勝負だろうと、ソンケンが選ばれた。


意気揚々とソンケンは出陣をしたが、食料の輸送を任されていたエンジュツは

「やがて江南は大きな脅威となるであろう」と輸送をしなかった。

そのため、ソンケンの軍は士気がガタ落ちし、シスイカンの外でカユウの軍勢に叩きのめされた。

残った兵は3000を切りソンケン自身も手傷を負ってしまった。


すると勢いに乗ったカユウの軍が連合軍の目の前まで迫っていた。

連合軍内でも食料の輸送がされなかった事が判明し士気は下がっていた。

カユウは20万近くの軍勢の目前まで迫り、挑発してきた。

エンショウはこれを許さず、一騎打ちに望む者を募集した。

(わたしゃあこの時だれがいったかおぼえてませんwww)

真っ先に名乗り出た将に対し出陣を許し、カユウと一騎打ちに望んだが、5合と合わさぬ内に

カユウの一閃で朽ち果てた。

続く将にも向わせたが、これまた一瞬で勝負がついてしまった。

勢いに乗るカユウ軍。対して連合軍は慌てふためいていた。

既にやられた二人も有名な武将ではあったが全く歯が立たなかったのである。


これを受けてチョウヒが名乗り出たが、コウソンサンの食客の身であるという理由から却下された。

次に懲りずにカンウが名乗り出た。その時に、チョウヒと二人で5000の兵を追い返した事や

カユウの事を良く知っている事を言い連ねると、ソウソウがその意を汲んでエンショウに懇願した。

「ちぇ、ずりいやい。兄貴だけ」

リュウビはチョウヒを宥めるのに必死だった。


「これは戦い前の祝いの酒だ」

とソウソウが酒を差し出すと、

「いや、カユウを斬ってからゆっくりと頂きましょう」というと

カンウは単騎でカユウの元へ向った。

互いに名乗りあい、槍と薙刀を重ね戦いが始まったかと思うと、大薙刀がカユウの首を刎ねた。

刎ねたかと思えば空中にあるカユウの首を突き刺し、悠々と連合軍の陣へ持って帰った。

これを見たコウソンサンが号令すると、5000の騎馬隊を先頭にシスイカンへ攻め上った。

カユウを失ったトウタク軍は慌てふためき、散々に打ちのめされてコロウカンへと逃げていった。


この時、ソウソウがカユウの首を確認し、先ほどの約束通りカンウに酒を出そうとして杯を掴んだ。

すると、そのまま杯をエンショウに渡した。

「おお、酒はまだ冷めておらぬぞ!!」

その声に連合軍は歓喜の声を上げ全軍の士気を上げた。


「カンウ、酒なお温かき内にカユウを斬る」

これにより、カンウの武名は全土に広がって行くことになる。


コウソンサンの軍は快進撃を続けていたが、やがてコロウカンまで軍勢を進めた所で急に止まった。

門の前には真っ赤な大馬にまたがった巨大な男が仁王立ちしていた。

10騎程がまとめて突っ込んでいったが、その男が戟を左右に振れば馬だけがその場に残った。

完全にコウソンサン軍の勢いは止まってしまったのである。

この男こそ、育ての親であるテイゲンを斬り、トウタクの息子となったリョフだった。


距離を置いてコウソンサン軍が様子を見ていると、仲間が次々と倒れていく。

見ればリョフが大弓を構え軍勢に向って打ちまくっていた。

これに対しコウソンサン軍の弓隊も打ち返したが届かなかった。

それでもリョフの放つ弓は次々と死体の山を築いていった。

コウソンサンがそれを見て後退を指示すると、リョフはその隙を逃さず単騎で追いかけてきた。

5人、10人、20人と次々とリョフにやられ、コウソンサン軍はコロウカンから遥か遠方にまで

下がってしまった。


そこにカンウ共々、連合軍が集結したが、リョフの姿とコウソンサン軍の悲惨な状態を見て

唾を飲むばかりであった。


リョフは高々に大声で叫んだ。

「所詮、お前らは烏合の衆だ!さっさと田舎に帰れ!」

それを聞いたカンウが薙刀を構え再び単騎でリョフに向っていった。が、それよりも早く

チョウヒが勝手に出ていた。

「なんなんだ!あいつは!」

エンショウを始め諸侯が言えば、カンウが大声で

「あいつはワシの弟でチョウ=ヒ=ヨクトクという。武芸ではワシはあいつには勝てんのだ」

それを聞いた連合軍は、そのチョウヒの行く手に目をやった。


「お前が親殺しのリョフだな!」

「なんだと、この目玉野郎!」

チョウヒはヒゲモジャな上にギョロギョロとした大きな目をしていたので、これは仕方が無いw


お互いに罵り終えると戟と矛が火花を散らして戦った。

リュウビは心配していたが、カンウが

「心配無い。あいつの腕は確かだ。リョフ如きに遅れは取らんだろう」

と肩を叩いた。

リュウビもそうあって欲しいと願った。

(事実、チョウヒと遊びで武芸の稽古をしていたが、カンウが勝った事は一度も無かった



しかし、やがてチョウヒの体からは汗が絶えず出続け白い蒸気となって出てきた。

対してリョフは汗一つかいていなかった。

一つ一つ、戟と矛が合わさる度に地響きのような鈍い音がしていたが、やがて

チョウヒは防戦一方となった。

それを見たカンウは馬を走らせ2対1でリョフに挑む事となったが、リョフはそれでも余裕の表情を見せていた。

これに不安を感じたリュウビも2剣を振り回し、とうとう3人掛りでリョフに対した。


カンウとチョウヒが豪の者であるというのは諸国の連中も知る所であり、そこにリュウビも加わったのだ。

それでも、リョフは防ぎきり、一瞬でも隙を見つけると一撃で虎をも沈めるであろう突きを繰り出してくる。

3人は、それを間一髪で避けるのが精一杯だった。


どれほど、この状態が続いたか。さすがに3人相手は分が悪いと悟ったリョフは馬を返して

コロウカンへと向っていった。

「ま、待てぇ!」

とチョウヒとカンウが追うが、赤ト馬の足には追いつけず、リョフは門の中へ入り、門も閉じられてしまった。

仕方なく3人は陣へ引き返したが、力を抜くと3人とも地へ倒れこんだ。

「俺達は・・・勝ったのか、負けたのか・・・」

「わからん・・・」

リュウビも同じく思っていた。

カンウとチョウヒはこれまで一対一の戦いには必ず勝ってきた強者であり、そこに自分が加わっても

ただ一人の男を倒せなかった。

世界は広いな・・・とリュウビは笑みを浮かべるしかなかった。


その様子を見た連合軍は意気消沈してしまった。

カユウに唯一、抗し得た3兄弟が、とうとうリョフを倒せなかったのである。

もはや、攻める気を無くしてしまっていた。

同様に、トクタク軍でも無敵であろうリョフが逃げてきたという事実に士気は低下していた。


こうして互いに、にらみ合うだけの戦となっていった。

ちょっとした小競り合いはあっても、戦を左右するような戦闘にはならず、無駄に時間だけが

過ぎていった。


そして事態は急変する。

コロウカンへの物見の兵が

「コロウカンはもぬけの殻です!」

連合軍は直ちに兵を進め、洛陽まで迫ったが、その都は火の海となっていた。


これを見た連合軍は意見が分かれた。

「今こそ、トウタクを追撃するのだ!好機を逃してはいかん!!」

「いや、兵も長旅に加え長期戦となり疲れきっている。ここは待つべきだ!!」

など、統率の取れない状態になっていた。


しかし、これぞトウタク軍の軍師、リジュの策。

連合軍とは名ばかり、食料の輸送を拒んだり、功を競い合ったりと

それぞれの太守の野望が丸出しであったのだ。


だったら、いっそ洛陽を捨て、古都:長安に遷都し、連合軍の統率を欠き、

その後は散り散りになった諸侯に、それぞれ高い位の役職を与えれば歯向かう者もいないだろう。

との策だった。

これを見抜けたのはソウソウだけであり、諦めずに追撃を進言したが

党首であるエンショウも疲れきっており、もはや誰も追撃しよう等と言うものはいなくなっていた。

「洛陽を取り返したのだ。上場では無いか」

「ソウソウめ、これを機に伸し上るつもりだろうが、そうは行くか」

など、連合軍はバラバラになっていた。


やがてソウソウは「小物に用は無いわ!」と吐き捨てると、自分の軍だけでトウタクを追っていった。

洛陽が空っぽになる、という事は、民も一緒に連れて行く事になり、足も遅いはずなのだ。


やがてソウソウはトウタク軍の尻尾を捕まえたが、伏兵に合い、リョフに返り討ちに合い

命からがら、その場を逃げた。


その情報を得た連合軍は、「それみろ」とほくそ笑み、解散する事となった。

リュウビは悩んでいた。

「これでいいのだろうか・・・」

同時に、折角ソウソウが檄文を出したのにこの体たらく。もはや何が正義か分からなくなっていた。


リュウビがカンウ達と帰りの支度をしていると、コウソンサンから呼ばれた。

内密であるらしく、物陰に隠れた。

「ゲントク、ワシは北平に帰ったらすぐに軍を再編成し、キ州を取る」

「何と!」

「ワシもこの戦いで目が覚めた。もはや綺麗事だけでは乱世は生きてゆけんのだ」

「しかし・・・」

「いつまで青臭い事を言っている。ワシ等はもう子供では無いのだぞ」

「・・・」

「この作戦はエンショウ殿から言われた事でな。お主もアンキ県にいたのだ。あの辺の地勢はしっていよう」

「確かに実り豊かな所ではあるが・・・ハクゲンはそこの太守であるカンプク殿に恨みでもあるのか?」

「そんなものは無い。だが今まで以上に兵を養うにはもはやキ州を取るしかないのだ。わかるな。」

リュウビはしばらく考えたが、

「いや、済まない。私には協力する事は出来ない」

「・・・どうあってもか・・」

「どうあってもだ。故なくして他人を攻める事は出来ぬ」

「・・・ゲントク」

そう言うとコウソンサンは剣に手をかけた。

「これは内密の話なのだ。断られたとあらば露見する前にお前を切らねばならん」

リュウビはすぐに答えた。

「私が親友の秘密を話すとでも思っているのか!どんな拷問を受けようとも決して口外しない。

それが分からぬようであれば、私を斬るがいい」

そう言うとリュウビは自身の剣を投げ捨て正座し目を瞑った。

しばらくして、コウソンサンは構えを解きリュウビの手を握った。

「すまなかった。ゲントク」

「いいんだ、ハクゲン」

「だが、俺はこの戦いは止めぬ」

「・・・」

「もう、会う事もあるまい・・・」


そう言うとコウソンサンは去っていった。

リュウビにとって唯一の大親友であったが、これが二人の最後となった。


しばらくリュウビは考え込んでいたが、物陰から出るとカンウとチョウヒがいた。

チョウヒは急に口笛を吹き、カンウは目を瞑ったまま動かなかった。

リュウビは、

「さぁ、これから我ら3人、また振り出しに戻ってしまったな」

と、自分を励ますように言った。


帰り支度を終え、タクケンにでも帰ろうかと言っていると、そこにジジイがやってきた。

「おお、リュウビどの。やっと見つけました」

「これはトウケンどの」

トウケンとは、除州を治める太守であり、先祖代々その土地を守ってきた一族であった。

「実は先日、キョショウ殿が見えましてな」

「先生が!?」

「はい、キョショウ殿に言われた事もあるのですが・・・それでなくとも、

私の納める除州は実り豊かで人の和も育まれておりますが、戦の知識が無いのです。

そこで、今回のあなた方の戦いを見て、是非ご教授頂きたいと思いましたのじゃ。だが、

コウソンサン殿の食客としておられたので声を掛けられずにいましたが、コウソンサン殿は

先に帰られたご様子。もし差し使えなければ遊びに来てくれるだけでも構いません。

いかがなものでしょうか?」

トウケンの言葉には優しさが詰まっており、まるで仏に話しかけられているかの如くだった。

リュウビは答えに窮していたが、振り返るとカンウもチョウヒもトウケンの姿に引き込まれている。

「喜んで伺いましょう」

「それは良かった。希望だけで僅かな兵と連合軍に参加しましたが、無駄な戦いとならずに

済みました。良かった良かった」


こうして居候好きなリュウビ達はw


こうしてリュウビ達は除州へと向ったのであった。


一方、長安では大規模な復興が進み、あっという間に都らしい煌びやかな建物が建ちならんだ。

トウタクは再び悪政を開始し、リジュによって諸侯に金銀と新たな官位が授けられた。

連合軍も潰れた今、トウタクに歯向かおうとする者は誰一人としていなくなったのである。


除州に着いたリュウビ達は、長閑な日々を過ごしていた。

人々は大変温和であり、治安も良かった。

リュウビは、これが王道ではないか・・・と思っていた。


ただ、軍事に関しては空っぽであり、兵隊はいるものの戦では使い物にならなそうだった。

これはカンウとチョウヒが担当し、軍を鍛え上げていった。

リュウビはトウケンの政治をその目で見て、覚える事が山積であり、充実した日々であった。


度々、リュウビ達は持て成しを受けていたが、トウケンがどうしても会わせたいという人物が

いるとの事で、その席に呼ばれたのはビジクという実直そうな男であった。

ビジクの家柄は代々、除州に使えており相当な金も蓄えており権力も持っていた。だが、

決して奢る事は無く、それがリュウビの心を掴んだ。

何度となくトウケンを中心にリュウビ達が誘われ、ビジクが招かれるようになった頃、

ビジクが妹を連れてきた。

これがリュウビにとってオウヒツを思わせるような美女であった。

ビジクが紹介して

「これは妹のビケイです。女ですが、一通りの武芸を仕込んでおります」

そう紹介されたビケイは深深と頭を下げると目を閉じうつむいたまま澄ましていた。

そこに酔ったチョウヒが

「女が武芸だと!しゃらくせえ」

と挑発をしたが、ビケイは澄ましたまま下を向いていたので、頭に来たチョウヒは

飲み干した杯をビケイに投げつけた。リュウビが止める隙も無かった。

目にも止まらぬ速さでビケイに向った杯は、宙で止まり、華麗に回転したかと思うと静かに

ビケイの手で卓に置かれた。

一同が唖然とする中で、カンウはチョウヒにゲンコツをかました。


しばらくして、ロショクからリュウビ宛に文が届いた。

そこには長安の復興も終わったので、リュウビをオウインに会わせたいとの旨が記してあり、

リュウビはこれを受けて長安へ経つ事にした。

チョウヒも行きたがったが、お前が行ったら大騒ぎになるとカンウに止められ、リュウビは一人

長安へ向った。

オウインには返しきれない恩がある。アンキ県への赴任も、巡察官を懲らしめたのに咎が無かった事も

オウインの力無くしてはありえなかったのである。それなのに顔すら知らなかったのだ。

この時、リュウビはオウインとオウヒツが繋がっている事など知る由も無かった。


気ままな一人旅であったが焼け跡の洛陽を通る際、どうにも居たたまれない気持ちになった。

だが、ロショクの屋敷に着くと、それは一掃され以前のように師弟で飲み明かした。


っていうか、こいつらどんだけ飲むんだよwってねw





やがてオウインの屋敷に二人で出向く事となり、リュウビは緊張していた。

「そう固まらずとも良い。わしと同じただのジジイだ」

「はぁ・・」


オウインに会い、客席に招かれロショクと3人で語り合っていると

オウインが手を叩いた。

「これチョウセン。出てきてお客人に酌をしなさい」

そう言われて出てきたのはかなりの美形な女性であった。

「これは私の親戚の娘でな。戦で家族を失った為、ワシが預かっているのだ」

と紹介をした。

「あら、ロショク先生はまたいらしたのですね」

「酒はいくつになっても離れられそうに無いわ」

等とロショクに酒を注ぎ終わると、チョウセンはリュウビの隣に来た。

「はい、お侍さん・・・」

と、リュウビと目が合うとチョウセンは固まってしまった。

リュウビも瞬時に固まった。


互いに、ひと時も忘れた事の無い相手同士であり、時は経てどもその思いが褪せる事は無かった。

チョウセンの手は振るえだし、リュウビの手も振るえだした。

酌の手と杯の手はカタカタと振るえ、合わさりあい、音を出していた。

が、オウインはロショクと話していたので気がつかなかったが、ロショクはその奇妙な空気を感じていた。

酒はこぼれリュウビの服は酒まみれになった。

「こりゃ!チョウセン!何をしているか!!」

「申し訳ありません、只今、拭き物と着替えを用意してまいります」

そう言うとチョウセンは奥へ消えていった。

「すみませんね、リュウビ殿。不束者ゆえ・・・」

「いえ・・・大丈夫です」

と、リュウビの顔は真っ赤になっていた。


そこへ戻ってきたのはチョウセンではなく、別の女だった。

そして、ロショク達に気が付かれないようにリュウビの耳元でささやいた。

「あっは~ん」


ごめんなさいwww


「リュウビ様、オウヒツ様が外でお待ちです」と伝えるとリュウビの服を拭き去っていった。


程なくして、リュウビが酔ったフリをして

「すいません、飲みすぎたようです。夜風にあたってきます」

といえば、オウインが

「おお、耳までまっ赤っ赤じゃ。歴戦の将も酒には弱いのだのう」

と大笑いしていた。

ロショクはこのくらいで酔う男では無いと違和感を感じたが、気にしないフリをした。


外へ出ると、先ほどの女性が物陰から現れた。

「私はオウヒツ様の侍女のキョウテイです。こちらへ」

案内されるままに着いて行くと、松の木の下にオウヒツがいた。

「オウヒツどの!」

「ゲントクさま!」

二人が手を取り合うとキョウテイは身を隠した。

「ずっとお待ちしておりました」

「おお、オウヒツどのも無事で何よりだった」

「あぁ・・夢のようでございます」

「私もだ・・・」

そう言うと、二人はラブズッキュンだった。

オウヒツは

「どうか、このまま私をお連れ下さい」

と言ったが、リュウビは苦しみながらも断った。

「それは出来ない。私は今は客分の身であり、オウイン殿とも会ったばかり。

いきなりアナタをさらったとあっては笑いものになるでしょう」

「じゃあどうすれば・・・」

オウヒツは泣き出した。

「オウヒツどの、私はもう迷いはしない。今は除州で食客の身だが必ず身を立て

そなたを迎えに来る。必ずだ。だからどうかそれまで辛抱してくれ」

「はい。待ちます。何年でも。何十年でも!」

「ロミオ・・・」

「ジュリエット・・・」





そうして抱き合っていた二人だが、屋敷から誰かが出てくる音がすると

オウヒツは袖を返して闇に消えていった。


リュウビは酔ったフリをしながら明るみに出た。

そこにはオウインとロショクがいて

「なんだ、リュウビ殿は、ますますまっ赤っ赤じゃ。

まるで駆け落ちでもする猫のようじゃの。わっはっは」

リュウビは何も言えずにいた。ロショクは見たわけではないが、事態を把握しつつあった。


そうしてロショクの屋敷に戻る事となった。

「オウイン殿は本当に酒に弱いわ。参った参った」

「・・・はぁ」

「・・・今日はゲントクも相当に酔ったようだの」

「・・はい、恥ずかしい限りでございます」

ロショクはそれ以上は何も言わなかった。


翌朝、ロショクはリュウビと共に除州へ行くという。

トウタクの政治にさすがに付き合いきれなくなり、都を離れるという。

むしろ除州の太守トウケンからのお願いでもあった。


オウインは身辺の整理があり、10日程遅れて同じく除州へ来るとの事であった。

リュウビの心は躍った。これからは毎日のようにオウヒツに会えるのだ。


だが逸る心とは裏腹にロショクとの旅は難航した。

年が年なので馬を御す早さが遅いのだ。

出発してから5日も経ったというのにまだ半分も進んでいなかったのだ。


しかしリュウビにはそんな事はどうでも良かった。むしろもっと遅くなれば一緒に

除州へ帰れるのだから。

ロショクはリュウビのにやけた面を微笑ましく見守っていた。

一時間置きに休憩をしながらの旅だった。


そんな休憩に選んだお茶屋で変な歌を歌う旅人がいた。

聞き取ろうとしてもどうやら普通の文章では無く、二人は気にする風でも無かった。


そこで、ロショクは堪えきれずにリュウビにチョウセンの・・・オウヒツについての疑問を

ぶつけた。

「お主、チョウセンを知っていたのか?」

最初はごまかそうとしたが、ロショクが相手ではごまかしきれるハズも無く、リュウビは

正直に打ち明けた。


「・・・ふむ。いずれ迎えにのう・・・」

「はい、必ずや身を立て、オウイン殿に許しをもらって迎えたいと思っています」

「・・・ふむ」

ロショクはやがて目を見開き、

「であればリュウビよ。長安へ戻るぞ!かっさらってこい!」

と言った。リュウビはそれを断った。

「それでは義が経ちません。身を立ててからでないと・・・」

それを遮りロショクが言う。

「馬鹿者!義だ義だ言ってる内には立身など出来ぬわ!」

「しかし・・・」

「オウイン殿ならワシから説得する。反対しようはずも無い」

「ですが・・・」

「くどいぞリュウビ!義には、大小がある。小義に拘ってる内は何も出来ずに朽ち果てるぞ!」

もうリュウビには返す言葉が無かった。

「はい、ありがとうございます」

「うむ。よいよい」

そう言うと、リュウビは落ち着きを取り戻した。


程なくして、会話に困った二人は、ずっと聞こえていた暗号のような歌に耳を傾けた。

聞き取れる歌を文字に置き換えてみようとする二人。

「何かの文のようだの」

「はい、そのように思います」

二人は旅人の顔を覗いてみようとするが、深く笠を被っている為、顔は見えなかった」

「重・・ヒ・十・・草・・日・・・この日付は明後日か・・・」


そして全ての文章が見えた頃、二人は愕然とした。

そしてその旅人を振り返ると、すぐさっきまで歌っていたはずなのに、銭だけが卓に置いてあるだけだった。

「何者か・・・」

「妖術の類でしょうか・・・」

「しかし、リュウビよ、こうしてはおれん!」

「はい!」


急ぎ店を出た二人は馬にまたがり長安を目指した。


繋ぎ合わせた文とは・・・

長安。

ロショクとリュウビを送り出した翌日、チョウセンは町へ出かけていた。

牡丹の株を買ってきたのでキョウテイと庭に埋めたのだった。

「これが咲くのが早いか、ゲントク様が来てくれるのが早いか・・・」

そう考えると一人、頬を赤らめるのだった。

キョウテイはその様子を微笑ましく思っていた。


キョウテイは元は奴婢として売られていた。

店先に並んでいたが、女は体力的にも使えない事から売れ残り最終的には殺されるかあるいは・・・。

そこにオウヒツを連れたオウインが通り、オウヒツがキョウテイを見ると放っておけないと

泣きじゃくり、オウインはキョウテイを買いそれ以来オウヒツの侍女として仕えさせていた。

当初、キョウテイは、同じ女で同じ年頃なのに何故こんなに人生が違うのかと恨んでいたが

やがてオウヒツの姉妹のような振る舞いと、オウインの優しさに触れ、その恨みも消えていた。


オウヒツが牡丹を植え終わり屋敷に入ると、オウインが宮廷から帰って来た。

そして頭を抱え込み、何を話す事も無く部屋に閉じこもってしまった。

かと思えば、嘔吐する音が聞こえやがて、泣き声に変わった。


トウタクの悪趣味な遊びを、また見てきたのだろう。そうオウヒツは思った。


トウタクは酒の肴に、黄巾族の残党を牢から出しては手足を切り払い死に行く様を見るのが好きだった。

オウインも見たくは無かったが、帝の前でそれを行なう為、帝を一人にする事も出来なかった。

だが、誰がトウタクを止められようか。もはや諸国が集まろうとも討伐出来ない絶対の王なのだ。


帝はオウインの親戚であり、オウインがここまで権力を持っているのもそのお陰だった。

つまり、その娘であるオウヒツも帝の親戚にあたる。


オウヒツは、その父の悲痛な姿を見るたびに思う。

「私が男であれば・・・」

そうすれば官仕えを父に代わり、隠居生活をさせてあげられるのに・・・

「もしくは・・・ゲントク様が・・・トウタクを一刀両断に・・・」

そこでオウヒツの妄想は終わる。恐ろしい事を考える自分に寒気を覚えるのだ。


そんな折、なんとトウタクがオウインの屋敷を訪れた。

「突然、体調不良を訴え帰られたので心配したのだ」

そう言うと断るまでも無くズカズカと屋敷に入っていった。

オウインは出来る限りの酒と料理と舞妓を連れ、早急に持て成した。

トウタクの隣には当然、リョフがいた。

すると、トウタクが口を開いた。

「ここの屋敷には評判の踊り子がいると聞いたのだが、まさかこいつらではあるまい?」

そういうと舞妓達をうすら笑いを浮かべて睨み付けた。

おそらくオウヒツの事を指している。そう感じ取ったオウインは口を開けずにいたが、

「早く出さんか!!!」

トウタク特有の濁声で怒鳴り始めた。

こうなると、歯向かった者は殺されるのみである。

しかたなく「チョウセンや!」と、呼びだした。


オウヒツも覚悟を決めて表に出た。

27歳。若くは無いが、絶世の美女と謡われる程の評判でその踊りも華麗で優雅であった。

こういった席でトウタクは、舞妓が踊っている途中から舞妓を捕まえあらぬ事を始めるのだが

この時は違った。

料理に手をつける事も酒を飲む事も忘れ、ただただオウヒツ・・・チョウセンの姿に見とれていた。

隣のリョフも同様であった。

オウインは逆に不安を感じていた・・・。

宮廷に呼ぶに違いない・・・と。トウタクの元へオウヒツを・・・。


チョウセンが舞い終えると、トウタクは

「月世界の仙女のようじゃ・・・」

と言うと拍手を送り、大人しく帰って行った。


翌日、オウインが予想していた通り、宮廷から人が来た。がそれは予想外からの客であった。

門を叩いていたのはリョフだった。

挨拶もそこそこにリョフは地に頭を擦り付けて語りだした。

「オウインどの!お願いがござる!チョウセンどのをワシにくれんか!」

今や、天下の大将軍たるリョフがここまで人に遜るものかと驚いたが、人目もある為屋敷に入れた。

「ワシはこれまで戟を振り回す事しか頭に無かったが、昨日のチョウセンどのを見て我を失った。

槌で頭を殴られたような感じがしたのだ。ワシは武でしか物事を計れぬが、それでも一生涯チョウセンどのを

守り通してみせる。この通りじゃ!」

そう言うと、再び床に頭を擦り付けていた。

親としてはここまで言ってくれる事は嬉しかった。が、昨日の様子からトウタクからも使いが来るのは明白であったので

返事を延ばした。

「リョフどの、物事には順序があり、まずは父であるトウタクどのに許しを・・・」

と言い掛けると、「親父ならどうにでも説得してみせる。何とか、頼む」

と言い切った。

これには困ったオウインも、

「分かりました。天下のリョフどのの妻となればチョウセンも喜ぶでしょう。本人の意見も聞き入れ

吉日を選んで宮廷へお連れします」

「本当か!オウインどの!いや今日は良い日だ!なんと良い日か!」

そう言うと2m30cmの天下の大将軍はスキップしながら帰って行った。

それを物陰で聞いていたチョウセンとキョウテイは青い顔をしていた。

と、そこへトウタクからの使いがやってきた。

内容は、チョウセンをトウタクの正室として迎える為、謹んで差し出すように。

との事だった。

キョウテイは甲高い声を発した。

「なんてことでしょう!野獣のような親子がオウヒツ様を奪い合うなんて!」

オウヒツはずっと俯いていた。

オウインもこれには悩み考え込んでいた。


翌日、オウヒツはオウインに打ち明けた。

オウインがトウタクに仕える様になり、自分の無力さに怒りを感じていたこと。

リョフとトウタクを仲違いさせる絶好の機会であること。

オウインは娘の覚悟を受け入れ、オウヒツに短刀と持たせ宮廷へ行く準備をさせた。

確かに、トウタク・リョフのどちらかさえいなくなれば、再び諸国の連合軍が集まれば

この腐った都も滅びるだろうと考えていた。

だが、娘を死地に行かせる事が辛く、すぐに送り出す事は出来なかった。

キョウテイも

「リュウビ様を呼び戻しましょう。ロショク様と一緒ですからまだそう遠くへは行っていないかと」

と言ったがオウインは

「あの大儀溢れる勇敢な人物をトウタクなんぞの命と引き換えにしてはならん」

と反対した。

「じゃあオウヒツ様は・・・」

とキョウテイは泣き崩れてしまった。

それを支えたオウヒツは

「もういいの。父上も頑張ってきたのだから私も頑張らなくてはいけないの」

そういうと2人で抱き合って涙を流した。


その頃、リョフはチョウセンを嫁にもらうとトウタクに言ったが、トウタクも譲るわけにもいかず

互いにギクシャクした空気が流れていた。

そこでトウタク軍の軍師リジュより、莫大な金銀と裏でトウタクが囲っている800人の美女を

リョフに渡せば、大人しく引き下がるでしょう。と言われトウタクはその通りにした。

目の前に大勢の美女が並び山積みにされた金銀を見てリョフの心は落ち着きを取り戻した。

トウタクは巫女を呼び、吉日を占ったが、7日先だと言われた。

しかし「ふざけるな!リョフの気が変わったらどうする!」と言うと巫女を斬り殺した。

「明日、チョウセンを迎えるぞ!準備をせい!」というとリジュが反対した。

「明日は大凶にございます。何卒、お考え直しを!」

と言ったが取り合わずに準備を進めさせた。


その翌日、オウインの屋敷より綺麗な花嫁衣裳に身を包み、オウヒツは大群の使者に囲まれて

出て行った。キョウテイはオウヒツの侍女として一緒に馬車に乗っていた。



リュウビとロショクが茶屋で聞いた歌の暗号は

「明後日、トウタクなる者が死に、世界は変化を向かえるだろう」

という言葉だった。(簡略ww)

董卓(トウタク)という名前の部首が一つ一つとなり

重・草・十・日・・・等の暗号となっており、日付は大凶である日を指していた。

「急げゲントク!ワシに構うな!!」

とは言われたが、ロショクを置いていくわけにはいかず、それでもロショクも懸命に馬を駆けた。


二人がオウインの屋敷に着いた時には、もうオウヒツが送り出された後だった。

オウインの屋敷に入り、事の仔細を聞いたゲントクが拳を握り締め、立ち上がろうとしたが

ロショクはそれを制した。

「もはや遅い。あれだけいた番兵が今日は全くいないのだ。切り込んでも無駄死にであろう」

3人は、もはや成す術もなく、うな垂れた。

庭では牡丹の株が、植えたばかりだというのに芽を出していた。


一方、盛大に送られてくるチョウセンを見てリョフは憤りを感じ始めた。

確かに金銀・美女をもらい満足はしたが、馬車の上のチョウセンを見ると、愛おしさが溢れ

どうしても怒りがこみ上げてきて、いても経ってもいられなくなった。


式が終わり、チョウセンはトウタクの部屋に呼ばれた。

トウタクは既に裸で寝台に寝そべっていた。

「どうした、早くせぬか!」

その醜い体を見て、隣のキョウテイがトウタクに言い放った。

「女には女の準備があります。しばしお待ち下さいませ!」

「ちっ。早くせいよ」

そういうと、トウタクは酒をちびちびと飲みだした。


隣の部屋に移ったオウヒツとキョウテイは互いに涙し抱き合い、覚悟を誓い合った。

チョウセンは短刀を袖に潜ませ、キョウテイに別れを告げるとトウタクの部屋へと入っていった。


リョフは式にも出ず、宮廷内をウロウロするばかりだった。が、チョウセンがトウタクの部屋へ向かうのを

見て、怒りは爆発寸前。今にも飛び込んで行きそうな勢いであった。


トウタクへと近づいていったオウヒツは寝台に上がると、トウタクの両手がオウヒツの服を剥がそうとした。

その瞬間にオウヒツは短刀を取り出しトウタクの胸を突き刺そうとしたが、トウタクはそれを皮一枚で避けた。

「この女め!!」

そう言ってトウタクが力任せにオウヒツを突き飛ばした。

しかし短刀は握ったままだった。

そこへ騒ぎを聞きつけたリョフがトウタクの部屋へ入ってきた。

「おお、リョフよ、よくぞ来た!この女を始末せい!」

リョフの姿を見たオウヒツは行くも成らず退くも成らず、その持っていた短刀で自分の首を貫いた。

リュフはそれを見ると、腰の剣を構えトウタクの元へと向かい、幾度と無くその体を突き刺した。

これを陰で見たキョウテイは、オウインに伝えるべくその場を去った。


リュウビ達はしばらく男3人で黙っていたが、リュウビは決意した。

「もはや、死んでも構いません。私はオウヒツどのを迎えに行ってきます」

と言うとロショクも

「ワシも付き合うとしよう。これだけ生きればもう悔いも無いわ」

と言い、二人が立ち上がった瞬間、

大音声が聞こえた。

急ぎ、表へ出るとそこには、リョフがいた。すぐ後ろにはキョウテイもいた。

そしてリョフの横手にはオウヒツが横たわっていた。

「御免!」

そうリョフが言うと勝手に部屋に上がりこんだ。

キョウテイが急ぎ、白布を敷くとリョフはそこにオウヒツを寝かせた。

その動作は優しさに溢れていた。

オウインが「これは・・・」と言えば、リョフが答えた。

「チョウセンどのは親父を殺そうとしたらしいが、失敗し自害した。だからワシが代わりに親父を殺した」

「え!」

事態はとんでもない急展開を迎えており、その場にいた者はそれを理解するだけで精一杯だった。

リョフはオウヒツの耳から耳飾を取ると「これは形見にくだされ」と勝手に言い残し、

巨体をよろめかせながら出て行った。

針鼠のような鬼の顔からは熱い涙が絶えず流れ出ていた。

キョウテイはずっと涙を止められずにいたが、それでもオウヒツに化粧をさせ着替えさせ一夜を迎える準備をした。

準備も終えると、キョウテイが

「お嬢様、今、参ります」と言い、包丁を取り首に翔けようとしたがロショクが剣で叩き落し

「お主の役目はそれではあるまい」と言い放った。

リュウビはずっとオウヒツの顔を見ていた。

「なぜ、すぐに連れて帰らなかったのか・・・」

後悔ばかりが浮かんだ。オウインは声も無く泣いていた。


オウヒツの植えた牡丹は芽を出したばかりだというのに、咲き誇っていた。


無事にオウヒツの葬儀も済ませると、リュウビの心にはもう後悔は無く、

こうなればオウヒツの親戚である帝の助けとなって、オウヒツの死に報いようと。そう誓ったのだった。


一方、リョフはトウタクの死体を街中に晒した。すると住民達は次々と死体を蹴り倒し

火を付けた。トウタクの忠臣だった者達が、せめて残った骨を埋めてやろうと待っていたが

その火が消えたかと思うと、突如、落雷が轟き、跡形もなく消え去り遂に葬ることは出来なかった。


このトウタクの死により、オウインが丞相となり政治を行なった。

トウタクの忠臣の中でも、横領の事実があった者は追放し、そうでない者はお咎め無しとした。

ただ、リョフは2度の親殺しとなった為、武官文官から咎は無いのか!と突上げられたが、

あくまで親子間の紛争であるとオウインは押し通し、大将軍のまま、オウインの後ろ盾とした。


オウヒツの喪も明けると、ロショクとリュウビは徐州へ戻る事にした。

ロショクは都に残りオウインの助けをしてやりたがったが、リュウビを鍛えてやってくれと

オウインは遠慮した。

その際、ずっと沈んでいたキョウテイにも声を掛けた。

「そなたもここにいては辛かろう。ワシの侍女という名目であれば人の目も気にせず生活できよう」

そういうロショクの意を受け、オウインに別れを告げ、3人で徐州へと旅立った。


徐州へ着いた一行はゆっくりと旅の疲れを癒した。

カンウやチョウヒがリュウビの顔を見てはニヤニヤと嬉しそうに笑い

トウケンの念願だったロショクとの出会いもあり、静かに時は流れていった。

宴の席ではチョウヒとビケイの戦いが毎度繰り返されていた。

チョウヒが皿やら杯をビケイに投げつけるがビケイは全てを往なし、何事も無かったかのように

済ましていた。が、そのチョウヒを叱るのはカンウの役目だったのだが、その時は

キョウテイがピシリとチョウヒの手を叩いた。

すると、あのチョウヒがしゅんと小さくなっていたのである。

皆はビケイの華麗な動きに驚く中でロショクだけがその二人のやりとりを見ていて

笑いを堪えるのに必死になっていた。


そんなある日、トウケンとビジクに呼ばれ、リュウビがビジクの家にやってきた。

トウケンが、

「リュウビ殿はいくつになるか」

「はぁ、今年で33になります」

「もうそんなになりますか。戦場を駆けているとどうしても妻を迎えるのが遅くなります」

そういうトウケンも67歳。息子は二人いるがやっと20になるかならぬかの年だった。

「そろそろ身を固めてはいかがかな?」

とトウケンに聞かれた。

オウヒツの事は今でも大事に思っている。だが、未練は無い。またこの世に立つ者としても

子を成さねばならぬ。

「そこでじゃ・・・」トウケンがビジクに合図をした。

まさか、ビケイを?とリュウビはドキっとした。ビケイは初めて見た時からオウヒツに似て美形であり

人前では決して前に出る事をしない出来た娘であったのだ。

だが違った。

出て来たのはビジクの一族の親戚であるカンレンという娘で、

おしとやかで華やかさは無いが、思慮が深そうな大人しい娘であった。

そこでリュウビは気がついた。いつもロショクと話しているときにカンレン、カンレンと

口うるさく言っていたので、とうとうボケたか?と思ったがここにきて合点が行った。

恩師と世話になっている太守のお願いであれば断る理由は無かった。

「はい、喜んでお受けします」

というと、吉日を選び盛大に式が執り行われた。

その式の中で参列しているビケイを見てリュウビは心迷う事もあったが、それは決して表には出さなかった。

カンレンは式でこそ華やかな衣装に身を包んだが、普段はその辺の娘と変わらぬ衣服をまとい、後宮を取り仕切る

若女将としてリュウビを裏側から支えた。

程なくして、今度はリュウビがカンウを呼んだ。

「カンウよ。しばらく待たせて済まなかった。そろそろ向かえに行ったらどうか?」

と聞くと、カンウはしばらく目を閉じていたが向き直り、袖から髪の束を出した。

「・・・それは!?」

「実は、兄者が都に行ってる間、情勢を探りに洛陽まで行ってな。その時に小屋に寄ったのだが、

ヨウキョウは既に死んでいた」

「なんと・・・」

「川に溺れた子供を助けようと飛び込み、子供は助けたが自分は流されて遺体で見つかったそうだ。

これはヨウキョウの祖父が形見としてワシにくれたものだ。あの女らしい最後だった」

「・・・そうであったか」

「兄者、もうこの話はしないでくれ。ワシは生涯娶らん」


オウヒツと形は違ったが、ここにも壮絶な生き方をした女がいたものと、リュウビは感慨にふけっていた。


「それよりも兄者、兄者と先生が連れてきたあの女・・・」

「キョウテイ殿のことか」

「あぁ。あれは肝っ玉の据わった女だな。チョウヒのヤツ相手でも全くヒケを取らない」

「あぁ、私も驚いている」

「チョウヒみたいなヤツには丁度良い女なんじゃないか?」

と言われ、チョウヒに聞いてみたが

「兄者達が言うなら、仕方ないワイ!」と耳まで真っ赤に染め上げ、

キョウテイもこれを喜んで受けたので、改めて式を挙げた。


こうして徐州にて、華やかな時間が過ぎていったが、悲報も届いた。

冬から体調を崩していたロショクがこの世を去ったのだった。

リュウビは大いに悲しんだ・・・。


その悲しみは都、長安でも起き始めていた。

オウインはトウタクの忠臣だった者でも、殺さずに追放しただけだったが、

追放された者は自然と逆賊と呼ばれるようになり、気持ちは荒んでいった。

中でもリカク・カクシという2名の武将は力を蓄え、長安を攻める準備をしていた。

しかし、普通に攻めただけではリョフの返り討ちにあう。

そこで、かつてトウタクの腹心だったカクの知恵を借りる事にした。

カクは、リカク・カクシが帝を立て、善政をするならと条件を付け力を貸した。


リカクが軍勢1万を持って長安を駆け上るとリョフ軍5万が出て来る。

それに無理はせずに引き上げ、今度は別の軍をカクシが率いてリョフの側面を突く。

リョフがカクシ軍に向き直れば再びカクシは退き、リカクが攻めてくる。

これにリョフの軍は混乱し、そこに元トウタクの軍師リジュが本体を率いて長安を正面から攻めた。

これを聞いたリョフは急ぎ長安に戻り、城内に入った。

だが、城内に入れたのはリョフ以下3000にも満たなかった。城外に取り残された者は

殺され、あるいは投降した。

戦況は長安にとって悪化するばかりで、もはやこれまでかと、リョフはオウインの屋敷へ向かった。

「オウイン殿、馬を召されよ。ワシが血路を開くのでその隙に!」

と言ったが、オウインは首を横に振った。

「もはや、ワシは生きながらえても意味が無い。だがお主はまだ若い。お主だけでも逃げるがよかろう」

そう言うとオウインは、丞相オウインと書かれた旗を馬に指し、正面から単騎で突っ込んで塵と消えた。

その隙にリョフが僅かな手勢と共に落ちていった。


宮廷にまで押し入ったリカク・カクシは帝を見て、

「やっちまうか」

と言ったが、カクが激しく反対した。

「それでは約束が違うであろう!そんな事をすればトウタクの二の舞。お主らに諸国の連合軍を

防ぎきれるか!?」

と言い、帝を保護した。

こうして長安を取り返した元トウタク軍・・・リカク、カクシの軍であったが

どちらが丞相になるかは決められず、互いに大将軍の地位に付き、2頭政治を行なう事となった。


これを見てソウソウは笑い出した。

連合軍を設立し、破れて撲陽に逃げ帰ったソウソウは地道に、親戚のソウコウ・ソウジンを始め

同じく親戚であるカコウ家の将を引き抜き、着々と戦力を補強していた。

やがて黄巾の残党狩りを開始し、民からは感謝され、

「降する者は殺さず」と、広めておいたので次々と兵隊を増やし、勢力を強めていた。


「何がおかしいのですか?」

とソウコウが聞けば、

「過去、2頭政治が長続きした試しは無いわ。その時が好機。各将に伝えよ、準備を怠るな!」

ソウソウは都の方角、西の夕日を見て満面の笑みを浮かべ、酒を飲んだ。
長安では帝を擁立し、リカク・カクシによる2頭政治が行われていた。

だが、ソウソウの予期した通りに、お互いがお互いに信を置けずに

やがて疑心を抱くようになり、その闇から鬼を生み出した。


互いに兵を集め出し、カクには決して手を出すなと互いに言われたが

兵力は同じ。先手を打った方が勝つ。

互いに城外に陣を構えにらみ合うだけだったが、城内の居酒屋で酒の上の揉め事が起こったが

これがリカク軍・カクシ軍の兵だった為にこれが火種となり、再び都を焼く大戦争となった。


これなれば帝を先に捕らえたほうが勝ちだと互いに必死になって探した。

カクはこれを受け、付き合いきれんとばかりに野に下っていった。


帝は漢に忠誠を誓った側近に守られ隠れていたが、徹底的に探す両陣営の手は逃れようもなかった。


ソウソウは洛陽にまで進み様子を見ていたが、この争いを聞くと全軍を長安まで進めた。

この頃には武ではカトウトン・テンイ・キョチョ・ジョコウ・リテン・ウキン等の一騎当千の将が集まり

文ではジュンイク・テイイク・カクカ等の知略・政略に長けた人材が集まっていた。

また黄巾の残党を兵に取り入れ、徹底的に叩きなおした軍団も完成し、いまや10万を越す大軍団となっていた。


リカク・カクシの両軍団は疲れ果てるまで争い、そこをソウソウに一気に潰された。

残るは互いに1万ずつの兵だけとなり、急遽出てきたソウソウを面白いと思わず手を組んだが

勢いに乗るソウソウに瞬時に踏み潰された。


ソウソウは急いで帝を探し出して保護し、元トウタク配下を逆賊と呼び、長安付近の逆賊を一掃した。

オウインの政治も短かったがこの2頭政治もまた短い命であった。


ソウソウはこの功を帝に評され、丞相に着任し実質的な支配権を獲得した。

これを受けてから、都を長安から許昌に移した。

同時に、重要な官職は全てソウソウの身内で固めた。

こうしてソウソウによる都の政治が始まったが、かなりの力の入れようで、

民はこれまでの混乱から逃れられたとソウソウを称えた。


そこでソウソウは元トウタク軍、逆賊の一族郎党を皆殺しにした。


オウインはこれをしなかった。これが、リュウビであったとしてもしなかったであろう。

カンウであっても。ロショクであっても。

一族を残せば、必ず後の災いとなるのだ。

これを実行出来たからこそ、ソウソウの覇道の第一歩は成った。


リュウビはこれを聞いてほっとした。ようやく戦乱の世が終わるのだと安堵の表情を見せた。

しかし、同時にソウソウの行った1万人の首無し死体も思い出し、この後の動きに注目せざる終えなかった。


長安ではソウソウを始め、政務の改革を行っていたが、一区切りついた時、側近のテイイクと話していた。

「次は何を考えているのですか?」

ソウソウはずっと空を眺めていたが、そこに、この地に住む敵を描いていた。

・・・江南のソンケン。孫子の兵法を受け継ぐ由緒ある家柄だが、連合軍の先方を務めた折に味方の兵糧攻めに合い

撃沈した。恐れるまでもなかろう。であれば・・・

・・・幽州のエンショウ、宛のエンジュツ兄弟。これは兵力こそあれ互いに馬を貸す貸さぬでケンカをしているという。

手を組まれればやっかいだが、それはありえまい。でなければ・・・

・・・除州のトウケン。情に拘り過ぎていて戦を知らぬ。リュウビが入ったとて、リュウビこそ情の人間。恐るるに足らん。

それでもなければ、益州・・・いや、それもありえない。リュウエンは尊敬すべき人物だったが、今は亡く、その息子は

ただの阿呆である。

・・・ケイ州のリュウヒョウ。ただの本好きのジジイだ。相手にする価値も無い。


ここまで考え、人を見抜く力があれば通常の人間ならば手を緩めるであろうが、ソウソウは逆に燃えていた。

どこかに自分に敵対する大軍団があるかもしれない。

この猜疑心こそがソウソウの強みであった。


「テイイク、お主はワシの次にこの世に覇を唱えるとしたら誰が出ると思うか?」

「・・・まず、ありえますまい。ですが、あえて言うなれば、殿の次に兵力を持ったエンショウかと」

「やはりそう思うか。ワシもそれを考えていた」

「ですが、幽州は4代続く名門であり、その兵力は多大なものです。気を引き締めなければなりません」

「そうだな。エンショウを倒さなければ統一は出来ぬであろう・・・」


「ところで・・・」

「む」

「殿がここまで伸し上った姿。父上にお見せになってはいかがでしょうか」

「おお、そういえば久しく会っていなかった。使いを出してくれ」

「はっ」


ソウソウの父ソウスウは長安から除州の先にある所に住んでおり、これを実現するには除州を通る必要があった。

だが、互いに何の恨みもあるはずもなく、トウケンはこれを快く承諾した。

除州を通る際に、トウケン自らソウスウを持て成し、除州を抜けるまでは護衛の兵を付けて手厚く見送った。

ソウソウもこの報告を受けた時には「トウケン殿に借りを作ってしまったな」と上機嫌だった。

が、次にソウソウが受けた報告は天地をも引っ繰り返す大事件だった。


トウケンが護衛に付けた兵は元は黄巾族であった。

ソウスウを連れて歩いていたが、大雨となった際、寺を借りて休む事となった。

ソウスウとその従者50人あまりは寺の中で雨と寒さを防げたが、護衛兵達は外で震えていた。

やがて、トウケンに拾ってもらった恩も忘れ、ソウスウの持ってきた財宝に目が眩み

ソウスウを含め、皆殺しにすると財宝を奪い逃げていった。


これを聞いたソウソウは一人で、その寺に向かった。後ろにはカトウトンが慌ててくっついていった。

悲惨な現場を見たソウソウは震え続け、カコウトンを振り返ったその目には血の涙が滲んでいた。

「除州に10万の兵を向ける。官・軍・民を問わず、一人残らず殺せ」

そう言うとさっそうと引き返した。


この命令には殆どの将が辞退したが、カコウトンは何も言わずにこの軍を進めた。

許昌を出た軍は除州領域の小沛城を軽々と踏み倒し、除州城の手前まで一気に突き進んだ。

その間に殺された民や兵は10万を超えていた。


この虐殺の報を受けたトウケンはリュウビやビジクを含め会議を開いた。

その中では戦うという意見は一切出てこなかった。

カンウとチョウヒによって軍は鍛えられていたが、それでも精鋭は5000。雑兵を集めても1万にも

満たなかった。対してソウソウ軍は10万。しかも歴戦の強者である。

トウケンは、

「部下の不徳は、君主の不徳である。ワシが自らを縛り、ソウソウの所へ行こう」

と言うと、リュウビは断固反対した。

「それはなりません。ソウソウ殿は話の分かる人間です。私が説き伏せて見せましょう」

と言ったが、既に10万の虐殺。望みは薄かった。

「では、どうするか・・・」


結局、結論を迎えぬまま会議は終わってしまった。

ソウソウ軍も目に見えて突撃の準備をしていた。

カンウもチョウヒも武器を光らせ戦う姿勢を見せていたが、リュウビに

「絶対に手を出すな!」と言われ、ただただ城の上で遠目にソウソウ軍を眺めるだけだった。


が、当のリュウビの姿はどこにもなかった。

気がついたときには、除州の城門を開け、単騎で、しかも丸腰でソウソウ軍に向っていた。

ただ、矢を避けるために「除州食客・劉備」と書いた旗を掲げていた。


もはや除州の運命はリュウビ一人に委ねられた。


その姿を見たソウソウは「打ってはならぬ」と言い放った。

リュウビは直接、ソウソウのいる所へ向った。

すると馬を降り、ソウソウに頭を下げて挨拶をした。

「お久しぶりでございます。ソウソウどの」

ソウソウは馬から降りる事も無く、

「除州に居候したとは聞いていたが、未だにただ飯を食っているとはな!」

と吐き捨てた。

「丁寧に挨拶申しておりますのに、何ゆえ、声を荒げられるのですか」

「何ゆえだと!これが黙っていられるか!ワシは何も聞く耳は持たんぞ!」

「これは、トウケン殿が好意でやったことがただ裏目に出ただけにございます」

「だまれゲントク!!!ワシは聞く耳を持たんと言ったはずだ!トウケンの生き胆をこの手で

えぐり取るまでは兵を退かん!そこに居て騎馬隊に踏み潰されても知らんぞ!!」

「武士なれば剣で介抱を願います」

そう言うとリュウビはソウソウを背に除州城を仰いだ。

「黙れ!丸腰のお前を斬れるか!」

リュウビは返事をしなかった。

「本当に踏み潰されても知らんぞ!!!!」

「・・・」

「・・・この強情者め!!!!!!」

そう言い終えると、「者共!群議を開くぞ!」と言うとソウソウは去っていった。


そのリュウビを見て首を傾げながら巨体の男が近づいてきた。

「お前は不思議なヤツだな」

「おぉ、そなたはデカイのう。私の兄弟と良い勝負だ」

「そうかー?」

「あぁ、力もあることだろう」

「いや、虎と戦っている時に口から裂いて見たが腹までしか裂けなんだ」

「なんとまぁ。名を聞かせてくれるか」

「ワシはテンイと申す」

「そうかそうか」

等とやり取りをしていると、テンイは群議に呼ばれ去っていった。


雲一つ無い空だった。リュウビは説得も虚しくここで死ぬであろうと覚悟していた。

やがてソウソウ軍の動きが慌しくなりリュウビは目を瞑り姿勢を正した。

音が一層激しさを増した。


それが、いつまで経っても踏み潰される事無く時間は過ぎていった。

ややあってリュウビが目を開け、後ろを振り返るとソウソウ軍は消えていた。

キツネに摘まれた様な感じがしたが、除州城では歓声が起きていた。


ゲントクが夢見心地のまま除州城へ戻るとトウケンが駆けつけ手を握り感謝を伸べた。

だがソウソウはあくまで突撃の準備をしており、つじつまが合わない事を話すと

一同もただただ困惑するのみであった。


やがて物見から入った報によれば、ソウソウの居城である撲陽がリョフにより落とされたとの連絡が入った。

リュウビは、これはオウヒツが導いてくれたのだと、思っていた。


長安からリカク・カクシによって追われたリョフは目的も無く彷徨っていたが、チンキュウという男と出会い

意気投合し再起を計るための作戦を練って潜んでいた。

やがてソウソウが丞相に変わるとチンキュウはソウソウについての嫌な思い出を話し、それを受けたリョフは

打倒ソウソウを唱えるようになるのだった。


それはソウソウが連合軍を組む直前の話。

宮廷内でトウタクを倒す手立てを仲間と練っていたが、仲間の裏切りに合いソウソウは洛陽を追われた。

ソウソウの首には金1000を掛けられ、逃げても逃げても追われ続けた。

やがてソウソウは疲れ果てた所でチンキュウという将に捕らえられたが、チンキュウこそ漢王朝の臣であり

ソウソウと話合う内にソウソウを開放し共に逃げる事となった。

ソウソウの出身である撲陽を目指して逃げていたが心身共に疲れきったのでソウソウの親類にあたる者の所へ

立ち寄った。既にソウソウが賞金首になっている事は知っていたが、その親類のオヤジは匿ってくれた。

夜であったが、オヤジは酒を買ってくるといい、二人はようやく一息付けたところであった。

が、二人の部屋の外から刃物を研ぐ音が聞こえ、小声での、会話のやりとりを聞いた。

「どうやって殺すか」「縛って殺すのがよかろう」

これを聞いたソウソウとチンキュウは部屋を飛び出し、その家の者を皆殺しにした。

だが、すぐに早合点だと気付いた。そこには豚が繋がれていたのだ。ソウソウ達を持て成すための豚を

殺す方法を話していたのだった。「後悔しても仕方が無い」と二人はその家を出たが、すぐに

親類のオヤジに出くわした。「どこへ行くのだ?そろそろ豚料理も出来る頃であろう。酒もほれ!上物だ!」

というオヤジに対しソウソウは剣を抜き刺し殺した。チンキュウが咎めれば

「家の様子を見れば、通報するに決まっている!」と吐き捨て、チンキュウを振り返りながらさらに言った。

「ワシは欺くことはあっても、欺かれる事は許さんのだ!」そう言ったソウソウの目は怪しく輝いていた。

チンキュウは恐ろしくなりその場を離れた。



リョフも親殺しであったが、それには理由があった。

故に、自分も許せぬが、大した理由でも無く親類を殺したソウソウに怒りを覚えたのだった。


こうしてリョフに城を奪われたソウソウは仕方なく別の城へ移動し体勢を整えた。

リョフの軍にも頭の切れるチンキュウがいる事が分かり、兵力も5万だという。

うかつには手を出せない数字であった。もはや除州へ兵を向ける余裕は無かった。


こうしてリョフとソウソウは真っ向からぶつかったが、チンキュウの空城の計を受け

ソウソウ軍は大打撃を受け、ソウソウ自身も火傷を追った。これを助けるべくカコウトンは捨て身で

ソウソウを助けたが、その際、リョフ軍の矢を左目に受けてしまう。

矢が刺さったままで、後退した陣へソウソウを連れ帰り、ようやく左目の矢を抜くとそこには眼球がくっ付いていた。

だが、カコウトンはこれを「これこそ父の精、母の血。無駄には出来ん」そう言うと自分の眼球を丸呑みした。

そうして左目を失ったまま再度、戦地に赴き信じられない程の活躍を見せた。このカコウトンの活躍により

リョフ軍も押され、ソウソウ軍は安全に後退する事が出来た。


そして冬が訪れた。

ソウソウは怒り狂っていた。除州を踏み潰すどころか、逆に城を奪われあげくの果てに丞相になったというのに

都に帰れず、田舎の城で冬を越す事になったのだ。

だが、この時カクカの調べでリョフ軍の兵糧庫を見つけたのでこれを奪った。

兵糧も無く冬を越したリョフ軍は士気も下がり続け、同時に悪名高いリョフの下で働くのも嫌になり

兵は次々とソウソウの元へ降っていった。

これを機に撲陽に総攻撃をしかけ、リョフに奪われた城を全て取り返した。

リョフやチンキュウこそ討ちそこなったが、また元の落ち着きを取り戻すことが出来た。


「天下の平定には、まだまだ時間が掛かりそうだな」

と、やけに冷静なソウソウを見て、ソウソウ軍の諸将は不気味さと頼もしさを感じ取っていた。


この頃、除州ではトウケンが病に倒れていた。

例年に比べて異常なまでの寒気と、何よりもソウソウの父を部下が殺してしまった苦悩からだった。

リュウビ達も3日と空けずに顔を出していたが、日に日に体力は落ちていくのが目に見えて分かった。


あくる日、リュウビは物陰からトウケンの子らに呼ばれた。

いつになく深刻な様子であったが、二人は信じられないような事を告げた。

自分達は太守トウケンの実子である事は間違いないが、まだ若く知恵も無い為、太守に就く事を嫌がっている事。

どちらが跡を継いでも争いになる事は無かろうが、互いに力不足で民からの笑いものになるだろうという事。

リュウビは町を歩いているだけで民から声を掛けられ、除州での人気が高い事。

二人とも政治の勉強はしていても武辺に関しては空っぽであり、再びソウソウが攻めてきたら防げないという事。

何より、トウケンがリュウビに跡を継いで欲しいと願っている事。また、それを二人が納得している事。


それを聞き終わったリュウビは怒った。

「トウケン殿の実子でありながら、何と情けない!」

「ですが、本心なのです!どうか私共の願いを聞き入れ、父を安心させてやって下さい!」

「だまらっしゃい!!!」

そう言うとリュウビらしくもなく足音を立ててその場を去った。

リュウビにこのような事を受け入れる事は出来なかった。

確かに、本心で言えば子供2人はボンクラで、トウケンが倒れれば除州が危ない。かといって、それでは

乗っ取りになってしまう。義に拘るリュウビとしては決して納得は出来ない話だった。

子供2人はこれではダメかと内密にカンウにもチョウヒにも話しているようだった。


そうしている内にトウケンは昏睡状態となっていた。

唯一話す言葉は「リュウビどのは、まだ承諾してくださらんか」だけだった。

リュウビはそれを聞き、苦悩し、自分の部屋に閉じこもった。

トウケンの部屋にいるだけでトウケンを含め全員がリュウビに頭を下げ、除州を継げと言う。

妻のカンレイも初めて見るリュウビの様子に心を痛めていたが理由も知っているので何も言わなかった。


リュウビは窓を開けていると外からでも皆の声が聞こえてくる気がして閉じこもった。

すると、突然に一冊の本が落ちてきてロウソクに火がともった。本はロショクからもらった教本であった。

その無造作に開けたページは「尾生の信」の語りだった。

怪奇現象に驚いていたが、その「尾生の信」という話はリュウビも何度も読んでいたので頭に入っていた。


とある男女が橋の下で落ち合う約束をした。男(尾生)が先に着いて女を待っていたが、やがて大雨となった。

それでも男は待つ事はやめず大洪水の中、橋の下の柱に掴まって耐えていたが、やがて流され死んだ。


とされる話であった。

これをロショクは義と生は反する。と言い、義に拘っていては立身は出来ん。と

何度も・・・オウヒツを巡っての時にも言っていた。


これを思い出し、リュウビは目を覚ました。ロショクが死して尚、教えてくれたのだと思い込んだ。

そこにチョウヒが大慌てでやってきた。

「トウケン殿が!」

それを聞くとチョウヒを突き飛ばし全力でトウケンの元へ向った。

部屋の前でカンウは「もういかん」とばかりに首を横に振っていた。

トウケンの部屋に入り、リュウビはその手を握った。

「おお、来て下されたかリュウビどの・・」

握り返す力には全く力が入っていなかった。

「除州を、守って下さらんか・・・」と改めてトウケンは言った。


寝台の横では泣きながら2人の子供が「お願いします」と叫んでいる。

リュウビはさらにその手に力を込め、

「このリュウビ、力の限り、除州を守って見せます」

それを聞いたトウケンは笑ったかと思うとリュウビの手を力強く握り返した。百姓をしており

超人的な握力を誇るリュウビの手も砕けんばかりの力だった。

かと、思えばその手は力を無くし、トウケンは安らかな眠りに就いた。

ビケイやキョウテイのすすり泣く声がした。


こうしてリュウビは除州の太守を預かる形となった。


これを聞いたソウソウは

「龍が大海を得てしまったか・・・」と嘆いた。

こうして除州に兵を向ける事も出来ず、僅かながらリュウビに恐れを抱くようになった。


リュウビは喪も開けると、軍を3万を目標に拡大し、ビジクと協力しトウケンの子らに政治を教えながら

除州を治めた。

近くの小沛城はカンウに1万の兵を付け守らせた。またすぐ南にはカヒ城があったが長年放置されていた為

清掃を命じた。


こうして除州3城を納めるリュウビは、タクケンで3兄弟出発の折、馬と武具を借りた商人を城へ招き

借りた分の倍の金を差し出した。さらに多くの馬と武具が必要だと言うと、すぐに用意してくれた。

「商いが成功した事よりも、自分達の目に狂いが無かった事がどれだけ嬉しいか分かりません!」

そう言う商人達に護衛を付けてタクケンへ送った。


カンウもチョウヒもようやく、リュウビが城を得た事に感激した。


ようやくリュウビに輝かしい前途が開けたのだった。


徐州を預かったリュウビは政務に勤めていた。

カンウもチョウヒも、ビジクもトウケンの配下であった文官武官もよく働いた。

そんなある日、チョウヒが仏頂面でリュウビの部屋に入ってきた。

「門に変な奴がいる」

「ん。不審者なら追い返せばよかろう」

「そうしたい。出来れば叩き殺したい所だが兄者に会いたいと言っている」

「誰かな」

「親殺しの糞野郎だ」

「リョフ殿が!?」

「あぁ」

「なぜそれを早く言わぬ!」

そう言うとリュウビは駆け足で門へ向った。

チョウヒは

「何故、あんな野郎に!」

と訳が分からず怒っていた。

門へ着いたリュウビはリョフの姿を見た。

天下の豪傑だが、埃と傷に塗れていた。

「おお、リョフ殿!」

「すまないリュウビ殿。迷惑を掛けるかと思ったが、ここしか頼る先は無かったのだ」

「何を迷惑に思うものか!さぁこちらへ!」

リョフの目には涙が浮かんでいた。

夜にはリョフを持て成す会を開いたが、チョウヒは益々、訳が分からなかった。

「なんでカカアまで大喜びで迎えるのだ!ちくしょう!」

キョウテイもオウヒツの死にあたってリョフに感謝をしていた。

「ソウソウ殿と戦って敗れたとは聞いていたが無事で何よりであった」

とリュウビは心から安堵した様子であった。

それを受けてリョフは再び涙を流した。

「初めて人の心地に着いた気がする・・・。忝い」

リョフも心から感謝しており、とうとうリュウビに対し

「兄者」と呼ぶようになった。が、チョウヒはそれを聞くと

「こりゃあ!兄者はワシ等だけの兄者だ!お前なんぞが気安く呼ぶんじゃねえ!」

と怒りを露わにした。

「なんだと!親しみを込めて呼んだのに何が悪い!!」

「やる気か!そういえばコロウカンでの決着がまだだったな!表に出ろ!叩き斬ってやる!」

とチョウヒは立ち上がったが、そこをキョウテイに叩かれ、奥に連れて行かれた。

「物事を深く考えずにすぐ怒るのはお前さんの悪いクセです!」

キョウテイの怒鳴り声だけが聞こえた。ややあってリョフが口を開いた。

「やはり、俺はどこに行っても邪魔者のようだ。世話になった」

そう言うとリョフは立ち上がったがリュウビはそれを留めた。

「待ってくれ。誰が悪いように思うものか。チョウヒも皆、いずれ分かる」

「だが・・・」

とリュウビ自身も考えていたが、

「それなら、ここより西に小沛の城がある。そこは今、カンウに守りに着かせているが

ここをリョフ殿が守ってくれ。ソウソウと対する第一線だ。1万の兵も付ける。お主が好きに使ってくれ」

と言うと、リョフの目に滝のように涙が溢れてきた。

「忝い・・・」

小沛までリュウビと二人で歩いていたが、リョフが涙ながらに語った。

「俺は親殺しだ。だがそれには俺なりの理由があるのだ。聞いてくれるか」

「あぁ。何なりと聞こう」

「俺は孤児だったのだ。それをテイゲンが俺を拾った。何故か。

それは俺がデカかったからだ。毎日のようにムチで打たれ武芸を叩き込まれた。ただの番犬だったのだ。

あれが親か・・・。俺には赤ト馬の目の方が優しかった。それだけだったのだ・・・」

リュウビには返す言葉も無かった。

小沛に着き、カンウと諸将に伝達し、異動を命じた。

こうしてカンウと入れ替わりにリョフが小沛を守った。リョフはチンキュウを始め、共に逃げてきた兵を

入れ、鉄壁の守りに勤めた。


都でこれを聞いたソウソウは疑問に思った。

「なぜ正義に拘るリュウビがあの悪名高いリョフを匿うのか・・・」

それを聞いていたテイイクが答えた。

「恐らく、殿を恐れての事でしょう。ですがリョフはリョフ。リュウビに利が無いと分かれば

リュウビに食いつくはずです」

「そうやもしれん・・・。が、そうでないかもしれん」

「そんなに、心配なら一つ、手を打ってみましょう」

そう言うテイイクは笑っていた。

「リュウビは徐州を預かっているだけに過ぎず、本人もそう言っています。そこで、

リョフの首と交換条件に徐州の太守と認めるのです」

「ふん、そううまくいくかな」


テイイクは早速使いを出し、その詔はリュウビの手元に届いた。

リュウビはそれに目を通し、困惑した。

カンウとチョウヒもいたが、カンウは「確かに、これは難題だ」と一笑したが、チョウヒは

「簡単じゃないか!俺が首を取ってきてやる!」と言い、鼻息を荒く噴出したが、

リュウビはそれを止めた。

そこへ、リョフがやってきた。

「リュウビ殿!勅使がやってきたと聞いたぞ!お祝いに参った!」

と言うと、チョウヒが剣を抜き斬りかかったがリョフはそれを咄嗟にかわした。

「やめんか!」というリュウビの声にチョウヒは剣を閉まった。

そしてリョフは落ちている詔を拾うと、手が震えたが、やがて笑みに変わった。

「リュウビ殿。どうぞこの首を持っていってくれ。何の未練も無い」

そう言うと剣を抜き首に構えたが、その剣をリュウビは素手で押さえた。

「いや、すでに返事は決まっていたのだ」

そう言うと、リョフには人には言えぬ恩があるため、斬れぬ、と返事を認めた。

「何のこったい!」とチョウヒは出て行った。カンウも真意は読み取れぬまでも

何も言う事はなく出て行った。リョフはまた新たに涙を流した。


ソウソウの元へ返事が届くと、「相変わらず青臭い奴だ」と、ソウソウは笑い出した。


そこへテイイクがやってくると策の失敗を嘆いたが、すぐに次の策を提案した。

「今、帝の持つべき玉ジ(偉い人の判子w)をエンジュツが持っています。

これはエンジュツが帝に成り代わろうとしている為、討伐が必要です。これをリュウビにやらせましょう。

こうすればどちらが倒れても殿の優位は揺るがなくなるでしょう」

確かに、リョフを得たリュウビも怖いが、抜群の兵力を誇るエンショウ・エンジュツ兄弟も恐れていた。


これを承諾すると、テイイクはすぐに準備に取り掛かった。


リュウビは、しつこい勅使にウンザリしていたが、勅命とあれば反抗は出来ず会議を開いた。

が、エンジュツに対しては恨みも何も無いので形だけの戦をすると決めた。

「ですが、リュウビ殿、エンジュツ殿が形だけと分からなければ本当の戦になってしまいますぞ」

と、ビジクが言ったが、すぐに付け加えた。

「ならばこうしましょう。私が、妹のビケイと共にエンジュツ殿に対して人質となりましょう。

カンウ様やチョウヒ様は名が知れすぎておりこの役は務まりません。また、ビケイを第2婦人として

言えばエンジュツ殿も信用なさるでしょう」

「だが、万が一エンジュツ殿が・・・」

とリュウビが心配をすれば、

「ビケイもリュウビ殿の婦人として死ねれば本望でしょう。それがしもこの大役が務まれば本望です」

そう言うビジクの目は真剣であり、他に良い案も浮かばなかったので、これを実行した。


極秘にビジク兄妹が出発し、リュウビはカンウを連れて1万の兵を連れて出陣した。

チョウヒは酒癖が悪く城を預けるのに心配だったが、本人の自信溢れる禁酒宣言もあったので留守は安心だった。


こうして、広大な平原でエンジュツ軍と対峙したが、互いに攻める事はしなかった。

ソウソウの使いから、「どうした!早く攻めよ!」と急かされていたが、

「相手は我が軍の3倍はおります故、どう攻めれば良いかを思案しております。お上には

リュウビは無能と、お伝え下され」

と言って追い返した。


この報告を聞いたソウソウは

「リュウビめ、少しは大人になったか」と笑っていたが、やがて

「双方、和解し兵を引くように」と使いを出した。


これを受けたリュウビは直接、カンウと二人だけで馬を進めると

それを見たエンジュツ軍からもエンジュツとビジク兄妹がやってきた。

「いやはやリュウビ殿、長旅ご苦労であった。わははは!連合軍以来かな!」

等と上機嫌であった。

「此度はソウソウの策略だろうが、そうはいかん。なぁ?わははは!最近は江南のソンサクも

元気が良い!だがワシには勝てぬだろう!わははは!」

「はぁ、ははは・・・」

リュウビはこれまでに多くの将と出会い、それぞれ覇気や信念を感じ取ってきたが、

エンジュツからは何も感じ取れなかった。


エンジュツの五月蝿い独り言も早々にリュウビ軍は引き上げていった。

が、徐州城にある筈の「劉」の旗が無く、「呂(リョフのリョ)」の旗が立っていた。

「これは一体・・・」と一同は同様したが、すぐに城門は開かれリョフが出てきた。カンウが先に立ち

「これはどういう事だ!事次第では許さんぞ!」と言うと、リョフは馬を降り兵に合図をすると

縄に縛られたチョウヒが出てきた。縄を掴んでいるのはキョウテイだった。

リョフとキョウテイが話すには・・・


リュウビ達が出陣してからチョウヒはしばらく酒も我慢し、警備を勤めていたが

やがて、禁を破り、兵と酒盛りをしていたという。そして酔ったチョウヒはリョフが来た事を面白いと

思わず、小沛の城へ見回りに行くと言い出し、勝手に城門を抜け赤ト馬を引きずり回していたという。

これに激怒したリョフがチョウヒをぶちのめし縄を着け、小沛はチンキュウに預けリョフが徐州城を

守っていたという。


この話を聞き終える頃には、城の旗がいつの間にか「劉」に戻っていた。

続けてキョウテイが、

「我が夫には、姉の如く厳しく接していた事が此度の原因だったと思います。これからは母の様に

優しく接し、きっと更正させて見せます」

と涙ながらに語った。

リョフは「それでは御免」と言うと赤ト馬に跨ったが、リュウビが留めた。

「リョフ殿には感謝を言っても言い切れぬ。近頃、江南のソンサクが勢力を伸ばしていると聞いた。

どうか、カヒ城の守備に付いて江南に睨みを利かして下さらんか」

と土下座をしていた。

リョフはすぐさま馬から飛び降りリュウビの手を取った。

「そこまで俺の事を・・・」と再び熱い涙を流し、「カヒ城は任せてくれ!」と言うと

手兵を連れて去っていった。


チョウヒは縄を解かれてもずっと黙っていたが、隙を見てリュウビの剣を奪い喉元に立てた。

「兄貴達!御免よ!」と今にも突き刺さんばかりだった。カンウやリュウビが全く反応出来ない中、

ビケイが髪飾りを外し素早く投げると、チョウヒの手に刺さり剣は飛んで行った。

その後、カンウにボコボコにされリュウビにも泣きながら説教されると大人しくなった。


こうしてソウソウの策に対抗しつつ、徐州はより豊かに、強くなっていくのだが、

とうとう、あからさまに罠であろう勅使が徐州にやってきた。


「リュウビを徐州の太守とし、左将軍に任命する。よって許昌へ出向き奉公されたし」

との事だった。

左将軍ともなれば都にしばらくは留まらなければならなかった。

徐州の会議でも、行かぬ方が良いと諸将は言ったが、リュウビは帝の命だ。と聞かなかった。

こうなったらテコでも動かぬのがリュウビであり、それを知っているビジクは進言した。

「でしたら、妹のビケイを侍女として連れて行って下され。ソウソウ殿にも顔は知られておらず、

武芸もあり、また女であれば警戒も薄いでしょう」と言った。

確かに、カンウやチョウヒを連れて行ったのでは必ず争いになるだろうし、リュウビはこれを

受け入れた。

ビケイも荷物にクナイを忍ばせ、二人は都へと向っていった。

この時リュウビは38歳。ビケイは娘盛りを向かえ、リュウビは少しラヴズッキュンだった。


徐州城はカンウが2万の兵で守った。城にはリュウビ・チョウヒの妻がおり、ここを落とす罪は

死を持ってしても償いきれない。

小沛はチョウヒが1万の兵を連れていた。都から最も近く最前線となる城だった。

カヒにはリョフとチンキュウが5千の兵を連れていた。リョフがいると知られてからは

付近に海賊が出る事すら無くなった。


兵力は低いが、天下に誇る豪傑を揃えたリュウビ軍は、竜が天にも昇る勢いだった。


リュウビが都に着くと番兵に、リュウビの屋敷だ、と案内された。

中には手伝いの女が十数人いた。ビケイはリュウビに近寄り

「話が全てソウソウ様の耳に入るでありましょう」と言い、リュウビはビケイの思慮に敬服した。

程なくリュウビは丞相府(ソウソウのいる所)に呼ばれた。


「久しぶりだな。ゲントク」

そう言う言葉には、恨みは全く無く、心から昔の友としての愛が籠もっていた。

「お主には何度か楯突かれたが、会えば憎めぬ。不思議な奴だ」

「はぁ・・・」

「官の式は明日の朝からだ。それまでに都の仕来たり等を知っておくがいい」

と言うと、ソウソウは許昌の中を案内した。

やがて、立派な建物の中に連れて行かれると一つの立派な絵を見つけた。

「これが何だか分かるかな?」

「確か、リュウホウ様・・・かと」

「その通り、高祖である」

(ここは適当ですw確か、この漢の国を作った人達の事w多分w)

「その両隣にいるのがチョウリョウとショウカである」

「存じております」

「この方達は、元から身分の高い者ではなかった。お主も下はゴザ職人であろう」

「はい」

「ワシもゴザ職人では無いが決して身分は高くなかった」

「・・・」

「だが、今はどうだ!天下の万民がワシにひれ伏している!」

「・・・」

「ゲントクよ、今、ワシが描いている、この絵に変わる3人は誰か分かるかな?」

リュウビは真剣に悩んでいた。

「まぁよい。ワシの意見を聞かせよう。真ん中に立つのはこのワシだ!覇権を握り天下に号令を掛ける

のは、このワシだ」

「・・・」

「そして右にいるのが、ゴザ職人から身を立て、全ての民に好かれる政治を行う人徳の人物、お主だ」

「・・・!」

「そして左にいるのは流浪の身から主に献身を捧げ天下に武勇を誇るカンウである」

「・・・」

「これがワシの描く、この漢を統べる3人だ」

「・・・」

「これがワシの夢なのじゃ。これが無ければお主らの首はとっくに刎ねているぞ」

そう言うとソウソウは笑い出した。

この気迫、この信念。この時リュウビはキョショウから、ソウソウこそ乱世の奸雄だ。

と言った言葉を思い出していた。


翌日、リュウビの官位の式が行われた。

リュウビは帝の顔を見るのは始めてであった。呼ばれて帝の顔を見た時、リュウビは思わず

「あっ」と声を上げてしまった。

この時、帝は18歳。幼くしてトウタク・リカク・カクシに振り回される激動の中で必死に耐えてきた

その顔。色白の肌にくっきりとした顔、赤い唇。男と女の違いはあれど、亡きオウヒツとそっくりだった。

その帝から声を掛けられる。

「お主は朕と同じ劉性を名乗っているが、朕の同族か?」

「かつて、皇族としておられた方の遠縁にあたるとは聞いたことはありますが、証拠も無く、詐称を恐れ

口にした事はございません」

「そうか。実は、朕も気になって調べてみたのだ」

と、帝は一つの書類を紐解いた。

漢に使えた劉の性の付く者が次々と読まれていたが、やがてリュウビの祖父の名前が出てきた。

出てきたかと思えば、リュウビの父の名前も出てきて、その父は出処せず、リュウビを生む。

そう記されていた。

(リュウビの父はリュウビが生まれてすぐに死んでいた)

「これで分かったのだ。お主は朕の叔父にあたる。劉勝様の末裔にあたるのだ」

そう言うと、周囲の諸官が歓喜のどよめきを見せた。

「これからは、このリュウビを皇叔(コウシュク)として敬うように!」

と帝が告げた。

諸官が拍手で万歳を唱える中、ソウソウだけは青ざめて震えていた。


帝はソウソウの猛々しい威勢の中で震えるだけであったが、叔父であるリュウビが近くにいる事は

非常に嬉しく、頼もしく思っていた。

またリュウビも亡きオウヒツを思わせるその容姿と、頼ってくれている感じに愛着を覚えた。


帝は用事が無くともリュウビを呼び「皇叔、皇叔」と縋る様に話しかけた。

だが、帝の周囲の者も全てソウソウの手の者である為、悩みを打ち明ける事は出来なかった。

またリュウビもそれを承知していた為、他愛も無い会話をするだけであったが、帝のすがるような瞳が

日に日に色濃くなっていき、息苦しさを覚えるのだった。

それを察知したソウソウも3日と空けずにリュウビを丞相府に呼び出した。

「ゴザ職人の皇叔よ」

かなりの皮肉を言っていたがリュウビは気にも止めなかった。

「そういえば徐州は安泰かな?」

と、唐突に話を出してきた。

「はい、何の連絡もありませんが、私の兄弟も歴戦の勇士となり、

天下豪傑のリョフ殿もおります。しばらくは安泰かと・・・」

「ふむ。だが、カヒの城は危ないぞ。この時期、水攻めに合えば一溜まりもあるまい」

「・・・攻めるおつもりですか!?」

「いや何、助言をしたまでよ。気にするな戯言だ」

と不気味な笑いを浮かべていた。

それからはリュウビは毎日、丞相府に呼ばれ、用意された屋敷に戻る事も出来なかった。

ソウソウの言い方からして、徐州を攻めるのは明白であったが、それを伝える手段が無かった。

リュウビは焦りを感じ始めていた。


そんな夜。丞相府内のリュウビの部屋の隣の廊下から絹ズレの音がした。

入ってきたのはビケイであった。娼婦の格好であったのだ。

リュウビは何と大胆な事をする女だ!と驚いたが、もはや徐州の状態を知るにはこれしかなかった。

ビケイはリュウビの耳元で

「すぐそこに衛兵がおります」と言うと、リュウビは立ち上がり衛兵に告げた。

「済まぬが・・・これから・・・その・・・おっぱじめるのだ。声を聞かれるのは恥ずかしい」

それを聞くと衛兵に笑われもしたが、さすがに言う事を聞き門の方まで下がってくれた。

部屋に戻るとビケイはひれ伏し、「はしたない事を致しました」と謝った。

だがリュウビは手を取り、これしか方法は無かった、と感謝をした。

「リュウビ様が何かに焦っておられる様子だったので、何かを手伝えるかと思い参上しました」

「ありがたい。さすがはビジク殿の妹だ。実は、ソウソウ殿が徐州攻めをするという話をしていた」

「なんてこと・・・」

「そこで何とかカンウやチョウヒに知らせたいのだが、この警備。私は一歩も出られそうに無い」

「それでしたら、私が馬を駆けましょう。ぼろ布をまとい、顔に泥を塗り、頭巾を被れば書生のように見える筈。

ここからなら3日もあれば戻ってこれます」

「おお、行ってくれるか。宜しく頼んだぞ。今日はゆっくり休んでくれ。下がってよい」

そう言ったが、ビケイは下がらなかった。

「どうしたのだ。下がってよいぞ」

するとビケイは恥らいながら、

「こんなに早く出て行ったのでは怪しまれます」

と言った。「それもそうだ」とリュウビは納得したが、ビケイを見ている内に正気も保てなくなった。

ビケイは白い肌を仰け反らせ、リュウビは感謝し、顔○(自主規制)した。


翌日、ソウソウは都を用事で出ると言い、リュウビには都を出るな!と命令し出て行った。

それでもリュウビの周りにいる監視が減る事は無かった。


3日後、ビケイが戻ってくると前回と同じように衛兵を払い、詳細を聞いた。

「丞相様は恐ろしい方でございます。カヒ城の水攻めは既に始まっておりました」

「なんだと!」

「チョウヒ様もカンウ様もカヒ城が攻められているのは承知で、

援軍を送りたいとリュウビ様に早馬を出していたのですが、全て遮られていたそうです。

やがてカヒは水に沈み、残る僅かな兵とリョフ様は戦ったのですが、城内に間者が忍び込み、方転戟と赤ト馬を隠され

あえなく捕らえられました」

「なんてことを・・・」

「すると、丞相様は自身で首を刎ねるべく、都を発ったようにございます」

「それだけの為に・・・リョフどの・・・・!」

リュウビは大粒の涙を流した。ビケイもその日は薄絹を着ておらず内側に喪服を着ていた。

その晩は二人で静かにリョフの冥福を祈った。


その翌日、ソウソウが戻ってきた。

だが、リュウビを丞相府に閉じ込める事はもうやめたらしく、毎日のように呼ばれる事もなかった。



この頃、帝はある決心を固めていた。リュウビが都にいる内にと思いを書状に書き留めていた。

次の日もリュウビは帝に呼ばれ参内すると、帝の手に包帯が巻かれてあるのに気付いた。

「そのお怪我は?」

「あぁ、実は昨晩、桃を剥こうとしてな、手を滑らせて切ってしまったのだ。慣れない事はしない方がよいな」

と笑っていた。

「そうそう、皇叔どの。気付けば朕はそなたに贈り物をしていなかった。左将軍ともなったのに晴れ着の一つも

送らねばと、仕立てておいたぞ」

そう言うと高価な緑の生地に金の竜が描かれた晴れ着を差し出した。

「皇叔どのは大柄だと聞いていたので少し大きめに作らせたのだ。着てみて長かったらすぐに丈を詰めてくれ」


ありがたく頂戴し、屋敷に帰ると早速着てみた。が、やはり大きかった。

「3寸も詰めれば良いかと思います」

ビケイはそう言うと、生地を切り始めた。その時、切った内側から紙が落ちた。血が滲んでおりビケイはハッとしたが

何食わぬ顔でその紙を懐にしまい、詰めの作業を終えた。

「お似合いです。まるで高祖様がこの世に生まれ治ったような・・・」

「ははは。まるで中身は足りないがな・・・」


その晩、ビケイと二人になると、ビケイは紙を差し出した。

リュウビはそれを広げると震えだした。

帝からの血判状だった。

ソウソウの圧制に耐えられず、毎日が針の筵のよう。だが、リュウビが来た事で大船に乗った気持ちになり

それも落ち着いた。今、願うのはただ一つ。ソウソウを倒すべく立ち上がってくれ。

それが血文字で綴られていた。


これにリュウビは心の奥底から震え上がり、決意を新たにするのだった。

これには徐州だけの力では足りない。今こそ反ソウソウ連合軍を立てなければ!

そう思うのだが、この都からどう諸国に伝え、都からどう離れたものか。

それを悩んでいるとビケイが、

「宮廷の奥にはトウシュウ様がおります」と一言告げた。

ずっと昔から帝に使え、忠臣と呼ぶに相応しい人物で帝の信頼も厚く、ソウソウも手を出せずにいる将軍だった。

「そうだな、トウシュウ殿に頼るしかあるまい」それを聞いたビケイが

「でしたら私を宮廷に奉公に遣わせ下さい。トウ王妃より必ずやトウシュウ様にお伝えします」

リュウビも考えていたがもはや、それしか道は残されていなかった。何よりもビケイのこの機転の速さに

さらなる愛おしさを覚えた。

「ビケイ、絹と筆を持て」

そう言うリュウビの瞳に輝きを見て、ビケイはようやく愛する人が立つ時が来たのだと、心から震え上がり

同時に、失敗は許されないビケイ自身をきつく戒めるのであった。

リュウビは絹に20名程が書き連ねられる用に連判状を書き、帝を甚振る逆賊ソウソウを討つとの内容を

認め、指を噛み血で印を押した。ビケイはその指を握ると、二人はそのまま倒れこみ一夜を明かした。


翌朝、ビケイは盗んできた侍女用の服を纏い、リュウビの書を持って屋敷を出て行った。

リュウビはどうにかして徐州へ戻る口実を考えていた。が、ソウソウに呼ばれた為、丞相府へと向った。


暗雲立ち込める夏の日の事であった。

丞相府に着いたリュウビはソウソウに連れられて、窓際の席に座った。

「ここから眺める景色は壮大であろう」

窓からは黄河が見え、遥か遠くに山々が見え絶景であった。

「これだけ広い世界だ。広すぎる。だからこそ治まらぬ」

「しかし今やソウソウ殿の天下でございましょう」

「・・・ふん」

景色は華麗であったが空には黒い雲が立ち込めていた。

「ワシは少し都を離れていたが、何か変わりはあったかな?」

「は・・・いえ。帝と他愛の無い話をしておりました」

「帝は手を怪我していたようだが、どうされたかな」

「桃の皮を切ろうとし、誤ってご自分の手を切ってしまったと仰っておりました」

「ところで・・・」

遠くで雷雲が光り始めた。

「お主の連れてきた侍女。名は何と言ったかな」

「・・・」

「女のクセに馬を扱う事になれておる」

「・・・」

「3日で徐州を行き来するとは、大した女子だのう」

ソウソウにはビケイの存在も行動もバレていた。

「は・・・男勝りの女で中々言う事を聞いてくれませぬ」

「・・・」

ソウソウは飲んでいた杯を卓に置くと、立ち上がりリュウビを指差し怒鳴った。

「憚るな!ゲントクめ!貴様、一体何を企んでいる!」

この時、物凄い光と共に落雷の音がした。

リュウビは思わず持っていた杯を落とした。

「すみませぬ。生来、雷が苦手なもので・・・」

とわざと震えて見せた。

酒を注いでいた女にまで笑われていた。

「・・・・ふん」

そう言うとソウソウは立ち去っていった。


この時からソウソウの監視は一層激しくなった。

何よりも、ビケイが心配だったが、後宮へ行けばそれだけで全てがバレてしまう。

屋敷にいても朝廷内にいても丞相府にいても監視が付きまとい、リュウビは正気を保つのがやっとだった。


そこで宮殿の隣の畑を見つけたので農夫から鋤を借り、耕す時が唯一監視から逃れられる事を知った。

事実、監視がいないわけでは無いが畑の真ん中にいる時は視界も開けるので接近される事も無かった。

そんなリュウビを見て帝が鋤を重そうに抱えてやってきた。

「民の苦しみも理解せねばな」

と、晴れ晴れしい程の笑顔であった。

これが好機とリュウビは話し出した。

「血判状は確かにお預かり致しました。このリュウビ、必ずや兵を挙げソウソウを倒して見せます」

「・・・」

「・・・陛下、もっと腰に力を入れませぬと」

「おお、そうだな。や、目に土が入ったらしい」


オウヒツを思わせる顔に涙が通っていた。

リュウビは鋤を振るう腕に力が漲っていた。

やがて暗くなり、帝に別れを告げて屋敷に戻った。

ビケイの身を案じていたが、徐州に帰る手段も考えなければならなかった。


翌日、再びソウソウに呼び出された。が、それは想定外の用事だった。

「やあ、ゴザ職人で百姓の皇叔どの」

「ソウソウ殿も百姓をされてはいかがですか。剣を振るう腕が鍛えられます」

「ふん・・・。実はな、ゲントク、徐州へ帰ってもらいたい」

「え・・・」

「いや、ただ帰ってもらうのではない。この度、エンジュツが玉ジを持ち幽州のエンショウの元へ向うと

情報が入ったのだ。それを阻止してもらいたい」

「ですが、エンジュツ軍には兵5万はございましょう。徐州には小沛に1万、本城に2万、カヒは誰やらに

滅ぼされて兵は無く、合計3万。守りに半分を残すとして1万5千。どうして抗し得ましょうか」

「お主は左将軍だ。となれば官軍を付ける。10万で足りようか」

「10万・・・」

「やってくれるな?」

「・・・はい」


事もあろうに帰れるだけでなく、10万の兵も寄越すという。

これ以上に無い好機であった。

これを受けたリュウビは帝より直接、詔を賜った。


帝はリュウビが離れてしまう事に悲しみを隠しきれず涙を浮かべていたが、リュウビは帝に強い視線を送り続けた。

こうしてリュウビを大将とし、副将にソウコウ、ソウジンを付け、官軍10万は出陣した。


これに驚いたのはテイイクであった。

「殿は何という事を!虎を野に放したようなものですよ!!!」

と慌ててソウソウに詰め寄った。

これが次々と諸将から問われ続け、ソウソウも慌て出した。

これを見たカコウトンが単騎でリュウビ軍の跡を追った。


「待たれい!左将軍!」

「何でしょう」

「丞相がこの出陣を取り消した。今すぐ都に戻られよ!」

「何を言いましょう。将は外にあらば君命を受けずとも戦うと言います。ソウソウ殿もそれが分からぬわけでは

あるまい」

「何を言う!この兵泥棒が!この逆賊め!」

「待たれよ!何を持って私を逆賊と呼ぶのか!私は帝の勅命を受けて出陣したのだ。帰れとあらば帝の詔は

お持ちであろうな!」

「ぐうう・・・」

そこに副将のソウコウが割って入った。

「退かれよ、カコウトン殿。ここは皇叔殿の方が正しい。無礼だぞ」

リュウビどころか、ソウコウにも言われカコウトンは退くしか無かった。


かなりの時間が掛かったが、都に戻ったカコウトンはこれをソウソウに告げると、諸将はまた騒ぎ出した。

「えらいことだ」「ソウコウ殿まで裏切ったか」「なんたることか」


それらを聞いていたソウソウは笑い出した。

「これだけの知恵者が居て、まだ分からぬのか。あの軍の副将は誰だ?誰の兵だ?」

「・・・」

「あの軍はソウコウの命令でしか動かぬ」

「・・・」

「あの軍は両羽の剣なのだ。エンジュツも討つが、それを討てば自らをも討つ」

「なんと・・・」

「ここまで騒げば、リュウビも今は自分の軍と思い込んでいるであろう。だが実際にあの軍を動かせるのはソウコウ。

またワシが手を振ればソウコウはリュウビに対し構えるのだ。これで除州も落ちたも同然だ」


これに安堵した諸将はソウソウの知略に感服したと騒いでいた。

リュウビ軍10万は徐州に入ったあたりで5万のエンジュツ軍と対峙した。将同士が前に出た。

そこでエンジュツに仔細を問われ、リュウビが何とか宛城へ引き返してもらえぬか?と尋ねたがエンジュツは

これを拒否。さらにソウコウからも玉ジを奪う事も勅命に含まれている!と檄すればエンジュツは落胆した。


エンジュツは陣に帰り、しばらくすると、エンジュツ軍が進軍を開始した。

これを見たリュウビは、

「玉ジはエンジュツ殿が持っているであろう・・・」と力無く言うとソウコウが突撃を命じた。

5万と10万は正面からぶつかり、早々にエンジュツは切り殺され、玉ジも発見された。

エンジュツ軍は散り散りになり、官軍も2万の損害を出したが、圧勝であった。


こうして、ソウジンに玉ジを持って帰るようにと伝え、リュウビは8万の官軍を引き連れ、徐州へと入った。

その時、カンウやビジクは官軍に不安を感じたがリュウビの無事な姿を見るとほっとした。

やがて、リュウビ宛に密書が届けられた。

ビケイに全てを託した連判状の返事であった。

そこには、14名の諸国の主の名が書かれており、中でも嬉しかったのは西涼の太守、バトウの存在だった。

抜きん出て兵力が多い為、大いに期待をした。

これに力を得てリュウビは打倒ソウソウへと心を燃やすのだった。


ビケイは後宮にいた。

トウ王妃への取り入りもうまくいき、トウショウへ直接会って話をする事が出来たのだ。

これを受けたトウショウはすぐに各地に早馬を飛ばしたのだった。

それからすぐに早馬での返事が届き、14名の名前を確認すると、

念のために2通の同じ手紙を徐州へ宛てて再び早馬を出した。


が、不安は的中し1通の手紙はソウソウの手に渡ってしまっていた。

これに激怒したソウソウはトウショウを始めトウ王妃を含む親族一同を帝の前に集めた。

トウ王妃は妊娠しており、子供だけは、と許しを懇願したがソウソウはそれすらも許さなかった。

「これは帝への反乱だ!」とソウソウは帝の前で処刑を行った。

総勢100名近くが王宮内で打ち殺された。

帝はその光景に耐えられず逃げようとするとソウソウはそれも許さず、全員の死に様を見せつけた。

後宮にいたビケイは、この危機を察知すると急いで逃げた。

一刻も早く徐州に、リュウビに連判状がバレた事を知らせなければならなかった。

再びボロ布を纏い顔に泥を塗り長い髪を頭巾で隠し、都を走り回った。

やがて城下町に出た頃、その目に馬を捉えた。

足は長く、見るからに駿馬であった。

「申し訳ありません!このお礼は必ず!」と一人で呟くとその馬に跨り、一直線に徐州へと向った。

その時、「こりゃ!馬盗人めえ!」と声がしたのを聞いた。


ビケイの期待通りの駿馬であり、恐ろしい速さで駆けて行ったが、やがて後ろから追いついてくる影を見た。

見れば先ほどの叫んでいた男であった。かなりの大男であり、ビケイは武芸の嗜みがあるだけに一目見ただけで

自分よりも相当に強いと感じ取った。それにあの馬を御す早さ。見た目は落ち武者だが、捕まれば最後である。


ビケイは休む事無く駆け続けたが、やがて徐州の山を発見した。そのまま進めば徐州まで一本道だが

確実に大男に捕まってしまう。その山はビケイが子供の頃に庭の様に遊んでいた山であり地理は知り尽くしていた。

捕まらない為にもビケイは山へ騎首を返した。獣道ですら無い道を進み続け、後ろを振り返れば

もう大男も見えなくなっていた。


やがて、ビケイの盗んだ馬が嘶きを始めた。ここまでの距離を水を飲ます事無く走らせた為だった。

ビケイは一時馬を降り、川を探し水を与えた。次第に嘶きも納まってきたが消える事はなかった。

ビケイ自身も一息付き、再び馬に乗ろうとした瞬間、あらぬ方向から腕を掴まれた。先ほどの大男である。

「ようやく捕まえたぞ盗人め!飛竜がワシを呼んでいたのが分からんのか!こっちに来い!痛い目に合わせてやる」


そう言うと有無を言わさぬ怪力でビケイを振り回したが空中で男の腕を蹴り、その手を払った。

その男がうろたえていると、目の前にクナイが迫っていた。刺さるかと思いきや男は剣の柄でそれを払った。

かと思えば、次のクナイが飛んできて男の頬を掠めた。次々とクナイが放たれるが全て打ち下ろされてしまった。

「観念しろ」と男が言うが、逃げても確実にやられると見たビケイは男に向って行き頭部を蹴った。が、それは

腕で防がれた。その瞬間に男の剣を奪い、今度は切りかかっていった。しかし男は鞘だけでその剣を振り払うと

ビケイを後ろから締め上げた。「全く、無駄な抵抗はよせ」と抑えようとしたがビケイは必死に抗った。

すると、ビケイの胸に触れた男は「ややや!」と飛び跳ねた。

男は、「馬泥棒が女で、女が武芸の使い手で・・・さすがにワシも目が廻るわ」と言うとビケイも観念し

土下座し口を開いた。

「馬を盗んだことはお詫びします。ですが、どうしても伝えなければならない事があり徐州候の元へ行かねば

ならないのです」と言うと

「徐州候とは・・・ゲントク殿か?」

「リュウビ様を知っておられるのですか」

「知ってるも何も、私の兄のようなものだ。私の師匠でもある。私もゲントク先生に用があるのだ。

その様子だと火急の事のようだな。飛竜を使うがいい、ワシも後から行く」

「お名を伺っても宜しいですか」

「ワシはチョウウン=シリュウという。急ごう」

そう言うとビケイは馬に乗り、徐州へ向った。すぐ先には小高い丘があり、そこから徐州城はすぐだった。


だが、丘に着いた時、ビケイは息を呑んだ。

徐州城の周りを「曹」の旗を掲げた大群が二十、三十の輪を持って取り囲んでいたのだ。

まさに落城寸前だった。

と、南西に見える小沛城の方角から大きな炎が見えると、ビケイは声も無く馬から落ちた。

チョウウンは咄嗟にビケイを支え、その場に寝かせた。

「一体何処からこんなに官軍が出てきたのだ・・・」と呟いた。


その頃、リュウビはビジクと二人でカヒ城の復興の為に外に出ていた。

江南の脅威もあったし、エンジュツを討った事でエンショウの報復も考えられ、東側の防備の為にカヒ城の

再建は不可避であった。

その下調べも終わり徐州城を視界に捕らえると二人は唖然とした。官軍が徐州城を囲んでいるのである。

「ソウソウ殿がこれだけの大群を寄越したのはこのためであったか・・・」

リュウビは剣を構え切り込もうとするのをビジクは必死で止めた。

もはや2人ばかりが戦に混じっても無駄死にするだけなのは明らかであり、二人は天運を祈りながら山へと

逃げ込んでいった。


小沛を守るチョウヒはイラついていた。兵1万とは言っても半分は民兵であり、また小沛を囲む敵は7万。

これはソウソウの策で、徐州城にはリュウビの妻が居る事から打って出る事は無いとの判断で、常に数で優位に

立つ為に、先に小沛を落とすことを命じていた。

こういった場面で奇跡を起こすとすれば、将軍の獅子奮迅の働きにより大いに士気を高める事だった。

チョウヒは何度も出撃をした。

蛇矛を左に振れば5人が倒れ、右に返せば3人が倒れる。続く兵もよく戦ったが、兵数の差は埋めきれず

開いた城門から官軍が流れ込み、各地に火を放った。チョウヒの軍だけで1万以上の兵は打ち倒したが多勢に無勢。

チョウヒは単騎、無理矢理に血路を開いて落ち延びていった。


カンウは城壁の上で戦況を見守っていた。

ソウソウの読み通り、リュウビの妻、カンレンが居る為、城をあける事は出来ず、時を待つしかなかった。

だが、時が立てば、当初は1万の囲いだったものが7万に膨れ上がった。

もはや成す術は無かった。

それでもなんとかカンレンだけでも逃がせぬかと思考を巡らせていた。

その頃にはソウソウ率いる3万の軍も加わり、もはや絶望的な戦況となった。

何度もカンレンとキョイテイの元に向ったが、2人とも覚悟は出来ています。としか言わない。

結論も出せずにカンウは悩んでいると、ソウソウ軍から一人の武将が城門の手前まで来た。

チョウリョウという将らしく、ソウソウからの話があるとこの事だったので、打たぬようにと指示を出し

カンウは単騎で門を開けチョウリョウの前に出た。

「カンウ殿。もう降参してはいかがか?」

「そうは行くまい。まだ2万の兵が残っている。小沛は落ちたであろうが、まだ戻ってくる兵もいよう」

「まだ諦めぬおつもりか」

「無論、まだ戦いは始まってすらいない」

「今やわが軍は10万の兵で囲んでいるのだぞ」

「なればワシが8万人分の働きをすれば良い事だ。あとは1人1殺で対等であろう」

その目には凛々と輝く熱意があった。

これを聞いたチョウリョウは呆気に取られ引き換えしていった。

カンウはただ黙って城門に立っていたが、すぐにチョウリョウが帰ってきた。

「丞相はお主をひどく気に入っておられる。我が方に来られぬか?」

「くどいぞ、チョウリョウどの」

そう言うと薙刀をチョウリョウに向けた。

「分かった。実はな・・・」

そう言うとチョウリョウは剣を捨て座り込んだ。

カンウは馬上でナギナタを持ったまま聞いた。

「丞相は本気でお主を気に入っており、お主が降るならどんな願いも聞き入れると言っている」

「・・・」

「どんな願いでもだ。ワシがこうしてお願いしているのだ。少しは考えてくださらんか」

カンウは天を仰いだ。

リュウビは生きているのか、チョウヒは・・・。

ここでこの交渉を断ればどうなるか・・・・。


やがてカンウは馬を降り、チョウリョウに向き合った。

「なれば条件を出す。1つ、兄者の奥方、弟の奥方には指一本触れぬ事。

2つ、徐州の民を労わり、善政に勤めること。3つ、兄者の行方が分かれば、例えいかなる困難があっても

すぐにそこへ駆けつける事。これらを約束し、叶わなかった場合はソウソウ自ら首を差し出す事。

これが条件だ」

チョウリョウは最後の言葉を気にしていたようだが、すぐに陣へ戻っていった。

ソウソウは考える間も無く、快諾した。

チョウリョウがカンウにそれを伝えると、

「しばし待たれよ」というと城門はあけたまま城内へと入っていった。


そこで2人の妻に、ソウソウに付けた条件を伝え、それを承諾してもらった事を伝えた。

また、命に代えても二人の身は守ると約束した。

これを受けて2人の妻はカンウの苦渋なる決断を労わり、その意に従った。


こうしてカンウが馬車で奥方2人を連れて城外へ出ると、ソウソウが自ら馬車の前に出て馬を降り

両膝を付けて挨拶をした。

敗軍の将の行為ならまだしも勝った軍の、しかも天下のソウソウがこれを行ったので官軍はざわめいた。

カンウはそれを見るなり、地に這いソウソウの手を取った。


こうして徐州はソウソウに降った。


夜中で晴天ではあったが、星一つ無い空だった。


カンウと2人の奥方を連れ、ソウソウ軍に囲まれながら都へと帰っていく大軍団。

途中で一晩の休憩となったが、手違いがあった。

カンウと奥方2人の寝室が同じ部屋になってしまっていた。


テイイクは笑いながら話した。

「実はこれ、手違いではございません。カンウは朴念仁と聞いておりますが、同室にあって

女の色に迷わぬ者はおりますまい」

と、ソウソウに話した。だが、翌日になってテイイクは驚きながら語り出した。

「あのカンウ。一筋縄では参りません。状況を知るや、奥方2人を部屋に居れ、本人は松明を持って

朝まで戸の前で立ち尽くしておりました・・・」

ソウソウは笑った。

「そうであろう。それでこそカンウだ。だからこそワシの右手に欲しいのだ。これはリュウビとの勝負だ。

どうあってもカンウを心から手に入れてみせる」

そう言うソウソウは闘志に燃えていた。


都に着くと、以前リュウビに与えていた屋敷をカンウと奥方に与えた。仕切りを付けてもらっており、

奥に2人を住まわせた。

ソウソウは金銀煌く食器や杯をカンウに贈ったが、それは全て奥の2人にさらに贈られた。

また、カンウ宛に美女や侍女を30人程贈れば、それも全て奥の2人の使用人として流された。

ソウソウは唸っていた。

「どこまでも朴念仁じゃ。何をすれば喜ぶか・・・」


翌日、ソウソウはカンウを呼び出した。

「お主のその格好、よく見ればボロボロだのう。よし、ワシが見立ててやる。付いて参れ」

そう言うとカンウと二人で仕立て屋に行き、ソウソウは恋人にでも着物を贈るかのように、真剣に

カンウに見合った服を仕立てさせた。

出来上がったのは、深緑の生地に金銀の竜がうねり合い天に昇る模様の服で、カンウはこれを喜んだ。

「明日、帝よりお主に官位が授けられる。それを着ていくが良い」と言うと、カンウは、

「ありがとうございます。生涯、大事に致します」と答えた。


翌日、カンウは帝に呼ばれ参内した。

帝はカンウの姿を見て、これが皇叔の弟かと頼もしさを覚えた。だが、リュウビの名前も出せず

カンウのヒゲを見て美髯公とあだ名を付け、官位は扁将軍とした。

扁将軍はリュウビの左将軍とほぼ同列に当たる。ソウソウはこれでカンウとリュウビの主従の関係を

崩そうと画策していたのだった。

式が終わり、ソウソウは疑問に思いカンウを呼んだ。

「お主、それは昨日のワシが贈った服であろう?」

「いかにも」

「その割りには着膨れして見えるのだが・・・」

と、それを聞くと内側に元のボロ服をまとっていた。ソウソウは

「何故、こんな暑い日にそんなことするのか」と聞けば

「これは兄者が徐州を立つ際にワシの前で脱ぎ着させてくれた、いわば兄者の形見じゃ。なので脱ぐわけに

いかず、かといって丞相殿の恩義も捨てられず、あえなく重ね着致しただけの事」

「しかし、ゲントクが死んでいたらどうする!」

「もとより、地下へご一緒する」

「・・・しかし、官位では貴公とゲントクは同列なのだぞ。そうなっては主従の関係も・・・」

「いや、我らは主従の関係では無い。桃園で誓いを立ててはや十数年。茶碗一つの飯を皆で啜り

雨風に一緒に晒されてきた。主従等と、そんなに軽いものではない」

ソウソウは腹立たしさを覚えたが、次に与えたものはカンウも飛び跳ねんばかりに喜んだ。


ソウソウがカンウの屋敷に馬を引いてきた。それをカンウが見るや

「おお、赤ト馬ではないか!」と目をまん丸にした。

「故あって、ワシの元にあったが、ワシの配下では誰一人として乗りこなせなかったのだ。

お主ならきっと乗りこなせるであろう」

「それは・・・弟のチョウヒも勝手に乗ろうとしたが一歩も動かなかったと聞いております故、

分かりませぬが、しばしお預け下され」

と言うと、カンウは赤ト馬の鼻を撫でた。

以降、カンウは毎日赤ト馬の体を洗い鼻を撫でたが乗ろうとはしなかった。

リョフが死んでから、その輝きを失い、走る事もしなくなっていたが、10日程経つと

赤ト馬の方からカンウへ鼻を擦り付けて来るようになった。

「そうか、ようやくワシをリョフ殿の代わりと思ってくれたか」

そう言うとカンウは赤ト馬に跨った。その光景は美髯公という名に相応しく見ていたソウソウも惚れ惚れ

してしまった。

すると、カンウはムチを打つと城内を高速で駆け回った。やがて笑顔でソウソウの元へ来ると

「おお、とうとう乗りこなしたか、さすがはカンウだ。だが、分からぬ。お主は金やら女やら官位や服まで

授けたのにそこまで喜ぶことは無かった。それが馬一頭でこのはしゃぎ様は・・」

と言えばカンウが答えた。

「これは丞相らしからぬ事を言う。槍一本・馬一頭こそ武門の誉れではないか。またこの足の速さよ・・・。

これなら兄者の行方が分かれば一日で、駆けつけられよう」

それを聞いたソウソウは絶句した。同時にリュウビとの勝負は完敗に終わったと自覚した。

去ったソウソウはテイイクを呼ぶと、

「もうカンウは放っておけ、リュウビの所在が分かれば直ぐに出て行くはずだ。後を追いかけ、まとめて

始末しろ」と命じた。


カンウも毎日、リュウビを探し続けていた。その手足となったのはキョウテイであった。

都に連れてこられてからすぐ、チョウヒとの子を産み、それでも子をカンレンに預け駆け回った。

キョウテイは元々、洛陽・長安と都に住んでおり都の事情は知っていたし、服装を汚し都内をくまなく歩き

周り、リュウビの容姿を尋ねて廻っていた。

だが、リュウビが都に近寄ろうハズも無く、毎日が徒労に終わっていたが、変な話を聞いた。

「俺はここから南の古城からきたのだが、そこで山賊に襲われてな。命もこれまでと観念したが、そこへ熊のような

男に救われた。本人は山賊の将軍だ、等と言っていたが、山賊に将軍なんぞがあるかぃのう」

「どんな将軍なんだ?」

「あぁ、蛇矛という武器を振り回す大男だ。中々見れる武器では無いので覚えている。ヒゲだらけで声の大きな熊男だ」

それを聞いたキョウテイはボルトよりも早く走り、屋敷へ帰りカンウに告げた。

「ウチの亭主の居場所が分かりました」

「おお、ヨクトクは生きていたか・・・。して、どこかな」

「古城のあたりで山賊の将軍として生活しているようです」

「はっはっは。ヨクトクが山賊か!しかも将軍とな!」と喜んでいたが

「だが、兄者は一緒ではあるまい。一緒であれば山賊などさせまいからな」

「はい。なんだか私まで恥ずかしいです」

「そう言うな、生きていればこそだ。ヨクトクの元へ行きたいであろう」

「はい・・・いえ」

カンレンの様子がやはり心配であり、キョウテイは

「リュウビ様の居場所は分かるまでは、カンレン様の側を離れません」と言い切った。

「よく言ってくれた。無事であればいいのだが・・・」


チョウヒは小沛から落ちていき山の中に隠れた。

しばらくすると、山賊達に囲まれていたが、逆にぶちのめし山賊の頭目となった。

古城に隠れ家を用意し、手下にリュウビの捜索をさせ、普段は付近の太守等の戦争の用心棒となった。

チョウヒはカヒでの一件以来、急激に大人へと成長しており、そんなチョウヒへの信頼は厚かった。

勇猛果敢であり、労わりの心を決して忘れない、まさに将軍となっていた。さらに天下無双である。

用心棒の仕事から少しずつ金・兵糧を溜め込み、リュウビを見つけた際の旗揚げに充分な量を蓄えていた。

また兵士も、そんなチョウヒを慕ってあつまり、打ち倒した山賊団を引き入れる等、数は1万を超えていた。

そんな折に、都からカンウの使いがやってきた。

「故無く、奥方二人と共にソウソウへ降る事となった。二人の無事を確保すべく、ソウソウに恩を

返さねばならない。しばらく離れる事になるが、また酒を酌み交わそう」とあったが、

チョウヒは怒鳴り出した。

「ソウソウに仕えるだと!おい、使いよ!カンウは都でどんな暮らしをしているのか!」

と聞けば、声で2m程すっ飛んだ使いは見たままを答えた。

「はい、丞相様より金銀を送られ美女を贈られ官位を授かり赤ト馬を乗り回しております」

「なんだとう!!!」

そう言うと使いはさらに3m程すっ飛んだ。チョウヒはそれに加え

「貴様、都に帰ってあのヒゲ野郎に伝えろ!何がソウソウの恩だ!ふざけるな!兄弟の縁はもう切った!

次に貴様の顔を見た時は、自慢のヒゲ毎、首を胴体と永遠に離してやるとな!!!!」

それを聞いた使いは一目散に逃げたが、こんなケンカに巻き込まれるのも嫌なので都には戻らなかった。


チョウウンに支えられたビケイはしばらくして目を覚ました。

チョウウンにより洞窟の奥に連れられていたが、チョウウンは洞窟の入り口で立ち尽くしていた。

ビケイに気が付くと挨拶をし、チョウウンが徐州のその後を話すとビケイはうな垂れた。

リュウビの行方が分からぬ今、カンウも奥方と共にソウソウに連れられ、チョウヒの所在も分からなかった。

だが、リュウビは生きていると信じるしか道は無く、かつてリュウビが百姓の話をしていたのを思い出した。

そして、それをチョウウンに伝えるとリュウビに会う目的は一緒だし、護衛をするという名目で一緒に行動した。

目指すはジョナンだった。キョショウとリキュウのいる所である。徐州から落ちるとすれば、そこしか考え

られなかった。

二人の馬を駆ける早さは尋常では無く、すぐにキョショウの屋敷に着いた。

キョショウもリキュウも健在であったが、リュウビの姿は無かった。

キョショウも必ずここへゲントクが来るであろう事を言っていたし、リキュウもリュウビの話を聞きたくて

ビケイに夢中であった。


だが、チョウウンは・・・。

ビケイの胸に触れ、馬から落ちるビケイを支え、その柔らかい感触が頭から離れず、またずっとビケイと共に

居る事でビケイへの想いが募ってしまっていた。

ビケイもそれに気付いていた。だが、指一本すら触れようとせず、距離も空けて色々と尽くしてくれるこの男に

多少の好意は抱いていた。が、リュウビとの関係を黙っているわけにもいかず、それを伝えると、

以降は「姉上」として呼ぶようになり、より一層の距離を置くようになった。


キョショウの屋敷にいても、チョウウンはそこにいる事の辛さから屋敷を出て行ったが、3日と開けずに

リュウビが来ていないかと尋ねてきた。雨が降った日にもチョウウンは外から応答するだけで、軒下にも

近づこうとしなかった。ビケイは姉か妹が居ればすぐにでも嫁がせたいと思った。


キョショウは熱を出し、ビケイはそれを看病していたが、以降、すっかりビケイを気に入りビケイやビケイや、と

子供の様にはしゃいでいた。

ある日、リキュウが外で畑に向っているとチョウウンが尋ねてきた。

リキュウが手を休め、屋敷に入ると「ビケイさん、あまったれ爺さんの子守は終わったかね?」

と言った。

「リキュウさんにいたってはキョショウ先生も形無しですね」と笑った。

「チョウさんが来ているだよ」

そう言うとビケイは表へ廻った。

「先生は・・・」

「いえ、まだ来ていません。ですが、キョショウ先生は星を見ていて、そろそろ来ると言っています」

「そうですか。それはよかった」

「たまには上がってお茶でも飲んで行かれませんか?」

「いや、結構でござる。それから、私は山賊になりました」

「ええ!なんでまた」

「先生を探して歩いておりましたらリュウヘキという山賊の頭に会いましてな、ですがソウソウに恨みがあるといい

すっかり意気投合してしまいました。これから私は山賊の連中を叩きなおし、ゲントク先生が立った時の手土産に

するつもりです」と生き生きと語った。

ビケイはそんなチョウウンを嬉しく思ったが、やはりチョウウンは近づく事もなく去っていった。


ある日、ビケイはキョショウの薬を買いに町に下りたが、その際、山賊に囲まれてしまった。

山賊は10人。持っているクナイは5本であり、クナイを全部当てて武器を奪い、残る5人を切る・・と咄嗟に考えた。

「おお、女だぞ」「頭に持って帰ろう、上玉だ」等と言っていると、クナイが山賊の一人の首に刺さった。

次々とクナイが山賊を殺し、ビケイは死体から剣を剥ぎ取ると残る5人に切りかかった。

が、この時は着物を着ていたので身動きが取れず地に伏してしまった。

再び残った山賊に囲まれ、ビケイは覚悟を決めていたが、やがて聞いたことのある大音声が響いた。

「こりゃああ!誰の縄張りで物取りをしているか!貴様ら、もう容赦はせん!!!」

そう言うと、男は一人で駆け抜け一振りで5人の山賊を吹っ飛ばした。

ビケイはその男を見て涙した。

「チョウヒ様!」

「おお、跳ね返り娘!生きていたか。何よりだ」

「チョウヒ様もご無事で嬉しゅうございます」

と、再開を喜び互いに現状を話し合った。

チョウヒはまだ兵や金を集めたいといい、リュウビを迎える準備は出来ていると言い、

古城の場所を伝えると帰っていった。まるで生まれ変わったチョウヒに頼もしさを覚えた。

さらにカンウと奥方の行方を知り、あとはリュウビだけと心を落ち着かせた。


が、しばらくしてその場にリュウヘキが通りかかった。やられたのはリュウヘキの手下であった。

一人だけ生きている者がいて、誰にやられたかと聞けば、山賊将軍だという。すると息を引き取った。

「もう許さんぞ!山賊将軍め!」

その夜、リュウヘキは仲間を集めて会議を開いた。当然チョウウンも呼ばれていた。

「おまえら!山賊将軍は知っているな!突然我らの山に現れ、物取りはするなと威張ったヤツだ。

これが今日、俺達の仲間を殺した。10人もだ。しかも仲間の首にはクナイが刺さっていた。相当の使い手もいるぞ。

だが、もう俺は我慢ならん。明日は山賊将軍を殺し、仲間の怨念を晴らすのだ!」

そう檄すると男臭い歓声があがった。

チョウウンはこれを聞いてはっとした。ビケイはクナイの使い手なのだ。

チョウウンは必死に物事を整理した。ビケイが山でリュウヘキの手下に囲まれ、クナイで応戦し、

そこに通りかかった山賊将軍がリュウヘキの手下を殺した・・・。か・・・。

ビケイを巻き込むわけにもいかず、チョウウンは進言した。

「待てリュウヘキ!貴様、敵は誰だと言った!」

「山賊将軍だ!」

「違う!俺と会った時の話だ!」

「決まっていよう!ソウソウだ!!」

「そこでだ、我らと山賊将軍が争い、喜ぶのは誰だ!!」

「・・・・ソウソウか」

「そうだ!だから仇を討つ事はやめろ!無駄な血を流すな!」

チョウウンはこれで、事を納められたと思った。が、

「確かにそうだ。だがなチョウウン。俺たちは日々の生活を共にしてきた仲間だ。それを・・・

だまって見過ごす事など出来んのだ!」

そう言うと山賊はまた盛り上がった。

「わかった。だが、ただ多くの血を流すのは得策では無いのは分かるな?」

「あぁ、そんな事は承知だ。だが」

というのを遮り、

「なら、ワシが山賊将軍の首を取ってくる。それなら文句はあるまい」

「山賊将軍は強いぞ。勝てなかったらどうする」

「・・・その時はワシの首をくれてやる」

「・・・お前の首か・・・よかろう。いつだ、いつ首を持ってくるのだ」

「明日の夕暮れまでには持ってきてやる。だから無駄な争いはやめるんだ」

それを聞いたリュウヘキは部下に同意を求め、チョウウンに山賊将軍を託した。


チョウウンは山賊将軍の正体がチョウヒだと知らない。知っていたら別な解決方法があったかもしれない。


翌朝、ビケイは古城の場所を確認するため、山に出ていた。

そして古城の門前でチョウヒと語らい、ビケイは去っていった。

これをチョウウンが見ていた。

「なんと・・・山賊将軍はチョウヒ先生の事であったか・・・」

と、チョウウンはうな垂れた。気が付くとキョショウの屋敷に着ており、ビケイに話した。

「実は、山賊の頭であるリュウヘキと約束をしました。先日、姉上のクナイが倒したのがリュウヘキの手下であり

その手下を壊滅させたのが山賊将軍。つまりチョウヒ先生でした。ワシはこれを知らずリュウヘキに山賊将軍の

首を持っていくと約束しました。ですが、先生に刃を向けるなんてできず、向けた所で敵いません。

リュウヘキには己の首を代わりに差し出すと約束してしまい、進退窮しました」と笑顔を見せた。さらに

「ただ、ゲントク先生に会えなかったのが心残りですが、これをゲントク先生にお渡し下さい」と

ビケイに手紙を渡した。ビケイは事態を飲み込んだ頃にはチョウウンの姿はもう無かった。

「私の身代わりに、なんてことを!」

そう言うとビケイは古城へと馬を駆けた。

それを聞いたチョウヒは、

「なんだと!チョウウンがワシの首の代わりだと!!弟子のクセに生意気な!」

それを聞いたチョウヒは大声で合図をかけた。

「今日は戦じゃ!リュウヘキ共を皆殺しにする!」と言うと

「跳ね返り殿は畑の先生の所へ戻っていてくれ」と言い、出陣した。

「畑の先生ではありません」と突っ込みたかったがそれどころでは無かった。

確かにキョショウからも、そろそろゲントクが来ると言われていたので全ては天に任せて屋敷に戻った。

キョショウの屋敷に着くと、そこにチョウウンがいた。

「チョウウン様!」

「あぁ、姉上。やはりゲントク先生には直接会って話したいと思い、期限は今日の夕暮れまで。待ちたいと思い

戻ってきてしまいました」

「あんな山賊との約束なんて、破棄してくださいませ!」と縋ったが

「いや、約束を破る事は出来ない。それくらいなら死んだ方がマシです。いやどちらにしても、死ぬのですが」

と笑った。

やがて山では戦の音が聞こえ出したが、夕方になってもリュウビは現れなかった。

それしてチョウウンは引き止めるビケイの腕を振り払い山へとかけていった。

その直後、リュウビとビジクが屋敷に訪れた。

「おや、やはりビケイでしたな」

「おお、催促であったか・・・。だが隣の男は一体・・・」

と、ビケイはリュウビの姿を見て泣き崩れた。再開を喜ぶのではなく、チョウウンについての話をした。

「なんと!あのチョウウンが来ているのか!」

ややあって、

「ビケイ、チョウウンを追うぞ」

そう言うと、3人はチョウウンの後を追った。


リュウヘキの所へ来たのは夕暮れも過ぎ夜になろうとしているところであった。

「こないかと思ったぞチョウウン」

「すまない、人を待っていたのだが、とうとうこれまで来なかった。もう思い残すことも無い」

「そうか、あのリュウ・・・なんとかってやつか」

「リュウ皇叔だ。何度も言わすな」

「別にどうだっていい。さて、山賊将軍の首はどうなった?」

「実は、山賊将軍は私の師匠であった。名はチョウヒという」

「まさか、あのチョウヒヨクトクか」

「あぁ。師に剣は向けられず、向けたとてワシでは敵わん。だから約束通りの俺の首をやる」

「そうであったか。では」

そう言うとリュウヘキは剣を投げ出した。

「自分でやってくれ。俺たちは誰もお前を憎んでいない。誰もお前を斬れんのだ」

「ふ、いいだろう」

そう言うとチョウウンは剣を逆手に構えた。

「さらば」

と言った直後に大音声が響き渡った。

誰が聞いても分かるこの大声。山賊将軍、チョウヒだった。

「やい、チョウウン!聞いているなら出て来い。リュウヘキよ!もしチョウウンの首が飛んでみろ!

貴様らの首も全て飛ぶ事になるぞ!」

同時に、物凄い数であろう兵の勝鬨が上がった。チョウウンは、

「はは、師匠にまで迷惑をかけてしまった。益々生きているわけにはいかん」そう言うと再び剣を構えたが

リュウヘキはその剣を蹴り飛ばした。

「お前が死んだら、まとまる話もまとまらなくなるわ!」と言い放った。

リュウヘキが自ら洞窟の表に出ると、そこにはリュウビ・ビジク・ビケイ・チョウヒが揃い

後ろには1万あまりの兵が武器を煌かせていた。

「ふふ。これでは勝負にすらならんわ」というと、チョウウンをただ、前方に投げ飛ばした。

チョウウンはよろめきながら全身し、やがて転んだ。目の前にはチョウヒとリュウビが立っていた。

「久しぶりだなチョウウン!だが、ワシの身代わりなんぞ、出すぎたマネをするな!」と一括し

チョウウンは「はは」と平伏した。

10数年振りの師弟の再開であった。


やがて、リュウヘキが口を開いた。

「山賊将軍、いや、チョウヒ将軍。それからリュウ・・・・なんだっけ。リュウ殿。話がある」

と、リュウヘキは一人で皆の前に座り込んだ。

リュウビとチョウヒが前に出て同じく座るとリュウヘキは語り出した。

「俺たちはただの山賊だ。と、これは既にチョウヒ殿から聞いていよう。リュウ殿はソウソウに敵対したと

聞いた。俺達もソウソウ達に追われた。俺達は盗人だが、ソウソウはそれを盗む大盗人だ。仲間も何人も殺された。

また、こうして対峙して分かったわ。俺たちはチョウヒ将軍には勝てぬ。そこでだ。

俺達をやとってくれないか。ここに居る物は皆、落ちぶれているわけではない。年貢が払えずに仕方なく山賊になった

ヤツもいれば、やはり好き好んでなったやつもいる。だが、皆、心は同じ、ソウソウに恨みをもった連中なのだ。

こうして山賊同士で戦うのも、そこのチョウウンに反対され、その意味もようやく分かった。それに・・・

どうせこんな稼業は長くは続かん。やがて山に死体を作るのが落ちだ。だったら、恨みのあるソウソウに敵対し

兵隊となって戦ったほうがどれだけ楽か分からん。今、多くの者はワシと同じ考えであろう。リュウ殿。チョウヒ殿。

いかがであろうか」


リュウビは全てを黙って聞いていた。チョウヒを振り返れば、兄者に任せるとばかりに空を見ていた。

「分かった。リュウヘキ殿。そなたの語る目に偽りはあるまい。皆を迎えたいと思う」

するとリュウヘキの洞窟から出てきた者達も「おおー」と歓声を挙げた。

「だが・・・」リュウビは続けた。

「如何せん、私もこの体たらくだ。皆を養える領地も持っていない。しばらくここで待っていてくれ。

かならず皆を迎えに来る」

それを聞くとリュウヘキは涙した。

「分かった。待とう。しばらくはあちこちの洞窟で待ち、吉報を待つとしよう。隠れ家はそこの・・・

チョウヒ殿が知っておろうからの。では御免!」

と、言うとリュウヘキ達山賊は散り散りに去っていった。

それも見送るとチョウヒが古城に案内した。

リュウビを囲み、チョウヒ、ビジク、ビケイ、チョウウンが座り久しぶりに多いに笑いあった。

とりわけ、兵隊がいないと分かるとチョウヒはリュウビに抱きついて喜んだ。

ビケイはこれを見て男同士を羨ましく思っていた。


と、ふとした折にリュウビがチョウウンに尋ねた。

「チョウウンはコウソンサンの元にいるのでは無かったのか?」と聞くと

「は・・・いや・・・武者修行に出されたのです」と答えた。

ビケイはそれを嘘だと感じ取り、つい、言葉に出してしまった。

「それは偽りでございます。私が都を出る際、チョウウン様をお見かけしましたのは落ち武者の姿でした」

チョウウンはそれを聞き、目を瞑っていた。

「チョウウン、私に隠し事をしているのか?」と聞けば、涙ながらに口を開いた。

「はい、我が主、コウソンサンは連合軍から帰還すると直ちに兵をまとめ、キ州へと出陣しました」

「やはりか・・・」

「そこでエンショウ軍と組み、ほどなくキ州は奪えたのですが、直後にエンショウ軍は刃を返し

我が軍に迫ってまいりました」

「なんと・・・」

「我が軍は疲れきっており、成す術もなく後退を余儀なくされ、北平に篭城する事となりました。

それからは長い事、お互いに競り合いをしていましたが、ついぞ昨年、我が主は部下の裏切りに合い

深手を追いました。命令も出せず、これまでと悟った主は、奥方を殺し、子を殺し、そして私を呼んで

こういいました。ゲントクに伝えてくれ。ワシが間違っていた。またあの世で、共に学ぼう・・と」


「あぁ。ハクゲン・・・・・」

「その為に、私はこれまで生きてきましたが、もう役目も終わりました」

そう言うと出て行こうとしたがリュウビは引き止めた。

「もはやハクゲンがそなたを寄越したのはただの伝達ではあるまい。どうかハクゲンの代わりとなり

私の手助けをしてくれぬか」

と言ったが、「いや・・・・御免」と言うとそのまま座り込み何も語る事は無かった。

「まさか死ぬつもりではあるまいな!」と言うリュウビの言葉にも反応しなかった。



しばらく沈黙が続いたが、ビケイが、カンウが奥方を連れ、都にいると話すと、チョウヒが怒り出した。

「ああ!あれはいかん!あんなヤツは叩き斬ってやる!」

リュウビは「何があったのだ・・・」と聞いたが、チョウヒは何も答えずに去っていってしまった。


だが、ビケイは言葉を続けた。

「こうなれば、カンウ様に一刻も早くこの事を伝え、奥方様と共にこちらへ呼びましょう」

と言ったが、「誰がそれを勤めるか・・・。」

一同は悩んだが、さらにビケイは続けた。

「たった一人だけおります。カンウ様を知り、都を知り、丞相様に知られていないお方が」

それを聞くとチョウウンは来た!と感じた。

このビケイの頭の回転、思いやり・・・。益々ビケイに惹かれてしまうのであった。


それを聞いたリュウビはチョウウンの横に座り、その手を取った。

「聞いていたかな。チョウウン。もはやこれはお主にしか頼めぬのだ。どうかこの私の力になってくれ」

そう言われたチョウウンは吹っ切れた様子で、重く「はい」と返事を返した。


翌朝、都は大騒ぎだった。

カンウが奥方と共に消えていたのだった。監視の兵もどこへやら跡形も無かった。

これを聞いたソウソウは慌てる風も無く、カンウのいた屋敷へと向った。

「二度と戻ってこないであろう、住処の様子を見れば人物の器が分かるものよ」

と言って屋敷を見た。

ソウソウが贈った食器等は全て綺麗に重ねられ、目録が付いていた。

横には侍女達30人が整列し平伏していた。

そして、1つの手紙だけが置いてあった。

そこには、許しを請う事なく出て行く事の非礼を詫びる事、赤ト馬はありがたく頂戴するとの事が

記してあった。

「失った者は・・・山よりも大きかったな・・・」とソウソウは悔しがった。

が、既にカンウの後を忍に追跡させていた。

「ふん。わざわざゲントクが生きているとワシに知らせおったわ!」と吐き捨て屋敷を去った。


カンウは許昌を出て古城とは反対側の、洛陽の方向へ馬を進めた。

そこで、元、ヨウキョウの住んでいた所で休憩し、カンウは赤ト馬で空の馬車を引き北へ向かい、

チョウウンは来るであろう追っ手をかわした後に、奥方を連れ古城(南)へ向うという作戦だった。

が、ヨウキョウの居た小屋は廃墟になっているはずだが、誰かが住んでいるようだった。

「これは一体・・・」とカンウが様子を見に行ったが、人影は無く、ヨウキョウが溺れ死んだであろう

川をただ眺めていた。

すると、カンウの足元に背後から近づく者の影が伸びた。

カンウはその影を見て当たらぬように薙刀を振り回し、影の方向でピタリと止めた。

だが、影は微動だにしなかった。振り返ると20を超えたあたりの青年が立っていた。

「お主、斬られると思わなかったのか」

「はい、間合いから見て、届かぬものと確信しておりました」

「お主がここに住んでいるのか?」

「はい。私の遠園にあたる親戚の家です」

「はて、ヨウキョウ殿の・・・」

「ヨウキョウ殿は私の叔母でございます」

「そうであったか・・・名は?」

「関平(カンペイ)と申します。字はまだありません」

「はて・・・この当たりで関性を名乗る者がいるとは・・・」

「いえ、出身は河東郡です」

「ワシも河東郡の出身だ。もしかしたらワシとも親戚かもしれんのう」

「はい。関羽(カンウ)様ですよね。母からは甥に当たると聞いています」

カンウにはその青年が嘘を言っているようには思えなかった。

「その肝っ玉、本当にそうかもしれぬ」と言って笑い出した。


「実はカンウ様・・・いや皇叔様に仕えるべく河東郡を出ましたが、行方も分からず叔母の家で時を

無駄に過ごしておりました」

「そうであったか・・・。これもヨウキョウの引き合わせかもしれん。こっちへ来い」

そう言って小屋に入り2人の奥方とチョウウンに引き合わせると、奥方達の世話役を

カンペイに任命した。カンペイはいきなりの大任務に驚いたが精一杯の心を尽くしカンウを安心させた。


半日程休むとカンウは洛陽に向って赤ト馬で空馬を引いて出た。

チョウウンは小屋から少し離れた所で昼寝をし、あるいは草笛を吹いて遊んでいた。

が、それは追っ手を見極めるためだった。

と、チョウウンの上の木と木の間を駆け抜けていった。

「風のような奴らだな・・・」

そうして見ていると2組、3組目が通り過ぎていった。

それからしばらくしても次の組は来なかった。

そうしてチョウウンは悠々と南へ向けて馬車を進めた。まさか5組もの忍が付いているとは

思わなかったのだ。


2日後にはチョウウンは古城へと帰還した。

カンレイはリュウビを見て泣いてすがり、キョウテイもチョウヒを見ると泣きついた。

チョウヒはそこで初めて我が子を見て、泣いて喜んだ。名を包(ホウ)とした。

チョウウンがカンペイの事を伝えるとチョウヒは面白くも無いような顔をしたが、

表情は笑っており、気持ち悪かった。

やがてその気持ち悪い顔は怒りに変わった。

見れば古城を取り囲んで青い旗があり「曹」の字が書かれていた。数は5万は超えていた。

チョウウンはそれを知ると「これはワシの責任です」と言い剣を自身に構えるとチョウヒが殴り倒した。

「貴様は何かと死ねば良いと思っているのか!そんなヒマがあるなら敵兵をやってこい!」

そう言われるとチョウウンはうな垂れて出て行った。

リュウビは会議を開いたが、古城の兵は1万。数の差は歴然であり、篭城と決まった。

カンペイは始めての戦であり、劣勢にも関わらず心は躍っていた。

と、篭城と決まったにも関わらずチョウウンは単騎で敵勢に駆けていった。

「本当に行きおったわ!あの馬鹿弟子が!」

そう言うと騎馬隊500に命じチョウヒもその後を追っていった。その中にカンペイも混ざっていた。


チョウウンは鬼のように戦い、やがてチョウヒ隊が合流すると退いていった。

だが、カンペイは単騎大将旗を目指して駆け抜けた。

「あれが、大将だな!一番手柄だ!」

そうして「典」の字の元へたどり着くとテンイが現れた。

「なんじゃあ、あの若造は。どれいたぶってやるか」

と両手に斧を持ち馬を進めた。カンペイは槍を駆け抜け様に突いたが軽がると避けられ、振り返り様に

横に薙いだが往なされた。するとテンイの斧はカンペイの乗っていた馬の首を刎ねた。

カンペイは転げ落ちたが地面から槍を発てた。それも避けられテンイは斧で槍を割った。

こうなるとカンペイは避けるだけになってしまった。

間合いを読み取る天性の才能だけで生きながらえた。

が、カンペイの体力も底を着き、テンイが止めと言わんばかりに両腕を振り上げたその時、

赤い閃光が閃きテンイの胴体が宙へ舞った。

カンウだった。洛陽まで着くと空の馬車を投げ捨て、赤ト馬の全力疾走によりあっという間に古城へと

辿り着いた。

「はっはっは。ソウソウ軍がいなければワシはこんな城は見つけられなかったぞ」と大笑いした。

その時、ソウソウ軍に異変が起こった。

数で圧倒的に有利だというのに突如混乱した。

それは総大将のテンイが斬られたのもあるが、リュウヘキが兵を動かし、包囲するソウソウ軍を外側から

包囲したのだった。

古城の兵もリュウヘキの兵も古城周辺の地理を知り尽くしていたので、岩を転がし木を倒しソウソウ軍を

圧倒した。

これを受けてリュウビが全軍の突撃を命じた。

こうしてソウソウ軍は散々に打ちのめされ僅かな兵だけで都へと引き返していった。

リュウビが「ウンチョウ!」と大声で叫びカンウを抱きしめると、チョウヒも先ほどまでの怒りはどこへやら

「ウンチョウの兄貴ー」と泣いて抱きついた。


戦後の処理をしていると、チョウウンが一人やってきてリュウビを呼んだ。

着いていくと、リュウヘキは深手を負っており、瀕死の状態だった。

まわりにはリュウヘキの部下達がすがるような目でリュウビを見ていた。

「おお、リュウ殿。情けない姿を見せてしまったな」

「何を言うリュウヘキ殿。そなたの援軍が無ければ我らは今頃死んでいた」

「ふ・・・リュウ殿、皆を頼むぞ」

そう言うと息を引き取った。

リュウビは改めて言い放った。

「リュウヘキ殿の死は決して無駄にしない。必ずそなた達を迎えに来る。だから、それまでは

我慢してくれ。この通りだ」と、リュウビは頭を下げた。

するとリュウヘキの部下達は涙ながらに勝鬨を挙げた。


ソウソウはこの報告を聞いて怒りまくった。

右手とも言えるテンイを殺されたどころか5万の兵も行方知れずになった為だった。

そしてソウソウ自ら10万を率いて古城へ攻め入ると言ったが諸将はそれに大反対した。

エンショウが官渡まで攻め入ってきたのであった。


ソウソウは諸将に宥められ、部屋を出て行った。


一方、古城では、リュウヘキの死という悲報はあったが、3兄弟の再会を祝してささやかに宴会が開かれた。

また、江南ではソンサクが君主となって2年目だというのに死に、弟のソンケン(孫権)が継いだ。


中央ではソウソウとエンショウがぶつかり合い、天下分け目の戦いが今、始まろうとしていた。
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